steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

126 / 168
126話 白い悪魔1

 

 ペンシル鉄道沿いの水路はウズラ山トンネル近くを通過し、そのままネフロ上流の水脈に合流する。

 バニラのガトリングアームの薬莢と、ダンディリオンのエクスカリバーアームでつけられたと思わしき壁の傷を追っていくと、俺たちはネフロの水路に到達した。

 汽車やビークルの巡航速度では何時間と掛かる道も、戦闘機動なみの速度で突っ走ればあっという間だ。

 もちろん、今回の行軍は真っ直ぐな道だから出来たことであり、そもそも水路のような狭い空間を高速で移動すること自体が危険なので、二度とやりたくは無いが……。

「全隊、停まれ! ……一台ずつだ。慎重に通り抜けろ」

 案の定、建材で補強した水路の一部が破壊されており、辺りには瓦礫が散乱していた。

 そもそも、用水路はビークルが中を通り抜けることは想定されていないので、入口はなかなかに狭い。

 建築作業はビークルで行っているはずなので、探せばビークル用の出入り口も近くにあるとは思うが、今は時間が惜しい。

「野郎……無茶しやがって……」

「セイボリー……」

 悪態をつきながら出てきたフェンネルと、どこか上の空のバジルを最後に、俺たちはネフロの街にビークルを乗り入れた。

 さらにしばらく進むと、ちょうど水路から上れる斜面のあたりに、人だかりができていた。

 彼らの視線の先を追うと、街の外のシラサギ川へと至る水門が木端微塵に吹き飛ばされている。

 どうやら、ダンディリオンとバニラたちは既に下流へ向かったようだ。

「うぉ! また来たぞ!」

「ん? あんたら、警察か?」

「聞いてくれ。さっき、凄い音がして水門がぶっ壊れたんだ」

「なぁ、一体何がどうなってるんだ?」

 水路に俺たちの姿を見つけた野次馬が俄かに騒がしくなり、やがてネフロ警察のビークルがやってきた。

 ネフロ警察の指揮官とはファーガスンが代表して話した。

 どうやら、既に緊急配備は始まっているようで、俺たちが水路から上がると街の外縁には続々と警察ビークルの部隊が集結していた。

 ベルガモットはまたしてもファーガスンに引っ立てられて、ネフロ警察の指揮官からも厳しい追及を受けているようだ。

 そんななか、こちらにもう一台のビークルが近づいてきた。

「皆、戻ったね」

「おお、フェンネルも一緒か!」

 やって来たのは、【クラフトマンシップ】に乗ったマルガリータとナツメッグ博士だ。

 マルガリータは俺たちを見回した後、俺のところで視線を止めて僅かに微笑んだ。

 ほんの一瞬のことだったので皆は気づいていないようだが……少し優越感が出てしまうな。

 そして、博士の方は俺の他にフェンネルの姿を認め、僅かに驚きの表情を浮かべている。

 『グランドフィナーレ』の件ではフェンネルから伝書鳩をもらっていたはずだが、彼がここまで出張ってくることは博士にも予想外だったのかもしれない。

 とりあえず、警察の方の準備はまだ終わらないようなので、俺は二人に向き直り礼を言った。

「マルガリータ、色々と手間をかけたな。助かったよ。博士もありがとうございます」

「気にするんじゃないよ」

「うむ、今は一大事じゃからな。……それで? 何がどうなっておる?」

「それが……」

 ダンディリオンの件についてはフェンネルが話した。

 俺はその場を見ていないので、まあ妥当なところだろう。

「何と……!? セイボリーの件は聞いたが、まさかダンディリオンが……!」

「え……ダンディリオンって、確か……」

 事の顛末を聞き終えたナツメッグ博士は【クラフトマンシップ】の助手席で項垂れるように頭を抱えた。

 まあ、博士にとってはショックなことに違いないだろう。

 ダンディリオンがブラッディマンティスの黒幕だったなど、ましてや彼がチコリの復讐のためにそこまでしていたなど……。

 淡々と説明したフェンネルも、意気消沈した博士には掛ける言葉が見つからない様子で、サングラスの奥から虚空を見つめて黙った。

 マルガリータも俺や博士から断片的にダンディリオンの話は聞いているので、セイボリーに続いて俺たちに近い人間が槍玉に挙げられたことに戸惑っているようだ。

 しかし、それでも時間は無情に過ぎてゆく。

 やがて、合流したガーランド警察の機動隊を組み込んだネフロ警察のビークル部隊も準備が整い、出動の運びとなった。

 そして、俺はマルガリータとトロット楽団の面々に向き直り声を掛けた。

「山道は俺が先行する。皆はファーガスンの部隊と一緒に、下の道から行け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げるダンディリオンとセイボリーを追い続けバニラが辿り着いたのは、彼の物語の開始の地ウミネコ海岸だった。

