steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
「ぷはっ! げほ……おい、オットー。生きてるか?」
「……ぷへっ……おう、何とかな!」
水面に顔を出した俺は、立ち泳ぎしながら辺りを見回しオットーに声を掛けた。
返答があった方を見ると、先ほどまで【フラップフライヤー】の操縦席に居たオットーも、手足をばたつかせながら水面から顔を出し空気を貪っている。
撃墜はされたが、人的損害はゼロで済んだようだ。
不幸中の幸いだな。
しかし、【フラップフライヤー】も軽機関銃も湖の底か……。
残念だが、諦めるしかないだろう。
「旦那、あれを……」
「ああ、やったようだな……」
オットーが示す方を見ると、『グランドフィナーレ』は鉄のパーツをばら撒きながら急激に高度を落とし、イワツバメの滝方面へ墜落していた。
どうやら、バニラは無事ベルガモットを撃破し、『グランドフィナーレ』の飛行機能を無力化したようだ。
空中でマーシュを助け出すことは叶わなかったが、何とかデカブツの撃破には成功した。
バニラも今頃は墜落地点だろう。
俺たちもすぐに向かわないとな。
「さて、一旦戻ってビークルを……」
「(おぉーい!)」
「(兄さぁーん!)」
オットーを促し泳ぎ出そうとした俺は、ピジョン牧場の方から聞こえる声に振り向いた。
しばらくすると、ディーゼルのエンジン音とともに一隻のボートが近づいてくる。
船首には手を振るコニーとウィリー、船外機のハンドルを握るのはマルガリータだ。
そして、マルガリータの運転するボートは俺たちの近くまで来て停止した。
どうやら、俺たちが墜落したのを見て迎えに来てくれたようだ。
このモーターボートはミームー村で用意してくれたものだろう。
「ほら、上がって」
「ああ、助かる」
俺はマルガリータに礼を言って、ボートの縁を這いあがった。
「兄さん、大丈夫かい?」
「おお、済まんな、弟よ」
オットーの方もウィリーが手を貸して水から引き上げられている。
飛行兄弟は暑苦しくも無事に再会できたことを喜んでいるが……俺がボートの席に体を沈めると、コニーは身を乗り出すようにして口を開いた。
「グレイ! バニラは……?」
「ああ、向こうは無事だ。撃ち落とされた形跡は無かった」
俺の言葉にコニーはホッと安堵の息を漏らした。
まあ、彼女にしてみれば気が気じゃないだろう。
あとで存分にイチャつくといい。
「う……ぐずっ……。ウィリー……俺たちの、【フラップフライヤー】が……! うぉおおおぉぉぉぉぉん!」
一方、オットーは今になって【フラップフライヤー】を失ったことで項垂れ泣き始めていた。
そんな中、マルガリータは静かに口を開いた。
「あのデカブツが墜落したのは、向こうだね」
マルガリータの指示した辺りからは、もうもうと黒煙が上がっている。
方向から考えても、間違いなく『グランドフィナーレ』の墜落場所だ。
俺はマルガリータに頷きつつ口を開いた。
「敵にもまだ戦える奴が残っているかもしれない。俺のビークルを……」
「ミームー村の連中に運ばせてるよ。マジョラムとバジルも来て、手伝ってくれてる」
俺を遮るようにマルガリータは言葉を続けた。
「あたしらはこのままデカブツを追うよ。その方が早い」
「……わかった、頼む」
マルガリータは一つ頷いて船外機のエンジンを吹かした。
力強い唸りを上げて稼働したエンジンの推進力で、ボートは勢いよく水面を走り出す。
目的地までマルガリータが連れて行ってくれるので、運転は彼女に任せることにして、俺は武器の確認をしておこう。
ショルダーホルスターから拳銃を抜こうとすると、いつものようにスムーズにドロウできず途中で引っかかった。
どうにか強引に銃を抜き出したが、上質な革製ホルスターもここまで水を吸って型崩れしては台無しだ。
これも帰ったら新調しないとな……。
先ほど撃ち尽くした拳銃をリロードするため、俺はベストのポケットを探るが……弾は見当たらない。
どうやら、【フラップフライヤー】から投げ出されたときに落としたようだ。
「ほら」
俺が項垂れ落胆していると、前掛けのポケットを探ったマルガリータは一掴みの金属を手渡してきた。
俺の拳銃に使う38口径弾だ。
「必要でしょ?」
「ああ。さすが、頼りになる」
