steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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第3章 エンディング後
131話 結婚式1


 

 寝ぼけ眼のマルガリータの頬にキスをしてベッドから起き出し、シャワーを浴びて身支度を整えた俺は、例によってナツメッグ邸のキッチンで朝食の準備を始めた。

 スパニッシュオムレツとキノコのスープを用意しながら、ふと新聞を手に取ってみると、先日摘発されたブラッディマンティスの倉庫のことが載っていた。

 第一面には警察ビークル隊が現場を制圧した直後の写真が掲載されており、ガーランド警察のファーガスン警部もコメントを寄せている。

「……大活躍だな」

 『グランドフィナーレ』の撃墜とダンディリオンの逮捕により、ブラッディマンティスによって引き起こされた一連の事件は一応の解決を見た。

 その後、ネフロおよびガーランド警察は各地にビークル部隊を派遣し、ブラッディマンティスの残党狩りを開始した。

 兵器保管庫、補給所、アジト、情報収集拠点……ありとあらゆるブラッディマンティスに関連する施設を襲撃し、根こそぎ壊滅する勢いだ。

 俺もファーガスンの要請で何度かブラッディマンティスの残党処理に同行し、アジトや倉庫の制圧に協力している。

 ……警察の上層部からすれば、俺が残党狩りに参加するのは面白くないだろうな。

 今回の一件、最終局面でブラッディマンティスの陰謀を阻止したのは、『グランドフィナーレ』を落とした俺やオットーにナツメッグ博士……そして黒幕であるダンディリオンを倒したのは他でもないバニラだ。

 少なくとも、ネフロやハッピーガーランドの警察が事件解決に直接寄与した部分は決して多くない。

 何より、一連の騒動の背景にあった思惑といえば、そこにあったのはダンディリオンの悲劇と復讐。

 マスコミも権力者も司法もハッピーガーランドの住民も……全員が目を背けたい出来事だったことだろう。

 警察が今になってブラッディマンティスの壊滅と実績アピールに躍起になるのも、それに阿るマスコミの姿勢にも、俺の個人的な感情面はどうあれ納得がいくというものだ。

 とはいえ、向こうも俺のナツメッグ博士の直弟子という立場を鑑みれば、犯罪組織の壊滅に協力しているこちらに下手なことは言えず、ファーガスンはじめ現場の人間が俺のビークルの腕を頼りにしているのも事実。

 なかにはダンディリオンの所業を理由に俺やナツメッグ博士ひいてはトロット楽団メンバーを攻撃しようとした連中も居たようだが、そういう手合いはセントジョーンズ卿に封殺された。

 現状、俺としては……ビークルと立場を最大限に活用し、ビジネス基盤や軍警察との信頼関係の構築を少しでも進めていくだけだな。

 人脈イコール利益になるとは限らないが、経済的・軍事的な繋がりは上手く使えば自分を守る力になる。

 妙な連中に手を出されないようにするためにも、セントジョーンズ病院との取引は続け、盗賊討伐と闘技場のバトルにもちょくちょく顔を出し続けようと思う。

 それに、ブラッディマンティスの残党狩り自体も、何も悪いことばかりではない。

 連中は莫大な資金力と情報網に物を言わせ、ビークルパーツだけでなく小銃や拳銃に至るまで、強力な軍用の武器をしこたま溜め込んでいるのだ。

 俺は討伐作戦に参加しつつ、奴らの物資や武器をちょいちょい失敬してやった。

 元より、大半の討伐作戦は民間の賞金稼ぎやビークル乗りも参加するだけあって、押収品の所有権は一部を除いて仕留めた者にある場合が多い。

 余程の危険物や軍事機密に関わる代物でなければ、多少のちょろまかしは許されるし、警察としても追加報酬を要求されるより現物支給で満足してもらえる方がマシといったところだろう。

 マルガリータは俺の討伐作戦への参加にあまりいい顔をしないが、珍しい品やパーツを持って帰って来れば少しは機嫌を直してくれるので、彼女が本格的にへそを曲げない範囲で今後も小遣い稼ぎをさせてもらおうと思う。

 

 

 あとこれは余談だが、ブラッディマンティスは脱獄計画も練っていた。

 ダンディリオンは獄中からの逃走なども想定していたようで、ブラッディマンティスのアジトからは護送ビークルのルートに関する情報が押収され、この国の各地の留置所の構造と周辺の地形に脱走経路についても調べていた痕跡が発見された。

 さらには陸路および海路による国外への逃走ルートや、国境付近の中継拠点の存在まで明らかとなった。

 恐らく、ダンディリオンの企みが早い段階で明るみに出る可能性、もしくはブラッディマンティスの末端やエルダーとしての身分から出た情報が自分に紐づけられた場合を想定してのことだろうが……正直、ダンディリオンがそんなネガティブな状況を想像していたのは意外だったな。

 チコリの復讐に囚われていたダンディリオンは、最早自分が破滅してもこの国を道連れにすることしか考えていなかったはずだ。

 しかし……裏を返せば、今回の『グランドフィナーレ計画』が失敗したとしても、諦めずに再起するつもりであったと見ることもできる。

 ある意味で、復讐に全てを懸けた彼らしい思考かもしれない。

 ダンディリオンの執念とブラッディマンティスの技術力や規模を以ってすれば、逮捕されても死刑判決を受けた直後に逃走し、またテロや爆撃事件を起こしていた可能性も否定できない。

