steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
「マジか……」
闘技場の対戦表には、はっきりとした筆跡で俺の名前が書かれている。
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“ネフロの英雄” シュナイダー 【マキシマム】
vs
“ナツメッグ博士の右腕” グレイ 【ジャガーノート】
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ライセンス登録するのに便宜上付けたビークル名の恥ずかしさが気にならないくらい、この対戦表の内容は衝撃的だ。
観客席への入り口を見てみれば、客の入りは上々どころか完全にキャパオーバーだ。
当然だろう。
突如、彗星のように現れて数か月でAランクに上り詰めた超腕利きのビークル乗りにしてナツメッグ博士の助手だという男と、希少なSランクのビークルバトラーにしてネフロの街の英雄が対決するのだ。
今まで一度も組まれたことが無い、まさに夢の対戦だ。
年一回のビークルバトルトーナメントならば、シュナイダーとKランク――トーナメントチャンピオンのみに与えられる特殊なSランク、キングのK――のエルダーの対戦が見られる。
しかし、今のネフロにおいては、俺とシュナイダーのマッチこそ、一番見ごたえのある勝負に違いない。
あれだけ迷っていたのに、何故その日のうちにシュナイダーと対決することになったのか?
話はディーノに闘技場の事務室に連れ込まれたときまで遡る。
「シュナイダーから、対戦の申し込み、ですか?」
「そうなのよ。彼がアタシに直接頼んできたの。やぁねぇ、まったく。普段は寡黙な男にあんな真剣な表情で迫られたら、断れないじゃないのぉ」
俺は気持ち悪い仕草をするディーノから目を逸らして考え込んだ。
俺としては、シュナイダーを倒した方が早くランクが上がるので嬉しい。
しかし、シュナイダーにとってはどうだろう?
彼はSランクで俺はAランク。
ポイントを稼いだところで、シュナイダーのランクにこれ以上の昇格は無い。
彼がさらに上を目指すとすればそれはKランク、ビークルバトルトーナメントで優勝するしかない。
正直、格下の俺に負けるリスクを背負ってまで挑戦する意味は無いのだ。
シュナイダーの敗北はネフロの英雄が下されることを意味する。
本人もそのデメリットは十分わかっているはずなのだが……。
「支配人、シュナイダー本人に再度確認を「俺は問題ない」」
振り返ると、事務室のドアから一人の男が顔を覗かせていた。
鍛え上げた体躯に短髪、顔の傷。
間違いない。
彼がシュナイダーだ。
扉が開く音がしたのは気づいていたが、まさか本人が来るとは思ってもみなかった。
「……“ナツメッグ博士の右腕”グレイ。お前に対戦を申し込む。ファイトマネーが不足だと言うのなら……金なら払う」
「いや、金に不満があるわけじゃない。ただ、事情を聞かせてもらっても?」
シュナイダーはしばらく不機嫌そうに黙っていたが、どうやら面倒くさいのではなく、口下手なりに言葉を選んでいるようだ。
「俺は、二年前から“白い悪魔”に負け続けている。お前が用いるのは超合金の剣と強力な射撃武器を使い分けた戦術。だから、お前と戦いたい」
二年前か。
チコリが死んだのが三年半ほど前。
今年のトーナメントはもう終わっているはずだから、シュナイダーは今回で三連敗か。
この調子だとゲーム本編までに四連敗、ゲームの主人公がトーナメントでシュナイダーに勝つまで進出できなかった場合は、シュナイダーはエルダーに五連敗を喫することになる。
それを考えると、ダンディリオンは凄いな。
たった一年で、ネフロの英雄と呼ばれたSランクのビークル乗りが逆立ちしても敵わない強さを手に入れたわけか。
さぞ凄まじい復讐心なのだろう。
思考が脱線したが、シュナイダーの言わんとすることは理解した。
「……要は、エルダーと似た武装やスタイルで戦う俺を使って練習したいと?」
「そうだ」
シュナイダーは悪気も無く肯定するが、はっきり言って失礼な話だ。
人にビークルバトルの決闘を挑んでおいて、それをもっと高みに居る奴との戦いに備えた練習だと言っているのと同じである。
俺じゃなかったら、馬鹿にするなとキレていてもおかしくはない。
しかし、それ以前にシュナイダーは自分の立場が分かっていないのか?
