steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
「グレイ、今日はどうするんじゃ?」
「そうですね、今日はネフロの闘技場に行こうかと」
原作でも各街には必ず闘技場があり、ビークルバトルという一対一の決闘システムによる対戦バトルが楽しめる。
バトルライセンスというものが発行されており、これのDからSのランクが一つの強さの指標になるのだ。
ゲームでは主人公もネフロで初めてバトルライセンスを貰い、それ以降は闘技場でバトルに出場することができるようになり、自身が出場するだけでなく他のバトラー同士の戦いの賭けに参加することもできる。
俺も少し前からバトルライセンスを取得してバトルに出場し、腕を磨いていたのだ。
今の俺はAランク。
キラーエレファント団の親分と同じランクだ。
ゲームではストーリーを進めないと闘技場には姿を現さない彼だが、何故か今は出場していたのだ。
申し訳ないが、彼を何度も下すことで実績を作り、俺もAランクまで上り詰めさせてもらった。
まあ、本人は「若いの! わしを倒すとは、なかなかやりおるのぉ!」とご機嫌だったのでよしとするか。
ネフロにはSランクのシュナイダーというビークル乗りが居り、彼を倒せば俺もSランクへの道が開けるだろう。
「ふむ、お前さんもそろそろSランクかの?」
「いや……どうでしょうね……」
実は、俺は未だにシュナイダーには挑戦していない。
何せ、彼はネフロの英雄とよばれる男で、ネフロの街においてはただのビークルバトラーに収まらない人気者なのだ。
俺はたったの数か月でAランクに上り詰めたことがあり、それだけでも目立ちすぎた感がある。
唯一無二の英雄であるシュナイダーを俺が下したときの影響は計り知れない。
そうなると、少し躊躇してしまうのだ。
Sランクのライセンスがあればハッピーガーランドに居るビークルバトルトーナメントチャンピオンのエルダーに挑戦できる。
ゲーム本編開始の前にエルダーの強さを見ておく意味でも、一度挑戦しておきたい。
シュナイダーを倒せば、地道にAランクを倒し続けて実績を積むよりも早くS級ライセンスが手に入るだろう。
そうすれば、エルダーへの挑戦も容易になる。
しかし、シュナイダーとネフロのことを考えると、どうにも踏み切れないのだ。
「ふむ、まあビークルバトルの話はなるようになるじゃろ」
「何だか適当ですね」
ナツメッグ博士にエルダーのことを言うのは考えものだな。
実は、エルダーはダンディリオンの仮の姿で、ビークルバトルチャンピオンとして資金を稼ぎつつ、秘密結社ブラッディマンティスを創設し、死んだ弟チコリの復讐として、世界と機械文明を破壊しようと目論む。
それがゲーム終盤のストーリーになってくるわけだが、現実でダンディリオンと会っていない以上、原作とどこまでが同じなのかわからない。
俺は未だにハッピーガーランドに足を踏み入れてすらいないのだ。
「別にAランクでも困ることは無いじゃろ? まあ、お前さんがもっと金が欲しいと言うのならば止めはせんが……」
「いや、そういうわけでは……」
実は、ビークルバトルではファイトマネーが出る。
原作ではエルダーの創設資金やら何やら話に聞くだけで、主人公がビークルバトルをしてもパーツと交換できるメダルが貰えるだけであり――交換したパーツを売っても半額になるので大した儲けにはならない――闘技場で金を稼ぐという感覚はあまり無い。
まあ、ハッピーガーランドでは闇賭博でかなり稼げるのだが……。
しかし、現実ではAランクのファイトマネーは相当なものになる。
俺は既に数十万URを闘技場で稼いでいる。
またしても片手間のバイトで年収を稼いでしまったな。
「まあ、とにかく夕方にはネフロに行きます。支配人から、できれば今日来てほしいと言われているんで」
「うむ、わかった」
ネフロ闘技場の支配人ディーノは、端的に言えばゲイっぽい奴だ。
まあ、ライセンスは迅速に発行してくれたし、主人公も彼からライセンスを貰うことになるのだから、敢えて喧嘩を売る必要は無いのだが……どうにも苦手だ。
幸い受付嬢とのガールズトークで「グレイも悪くはないけど、大柄で武骨であたしの趣味じゃないわ~」などと言っていたので俺の尻は今のところ安全だろう。
まあ、それでも半径五メートル以内に近寄りたくないのは仕方ない。
さて、今日の用はSランクの昇格がらみなのかどうか……。
「おお、そうじゃ。グレイ、お前さん、今日の午前中は暇じゃな? ならばメリー乳業のところへ行ってやってくれんか?」
「ええ、それは大丈夫ですが……何か、トラブルですか?」
「いや、牧羊地と畑を広げるらしいんじゃよ。お前さんに開墾の手伝いを頼みたいらしい」
それは大歓迎だ。
メリー乳業とピジョン牧場の農家の皆さんの生産力が高まれば、俺や博士も美味いチーズや作物に家畜の肉が食えるからな。
普段、お裾分けを貰っている以上、こういう手伝いは積極的にやらないと。
この辺りは、何だかんだで山や森の自然も多く、ちょっとやそっと開墾したくらいで環境破壊にはならない。
「わかりました。早速、行ってきます」
