steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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133話 結婚式3

 

 数か月後、ついに結婚式の日がやって来た。

 つい最近、マルガリータのドレスを注文していた気もするが……時間が経つのは早いものだ。

 いつも通り、ナツメッグ博士の研究を手伝いつつ、トロット楽団の練習に参加して、ファーガスンの要請で盗賊討伐に参加して……そんなことをしていれば、数か月などあっという間だ。

 俺は普段通り仕事をする傍ら、マルガリータとの結婚式に向け着々と準備を進めていた。

 略式とはいえ、友人たちを呼んでウエディングパーティーを催す以上、それなりの下準備が必要だ。

 とはいっても、式の大筋はお節介なおばさんたちが決めてくれたので、俺の仕事の大半は招待状をマルガリータとの連名で認めることだった。

 当然、文書作成ソフトと書式テンプレートなんて便利な物は無い。

 実際に出席するかどうかはともかく、形式上は招待しないとマズい相手も多いので、地味にこの作業が大変だったな……。

 何はともあれ、出来上がったウエディングドレスも受け取り、手伝いの人員も確保できた。

 当日は、オットーとウィリーのガレージを借りて仮の屋外式場を準備し、テーブルや椅子を屋外に並べて立食パーティー会場を設営する。

 教会で式を挙げて披露宴もロブスター亭のような店に依頼すれば、こういうのは業者が勝手にやってくれるのだが……街ではなくピジョン牧場内で式を行うと決めた以上、こういうのも自分たちでやるしかない。

 まあ、料理の準備はメリー乳業の奥さんはじめ、おば様方が引き受けてくれたので、それだけでも楽か。

「旦那! ガレージのシャッターは閉めちまっていいのかい?」

「ああ、俺たちが立つのは屋根の発射台だ。中は控室にさせてもらうから、扉は閉めてくれ」

「グレイさん! テーブルは一か所に集めればいい?」

「そうだな……立食パーティーだから、基本は料理をまとめて置くテーブルがあればいい。ただ、座って食べたい客もいるだろうから、二卓だけ離してくれ」

 こんな具合に、俺はオットーとウィリーの手も借りて、どうにか時間までにテーブルのセッティングを終わらせた。

 因みに、マルガリータは早めに会場入りしたおばさんたちに連行され、控室代わりのガレージ内で今からドレスの着付けを行っている。

 本人は【クラフトマンシップ】で機材の搬入を手伝うつもりだったようだが、さすがにおばさんの勢いとパワーには逆らえない。

 

 