「シュナイダー、わかっているのか? “ネフロの英雄”はただのビークル乗りじゃない。この街の人々の心の拠り所だ。もし、俺に負けたら……色々と軋轢が生まれる」
「……戦う前から負けることを考えるビークル乗りは居ない」
シュナイダーは俺に勝つもりでいる。
原作ではエルダーに連敗する情けない奴といった印象があったが、どうやら現実ではそこまで腑抜けではないらしい。
至近距離から伝わる自信と闘気には、他のビークル乗りや盗賊とは一線を画すものがある。
しかし、シュナイダーは自分とビークルバトル以外のことに気を配れる性格ではない。
これは、色々と面倒だ。
俺が調整しないといけないのだろう。
「条件があります」
「…………」
「条件? 何かしら?」
俺はシュナイダーとディーノを見回して、ゆっくりと口を開いた。
「支配人、俺が勝ったらSランクにしてください。あとこれも俺が勝ったらの話ですが……次々回のビークルバトルトーナメントまでシュナイダーとの対戦はなしです」
「え~!? 再来年まで試合を組めないって、それはちょっと酷くな~「受けよう」ちょっと!」
ディーノはグチグチ言っていたが、シュナイダーは即決した。
「お前を倒せないようでは、エルダーには届かん」
「じゃあ、そういうことで」
「ちょっと~! アタシ抜きで話を進めないで~!」
そんなわけで、俺とシュナイダーの対戦カードは組まれ、俺たちはリングに上がることになったわけだ。
まあ、正直なところ事を急ぎ過ぎた感がある。
たとえ、俺がシュナイダーに勝っても、それが一回だけなら、数年もすれば人々は他の追随を許さないシュナイダーを英雄として扱い続けるだろう。
俺はゲームの主人公たちのために色々と先回りして準備しておきたいのであって、シュナイダーに取って代わってネフロの期待を背負いたいわけではない。
正直、他に手っ取り早くSランクになる方法があるのならば、わざわざネフロの象徴たるシュナイダーを倒して注目を浴びようとは思わない。
まあ、既にナツメッグ博士の弟子という時点で目立ってはいるし、それこそトーナメント外であってもエルダーを倒せば悪目立ちはするだろうが、それでも街の代表レベルのネームバリューは足枷となり得る。
何せ、英雄ってのはプライベートの一挙一動まで人々の期待に応えなくてはならないからな。
シュナイダーのように素でできる奴は別だが、俺には無理な話だ。
「グレイさん、入場をお願いします」
「了解」
係員の誘導で、俺はリフトに乗ってコロシアムに入場した。
リフトの稼働する音がやけに遠く感じる。
ゲームでは何度も対戦したシュナイダーだが、それ故に彼が如何に強敵かわかっている。
以前に観戦したシュナイダーの戦いと、俺のビークルの動きを脳内でシミュレートすれば勝率は高いが、それでも油断はできない。
シュナイダーも普段通りでは俺に勝てる可能性が低いことは何となくわかっているはずだ。
さて、試合はどう転ぶか……。
やがて、俺のビークルが地面から顔を出したところで、俺の耳を凄まじい勢いの歓声が貫いた。
「「「「「わあああぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」
対面のリフトからはシュナイダーが入場してくる。
寿司詰め状態の客席からは相変わらずやかましい声が届くが、俺たちは無言だ。
ここまで来たら、前口上や何やらは無い。
ラウンドガールが横切って退場したのを確認し、あとは開始の合図を待つ。
この時間だけは観客も無言だ。
俺とシュナイダーも張り詰めた緊張感のなか、ビークルのハンドルに手を掛けて睨み合う。
「「っ!」」
号砲の合図で一斉にビークルを加速させ、俺たちは初撃を繰り出した。
ようやくグレイのビークル名が出せました。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。