steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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4話 再会

 

 飛行仕様の【ジャガーノート】を飛ばしてスキトール湖上空に出た俺は、進路をイワツバメの滝方面に取った。

 行き先はまずハッピーガーランドの飛行場だ。

 本当なら、このまま直でスームスームに向かい、船着き場へバニラたちを迎えに行きたいところだが……さすがにスームスームでは、一般公開の飛行場は運営されておらず、街上空での飛行も原則禁止されている。

 これは、スームが貿易拠点として栄える港町で、外海から人も物も大量に流れ込んでくるという性質上、仕方の無いことだろう。

 街の表と裏を仕切るドン・スミスファミリーからすれば、船の積み荷を監視するだけでも大変なところに、さらに敵とも味方ともわからない飛行物体がそこら中を飛び回るのは勘弁してほしいというわけだ。

 そんなことを考えていると、助手席の無線機に受信を知らせる表示があった。

 俺は受信機からマイクを外して手に取り、現代の基準からすると若干大型なトランスミッターを操作して呼び出しに答えた。

「はい、こちら【ジャガーノート】」

『グレイ、飛行ビークルの具合はどうじゃ?』

 予想通り、通信の相手はナツメッグ博士だ。

 まあ、無線自体がまだそれほど普及している技術ではないからな。

 【ジャガーノート】の車載無線に掛けてくる相手は限られている。

「問題ありません。姿勢も安定してるし、エンジンや可動部にノイズも無い。マルガリータにいい整備だと伝えてください」

『うむ。お前さん自身にも、体の不調は出ておらぬか?』

「ええ、何も。まあ、強いて言うなら、少し寒いくらいで……」

 飛行中、ビークルの風防パーツのガラス窓は、風除けのため普段より若干厳重に閉じてキャノピーに近い状態にしているが、それでもこの季節の上空は少し冷える。

 さすがにプロペラやエンジンから潤滑油が飛び散ることはないので、俺はいつも通りの服装で運転席に座りハンドルを握っているわけだが……この先、もっと過酷な状況でビークルを飛ばすことになる可能性を思えば、フライトスーツは開発を進めた方がいいかな?

 さすがに与圧服が必要になるのはもっと先だろうが……。

 因みに、【ジャガーノート】の風防はガラス自体も特殊加工の防弾仕様で、ポリカーボネートを含む分厚い重層構造にして強度を上げている。

 ビークル搭載サイズの武装はともかく、小火器なら命中してもまず撃ち抜かれることはないだろう。

 さらに、表面には硬質ガラスをコーティングしているので、砂や小石を受けてもガラスに傷がつきにくいという優れモノだが……耐寒性を上げるためには、コクピットやキャノピーの構造にもまだ改善の余地があるかもしれないな。