 原作ではそこら辺の詳細がどうだったのかわからないが……もしこの世界だけの展開であったのならば、彼がウミネコ海岸で命を落としたことで、第二の陰謀を阻止できたということになる。

 俺が、ダンディリオンを死に追いやったからこそ……最悪の展開を避けられた。

 あまり後味の良くない話だ。

 

 

「おはよう、グレイ」

「おはようございます」

 しばらくすると、食堂にナツメッグ博士が降りてきた。

 メインの皿がまだ完成していないので、とりあえずトーストとジャムを出して紅茶を淹れる。

「今日は……二人とも出るのだったな?」

「ええ、ネフロでドレスの注文をしに行くので」

 何の話かといえば、結婚式の用意だ。

 もうすぐ、俺とマルガリータの結婚式が執り行われる。

 場所はここピジョン牧場で、近所の親戚と友人たちを招待し、神前式を挙げる予定だ。

 既にマルガリータとは一緒に暮らしているし、今更改めて式だの披露宴だのと言われると、少し気恥ずかしい気もするが……女性にとっては一生に一度の晴れ舞台だ。

 当のマルガリータは恥ずかしがってツンツンな態度だが、花嫁やウエディングドレスへの憧れは年相応にあるようなので、本気で嫌がっているわけではないだろう。

 それに、やはり男としてのケジメというか、そういう俺自身のプライドの部分もある。

 何だかんだ言っている内に、ミームー村やピジョン牧場のお節介なおばさんたちのお膳立てもあり、会場の準備も目処が立った先から式の日取りも決まった。

 まさに外堀を満遍なく埋められている状況だ。

「……何か、すみませんね。こんな時に自分だけ……」

 ダンディリオンとセイボリーがウミネコ海岸で亡くなった後、二人は国家反逆罪の有罪判決を受けた。

 所謂『被疑者死亡のまま書類送検』というやつに近いが、被告人が死んでいても明確な判決が下される点は、日本と違いなかなかに容赦が無い。

 判決が出たからといって何かメリットがあるわけでもないのだが……まあ、端的に言って司法側の都合は、裁いたという事実が欲しいだけだな。

 しかし……世間にはロクでもない連中が居るものだ。

 二人と近しい関係にあったトロット楽団の面々は、一部のクズに心無い言葉を掛けられ、強請りまがいの接触もあった。

 本来、賠償責任は当事者のみに帰属し、血縁者ですらその責を問われることは法的に無いのだが……あわよくば掠め取ろうというハイエナはどこにでも居る。

 皆、ダンディリオンとセイボリーの件で傷つき憔悴している。

 ここ数週間はなかなかにハードな日々だった。

 正直、自粛大好きな日本人としては、この時期の祝い事というのは若干気が引ける思いだ。

 しかし、博士は俺の言葉に頭を振った。

「いや。こういう時だからこそ、皆めでたい話に飢えておる。このタイミングでお前さんたちの結婚を祝うのは、あいつらにとってもいいことじゃ」

「…………」

 ダンディリオンたちの件で打ちのめされているのは博士も同じだ。

 他の皆より大人だから落ち着いて見えるだけで、彼も深い哀しみに囚われていることに関して例外ではないのだ。

 しかし、今はそんな年長者の言葉がありがたい。

 博士の言う通り、少しでも陰鬱な空気を払拭することに役立つのであれば、俺たちが率先しておめでたいイベントを主催するのも悪くないな。

 バニラを呼べないのは残念だが……。

「のう、グレイ……」

 そんなことを考えていると、ナツメッグ博士は俺を真っ直ぐに見据えて口を開いた。

「マルガリータのこと、幸せにしてやるのだぞ」

 博士の声には迫力にも近しい有無を言わさぬ説得力があった。

 工学系の学問を伝授されたマルガリータは、最早ナツメッグ博士にとって他人ではない。

 ビークルや機械に関する知識と技術を余すところなく教え込まれ、今や彼女は俺やダンディリオンに勝るとも劣らない愛弟子として目を掛けられている。

 一番弟子のダンディリオンを失った悲しみを補完する意識もあるかもしれないが、それでも博士のマルガリータに対する親心に近しい感情は、それだけ強く彼女の幸せを願うものであった。

 だから、俺も改めて覚悟を決める。

「ええ、もちろん」

「うむ……それでいい」

 そんな会話をしている内に料理が出来上がり、俺の後にシャワーを浴びたマルガリータも食堂にやって来た。

 俺はカットフルーツを添えたスパニッシュオムレツの皿をテーブルに並べ、スープと飲み物を全員に配り終えると、自分も食卓に着いて朝食を摂り始める。

「マルガリータ、食べ終わったら外出の準備をしてくれ。予定通り、今日はネフロに行くから」

「あ、うん……」

「大丈夫。頼れる大人に任せてあるから、君はおとなしく着せ替え人形になっていればいい」

「わ、わかったよ……」

 マルガリータは若干引き気味というか落ち着かない様子だったが、いざ出発する段になると大人しく【ジャガーノート】の助手席に乗り込んだ。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

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