 そして、日も高くなる頃には、他の招待客もぱらぱら姿を現し始めた。

 ミームー村やピジョン牧場の近所の面々に続いて、ネフロやハッピーガーランドからも親しい友人たちがやって来る。

 俺は主催者として彼らを出迎えた。

「やあ、グレイ。結婚おめでとう」

「おめでとー!」

「おう、ありがとさん。マジョラムもバジルも、よく来てくれたな」

 ここ最近、二人はどうも元気が無かった。

 マジョラムは家業の手伝いもあるとはいえ、あまり積極的に練習を企画しなくなったし、バジルはここ最近ボーっとしていて、たまに連絡がつかない時もある。

 だが、今日は二人とも生き生きとした表情だ。

 やはり、博士の言う通り、めでたいイベントには誘ってみるものだな。

「最初は神前式の予定だが、その後は無礼講で宴会だ。二人とも楽しんでくれ」

「ああ、期待してるよ。楽しみだなぁ」

「さすが、グレイ!」

 食い物の話で静かにエネルギーがチャージされるマジョラムに、単純なバジル……いつもの調子が戻って来たな。

 何はともあれ、この二人が元気なのはいいことだ。

 そして、次に俺の前にやって来たのは……。

「グレイさん、結婚おめでとう」

「……受け取れ、グレイ」

「ああ、ありがとう、シルヴィアさん。シュナイダーもわざわざサンキューな」

 俺はシュナイダーが差し出した祝いの品を受け取りながら、出席してくれた二人に礼を言った。

「今日は素敵な催しに呼んでいただいて感謝しているわ。奥さんのウエディングドレス姿、楽しみにしているわね」

「ふん……」

 若干のお世辞を含んだシルヴィアの言葉に、シュナイダーは興味なさげに鼻を鳴らした。

 シュナイダーは相変わらずの不愛想だが、先ほど彼がくれた酒はそれなりに値が張るものだ。

 そういう気遣いができるあたり、やはり彼は口より行動で示すタイプだな。

 相変わらずなことだ。

 そして、シュナイダーとシルヴィアのカップルが俺の元を去ると、続けて姿を現したのは……サフランだった。

「グレイ……」

「ああ、サ……ビスカス。来てくれたんだな」

「ええ、来たわよ」

 俺は彼女の姿を見て、口に出しかけたリングネームを引っ込めた。

 ビークルに乗らず仮面も付けていない彼女は、高ランクバトラーのサフランではなくただのビスカスだ。

「戦争の後は色々あったけど、ようやく落ち着いたわね。何はともあれ、結婚おめでとう」

「ああ、ありがとう」

 微笑を湛えて祝いの言葉を述べるサフランは、今までで一番美しく見える。

 特に珍しいドレスを着ているわけでもないのに、変な話だ……。

 そんなサフランは、絶妙な距離感で俺にギリギリまでにじり寄ると、微かに憂いを含んだ表情で俺を見上げてくる。

「もう……エルダーのこととか、油田のこととか……気にしなくていいんだよね?」

「ああ」

「……ようやく、グレイも安心して奥さんと暮らせるんだよね?」

「ああ……」

 彼女もエルダーことダンディリオンの顛末を聞いて、色々と思うところはあっただろう。

 そのうえで状況を自分なりに飲み下し、この俺たちへの心配り……彼女の人柄がよくわかるな。

 しかし、妙にサフランの距離が近い……。

「ふふっ……ごめんね。奥さんに怒られちゃうわね」

 しばらくすると、サフランは悪戯っぽい表情を浮かべて俺から離れた。

 セクシー衣装を着ていない彼女にしては、ヤケに板についた悪女っぷりだが……サフランは軽く咳払いすると、改めて俺に向き直り口を開いた。

「奥さんのこと、幸せにするのよ。それとあなたも……絶対に、幸せになるのよ」

「……ああ。もちろん」

 とことん男運が無かったサフランに言われると身が引き締まる思いだ。

 彼女にも、この先いい出会いがあってほしいものだが……。

 しかし、俺はその言葉を直前で呑み込んだ。

 その理由は、自分でもわからない。

 

 

「では、グレイさん。記念画の方はお任せください。少し時間が掛かるかもしれませんが……」

「ああ、よろしく頼むよ。完成はいつでもいいから、好きなようにやってくれ」

「ええ、心得ました。最高の一枚を描き上げますよ」

 ハッピーガーランドから駆け付けてくれたポールは、早速とばかりに画架(イーゼル)を立ててカメラまで用意し始めた。

 俺たちの結婚祝いに一枚描いてくれるとは聞いていたが、簡単なスケッチかと思いきやフル装備じゃないか……。

 まあ、本人から是非にと言われた以上、断るのも失礼だし、好きにさせておこう。

 今やこの国で指折りの画家であるポールに肖像画を描いてもらえるチャンスなど、この先二度とないかもしれないからな。

「(人間の立ち姿や服の細かい部分は、後から写真を見ながらでも補強できる。重要なのは背景と表情。太陽に照らされた二人の全体像の雰囲気、何より幸せに満ちた表情を余さず捉えるためには、一瞬たりとも……)」

「ははっ……」

 本格的な仕事人モードに入ったポールに若干苦笑いしながら、俺は踵を返した。

 ふと、会場の隅へ視線をやると、また一人、見知った顔が目に入る。

 会場の各所に集まり談笑する面々から若干アウェーで浮いている雰囲気の彼だが、俺は遠慮なくそちらに向かって歩を進めた。

「フェンネル」

「よお、グレイ……」

 俺が近づくとフェンネルはこちらに手を挙げて挨拶してきたが、彼はどこか居心地が悪そうで落ち着かない雰囲気だった。

「どうした? ……もしかして、忙しい時期に呼びつけちまったか?」

「いや、そんなんじゃねぇ。……ただ、ピジョン牧場で式を挙げるって聞いていたから、てっきり内輪だけでやるものかと思っていたんだが……結構、来てるんだな」

 まあ、ピジョン牧場がかつて無いほどの人口密度になっているのは事実だが、これでも俺の祝い事としては小規模な方だと思う。

 ビークルバトルトーナメントの祝勝会のときは、セントジョーンズ卿や大学の関係者やメディアなどで、初対面の連中も多く来ていたからな。

 ……それを思うと、優勝賞金でよく知りもしない奴らにまで飯と酒を奢る羽目になったのは、まあまあ腹立たしい。

 そんな益体も無いことを考える俺を尻目に、フェンネルはサングラスの奥から一瞬だけ鋭い視線を招待客の一か所に飛ばした。

 その先に居るのは……マーシュか。

「……どうする? 彼と話すか?」

「いや、その必要は無ぇ。ダンディリオンとセイボリーのことで思うところが無いわけじゃねぇが……招待客の面子を考えると、俺みたいなのがあんまり出しゃばったことを言うのもな……」