 河口の鉄格子を吹き飛ばして砂浜に出たダンディリオンは、ゆっくりと【ホワイトレクイエム】を反転させ追いついてきたバニラの【カモミール・タイプⅡ】へ向き直る。

 ダンディリオンとセイボリー。

 長らく親愛の情を抱いてきた二人のあまりにも冷たく無機質な眼差しに、バニラも助手席のコニーも思わず身震いした。

「ウミネコ海岸……バニラ、君を始めて見たのもここだったな」

 夕日を背に淡々と語るダンディリオンの目は、冷たくも妖しく輝いている。

 バニラを見据える彼の目に宿るのは……狂気。

 それ以外の表現が思いつかない。

 そんなコニーに構うことなく、ダンディリオンはバニラに鋭い視線を送った。

「フフフ……。こんなことなら、あの時岩の下敷きにしておけばよかったよ」

「ダンディリオン……それじゃあ……!」

「その時はコニー、君が居たからできなかった。……でも、同じ過ちはしないよ……!」

 悲痛な声を絞り出すコニーに、微かにダンディリオンの表情が歪む。

 しかし、次の瞬間には、ダンディリオンの表情は凄まじい怒りと殺気に支配された狂人の顔へと変わった。

「さあ……決着を付けよう、バニラ!」

 右のエクスカリバーアームに左の長距離キャノンアーム。

 二つの武装を振りかざしスラスターを吹かしたダンディリオンは、強化型レッグパーツの加速力も活かしてバニラに襲い掛かった。

 

 

 長距離キャノンアームを発砲した【ホワイトレクイエム】は、射撃態勢の解除を待つことなく淀みない動作の移行でスラスターを噴射した。

 強化型の鳥足タイプのレッグパーツが加速の勢いで砂を撒き散らし、跳ねるような勢いで目標を追う。

 初手から畳み掛けるような攻勢だ。

 そして、大きく振りかぶったエクスカリバーアームの巨大な刀身が、長距離キャノンの爆風を避けたバニラとコニーに迫る。

「っ!」

「きゃ!」

 バニラは素早く距離を調整し、エクスカリバーの刀身の根本へトライデントアームを差し込むようにして、ダンディリオンの斬撃を凌いだ。

 ビークルを襲う衝撃に思わず助手席のコニーが声を漏らす。

「ダンディリオン……」

「……ふんっ」

 スイングの勢いを殺されたエクスカリバーアームは、鋼鉄の三又の槍の柄に僅かな傷をつけただけに留まるが……ダンディリオンは止まらない。

 そのまま推し切るようにエクスカリバーの角度を変えて斬り上げ、返す刀で横薙ぎに刀身を振るう。

 一撃一撃に、確かな殺気が宿っている。

 アームパーツの可動域を限界まで活用し、ビークルのエンジンブロックをバターのように切り裂き両断する攻撃だ。

 さすがのバニラもフルスイングを受けるわけにはいかず、スラスターを噴射してその場を離脱した。

「はぁ!」

「くっ」

 距離を詰めたダンディリオンは執拗に【カモミール・タイプⅡ】にエクスカリバーで斬りつけ、反撃する間を与えずにバニラを追い詰めていく。

 斬撃のコンボを凌がれたら、今度は長距離キャノンアームの狙いをじっくりと付けて【カモミール・タイプⅡ】の中心に向けトリガーを引く。

 【ホワイトレクイエム】を駆りエクスカリバーアームを振るうダンディリオンのハンドル捌きに、一切の迷いは無かった。

 バニラはガトリングアームの点射とスラスターによる高速移動で、牽制しつつ体勢を立て直すしかない。

 傍から見れば【カモミール・タイプⅡ】は防戦一方だ。

 しかし、バニラもただ一方的にやられるタマではない。

 彼もまた、攻防の中で着実に自身の攻撃を相手に到達させるための立ち回りをしていた。

「ふっ!」

「っ……」

 タイミングを見計らい、バニラは一気に攻勢に出る。

 ビークルを回転させる勢いでダンディリオンの長距離キャノンアームのミサイル弾を躱し、流れるような動作で左のアームを上げたバニラは、そのままガトリングアームの引き金を引いた。