『グレイ?』

「あぁ、いえ、大丈夫です。……用件はそれだけです?」

『いや、もう一つじゃ。出先の用事が終わったら、【ジャガーノート】の計器データは全て持ち帰ってくれよ。高度と運転性の関連チェックも忘れるでないぞ』

「はあ、そういえば前にもそんなことを言っていましたね。着陸直後にメーター系をリセットしたら、二人してカンカンに……やっぱり、実地のデータがもっと必要ですか?」

『当然じゃ。飛行ビークルの運用データはまだまだ不足しておる。オットーは頼んでもロクな記録を持って来んのでな……』

「あ、察し……。わかりました。今回は間違いなくお届けしますよ。アウト」

 通信を終えた俺は、無線機を元に戻すとハンドルを握りなおした。

 【ジャガーノート】専用の飛行装備が完成して、俺も飛べるようになったのはいいことだが、こうした雑用が増えたのは面倒だな。

 しかし、汽車の代わりに飛行ビークルを使えば、移動時間は大幅に短縮されるわけで……飛行技術の発展のためなら、多少の手間くらいどうということはないか。

 気を取り直して、俺は眼下に流れる透明な水面を眺めながら、風に乗るようにビークルを飛ばし続ける。

 そうしてしばらく愛機を操縦していると、やがて俺はこの国最大級の都市であるハッピーガーランドに到着した。

「お、見てる見てる」

 街の上空に近づくと、城壁近くの住民たちは次々とこちらへ意識を向けた。

 一部の歩行者は脚を止め、パトロール中の警察ビークルの搭乗者も顔を上げて空を仰ぐ。

 まだまだ飛行ビークルが珍しいこともあるだろうが……何より、グランドフィナーレの件があってから、ハッピーガーランドは空から飛来する物体をとりわけ警戒している。

 何せ、この国で唯一、空からの爆撃を受けた街だ。

 最近は大分マシになってきたが、以前であれば問答無用で通報されていてもおかしくない。

 まあ、俺の【ジャガーノート】はビークルバトルトーナメントチャンピオンとしても有名なので、城壁や各所から黒塗りのボディを確認できる距離まで下降すると、住民たちも警官たちも次々に警戒を解いていったが……。

 若干の緊張感が残るなか、俺は真っ直ぐ飛行場へビークルを進め、そのまま淀みなく発着スペースに【ジャガーノート】を着陸させた。

 

 

 

 

 飛行場で【ジャガーノート】を通常仕様に換装した俺は、そのまま真っ直ぐスームスームへ向かった。

 整備場に預けた飛行パーツの代わりに、尾翼バックパーツのカーゴから取り出した装甲ブレストに両腕の武装アーム、バックパーツには増設弾薬ボックスを装着する。

 移動は汽車なので、道中で盗賊団と戦闘になる可能性は低いが、街中で万が一のことが無いとも限らないからな。

 しかし、そんな俺の心配を笑い飛ばすかのように、汽車は景気よく汽笛を鳴らしながらスーム駅へ滑り込んだ。

 ホームへ降り立つと、商業港と倉庫街の喧騒が聞こえてくる。

 相変わらず、この街は賑わっているな。

 古くから貿易港として栄えてきたこともあるが、街を取り仕切るドン・スミスファミリーは興行に熱心だし、最近ではセントジョーンズ卿の協力で医療機関なども建設されている。

 ゴミゴミした港町なのは相変わらずだが、文明レベルは着実に向上しているわけだ。

 もちろん、煌びやかな富裕層街とは裏腹に、労働者区域は一歩路地裏へ入れば危険がいっぱいだが……。

「さて……時間もちょうどいいな」

 ジャケットのポケットから懐中時計を取り出し確認すると、時計の針は既に昼を回っている。

 ピジョン牧場からハッピーガーランドへは空路出来たとはいえ、途中で雑用を片付けたりしている間にそこそこ時間を食っていたようだ。

 俺はビークルに搭乗すると、足早にスーム海浜公園へ向かった。

 漁船や近隣との海路を繋ぐ交易船は大抵が倉庫街沿岸の港に停泊するが、長距離を航行する客船やクルーズ船は富裕層エリアに直結するスーム海浜公園沿いの船着き場に来ることが多い。

 バニラとコニーの乗った船も、こちらに着岸することは確認済みだ。

 とはいえ……まだ、到着の時間には早かったようだ。

 帆船も現役のこの時代、視界の利かない夜中に入港しようとする馬鹿は居ないが、多少の遅れや時間のバラツキは避けられない。

 ひとまず、俺はそれらしい客船が来るまで軽く昼食を取ることにした。

 

 

「おっ、グレイじゃねぇか。食ってくかい?」

「ゲレイロか……そうだな、一つ貰おう。ドリンクもくれ」

「はいよ」

 海岸線を南に移動すると、ちょうど顔見知りの店が出ているのを見つけた。

 屋台から声を掛けてきた彼にホットドッグを注文し、立ったまま紙コップに口をつける。

 気取らないファストフード店だけあって、テーブルやパラソルなんて気の利いたものは置いていない。

「景気はどうだ?」

「さっぱりだな。宣伝は続けてるが、相変わらず客が付かなくてよ」

 営業時間外のゲレイロは、店の宣伝も兼ねてスーム闘技場のビークルバトルに出場しており、ランクは副業とは思えないAランク。

 知名度は十分で、そもそも彼の店のホットドッグは安くて味も悪くないのだが……どうにも商売は上手くいっていない。

 不思議なものだが……まあ、店主がこの見た目ではな。

 あと、場所が悪いのもあるか。

 ここは港の倉庫街よりも富裕層エリアに近い。

 本来のターゲットである労働者たちの根城とは立地が街の反対側なので、朝食や昼飯を買いに来るには若干距離がある。

「ここなら競争の激しい港の一角でスペースを確保するより面倒が無ぇ。金持ちの住処にポツンと空いた場所で、借り賃もそれほど高くねぇときた。屋台を出すにはいい場所だと思ったんだがな」