 首を横に振りながら、フェンネルはトロット楽団メンバーの方へ軽く視線をやった。

 楽団を抜けたことに対するケジメとしては些か頑なすぎる気がしないでもないが……まあ、これもフェンネルなりに考えた末の結論だろう。

 俺が何か指図することじゃないな。

「無理にとは言わないさ。式の後は料理と酒も出るから、適当に楽しんでくれ。まあ……できれば、マジョラムくらいには声を掛けてほしいけどな」

「……ああ、そうさせてもらうぜ。ありがとよ」

 フェンネルは口の端を軽く上げると踵を返した。

 ニヒルな横顔が絵になるだけに、若干腹立たしい。

 そして、フェンネルが俺の元から去ると、後ろから近づいてくる気配があった。

 振り返ると、そこに居たのは先ほど話題に上ったマーシュだ。

「あの……グレイさん。結婚、おめでとうございます」

「ありがとう、マーシュ」

 どうやら、フェンネルがあまり話したがっていない雰囲気を察して、俺と話し終わるのを待っていたらしい。

「本当は、父がお祝いに伺う予定だったのですが、どうしても外せない用事があって……」

「ああ、わかってるさ。……まあ、どちらにせよ、気にする必要なんて無かったんだけどな」

「…………」

 一応、セントジョーンズ卿も結婚式に招待しているが、彼は仕事のスケジュールを理由に欠席した。

 親しい間柄でも、仕事の都合がつかなければ、こんな辺鄙な場所まで来ることはできない。

 事実、ファーガスンもジンジャーも欠席で、ドン・スミスも祝いの品だけ送ってきた。

 しかし、セントジョーンズ卿は……。

 もしかしたら、内輪での祝い事と察して、トロット楽団メンバーやナツメッグ博士に配慮して来なかったのかもしれない。

 もしくは、マーシュ一人で来させることに意味があるのか……セントジョーンズ卿の本当の意図まではわからない。

 俺としては、来てくれても普通に歓待するつもりだったので、逆に極まりが悪い感じもするが……まあ、仕方ないな。

「セントジョーンズ卿にも、よろしく言っておいてくれ。ああ、それと……」

「?」

「式の後は無礼講で宴会だ。めでたい席に相応しくない話は、今のうちに済ませておくといい。一人一人のところを回る時間くらいはあるはずだ」

「……はい」

 原作でも、マーシュは今まで迷惑を掛けた連中のところへ謝りに行ったのだったな。

 彼の贖罪の道はきっと険しいことだろう。

 過去のマーシュの所業によって傷つけられた人間は数えきれない。

 それに、マーシュがセイボリーに銃を向けたことも消えない事実だ。

 それが父親を守るためとはいえ、結果的にセイボリーを殺したのが別のヒットマンの銃だったとはいえ……。

 赦してもらえないかもしれない、罵声を浴びせられるかもしれない、表面上は許しても恨まれ続けるかもしれない。

 だが、これ以上、俺が何かしてやれることも無い。

 俺は静かに立ち去るマーシュの背中を見送った。

 

 

「グレイ、結婚おめでとう」

「……ああ。ありがとう、コニー」

 いつもと変わらない明るい表情で祝いの言葉を述べるコニーに、俺はゆっくりと頷いた。

「やっぱり、二人は結婚したんだね。前からいい感じだったし、いつかそうなると思っていたよ」

「そうだな……。前は勝手に外堀を埋められているようで辟易したが……君たちが背中を押してくれたのは事実だ。おかげでいいパートナーと一緒になれた。礼を言うよ」

「ふふっ……どういたしまして。お似合いの二人だよ、本当に……」

 そう言うと、コニーは表情こそ慈しむような笑顔のままだが、微かに寂しそうな雰囲気を湛えた。

 やはり、バニラが傍に居ないことは、彼女にとって決して小さくない。

「あ~……今日は、わざわざ済まなかったな。ローズマリーさんの世話も忙しいときに……」

「ううん。最近はお母さんの具合も大分良くなってきたから。さすがにここまで来るわけにはいかないけど、式に出席できないのを残念がっていたよ」

「そうか……」

 若干、無理やり話題を変えたが、またしても雰囲気は沈んでしまった。

 何だか、コニーの周りだけ幸が薄すぎる気もするな……。

 そんな暗い空気を払拭するかのように、コニーは顔を上げて口を開いた。

「ところで、マルガリータは?」

「ああ、彼女なら……」

 マルガリータは今、女性陣と一緒にガレージの中で着替えている最中だ。

 俺も珍しくネクタイを締めて正装をしているので窮屈な思いだが……彼女の精神的な疲労は俺の比じゃないだろうな。

 しかし、俺が返答する直前に、オットーとウィリーのガレージの入口の方から声が掛けられた。

「あの娘ならもう準備できてるよ」

 現れたのは、コニーの隣人のおばさんだ。

 彼女は俺の方へ歩み寄ると、ガレージの方を顎で示した。

「行ってやんな。最初に花嫁姿を見るのも、夫の特権だよ」

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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