steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
セイボリーを追うバニラとコニーを見送りしばらくすると、ミームー村の方から数台のビークルがやって来た。
その中には黒塗りの【ジャガーノート】の姿も見える。
どうやら、俺の愛機を運んできてくれたようだ。
「よお! 待たせたな、グレイの旦那!」
「ああ、助かる」
【ジャガーノート】を運転しているのは、ミームー村の山羊飼いのマインツか。
礼を言ってビークルを受け取った俺は、マインツと一緒にやって来たミームー村の男衆を見回して口を開いた。
「とりあえず、マーシュだ。命に別状は無いようだが、負傷と疲労は見ての通りこのザマだ。取り急ぎ、ミームー村の方で収容してもらいたい。頼めるか?」
「ああ、この少年だな。任せてくれ」
ミームー村の漁師マッカートニーは、マーシュを自分のビークルのシートに乗せ、踵を返した。
マーシュは憔悴しているものの呼吸は安定しており、顔色も悪くない。
悪いが、今は彼のことは最優先事項ではない。
セントジョーンズ病院へ送るのは後回しになるが、とりあえずは村で療養してもらえばいいだろう。
「で、こいつだが……」
「ひぃ……!」
ベルガモットは今も頭を抱えて震えたままだ。
こんな奴に苦労させられたとは情けない限りだが……まあ、この期に及んで逃げられるよりはマシだな。
「この男は捕縛する。近場ならネフロ警察で身柄を拘束してもらってもいいが……とりあえず縛るか」
俺はマルガリータのボートにあった予備の停泊用ロープを使い、ベルガモットの手足を縛って簀巻きにした。
本当なら、両手足を銃弾でぶち抜いてやりたいところだが、マルガリータやバジルの前であまり残酷なことをするのは考え物だし、出血多量で死なれても面倒なので我慢する。
ついでにロープで猿轡も噛ませてやろう。
嫌がらせではなく、移動中に騒がれると面倒だからな。本当だ。
……何故、ロープの繊維が一番荒い場所を使ったかって?
さあ、知らんね。
「ネフロ警察には緊急配備を要請する。敵の黒幕はハッピーガーランドの水路からウズラ山トンネル沿いの水路に入り、最終的にはネフロの用水路からシラサギ川、ウミネコ海岸方面へ逃げるはずだ。網を張るには頭数が要る」
そして、問題は誰がネフロに行くかだが……俺はしばしの逡巡の後、【ジャガーノート】の動作チェックを終えたマルガリータに向き直った。
「マルガリータ、すまないが博士を連れてネフロ警察署に向かってくれ。俺の名前を使って……まあ、博士も居れば普通に話も通るだろう」
「わかったよ。任せな」
これで『グランドフィナーレ』周りの懸案事項は一通り片付いた。
残りは、セイボリーとそれを追ったバニラたちだが……。
「それで? あんたはどうするんだい?」
俺はマルガリータの言葉にゆっくりと振り向いた。
彼女も既に俺の次の言葉は予想しているだろうが……今更、誤魔化すつもりもないので、はっきりと告げる。
「セイボリーを追う」
「ぼ、僕も行くよ!」
「僕も同行しよう。セイボリーのことは放っておけないしね」
バジルとマジョラムは体を乗り出すようにして主張した。
二人が来ることは予想できていたので、俺は特に拒否しなかった。
俺とバジルとマジョラムの三人でイワツバメの滝からハッピーガーランド方面に向かうことが決まったので、とりあえずベルガモットはマジョラムの【イエロー・ベア】のバックパーツに乗せてロープで固定する。
お世辞にも快適とは言い難いシートだが、こいつには贅沢すぎるな。
そして、マルガリータは【ジャガーノート】の装甲ブレストを軽く叩き、俺に声を掛けた。
「異常なし! いつでもぶっ飛ばせるよ」
「……ありがとう、マルガリータ」
さて……もうひと踏ん張りだ。
撃墜されたりボウガンアームで撃たれかけたりして、最終局面は原作通り主人公のバニラに丸投げしつつあるが……ここで退くわけにはいかない。
最後まで見届けなければいけない。
当事者として渦中に居続けなければならない。
これは……俺の物語でもあるのだ。
「待って」
【ジャガーノート】のボディに足を掛けコクピットに乗り込もうとすると、俺は後ろからマルガリータに呼び留められた。
振り向くと、マルガリータは勢いよく俺に抱き着いてきた。
