steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
ダンディリオンの駆る【ホワイトレクイエム】は、バニラとコニーの乗るビークルに獣のように飛び掛かった。
所々、パーツが損傷して吹き飛び、エンジン系や燃料タンク周辺にもダメージを受けているものの、構う様子は無い。
引火の危険などまるで顧みず、ただ憎しみだけでエクスカリバーアームを振るう。
既に長距離キャノンアームの弾薬は底をつき、駆動部にもダメージが蓄積している。
それでも、ダンディリオンは一歩も退かなかった。
「おおぉぉぉ!」
「ぐ……」
先ほどの精彩を欠いた動きから一転、【ホワイトレクイエム】は徐々に動作の移行にラグが無くなり、剣筋も鋭さを増していく。
的確な足運びで立ち回り鋭くエクスカリバーアームの斬撃を繰り出すダンディリオンの動きは、ビークルバトルトーナメントの決勝戦以上の強さを発揮しているようにも見えた。
あるいは、ダンディリオンのあまりに激しい怒りと殺意に気圧され、バニラがそう感じているのか。
少なくとも、今のダンディリオンは多少のダメージや損傷で止まる気配は無い。
ダンディリオンのビークルは既に損傷と消耗から万全とは程遠い状態になっているのにもかかわらず、彼の攻撃はますます鋭さに磨きがかかる。
まさに、機械の性能ではなくダンディリオン自身の強さと意思によって、【ホワイトレクイエム】のエクスカリバーは振るわれている。
実際に相対するバニラも、コクピットから発せられるダンディリオンの殺気を通して、それをひしひしと感じ取っていた。
「しっ!」
「くっ……!」
ビークルのボディをバターのように切り裂くエクスカリバーアームは、数々の死闘を潜り抜け生き延びてきたバニラにとっても十分に脅威だ。
一撃一撃の致命的な重さと圧倒的な手数と勢いを前に、バニラは徐々にダンディリオンに押されていく。
そして、明確な殺意を以って振るわれたエクスカリバーの一閃は、的確に【カモミール・タイプⅡ】のコクピット目掛けて放たれた。
バニラもここ最近の濃密な戦闘経験によって一種の勘を身に着けつつあるがゆえ、どうにか致命傷を受けることは避けるが……。
「っ!」
完全には躱しきれなかった斬撃がビークルのボディを捉え、甲高い金属の接触音が響く。
次の瞬間、【カモミール・タイプⅡ】のロールバーが吹き飛んだ。
改めて、強力な近接武器によって鋼鉄のビークルパーツが容易く破壊される光景を目の当たりにし、バニラの額を冷たい汗が流れた。
「ちっ! しぶとい奴だ……」
悪態をついたダンディリオンは、エクスカリバーアームを構え直すと、再びスラスターを起動してバニラのビークルに飛び掛かった。
ビークルの損傷をモノともせず、ただ目の前の敵を叩き潰す。
彼の目にあるのはそれだけだった。
「っらぁ! どうだ!? バニラぁ!!」
「っ……はぁ!」
さらに数十合の打ち合い。
滲み出る狂気を湛え執拗に襲い掛かるダンディリオンに、バニラは時折カウンターを放ちつつも攻めあぐねていた。
もちろん、彼も戦略を用いて戦えない気質ではなく、封殺され余裕が皆無の状況というわけではない。
ダンディリオン側は射撃武器の弾薬が尽き、バニラのガトリングにはまだ残弾がある。
当然、その優位も十全に活かして戦っていた。
「死ねよ! いい加減、死ねって!!」
「くっ……ダンディリオン……!」
徐々に両者の機体にはダメージが蓄積していく。
損傷の割合では【ホワイトレクイエム】の方が若干不利といったところだ。
しかし、未だにダンディリオンに退く気配は一歩も無い。
ガトリングアームの高速弾によってボディに穴が空こうが、駆動部の動きにトラブルが起きようが関係ない。
ビークルの稼働限界を無視したぶつかり合いは、既に意地の勝負と化していた。
「(やめて……)」
「っ……」
