steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
飛行船の上部へ回転移動した司令室のゴンドラ部分を追って、俺たちはさらに高度を上げた。
相変わらず『グランドフィナーレ』の砲塔や銃座は【フラップフライヤー】と【カモミール・タイプⅡ】を執拗に狙ってくるが、今は敵の本体を追うことが最優先なので適当に避けるだけに留める。
そして、飛行船の気嚢を回り込むようにして上空へ出ると、またしても聞き覚えのあるダミ声が響いた。
「フハハハッ! 来るがいい! ハエのように叩き落してやるわ!!」
見ると、『グランドフィナーレ』のゴンドラ上の甲板――先ほどまでの底部――には、黄金の意匠が輝く悪趣味なビークルが鎮座していた。
大型のボディとレッグパーツに、これまた悪趣味な骸骨をデザインしたスカルブレスト・
武装はオリジナルのシールドアームにバズーカアーム。
ベルガモットの駆る【ゴールドキングダム】だ。
「死ねぃ! 雑魚どもが!」
「わっ」
「うぉ!」
ベルガモットは続けざまにバズーカアームを発砲してきた。
飛んでくるのは回転砲塔とは比べ物にならない大口径の砲弾だ。
ビークル搭載火器の威力は馬鹿にならないので、オットーもバニラも思わず回避行動を取った。
「バニラ! まずはあいつを倒すぞ! マーシュの救出はその後だ!」
「了解!」
「ワハハハハ! 食らえ!」
ベルガモットの高笑いと同時に発砲されたバズーカアームは、不気味な炸裂音とともに砲弾を吐き出した。
じっくりと狙い続けざまに放たれた大口径の砲弾は、鋭く空気を切り裂き【フラップフライヤー】の近くを通過する。
【ゴールドキングダム】は爆弾投下口を兼ねるハッチからリフトで機体を押し出し、ほとんどその場から動かずバズーカを撃ちまくっている。
オットーとバニラは巧みにビークルを操り敵の射線を避けるが、機体のすぐ近くを砲弾が掠める風切り音は気持ちの良いものではない。
何せあの大口径だ。
一発でも掠れば墜落は免れないだけに、俺の額から冷たい汗が流れ落ちる。
「フハッ、フハハハ! どうした? 手も足も出まい!」
「くそっ、気持ちよくなりやがって……」
向こうも足場は不安定なはずだが、上手いこと機体を固定しているようで、敵の狙いはなかなか正確だ。
さらに、よく見るとハッチの奥から【ゴールドキングダム】のバズーカアームに弾薬を供給する装置があるのがわかる。
敵の弾数は無尽蔵で、足場も確保されている。
対して、こちらは空中を飛んでおり、飛行装備にビークルのハードポイントを取られているため、火器は俺の軽機関銃のみ。
さすがに攻撃力が違い過ぎる。
二対一にもかかわらず、俺たちは苦戦を強いられていた。
「ふんっ! いい加減、落ちるがよい!」
「野郎っ!」
オットーがバズーカの砲弾を避け機体を安定させたタイミングに合わせて、俺も負けじとルイス軽機関銃をぶっ放すが……フルオートで撃ち込まれた弾丸はベルガモットのビークルにまともなダメージを与えることなく弾かれた。
さすがに大型のカスタムビークルだけあって、【ゴールドキングダム】は装甲が厚い。
【ジャガーノート】の武装が使えればあの装甲も抜けるだろうが、無い物ねだりをしても始まらない。
「無駄無駄っ!」
「くっ……」
俺はどうにか敵に有効打を与えようとコクピットのベルガモットを狙うが、【ゴールドキングダム】の守りは固い。
掲げたシールドアームで303ブリティッシュ弾は防がれ、俺はまたしても無駄弾を使わされることとなった。
「っ……」
「ぬっ!?」
もちろん、バニラもこの状況下でただ傍観していただけではない。
【フラップフライヤー】がベルガモットとやり合って目を引き付けている間に、バニラは逆サイドから回り込んでいた。
巨大な『グランドフィナーレ』の気嚢の影から飛び出したバニラは、一度ゴンドラの司令室の上に出ると、そのまま飛行状態を解除して甲板に強行着陸した。
そして、【カモミール・タイプⅡ】は甲板上を滑るように移動し、近くの杭のような飛行船のパーツを引っこ抜くと、ベルガモットの【ゴールドキングダム】に向けて投擲した。
しかし……。
「小賢しい!」
「うわっ!」
さすがに開けた空中で、完全な奇襲は無理だ。
着陸から投擲の動作の間にバニラの攻撃は察知され、彼の一撃はきっちりと対処されて不発に終わった。
ベルガモットはシールドアームで投擲物を防御すると、カウンターでバズーカアームを撃ち返す。
大口径の砲弾を受けた【カモミール・タイプⅡ】は吹き飛び、そのまま甲板から落下してしまった。
「バニラっ!」