どうやら、俺の部屋から拳銃弾を回収して持ってきてくれたようだ。
至れり尽くせりだな。
本当に、彼女には助けられてばかりだ。
「わ、我が翼は……ずびっ……海の藻屑に…………うぉぉおおーぃおいぉいぉい!」
「あぁ、兄さん! 泣かないで! きっちりと役目を果たして【フラップフライヤー】も喜んでいるはずだよ」
海じゃなくて湖だけどな……。
オットーの男泣きとウィリーの慰める声がやかましいが、マルガリータは軽くため息をつくと無視してボートのエンジンを吹かした。
イワツバメの滝方面へと至る河口辺りまで行くと、墜落した『グランドフィナーレ』の残骸が見えてきた。
陸に接舷したボートから降りた俺たちは、バニラを探して歩を進める。
そして、気嚢の残骸を回り込んだところで、大破したゴンドラの奥にバニラの【カモミール・タイプⅡ】を発見した。
「バニラ!」
コニーは真っ先にバニラのビークルへ駆け寄った。
振り向いたバニラは一瞬だけ笑顔を浮かべたが、その表情には焦りの色が見える。
「あ、コニー! ちょうどいいところに。ちょっと手を貸してくれ」
「え、うん。……ぁ」
バニラのビークルはアームパーツで近くの『グランドフィナーレ』の残骸を持ち上げていた。
その奥に居るのは……マーシュか。
「僕がビークルで抑えておくから、下のマーシュを頼む」
「……うん、わかった」
コニーは少し迷うような表情を見せたが、今は四の五の言っている場合ではないと判断したようで、体を低くして残骸に潜り込んだ。
そして、バニラがビークルで瓦礫をどかしている間に、コニーの肩を借りてマーシュが這い出てきた。
元々の怪我と墜落の衝撃でなかなかのダメージを受けているようだが、命に別状は無さそうだ。
運がいいな。
「あ……ありがとう、コニー」
掠れた声で礼を言ったマーシュは、そのまま疲労でその場にへたり込む。
バニラは慌ててビークルから降りマーシュの容体を確かめていたが、やがて彼の体に目立った外傷が無く呼吸も安定していることを確かめると、静かに安堵の息を吐きだした。
「コニー!」
しばらくすると、マジョラムとバジルがやって来た。
どうやら、ミームー村からビークルで山道を抜けてここまで来たらしい。
彼らも事情は聞いていたようで、二人のビークルのバックパーツにはバニラの【カモミール・タイプⅡ】の武装が積んであった。
マルガリータとウィリーが早速とばかりにバニラのビークルから飛行装備を取り外し、パーツを換装しつつ応急修理を施していく。
俺の【ジャガーノート】はミームー村の人間が運んでいるそうだが……まだ到着しないか。
まあ、仕方あるまい。
バジルもマジョラムも、世間一般の基準でいえば普通に腕の立つビークル乗りの部類に入る。
つい最近、ビークルを手に入れて乗り始めた連中とでは機動力も違うか。
【ジャガーノート】の運搬に多少の時間がかかるのは仕方ない。
少々手持ち無沙汰な気もするが……それならそれでやることがある。
「くそっ……何てことだ……。『グランドフィナーレ』が落とされるなんて……」
俺は先ほど『グランドフィナーレ』の残骸から這い出てきたベルガモットに向き直った。
見たところ、こいつも五体満足だ。
バニラに愛機の【ゴールドキングダム】を撃破され飛行船が墜落した割に、普通に元気そうじゃないか。
「もうだめだ……。あの方に知れたら……私は終わりだ……!」
だが、頭は随分と錯乱しているようだな。
セイボリーも『グランドフィナーレ』に乗っているのだから、知れたらも何もないだろうよ。
いかにも小物な振る舞いには多くのプレイヤーも拍子抜けしたことだろう。
だが、情けを掛けられる相手かと言われれば、そのようなことはない。
俺がゆっくりとベルガモットに向けて歩を進め近づいた。
「てめぇには随分と世話になったな。死にかけて、ビークルを落とされて……おかげでこっちはまたズブ濡れだ」
「ぇ……ぴ……?」
一瞬、体を震わせたベルガモットは、顔を上げて怯えた目をこちらに向ける。
「覚悟は……出来てんだろうな?」
「ひぃーっっ! お許しをーっ!!」
殺気を隠さず睨みつけると、ベルガモットは揉み手をするような動作で許しを乞うた。
本人の気質は小物とはいえ、こいつには散々な目に遭わされた。
一発くらい殴っても罰は当たるまい。