「確かに、この辺りじゃファストフードの需要はそんなに多くないか」

 逆に富裕層の住民なら、それこそこんなイカツイ店主の屋台ではなく、高級レストランの接客と豪華なコース料理を求めるだろう。

 完全なミスマッチだ。

「最近は、交易の活性化やら何やらで、新しく街に来た奴がちょいちょい寄ってくれるがな。このまま波に乗ってくれりゃ、言うことねぇんだが……」

 なるほど。

 確かに、固定客が付かないのは厳しいよな。

 ゲレイロはビークルバトルで食えるからまだマシかもしれないが、店を潰して路頭に迷った者の話は枚挙に暇がない。

 そういった輩が流れ着く先というのも、やはりというか北地区の労働者エリアことドヤ街だ。

 ゲレイロには悪いが、そういう意味ではここらの地域に投資しなくて正解だったかもしれない。

「……おっと、そろそろか」

 そんな具合に、若干愚痴を交えた会話をゲレイロと交わしていると、やがてスーム海浜公園の船着き場に大型の客船が入ってきたのが見えた。

 目的の船が到着したようだ。

 俺はゲレイロに声を掛けて昼食のゴミを処理すると、スーム海浜公園の船着き場へ向かった。

 

 

 入港してきた大型船は、船体を寄せて着岸すると、タラップを接続して乗客を次々に吐き出した。

 続々と船から降りて来る乗客と迎えの人間で、船着き場は瞬く間に人でごった返す。

 その傍らでは、船の乗組員や港の作業員が淡々と仕事を進め、積荷や客のビークルを手際よく船倉から下ろしていく。

 しばらくすると、俺は若干密度の下がった人の波から目的の人物を見つけた。

 赤とピンクを基調とした服装の可憐な茶髪の少女と、金髪の少年の組み合わせだ。

「バニラ、コニー! こっちだ!」

「あっ!」

 声を張り上げて呼び掛けると、先に俺の存在に気付いたコニーが隣のバニラの腕を引いて、人ごみを掻き分けるようにしてこちらへ向かう。

 コニーに近づき声を掛けようとしていた男たちの視線が、一瞬だけ鋭さを増して俺とバニラへ突き刺さった。

 そんなバニラはコニーに振り回されるような動きで、両手に大き目の荷物を提げたままこちらへやって来た。

 一瞬、コニーの分も荷物を持たされているのかと思ったが……あれは楽器ケースか。

 ナツメッグ博士が渡したトランペットに、もう一方のケースにはダンディリオンから譲り受けたバイオリンが入っているのだろう。

「やあ、お二人さん。お帰り」

「うん。ただいま、グレイ。迎えに来てくれて、ありがとうね」

「久しぶり、グレイ」

 人ごみを避け海浜公園の欄干沿いに寄ったところで、俺は懐かしい二人と挨拶を交わす。

 バニラの言う通り、何だかんだ二人と顔を合わせるのは久しぶりだ。

 バニラが帰ってきたのが、去年の夏の終わりから秋口にかけて……今年の初めから、二人はずっとこの国を留守にしていた。

 時折、手紙はやり取りしていたが、思えば結構な期間を二人は放浪していたわけだ。

 ……初めて会ったときに比べると、バニラは随分と逞しくなったような気がするな。

 コニーも心なしか垢抜けたかな?

「ん? 僕たちの顔に何か付いてる?」

「いや、何でもない。……オリオンシティはどうだった?」

「楽しかったよ。歌のレッスンをしたり、現地の音楽に触れたり……有名な『レストラン・シタガトロケール』にも行ったんだ。シチューもシラサギ芋のグラタンも美味しかったなぁ。あ、そうだ! オリオン新聞ってところから取材を受けたの。担当の記者さんがホテルの窓越しに話しかけてきてビックリしたよ」

「ああ、そんなこともあったね。……あと、盗賊団はどこにでも出るんだね。確か、ダークスコーピオンとかいう奴らだったかな。それと、僕たちは後で知った事件なんだけど……ペガサス社の重役が逮捕されたんだ。何でも、裏で盗賊団と通じてビークルの販促に利用してたとか……。本社ビルで凄い戦闘があったらしくて、結構な騒ぎになっていたよ」

