steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
感想返しの途中でエラーしたときはビビリましたが、運営さんの奮闘により無事に投稿できそうです。
「あっ、グレイ。よかった、まだ居たね」
「ん? どうした、マルガリータ?」
俺がクレーンを操作して【ジャガーノート】の装備を換装していると、マルガリータが工房の整備スペースにやって来た。
洗いざらしのシャツの袖を捲り、作業ズボンの上には溶接の火花も防げる分厚い前掛けを着用している。
そんないつも通りの恰好で現れた彼女は、クレーンの操作盤の前までやって来るとややぶっきらぼうな仕草で顎をしゃくった。
「また、飛ぶんでしょ? 翼のチェックはあたしがやるから。あんたは武器の方を見ておきな」
「そうか……なら頼むよ。機体の整備は君にやってもらった方が安心だ」
俺も最低限のパーツ換装と応急修理はできるが、専門的なことはやはりマルガリータの手を借りるに限る。
特に、繊細な調整を要求される品を扱う際は、彼女に任せた方が安全だし作業も捗ることは間違いない。
俺はおとなしくクレーンの操作盤を彼女に譲った。
「それじゃ、ちゃっちゃと済ませるよ」
そうしてマルガリータの主導のもと、【ジャガーノート】の装備は普段の汎用戦闘仕様から一気にシフトチェンジし……両腕の武装つきアーム、装甲ブレスト、増設弾薬ボックス入りのバックパーツといった装備は全て取り外される。
そして、ほとんど裸になった我が愛機に装着されたのは……カスタム型のプロペラブレスト、ウィングアーム、そして尾翼バックパーツだ。
どれも、ナツメッグ博士が特別に拵えてくれた、【ジャガーノート】専用の飛行装備である。
二年前のブラッディマンティスとの決戦で、ナツメッグ博士とマルガリータはビークルの飛行用パーツを完成させた。
バニラの【カモミール・タイプⅡ】とオットーの【フラップフライヤー】はこの完成した飛行装備を使って戦いを挑み、見事ブラッディマンティスの飛行船『グランドフィナーレ』を撃退したのだ。
しかし、その時の飛行パーツは、俺のビークルに装着できなかった。
【ジャガーノート】は他のビークルと同じくあらゆるパーツを装備できる汎用機だが、オリジナルの武装や装甲で固めた重装備の機体をこれまた強力な特殊エンジンで動かす一点物のカスタムビークルゆえ、どうしても一部そのままでは使用しにくいパーツがある。
特に、飛行用装備のような絶妙なバランスを要求されるパーツは、機構が大雑把な汎用規格を無理やり装着して動かそうものなら、下手をすると空中分解する危険がある。
これは一点モノの癖の強いじゃじゃ馬機体なら、どうしようもないことだ。
そんなわけで、【ジャガーノート】の飛行実験はより慎重にテストを重ねてと、博士とマルガリータの二人からお達しが出ていたのだ。
もちろん、俺も専門家である二人を差し置いて離陸を強行するほどアホではない。
二人が研究を進める間、俺は大人しく他の仕事を片付けたり、別の中古ビークルを飛行仕様にして低空を飛ばし操縦の訓練を積んだりした。
そうこうしているうちに、飛行ビークルの噂は瞬く間に国中へ広がり、ビークル製造の最大手ラズベリーリーフ社はナツメッグ博士と交渉し特許使用契約を結んだ。
現在は、汎用の飛行パーツが急ピッチで開発・製造されている。
もちろん、空を飛ぶのは普通に地上でビークルを走らせるのとはワケが違う。
事故の頻度も危険レベルも桁が違い、特殊な操縦スキルを要求されることもあり、飛行ビークルの数自体はそれほど爆発的に増えているわけではないが……それでも、最近ではネフロやハッピーガーランドにビークル用の飛行場が建設されている。
飛行装備の性能が安定し、安全性とパイロットの技術レベルが向上していけば、いずれ飛行ビークルはこの国の輸送網の中核を担うものとなっていくだろう。
うちの家計も特許料の支払いで潤うわけだ。
因みに、グランドフィナーレ戦で墜落した機体に代わる【フラップフライヤーⅡ世】を手に入れたオットー&ウィリーの飛行兄弟の近況だが……最近は、オットーが毎朝飛行ビークルを飛ばして、各地に牛乳を配達している。
地球で言う大戦後の郵便配達機の亜種みたいなものだな。
もちろん、オットーは空を飛ぶことに関して一日の長があり、その操縦スキルは傍から見ても疑う余地がない。
もちろん彼のパイロットとしての評判は高く、件の最大手ラズベリーリーフ社がテスト飛行をオファーし、自社製の飛行パーツをモニターとして提供してくるほどだ。
当然、飛行兄弟にも広告塔としてかなりの謝礼金が支払われている。
まあ、オットーたち兄弟からすれば、今まで実家のメリー乳業に穀潰し扱いされていたところからの、ようやくの脱却だ。
そもそも、オットーは空を飛べれば満足、ウィリーも大空を翔る【フラップフライヤーⅡ世】を弄れれば大満足という、稀代の変人兄弟である。