エクスカリバーアームの斬撃に軽くトライデントを打ち合わせ受け流すバニラの耳に、微かにコニーの声が響いた。
彼女も生半可な覚悟でついて来たわけではない。
少しでも戦うバニラの心を支えられるように、運転席のバニラが気を散らさないように……彼の傍に居て、彼のことを信じて、気持ちを支えることで一緒に戦ってきた。
それでも、思わず口をついて出たコニーの本音は、バニラの心臓を鷲掴みにするように圧し掛かる。
「くっ、ダンディリオン……!」
「死ねぇ!」
顔に狂気を漲らせて襲い来るダンディリオンは、そんなことはお構いなしとばかりにエクスカリバーで斬りつけてくる。
彼にはコニーの姿は見えていない。
ダンディリオンとバニラ。
大切な二人が戦い殺し合うことがコニーの目にどう映るのか、まるで考えが及ばないかのように……。
「馬鹿野郎っ!」
「っ!」
トライデントの柄で真正面から斬撃を受け止めたバニラは、自分でも驚くくらいの大声で吠えた。
思わず奥歯を噛み締めながら目を見開き、彼もまた怒りのまま激情を刃に乗せるようにしてトライデントアームの刺突を放つ。
鋭い軌道で突き込まれた攻撃をダンディリオンが後退して躱すと、バニラの頭は冷え僅かに戦略を思考する感覚を取り戻したが、ハンドルとペダルでビークルを操る彼の手足は血が燃えるように熱を帯びていた。
「っ……ダンディリオンっ!!!!」
後退するダンディリオンを追いかけたバニラは、【ホワイトレクイエム】のレッグパーツを薙ぎ払うようにガトリングを乱射しつつ、エンジンブロックの中心を狙ってトライデントを突き出す。
再び、バニラの攻勢だ。
的確にダンディリオンのビークルの急所を狙うバニラの動きに最早迷いは無い。
これ以上、コニーを悲しませない。
ここで全てを終わりにする。
そんな思いを胸に振るうトライデントは、覚悟を決めてトリガーを引くガトリングは、【ホワイトレクイエム】のボディに軽くない損傷を与えていく。
一方、ダンディリオンがカウンターで放ったエクスカリバーアームの斬撃は、見事にいなされた。
「クソっ、何が……」
「おおぉ!!」
反撃を許さず、体勢を立て直す間を与えずに、バニラのトライデントアームの多段突きを繰り出す。
三又の槍の先端はダンディリオンのビークルの風防にヒットし、操縦席を掠めた。
続けて、銃口を流すように放たれたガトリングアームの高速弾は、精密なエイムをしていないにもかかわらず、吸い込まれるように【ホワイトレクイエム】のバックパーツである補助エンジンを捉える。
蒸気機関の一部がショートした小規模な炸裂音を背後に聞きながら、ダンディリオンは顔を顰めた。
「何だ、それは……!」
ダンディリオンの表情には戸惑いの色が浮かぶが、それもそのはず。
バニラは今の状況下において最適な立ち回りを行い、銃口に最短距離を描かせたに過ぎない。
機動力もパワーも、ビークルの限界を超えてはいない。
だが、それこそバニラがこの愛機に乗り続けて身に着けた最大の技術だ。
バニラの【カモミール・タイプⅡ】はカスタムビークルではあるものの、機関部も外装も基本的に通常グレードのパーツで構成されている。
一部の例外を除いてほぼ店売りの品、いわばレア度でいうコモンかノーマルのパーツばかりというわけだ。
【ホワイトレクイエム】や【ジャガーノート】のようなSSRやレジェンダリークラスのパーツを多用したビークルとは違う。
しかし、それゆえバニラは環境や状況に応じて様々なカスタムを試し、あらゆる微調整や改良を重ねる経験を積んできた。
そして、全力で挑んだトーナメントでは、グレイに敗北した。
機体の性能差、操縦スキル、両方で負けた。
そんな中、バニラが編み出したのは、機体のパワーや機動力に依存しない、操縦スキルで勝つ戦法だ。
即ち、反射神経と五感によって、相手の操縦技術の限界の隙を突き、敵の攻撃を躱して自分の攻撃をヒットさせる。
ただひたすら戦闘機動の洗練。