俺は思わず【フラップフライヤー】の助手席から乗り出して叫んだ
このままでは、バニラの【カモミール・タイプⅡ】は湖に落下してしまう。
しかし、バニラのビークルはどうにか体勢を戻し復帰した。
「っ」
再び滑空を始めた【カモミール・タイプⅡ】は、プロペラにもエンジンにもおかしな様子は無い。
どうやら、敵の砲弾はアーム部分で防御したようだ。
奇跡的に翼部分やプロペラブレストにはダメージが無かったらしい。
空中でウィングアームを広げて風に乗った【カモミール・タイプⅡ】を見送り、俺はそっと安堵の息を吐き出した。
「ぬははははっ! あとはお前たちだけだな。死ねぃ!」
ベルガモットは再びバズーカアームを連射し始めた。
オットーは巧みにハンドルを操り機体を回転させて攻撃を躱し、俺もルイス軽機関銃で反撃する。
しかし、攻撃力の差は歴然だ。
バニラが離れたことで、【ゴールドキングダム】のバズーカアームはこちらを執拗に狙い、次々と砲弾を吐き出している。
徐々に押し込むように密度を増す大口径弾に、俺もオットーも些か後退気味だった。
かと言って、ベルガモットの射線を逃れるために高度を下げれば、今度は別の砲塔に狙われるわけで……何気にジリ貧だ。
「グレイの旦那! 早く倒してくれぇ!」
「簡単に言ってくれる……っ!」
そして、ついに恐れていたことが起きた。
軽快にライフル弾を吐き出していたルイス軽機関銃は、突如ガチッと音を立てて沈黙したのだ。
俺はもう一度トリガーを引くが、軽機はうんともすんとも言わない。
「くそっ、弾切れだ……」
「な、何だってー!?」
俺の一言にオットーは素っ頓狂な声を漏らした。
節約して撃っているとはいえ、今回持ってきた軽機関銃の弾は100発足らず。
手持ちのフルオート火器としては明らかに心許ない弾数だ。
当然、最初の弾倉もとうに撃ち尽くしている。
「ど、どうするんだ、旦那~!」
「黙って操縦しろ!」
俺は軽機関銃を手放すとショルダーホルスターからS&W M10を抜き、ベルガモットの【ゴールドキングダム】に向けて連射した。
続けざまに引き金を引くと、リボルバーの六連発シリンダーはあっという間に空になる。
「ハッハー! そんな豆鉄砲、効かん効かん!」
腹立たしいが、ベルガモットが余裕なのも頷ける。
ただでさえビークルや大型機械に対してほぼ無力な303ライフル弾であったが、拳銃の38口径弾のエネルギーはその十分の一も無く、しかも銃身の短いハンドガンからの射撃とあってこの距離では命中率も低い。
俺の放った拳銃弾は半分がベルガモットのビークルを外れ、残りもボディパーツをほとんど傷つけることなく弾かれた。
「くそっ……」
拳銃弾とスピードローダーはありったけ持ってきたが、それも残りは数十発ほど。
このままではいずれ落とされてしまう。
俺はシリンダーをスイングアウトして拳銃をリロードしつつ、『グランドフィナーレ』を見て思わず歯ぎしりした。
「うわっと!」
オットーは思わず声を上げながらハンドルを操作し、【フラップフライヤー】を旋回させた。
どうやら、敵の砲塔が攻撃を再開したようだ。
こちらがベルガモットの砲撃を逃れ司令室から離脱したのに合わせ、『グランドフィナーレ』の砲塔はこちらに射角を取り砲弾を放ってきた。
高度を上げればベルガモットの砲撃に晒されるが下も地獄だ。
俺はしばらく回避行動を取るビークルの機動に身を任せて、投げ出されないようにおとなしくシートに掴まっていたが……ふいに一つの案が脳裏を過り、オットーに向き直った。
「……オットー、砲塔に接近できるか?」
「何だって!?」
オットーは「正気か?」と言わんばかりに一瞬俺の方へ視線を送るが、俺はリロードした拳銃を構えて頷いた。
「一瞬でいい。砲口の近くを通ってくれ。やれるか?」
「……しゃあねぇな。いっちょ、やったらぁ!」
「っ! 突っ込んでくるぞ! 迎撃準備!」
「撃ち落とせぇ!」
鋭くハンドルを切ったオットーの操作に合わせて旋回した【フラップフライヤー】は、そのまま真っ直ぐに『グランドフィナーレ』の砲塔へ接近する。
もちろん、そのままでは敵の砲弾の餌食なので、オットーは直前で大きく機首を下げた。
限界まで角度を取っての飛行で敵の射線を切り、さらに急上昇のタイミングに合わせてスラスターを吹かし、急加速と不規則な軌道で敵の狙いを攪乱する。
急降下する【フラップフライヤー】を追いながら砲弾を吐き出す『グランドフィナーレ』の砲塔は、徐々に照準の正確さを欠いていった。
もちろん、あまり高度を上げ過ぎればベルガモットのビークルから砲撃を食らうので、絶妙な高度を維持して敵の射角が取れない位置取りをしつつ動く。