「頼んだぞ」
ビークルの強化ブレードアームを工房から引っ張り出したノコギリアームに置換し、俺は丘の麓の農家のもとへ急いだ。
「おお、グレイ。よく来てくれたね」
「よう、グレイの旦那。災難だったな、こんな野望用に巻き込まれちまって」
「助かるよ」
「グレイさん、わざわざご足労いただきまして、ありがとうございます」
最初に顔を会わせたのはメリー乳業の男衆だ。
「いえいえ、俺もいつもお世話になっていますから」
「何言ってんだい。お前さんには鹿や猪も分けてもらっているし、乳清チーズの製法まで教えてもらったんだ。こうしてお前さんの手を煩わせておいてなんだけど、この借りはきちんとチーズで返すからな」
「ありがとうございます。そいつには期待しておきます」
乳清チーズに関しては、俺がリコッタチーズを食べたくなったのと、メリー乳業で余ったホエーを廃棄していたのを見て、テレビで見たうろ覚えの製法を教えただけだ。
羊乳のリコッタは初めてだったが、なかなか美味かった。
今後も期待したいものだ。
野生動物の肉に関しては完全に成り行きだ。
時々、俺は山に入って畑の作物を荒らす鹿や猪を駆除している。
そもそも何故、俺が野生動物の駆除をすることになったかというと、ちょうどピジョン牧場では老齢に差し掛かっている狩人が多く、彼らの引退で狩人が減ってしまったからだ。
害獣駆除のペースが一気に落ちると食害が酷いことになる。
ピジョン牧場の面々はビークルで害獣を駆除することも考えていたそうだが、さすがにジビエの肉を大口径の火砲で潰してしまうのは勿体ないと思い、俺は小火器で仕留めることにしたのだ。
引退した元狩人の爺さんからは、彼の愛用していたライフルを譲り受けた。
何の変哲も無いボルトアクションライフルだったが、俺は銃身と擦り減ったパーツを交換し、ナツメッグ博士に手伝ってもらい製作したスコープを装着した。
ビークルで獲物を追い、ライフルで仕留める。
このコンボがなかなか強力で、俺は結構な数の野生動物を無駄にすることなく確保できているのだ。
当然、俺とナツメッグ博士の二人だけでは食い切れないわけで、そういった余剰の獲物はピジョン牧場の連中にお裾分けしている。
「さ、とにかく作業を始めましょう。まずは森の伐採と岩山や切り株の除去からですね」
「おう、俺も手伝うぜ、旦那」
伐採した木材をまとめるところまで手伝い、俺の仕事は終わりだ。
牧場の連中に一声かけた俺は、一度ナツメッグ博士の工房に戻ってノコギリアームを強化ブレードアームに付け替え、俺はネフロの街に出発した。
ネフロ闘技場に入ると、いつもは選手控室に居る支配人の姿が見えなかった。
控室にはいつも通りDランクのチャッキーにイザベル、CランクのルーニーにAランクのエレファント親分、さらに何とSランクのシュナイダーが居た。
腰抜けジミーは居ないな。
彼は原作で主人公がネフロ闘技場を訪れたとき、ちょうど逃げ出した直後だったが、現実ではまだこの闘技場に所属していないのか。
今はまだ無名なジミーだ。
既にビークル乗りになっているのかどうかもわからんな。
「ああ、グレイさん。お疲れ様です。弾薬の補充は?」
「いや、今日は撃ってないから大丈夫。駆動のチェックだけ頼めるかい?」
「わかりました」
闘技場では古今東西のあらゆる弾薬が揃う。
ネフロの闘技場も例外ではなく、ガトリングアームや俺のチェーンガンアームの弾薬をストックしてあるのだ。
俺はいつもここで弾薬を購入しているので、修理工とは顔なじみだ。
以前、工房に置いておく分もまとめて一万発ほど購入したこともあったからな。
あれなら顔も覚えられるというものか。
「支配人は?」
「上です」
整備代を払いながらついでに聞いてみると、ディーノは上に居ることがわかった。
さて、呼ばれていることだし、さっさと会いに行くか。気は進まないけど。
「…………」
選手たちが思い思いに寛ぐなか、俺に鋭い視線を送るシュナイダーが気になったが、俺は気づかないふりをして階段を上がった。
「支配人」
受付の近くで支配人のディーノを見つけたので声を掛けた。
「あら、グレイ。来てくれたのねぇ、嬉しいわ!」
そういう誤解を招く言い方はやめてほしい。
ってか、俺は好みじゃなかったはずだろ。
何故、こうも距離が近いんだ?
至近距離まで接近されると、身長の差で俺がディーノを見下ろすことになる。
一応、闘技場内においては彼が上司なので、この体勢は居心地が悪いし、何より俺はノーマルだ。勘弁してもらいたい。
「支配人、何かご用があるとのことでしたが?」
「もぅ……い・け・ず。相変わらず、せっかちなんだから」
あんたと同じ空気を少しでも長く吸いたくないんですよ。
「支配人、事務室の方にお通ししては?」
受付嬢が俺に追い打ちをかけてきやがった。
「あ、そうね。それがいいわ。グレイ、行きましょ」
俺は目で受付嬢に助けを求めるが、冷笑で拒否されてしまった。
覚えてろよ……。
もしもケツの穴に危機が及ぶようだったら、遠慮なく銃を乱射するからな。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。