 どうやら、二人ともオフを満喫できたようだ。

 

 

 テンション高く楽し気に語られる二人の話を聞いていると、やがてバニラの愛機【カモミール・タイプⅡ】が船からクレーンで下ろされてくる。

 機体の基幹部分にそれほど変化は見られないが、いくつかのパーツが換装され、見慣れない整備の跡が確認できた。

「ペガサス社の提供でね。ハッピーガーランドのトーナメントに参加したこととか、こっちの国でSランクのライセンスを持っていることとか……そういうのが考慮されて、無料でパーツを貸してくれたんだ。おかげで色々試せたよ」

 向こうの闘技場では、レッグパーツを馬型四足に換装し、近接武器には現地製のスパイク鉄球、ガトリングアームの代わりに最新型のマシンガンアームを使っていたらしい。

 完全に重装備の中遠距離戦闘に特化した要塞型だな。

 今はレッグを汎用の二足タイプに戻し、近接武器もダンディリオンの【ホワイトレクイエム】から引き継いだエクスカリバーアームを装備している。

 しかし、射撃武器は単銃身のマシンガンアームを継続して使うようだ。

 ボディやエンジン系にも、ラズベリーリーフ社のものとは違う部品がいくつか混じっているのが見えた。

 なるほど。

 近接武器はデカくて重いが、射撃武器は軽量でフットワークを損なわない上手いカスタムだな。

 駆動系もバニラなりに出力と機動力を向上させるいい感じのカスタムに仕上がっているように思える。

「そうか。色々見て、気に入ったパーツもあったみたいだな」

「ああ、スパイク鉄球とか四足はあまり合わなかったけど、このマシンガンアームはいい感じだよ。ノーラには悪いけど、旧式のガトリングより軽くて火力も同等以上だからね。信頼性とかはグレイのチェーンガンに及ばないけど、悪くない品だと思う」

「なるほど……ビークルも君も、強くなったんだな」

 因みに、【カモミール・タイプⅡ】のブレストパーツは、今も昔も変わらずキラーエレファントのボスから譲られたエレファントブレストだ。

 聞けば、他の国でビークルバトルに出場する際も、ブレストパーツだけは換装しなかったそうだが……やはりこれはバニラにとってお気に入りのパーツなのだろう。

 そんな無駄話をしている間に、バニラのビークルの積み下ろし作業が終わった。

 俺は二人の荷物の積み込みを手伝い終えると、【カモミール・タイプⅡ】のコクピットに乗り込んだバニラとコニーを見上げて口を開く。

「二人とも、今回は長旅で疲れただろう? とりあえず、今日はゆっくり休むといい。部屋を用意してある」

 俺は礼を言う二人に気にするなと手を振って、電話で予約していた『ホテル・ブルーマーリン』の名前を告げた。

 夕食はスペシャリテを二人分シェフに頼んでおいたが、部屋は一つ(・・)だ。

 キングサイズのダブルベッドは気に入ってくれるだろうか?

「じゃ、俺はこれで。落ち着いたら、ナツメッグ邸にも顔を出してくれ。博士とマルガリータも会いたがってる」

「えっ、もう行っちゃうの?」

 俺は一緒に食事でもと引き留める二人の誘いを丁重に断り、自分のビークルに乗り込んだ。

 さすがの俺も熱々バカップルの夜を邪魔するほど野暮ではない。

 満更でもない表情でビークルを発進させるバニラたちを見送り、俺は【ジャガーノート】のエンジンを掛ける。

「さて……日没までに帰れるかな?」

 いくら赤外線照射器があるとはいえ、さすがに夜間飛行は無理ゲーだ。

 日のある内にピジョン牧場へ着くよう操縦しないとな。

 




ダンディリオンの【ホワイトレクイエム】のエクスカリバーは、バニラに引き継いでもらいます。
オリ主には自前のブレードがありますし、他にちょうどいい人選が無いんですよね......。

あと、一応バニラの機体スペックも下記に

ノーマルボディH(エンジンチューンアップ ペガサス社・その他パーツ)
人脚ノーマルM強化型
エクスカリバーアーム
マシンガンアーム
エレファントブレスト
補助エンジン
ロールバー
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