趣味と実益を兼ねた仕事で儲けも期待できるとなれば、最近の二人が随分とご機嫌なのも頷けるだろう。
……とまあ、世間ではそんなことが起こっている間に、マルガリータと博士は更なる研究を重ね、いくつものパーツを開発調整しては試行錯誤し……そして漸く、この【ジャガーノート】専用の飛行パーツ一式を完成させたわけだ。
マルガリータの手により淀みなく装着されていくパーツを見ながら、俺はそっと呟いた。
「相変わらず、凄ぇメカだな……」
「そりゃそうさ。何せ、あたしとナツメッグ先生のお墨付きだよ。傑作に決まってるじゃないか」
俺の呟きに反応したマルガリータは、誇らしげな表情で胸を張った。
肝心の【ジャガーノート】専用の飛行装備だが……さすがに二人の天才技術者が多大な時間と労力を掛けただけあり、その性能は投入されたリソースを見事に反映している。
まず専用のプロペラブレストには、静音ローターで騒音とメカノイズを軽減した最新型の機関を搭載。
奇襲戦闘に対応した設計思想というだけでなく、そもそも機関への負荷を極限まで減らしているので、故障が少なく寿命も長い優れモノだ。
重要なパーツにはもちろんミスリル合金を使用しており、ボディの装甲ほどではないが、生半可な攻撃では傷一つ付かない耐久力を兼ね備えている。
エンジントラブル一つで簡単に命を落としかねないのが空の上だ。
プロペラ駆動パーツの信頼性は何よりも重要なので、この部位の耐久性は上げておいて損は無いが……これ、普通に企業で製造したらいくらぐらい掛かるんだろうな?
……うん、恐ろしいので試算はしないでおこう。
さらにブレストパーツ上部には、プロペラ同調式のヴィッカース機銃を2門装備している。
機銃の弾薬は俺のハンティングライフルと同じ303口径。
鋼鉄のビークルを撃ち抜けるほどの武器ではないが、操縦手や飛行ビークルの細かいパーツを狙えば、十分にドッグファイトを展開できる代物だろう。
展開式ウィングアームには、チェーンガンと同じ規格の弾薬を使用する機関砲が各1門、両腕で合計2門を搭載している。
こちらは砲自体がまだテスト段階なので、性能はそれほど期待できない。
とりあえず、チェーンガンと同規格の銃身と機関部、フルオート機構を組み込んだ小型砲はどうにか完成させたが、ノーマルのチェーンガンアームとは設計の完成度も信頼性もまるで比べ物にならない。
当然ながら、空中での機銃掃射は地上で地に足が付いた状態で発砲するのとは色々と勝手が違うので、実際のドッグファイトでまともに命中するかも定かでない。
しかし、チェーンガンの弾薬規格が、重機サイズのビークルを確実にスクラップに出来る代物なのは確かである。
本格的に実用化すれば、飛行ビークルを瞬く間に撃破できる主砲となるはずだ。
あと、尾翼には大容量のカーゴスペースを確保した。
このカーゴにチェーンガンやブレードアームを積んでおけば、うちから街の飛行場に飛んだ後、その場で地上装備にすぐに切り替えられる。
まあ、一言で言って……至れり尽くせりなシステムだ。
今やビークル一台で、文字通りどこにでも行ける。
「ふぅ! さて……」
そんなことを考えていると、作業を終えたマルガリータがシャツの袖で汗を拭い、俺に向き直った。
「こんなもんかね……。あんた! 整備はできてるから、いつでも飛べるよ」
「ああ、こっちも機銃のチェックが終わった。ありがとう、マルガリータ。……じゃ、行ってきますんで。無線の周波数はナツメッグ邸に固定してあります。何かあったらコールしてください」
「うむ」
「あんた、気を付けてね」
母屋のナツメッグ博士に声を掛けた俺は、マルガリータと軽くキスを交わし、ビークルに乗り込んだ。
普段は広い視界を確保するためあまり使わないゴーグルを装着し、万全の態勢でオットーとウィリーのガレージ屋上へ昇った俺は、アームパーツを操作して両腕のウィングを展開する。
そして、プロペラブレストの回転が最大トルクに至ったタイミングでペダルを踏み込み、発射台から【ジャガーノート】を離陸させた。
【ジャガーノート】パーツまとめ
・通常仕様
耐水ボディL(増設燃料タンク、補助エンジン、静音機関、サーマルステルスモード)
人脚ノーマルM強化型+
強化ブレードアーム(高周波振動装置付き)
チェーンガンアーム(アンダーバレル:長距離キャノン)
装甲ブレスト
モジュラーキャリアーバック(基礎:キャリアーW 換装:弾薬箱、ステージ、冷蔵庫)
プロテクター風防(レーザー照準装置、赤外線投射器)
・飛行仕様
プロペラブレスト(同調装置付き303ヴィッカース機銃×2門)
ウィングアーム(25mm機関砲×各1門 [計2門])
尾翼バック(大容量カーゴ [チェーンガン等、地上装備を収納])
その他追加装備:無線機、赤外線観測スコープ(コクピット)