「ぬぅぅぅううう! 小癪な……!! お前たち、何をしておるか!?」
司令室の甲板ではベルガモットが何やら喚いているが、さすがにこちらを追ってくるほど無謀ではないようだ。
オットーはそのまま敵の砲塔を攪乱して飛び続ける。
いつの間にか、バニラも浮上して、逆サイドから砲塔に近づき敵の狙いを分散させ攪乱していた。
理解が早くて助かる。
そして、ついに敵の弾幕の密度が著しく下がるタイミングが到来した。
「行くぜ!」
「おう!」
【フラップフライヤー】を急旋回させたオットーは、斜め上から一つの砲塔へ機体を急接近させた。
ガクンと機体のバランスを傾けると、重力に身を任せるように【フラップフライヤー】は下降し加速度をつける。
敵の砲口はこちらを追いきれないようで、明後日の方を向いたままだ。
「よし、いいぞ!」
【フラップフライヤー】がウィングアームを擦りそうな距離で砲塔の横を通過するなか、俺は助手席から目一杯手を伸ばし砲口へ向けて続けざまに拳銃を連射した。
この瞬間を待っていた。
かなりの近距離とはいえ、高速で飛行するビークルから不安定な体勢での射撃だ。
ほとんどの弾丸は狙いを外れ装甲に着弾し軽い金属音を立てたが……その内の一発は、見事に砲口へ飛び込んだ。
そして……。
「ぬぉおおおぉぉぉぉぉ!!」
【フラップフライヤー】が通り過ぎた後ろの方では、かなり大き目の爆発音が起こり、ベルガモットの悲鳴が響いた。
振り返ってみると、先ほどギリギリまで接近した砲塔が炎上し、爆炎が司令室の甲板まで及んでいる。
狙い通り、敵の砲塔内の弾薬が破裂し誘爆したようだ。
半ば神頼みも含んだ運任せの乱射ではあったが、長きに渡り射撃武器を扱ってきたことで身に着けた俺の感覚も無駄ではなかったな……。
「旦那! 掴まれ!」
「っ!」
急旋回したオットーはそのまま『グランドフィナーレ』の甲板上に躍り出ると、またもや機体を勢いよく傾け急降下していく。
眼下には、爆発の衝撃でバランスを崩した体勢から復帰しようとしている【ゴールドキングダム】が見える。
操縦席のベルガモットはこちらを見上げたが、この状況ではどうすることもできない。
そして、【フラップフライヤー】を急降下させたオットーは、その体勢のまま一度ビークルの飛行モードを解除した。
「何ィ……ぶべっ!?」
機体全体を揺らす衝撃とともに、ベルガモットの押し潰されたような悲鳴が響く。
【フラップフライヤー】のレッグパーツが踏みつけるように【ゴールドキングダム】の上部に命中したのだ。
直線的な打撃ではないので、コクピットを破壊するほどの威力は無かったが、搭乗者のベルガモットは間抜けな格好でシート上を転がった。
制御が外れた【ゴールドキングダム】もレッグパーツを縺れさせるようにして転倒する。
「やったか!?」
【フラップフライヤー】を飛行モードへ移行させてスロットルを上げるオットーは、思わずと言った様子で叫んだ。
それはフラグ……。
「おのれっ!」
「うひゃあ!!」
「ぐぉっ!」
突如、鋭い衝撃が離脱態勢の機体を襲った。
横を見ると、【フラップフライヤー】のウィングが半ばから折れるように破損し、黒煙と火を上げている。
『グランドフィナーレ』の甲板では、ベルガモットの【ゴールドキングダム】が転倒状態のままバズーカアームを構えていた。
どうやら、離脱する直前に砲弾を食らったようだ。
「グレイ! オットー! っ……よくもっ!」
視界の隅にバニラの【カモミール・タイプⅡ】が逆サイドから浮上して『グランドフィナーレ』に強行着陸し攻撃を仕掛けているのが見えたが、今は援護どころではない。
「わ、わ、わぁあああぁぁぁぁぁ! 落ちるぅ!!」
「オットー、伏せろ!」
【フラップフライヤー】はウィングアームから発火し、錐揉みしながら湖へ落下していく。
操縦席のオットーに指示を出しつつ、俺も拳銃をホルスターに仕舞ってシートの端を掴んで頭を下げた。
オットーはどうにか残ったエンジンとスラスターで機体の回転を弱めたが、急激に高度を落としてゆく【フラップフライヤー】は止められない。
水色の湖面がどんどん迫って来る。
だが、被弾の直前、確かにバニラの振るったウィングアームの打撃はベルガモットの【ゴールドキングダム】に直撃していた。
あとは……主人公がどうにかしてくれるだろう。
そして、墜落の瞬間。
腹に響く衝撃と共に俺の意識は一瞬ホワイトアウトし、そのまま湖の水面に投げ出された。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。