それだけだ。
思えば、やることは他と変わらなかった。
圧倒的な重量と火力を持つ大型ビークルも、
要は、汎用ビークルではどちらにせよ限界がある機体の性能ではなく、
どうすれば、自分の【カモミール・タイプⅡ】で【ジャガーノート】と戦えるか、グレイに勝てるか。
それを考えて編み出した戦法と立ち回りの基礎は、確かにバニラの操縦技術に根付いていたのだ。
もちろん、グレイの【ジャガーノート】とダンディリオンの【ホワイトレクイエム】では装備や設計思想に差異があるが……それでもバニラの無駄を省いた単純な戦法は、どんな相手にも通用するという強みがある。
「っ……」
補助エンジンの機能を停止させられ、駆動系のバランスをさらに崩された【ホワイトレクイエム】は、徐々にダンディリオンの意図通りの動きを実現できなくなっていく。
機体を意のままに操るバニラに対し、自分の意図と機体の挙動のジレンマが広がるダンディリオン。
ダンディリオン側の動きのキレは、バニラとの攻防を交わすたび加速度的に鈍っていった。
そしてついに、バニラの攻撃はダンディリオンのビークルに甚大なダメージを与える一撃を決める。
鋭く突き出されたトライデントアームの一撃が、【ホワイトレクイエム】の左側の長距離キャノンアームの根元に突き刺さった。
完全に可動部に関節を捉えられたアームパーツは、耳障りな音とともに火花をスパークさせ、電気系統がショートしたことを物語っている。
間髪入れず、バニラがペダルを踏みこんでスラスターを起動すると、【カモミール・タイプⅡ】のボディで正面からダッシュアタックを食らった【ホワイトレクイエム】は後ろに吹き飛んだ。
弾みで、関節を破壊されていた【ホワイトレクイエム】の長距離キャノンアームは音を立てて千切れ飛ぶ。
強引に回避動作へ移っていた【ホワイトレクイエム】にとって、それは最悪のタイミングでの出来事だ。
「ぐっ」
ダンディリオンの意思に反して、彼のビークルはバックパーツから岩に激突して倒れ込み、レッグパーツもバランスを崩した。
横転寸前の【ホワイトレクイエム】は、最早バニラにとって的でしかない。
当然、バニラはさらに追い打ちを掛け、トライデントアームを突き出す。
エンジンブロックを狙った一撃は、咄嗟にダンディリオンがハンドルを切ったことで僅かに狙いを外したが、耳障りな金属音を立てながら【ホワイトレクイエム】前部のスパイクブレストに食い込んだ。
「ダンディリオンっ!」
「っ!」
助手席のセイボリーが咄嗟に手を伸ばし、コクピットのパネルを操作する。
緊急用の着脱装置が作動し、トライデントアームの捻じ込まれたスパイクブレストEはガシャンと音を立てて【ホワイトレクイエム】の機体から外れた。
あのまま密着し続けていたら、どう考えてもダンディリオンがエクスカリバーアームを振るう前にガトリングを至近距離から撃ち込まれていただろう。
セイボリー間違いなく最適な判断を下した。
しかし、ダンディリオンはそんなセイボリーに感謝するどころか、目を剥いて声を荒げた。
「邪魔をするな!」
「っ……ごめんなさい」
思わず身を竦めたセイボリーは、反射的に謝りつつも思わずダンディリオンの目を覗き込みそうになり、そして顔を背ける。
その様子は、【カモミール・タイプⅡ】のコニーとバニラの目にも、はっきりと映っていた。
「セイボリー! もうやめて……!」
再び【ホワイトレクイエム】が後退しバニラたちと距離を取るなか、コニーは悲痛に叫んだ。
兄のように慕うダンディリオンと、甘酸っぱい恋心を抱くバニラ。
そんな二人が命を賭して戦うだけでも胸が張り裂けそうになるのに、さらにセイボリーまでも自分たちに冷たい眼差しと殺気を向けてくるなど、とても耐えられない。
戦いに夢中のダンディリオンには最早自分の声は届かないが、せめてセイボリーには……。