間髪入れず、俺の唇に熱い物体が押し付けられる。
若干気圧されつつも情熱的なキスに応えていると、やがてマルガリータはゆっくりと顔を離した。
そして、俺の目を真っ直ぐに見つめて口を開く。
「気を付けて」
「ああ!」
マジョラムは視線を逸らし、バジルが顔を赤くしているが、今は何も気にならない。
愛する人の温もりは、いつだって活力をくれる。
愛機に乗り込んだ俺は、後続の二人を促すと、最大トルクで【ジャガーノート】のエンジンを吹かした。
俺とマジョラムとバジルの三人は、イワツバメの滝から繋がるモズ川へ向けてビークルを進めた。
モズ川の流域面積は広く下流では比較的穏やかな流れだが、巨大な滝から流れ落ちる水の量は凄まじく、その高低差は上から見ると圧巻だ。
「くそっ! 滝を飛び降りるとか正気か……!?」
ゲームでは一方通行とはいえ普通に使えるルートだったが、現実ではやはりまともな道ではないな。
滝壺に落下してひっくり返ったら、ビークルがバラバラになることもあり得る。
急いでいるとはいえ、とてもそんな無茶を試す気にはなれない。
俺たちも可能な限り川沿いから離れないようにビークルを進めるが、どうしても進むのにある程度の時間は掛かってしまった。
「セイボリー……」
「三人とも、どこまで行ってるんだろうね……」
「っ! おい、あれを見ろ」
そして、ようやくハッピーガーランドの東部の入口近くまで到達したところで、俺は二人に向かって注意を促した。
川の下流辺りを見ると、そこでは水路の入口が滅茶苦茶に破壊されていた。
どうやら、城壁の一部をビークルの武装と体当たりで破ったようだ。
辺りには、建材やセイボリーの【ワイルド・ストロベリー】のものと思わしきピンク色の金属破片が所々に転がっている。
間違いなく彼女の仕業だ。
「これは……!」
「セイボリーだ!」
「……行くぞ」
「~~! ~~!!」
【イエロー・ベア】のバックパーツでベルガモットが何やら騒いでいるが、俺たちは無視してビークルを前進させた。
セイボリーたちの通った痕跡を辿るように、そのままさらに街中の水路へビークルを進める。
そして、ハッピーガーランド東地区の商店街と西地区の駅前広場を繋ぐ橋辺りに到達すると、そこには大勢のハッピーガーランドの住民とビークルが集まっていた。
喧騒の方へ近づくと、水路に数台の警察や消防のビークルが降りているのが見えた。
その近くには、乗り捨てられたピンク色のビークルがズタボロ状態で黒煙を上げている。
見間違うはずもない。
彼らが取り囲んでいるのは【ワイルド・ストロベリー】だ。
どうやら、セイボリーのビークルはこの辺りでバニラに撃破されたようだな。
「おお、グレイ君!」
「お前たち……!」
水路に降りていたビークルの中には、ファーガスンの指揮用警察ビークルとフェンネルの【ブルー・サンダー】の姿もある。
俺たちを見つけたファーガスンとフェンネルは、ビークルに搭乗したままこちらに近寄ってきて口を開いた。
「グレイ君、それに君たちも……。大変なことが起こった!」
「グレイ、マジョラム。信じられないかもしれねぇが……ダンディリオンだ。ダンディリオンの奴が、今回の件の裏で糸を引いてたらしい。あの空飛ぶ要塞もあいつの差し金だ」
二人は驚愕と混乱で所々言葉に詰まりながらも今の状況を説明してくれた。
水路を破壊しながら逃げるセイボリーはハッピーガーランドの街中でバニラに追い詰められたが、そこへ【ホワイトレクイエム】を駆るダンディリオンが割って入った。
ダンディリオンがチコリの復讐のため『グランドフィナーレ』でこの国を滅ぼそうとしていたことは、その場で本人の口から語られたらしい。
ダンディリオンと彼のビークルに乗り移ったセイボリーは、そのまま下流に逃げたそうだ。
当然、バニラとコニーはそのままダンディリオンたちを追った。
……原作通りの展開だな。
ダンディリオンが正体を現し、それがハッピーガーランド全体に知れ渡るイベントも、全てノーマルルートの通りだ。
この状況に至るまでのダンディリオンの細かな行動は、ゲームでも正確な描写が無かったため不明だが……『グランドフィナーレ』墜落の報を受けて、急いで楽器工房地下の【ホワイトレクイエム】を持ち出してきたのかな?