 高速弾の掃射で足元から薙ぎ払われるように制圧射撃を受けたダンディリオンは、思わずビークルを下げて後退る。

 弾痕がなぞる軌道は蛇のような曲線を描き、【ホワイトレクイエム】の逃げ道を塞いで大岩と瓦礫に囲まれた空間に押し込んだ。

 海岸のなかでもとりわけ足場の悪い場所へ追い込まれたダンディリオンは、踏み込んでエクスカリバーを振るうことも素早く距離を取ってキャノンを撃つこともままならない。

 もちろん、その隙を逃すバニラではなかった。

「ハァ!」

「っ……ちぃ!」

 狙いすましたトライデントアームの一撃は、エクスカリバーアームの可動部を掠めた。

 寸でのところでダンディリオンはビークルを後退させ回避に成功するが、足場の悪い環境下で攻勢に出られればなかなか反撃に転じられないのは彼も同じ。

 形勢は逆転した。

 

 

 一気に距離を詰めたバニラは、即座に武装を展開してダンディリオンに猛烈なラッシュを掛けた。

 思い起こされるのは、ビークルバトルトーナメント決勝戦でのグレイ対エルダー戦。

 不規則なスラスターダッシュで高速で移動しながら射撃武器を発砲し敵の攻撃を避け、一瞬の距離が詰まったタイミングで近接武器を振るい致命的な一撃を叩き込み刃を打ち合わせる。

 ビークルの稼働限界をぶっちぎるような高速機動と連続攻撃のコンビネーションの応酬は、まさにビークルバトルの頂上決戦を彷彿させる様相を呈していた。

「せぃあ!」

「ぐ……」

 そして、バニラの【カモミール・タイプⅡ】とダンディリオンの【ホワイトレクイエム】の両者で手数の勝負になれば、僅かにバニラ側に軍配が上がる。

 何せ、巨大なエクスカリバーアームと、重量武器とはいえノーマルサイズの部類に入るトライデントアームでは、ビークルに掛かる重さが違う。

 さらに、バニラの射撃武器は装弾数と連射力に優れたガトリングアーム。

 ダンディリオンはどうにかエクスカリバーを盾のように使いつつ強化型レッグパーツの加速力を活かして立ち回っていたが、徐々に追い詰められていた。

「(行ける……!)」

 数合の切り結びと撃ち合いを経て、バニラはそう確信した。

 ダンディリオンの……エルダーの動きはトーナメントの決勝戦で見た。

 自分を下したグレイとの試合は、まさに最強を決める仁義なき死闘だった。

 だが、今の【ホワイトレクイエム】は明らかにあの時より動きが悪いのだ。

 当然ながら、グレイの駆る【ジャガーノート】よりも格段に弱い。

 確かに、機動力の低下の要因は、瓦礫の多い砂浜という環境によるところが大きい。

 環境要因によるデメリットは、当然ながらバニラもその影響を受ける。

 しかし、敵の動きが精彩を欠く状況において、バニラは常に活路を見出し優位に戦ってきた。

 ビークル乗りの経験の少なさを、自身の反射神経や天賦の才をビークルの運動能力に反映させることで補い、何より高い洞察力と適応力によって、経験値やスペックで勝る相手を下してきたのだ。

「終わりだ! ダンディリオン!」

 お互い、フィニッシュブローの重さを孕んだ一撃を放ち、近接武器による打撃の応酬で機体が衝撃によろめくなか、先に復帰したのはバニラの方だった。

 相対する敵は不安定な態勢のまま。

 このチャンスを逃す手は無い。

 無駄のないフォームでガトリングアームを上げたバニラは、そのまま引き金を引き絞りフルオートで高速弾を【ホワイトレクイエム】に撃ち込んだ。

 ダンディリオンはエクスカリバーアームで防御するが、制圧射撃の要領で連続して撃ち込まれる弾丸に捉えられては、耐えることなどできない。

 ビークルのボディ全体に無数の弾丸を食らった以上、いつ爆発炎上するかもわからず、普通ならその時点で勝負は付いているはずだった。

 しかし……。

「なっ!」

「ぁう!」

 突如、バニラの【カモミール・タイプⅡ】を鋭い衝撃が襲った。

 突然の出来事に、助手席のコニーも思わず息を詰まらせる。

 フルオートでガトリングを撃ち込んだバニラが僅かに緊張を解いた一瞬の隙を突き、ダンディリオンは突進を繰り出し、バニラたちのビークルを弾き飛ばしたのだ。

 それをバニラが理解したのは、どうにか機体のバランスを取り戻して横転を避け、続けて迫りくるエクスカリバーアームの斬撃を寸でのところで躱した後だった。

「調子に乗るなよ……君は機械の力を借りているだけだ。君が強いわけじゃない……!」

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。