だが、そんなことを考えていると……突如『グランドフィナーレ』の残骸の一部が弾け飛び、一台のビークルが飛び出してきた。
「っ!」
「え、あれは……」
突然の出来事に皆が固まるなか、バニラはピンク一色のビークルを思わずと言った様子で二度見する。
そして、ピンク色のビークルは淀みの無い動作で左のアームパーツを上げると、こちらに武器を向けて構えた。
操縦席のブロンドをアップにした女性の目が鋭く光る。
「伏せろ!」
「きゃ!」
俺は思わずマルガリータを抱き寄せ、近くの『グランドフィナーレ』の残骸の影に飛び込んだ。
次の瞬間、俺が居た辺りの地面をボウガンアームの
バリスタサイズの多段式のボウガンから続けざまに発射された金属の矢は、連続して地面に突き立ち、俺が盾にした残骸にも命中した耳障りな金属音を鳴らした。
「マルガリータ! 大丈夫か?」
「っ……ああ。何てことないよ」
俺は何よりも先に腕の中のマルガリータに声を掛けた。
突然のことで驚いたようだが、彼女に被弾した形跡は無く様子も普段と変わらない。
とりあえず安心だ。
「ひぃぃぃぃっ!」
突如現れたピンクのビークルを見たベルガモットは、またしても情けない悲鳴を上げている。
そして、コニーをはじめトロット楽団の面々が硬直するなか、ピンク色のビークルはゆっくりとベルガモットに近づき、操縦席の女性が口を開いた。
「まったく……何て情けないの。総帥が聞いて呆れるわ」
「……セイボリー? セイボリーなの?」
コニーの信じがたいものを見たような声が響いた。
俺は向こうの様子が気になり、拳銃を抜きつつゆっくりと残骸の影から顔を出すが……。
「うぉ!」
「ふふっ……動かないでね、グレイ」
俺が遮蔽物にしている『グランドフィナーレ』の残骸に、再びボウガンアームが撃ち込まれた。
チラっと見えたが、髪を解いたセイボリーは武装を換装した【ワイルド・ストロベリー】のコクピットから降りず、こちらに鋭い視線を送っている。
どうやら、向こうは俺の銃を警戒しているようだ。
遮蔽物の影に釘付けにされて動けない俺を尻目に、セイボリーは淡々と語り出す。
「……そう。ブラッディマンティスを操っていたのは私」
「どうして? 何のために……」
「理由なんかないわ。ただ、堕落したこの国を滅ぼしたいだけ」
コニーの悲痛な声にセイボリーは冷たく返答した。
【ワイルド・ストロベリー】の駆動音が嫌に大きく感じる。
「バニラ、グレイ……。フフッ……あなたたちには何度も邪魔をされたわ」
口調こそ穏やかだが、彼女との付き合いもそれなりに長いだけに、セイボリーの声には強烈な怒りが含まれていることがわかってしまう。
そして、セイボリーは激情を抑えつつも、静かな殺気を滲ませながら呟いた。
「でも……私を止めることはできないわ。……この国が灰になるまで」
トロット楽団メンバーが固まるなか、セイボリーはハンドルを握りなおした。
【ワイルド・ストロベリー】のレッグパーツが地面を踏ん張り再始動する音が響く。
「それじゃあね、みんな。私はまだやることがあるの」
「セイボリー!!」
立ち去るセイボリーにバジルが色々な感情の籠った声を投げかけるが彼女には届かない。
俺は【ワイルド・ストロベリー】に向けて拳銃を構えかけたが思い留まった。
拳銃弾などビークルに通用しないし、またボウガンアームを撃たれては敵わない。
火砲ではないとはいえ、バリスタサイズの機械弓で飛ばす金属製の大型矢は、人間など簡単に木っ端みじんにしてしまう威力があるはずだ。
「お願い! セイボリーの後を追って!」
「……セイボリーを説得するんだね」
「うん、セイボリーはあんな悪いことができる人じゃない! きっと何かわけがあるのよ!」
コニーの懇願にバニラは力強く頷いた。
マジョラムの【イエロー・ベア】とバジルの【グリーン・リーフ】が運んできた武装は、既にマルガリータとウィリーによってバニラのビークルに取りつけられている。
武器を換装した【カモミール・タイプⅡ】に飛び乗ったバニラは、すぐにエンジンを始動する。
「バニラ」
「?」
「任せたぞ」
「っ……ああ!」
助手席にコニーを乗せたバニラは俺に一つ頷くと、一気にアクセルを踏み込み全速力でセイボリーを追った。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。