そんな思いで放たれたコニーの言葉に、セイボリーは僅かに反応を見せたが、やがて彼女も険しい表情に戻り、そして皮肉っぽく微笑んだ。
「……ごめんなさいね、コニー」
「っ……」
何度言っても届かない。
悲し気な、しかし全てを拒絶するような冷たい目に、コニーの心は今にも折れそうになる。
ほぼ無意識に、コニーは運転席のバニラに触れようとしていた。
それがバニラの集中に水を差す行為だと知りながらも、一分の隙が命を落とす状況だとわかってはいるものの、どうしてもそうせずにはいられなかった。
しかし……彼女が大切な人の存在を確かめようとした試みは、達せられることは無かった。
「っきゃあ!」
「コニー!」
「っ!」
一瞬の脱力の後、バニラとダンディリオンは近接武器の応酬を交わし、ビークルのボディをぶつけ合う。
レッグパーツの踏み込みに合わせてトロットビークルの重量を転嫁し、突進の勢いに乗せて突っ込む、小細工など弄しないビークル同士の格闘戦における基本の動作だ。
しかし、そんな正面切ってのぶつかり合いのなか、バニラの横の助手席から甲高い悲鳴が轟いた。
慌てて横に視線をやると、コニーが座席から投げ出されそうになっている。
一瞬の気の緩みか、体重が軽いからか……とにかくコクピット内での掴まり方が不十分だったコニーは、激突の際の衝撃で【カモミール・タイプⅡ】のブレストパーツ側に半身が落ちかけていた。
「ダンディリオンっ!」
「っ……!」
セイボリーの鋭い声が響いた瞬間、一瞬動きを止めていたダンディリオンはビークルのハンドルを握り直しエクスカリバーアームを振り上げた。
セイボリーが声を発した理由は定かではないが……ダンディリオンはやる気だ。
「っ!!!!」
その時、バニラの頭の中で何かが切れた。
怒りではない。
激情とも言えない。
ただ、覚醒とした表現できないような感覚が脳裏を巡り、ほぼ無意識下でビークルのアームを操作する。
そして、バニラの視界内の景色が微かにスローモーションのような動きを見せるなか、放たれたトライデントアームは【ホワイトレクイエム】のエクスカリバーアームの可動部に深々と突き刺さっていた。
「なっ!?」
「…………」
ダンディリオンは驚愕の声を上げるが、それに構わずバニラは感情の籠らない目でガトリングアームを稼働させる。
右手はしっかりとコニーの手を掴みながら、冷たい殺意を以ってガトリングのトリガーを引けば、高速弾が至近距離からフルオートで吐き出される。
「うぉ!!」
「きゃ!」
大量の弾丸をボディに浴びた【ホワイトレクイエム】は、後方へ沈むように転倒した。
自動制御装置の立ち上がり動作が試行されるが、エンジン系とレッグパーツをほぼ大破させられたビークルに、最早立ち上がる力は無かった。
「ぐ……」
ダンディリオンは慌ててハンドルを操作するが、彼のビークルはうんともすんとも言わない。
エルダーとしてビークルバトルトーナメントのチャンピオンに君臨して数年。
ビークルや機械の存在を忌み嫌いつつも、ダンディリオンは長きに渡りその性能と力に慣れ親しんできた。
ビークルの構造と仕組みを熟知しているだけに、既に愛機が限界を迎えていることを悟ってしまう。
「ダンディリオン……!」
「っ……くそっ」
励ましとも諭しとも取れるセイボリーの声が響き、ダンディリオンは僅かに我に返ったように動きを止める。
今更ながら、彼はセイボリーの手が自分の腕を掴んでいることに気付いた。
共感し、同志となり、同じ目的のためずっと傍で支えてくれた人の存在に、ダンディリオンは何を思っているのか……その答えは、長年彼を見続けてきたセイボリーにも最早わからない。
「……行きましょう」
「…………」
そんな彼らを尻目に、もうもうと黒煙を上げるダンディリオンのビークル。
そして、ついに動かなくなった。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。