もしくは……彼もずっと『グランドフィナーレ』に乗っていたとしたら、墜落直後に俺たちが到着するより先に現場を離れ、ハッピーガーランドで待ち構えていたか……。
まあ、俺が下手に介入する必要が無かったのは何よりだ。
そんな益体も無いことを考えていると、周囲の野次馬たちの声も自然と耳に入ってくる。
「(ダンディリオンだって?)」
「(でも、あれはエルダーの……)」
「(エルダーの正体はダンディリオンだったのか!?)」
「(彼はチコリの件を……)」
「(え、ダンディリオン? 誰です? それ)」
「(ん? この街に来たのは最近か? 彼はトロット楽団の……)」
「(あの子が、まさかこんな大それたことを……)」
「(あいつが『ブラッディマンティス』のボスだって!?)」
「(何と恐ろしい……!)」
「黒幕はダンディリオンだったのか。テロを起こしたり街を爆撃したりしたのは……チコリの復讐が目的か」
「うむ……」
「ああ。どうやら、そういうことらしい」
俺はファーガスンとフェンネルの説明を要約した。
ファーガスンは重苦しく頷き、フェンネルは皮肉っぽく相槌を打つがその表情はどこか固い。
この段になると、マジョラムとバジルも戸惑いから復帰し、真剣な表情を湛え始めた。
俺は二人の様子も視界の隅で気にしつつ口を開く
「ファーガスン、ブラッディマンティスの総帥は捕縛した。こいつはぼちぼち尋問するとして……問題はダンディリオンだ。このまま放っておけば、奴は他の街や一般市民を攻撃し始めかねない。ブラッディマンティスの手札が『グランドフィナーレ』だけとは限らない以上、早急にダンディリオンを確保する必要がある」
「ああ。バニラの奴が追撃している間は、街の奴が犠牲になることはなさそうだが……」
「そうだな。いくらバニラ君が腕の立つビークル乗りとはいえ、彼一人に押し付けるわけにはいかん」
俺の言葉に二人は頷いた。
「奴は河口や分水嶺を破壊しながら水路を下っている。このまま川沿いに部隊を展開させて下流で追い詰めるべきだろう。ネフロ警察にもナツメッグ博士経由で応援要請の話は通している。ファーガスン、寄せ集めでも構わないから機動隊を編成してくれ。できるだけ早く。俺たちもダンディリオンを追うぞ!」
「うむ。追跡部隊は既に招集している。集結までもう少し待ってくれ」
そう言うと、ファーガスンは数名の部下に指示を出してベルガモットを【イエロー・ベア】から警察ビークルに移し尋問を始めた。
一見、悠長な真似にも思えるが、ビークル部隊の編制に少し時間が掛かる以上、有効な時間の使い方だ。
そして、一通りベルガモットの供述を記録し終えたところで、重武装のビークルによる機甲部隊が集結する。
自分の指揮用ビークルに搭乗したファーガスンは、整列した機甲部隊に向き直り声を張り上げた。
「総員、間隔を開けて隊列を組め! これより、我が部隊は水路を南下して逃走中の容疑者を追跡する。速度は市街地における進軍突入態勢を上限とする! 瓦礫や友軍ビークルとの接触には十分に注意しろ! ……グレイ君たちは後ろからついて来てくれ」
「わかった」
妥当なポジションだな。
ビークルを操縦する要領は、車の運転と然程変わらない。
普通に考えても、狭い通路を高速でかっ飛ばすのは危険だ。
ゲームでは百パーセント安全な自動スクロールでも、現実では事故って愛機をスクラップにする可能性もあるのだ。
トロット楽団メンバーも警察や軍隊と違って車列を組んでの行軍になど慣れていない以上、他より間隔を開けて後ろからついて行く方が安全だ。
「よし、行くぞ!」
ファーガスンの合図で、俺たちは一斉に水路を南下し始めた。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。