steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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8話 艦載ビークル

 

「――と、まあこんな感じだ。この船を再建して二年ちょい。他の立ち寄った都市でも色々と技術を取り込んで、近代化改修を続けているからな。ビークルや火砲だけじゃない。推進機関も格段に進歩してるぜ。あと……そこのベントに繋がるピストン系には、航海先で手に入れた小型エンジン技術が使われていてな。別の国の技術者に基盤と適応できる仕掛けを作ってもらったんだが――」

「なるほどね、勉強になったよ。この補助動力機関は……この辺とかを小型化すれば、湖上で使う船にも応用できるかもしれないね」

 翌日、船倉から少し移動したところにある機関室で、俺とマルガリータは船長のミゲールから船の機関部に関して説明を受けていた。

 昨日、上甲板を見て回ったときに、マルガリータが機関部や艦載ビークルの方も見てみたいと言っていたので、俺はダメ元でシブレットとミゲールに頼んでみたのだが……何と、船長のミゲールが自ら俺たちを船内の各所へ案内し、『ジュニパーベリーⅡ世号』の装備やら何やらを解説してくれることとなったのだ。

 俺たちがナツメッグ博士の身内であることを鑑みても、船長直々のツアーとは格別の配慮だが……彼も、砲撃用のビークルをカスタマイズして自分の専用機を作ってしまうくらいには、機械に精通しているオタクだ。

 船の装備やビークルに関して説明するのは、全く苦にならないだろう。

 船長が暇なのがいいことなのか悪いことなのか、俺には判断がつかないが……。

 そんなミゲールの披露する話を、マルガリータは興味津々で聞いている。

 普通の女性なら、こんなマニアックな話には即座に退屈してしまうところだろうが……彼女は彼女で生粋の技術屋だ。

 寧ろ俺の方がチンプンカンプンでアウェーになっているな。

「ところで……今は最大船速じゃないんだよね?」

「もちろんだ。最近は船団を組んでるんでな。僚船を置き去りにしない巡航速度を保っちゃいるが……この娘(こ)の本気はこんなものじゃねぇ。初代ジュニパーベリー号とは速度も燃費も段違いだ。ブルーリボンに参加したら間違いなくぶっちぎりだぜ」

 マルガリータの質問に自慢気に胸を張ったミゲールが答えると、機関室の方から凛とした女性の声が響いた。

「ほう、それは私の指揮する船が遅いと言いたいのか?」

「っ! キャプ……司令……いやぁ、その、そういうわけでは……」

 どうやら、シブレットも上甲板から降りてきたようだ。

 乗馬鞭のような指揮棒をピシっと鳴らしたシブレットに、ミゲールは思わずと言った様子で姿勢を正す。

「ロートルの女船乗りの艦隊指揮では、せっかくの最新鋭艦も泣くか。災難だな、キャプテン・ミゲール?」

「は、はは……まさか……」

 最早コントだが……シブレットもミゲールも出世したとはいえ、二人の間に染みついた上下意識はなかなか拭えるものではないようだな。

 しかし、冷や汗をかくミゲールとは対照的に、皮肉を放ったシブレットは不機嫌な口調ながらどこか愉悦を含んだ表情をしている。

 生真面目な印象が強いシブレットだが、最近はこういう冗談も言うようになったのか……。

 もちろん、以前スームスームに漂着したときほど切羽詰まった状況ではないということもあるだろうが、何より付き合いの長いミゲールは彼女にとってそういうイジりができる数少ない相手なのだろう。

「ふっ……。マルガリータ、よければ、機関部と船体設計に関する資料の写しを進呈しよう。『ジュニパーベリーⅡ世号』は改修を重ねているゆえ、全ての情報を網羅できているわけではないが……」

「え? いいのかい? そんなの、最重要機密だろうに」

「構わん。グレイからも、お前が優秀な技師であることは聞いている。我々の集めたものが意義ある研究の助けになるのなら本望だ。役立ててくれ」

 いつの間にか、マルガリータとシブレットはすっかり打ち解けたようだ。

 以前は、俺が不用意にシブレットの名前を出したことで、マルガリータからあらぬ疑いを掛けられそうになったこともあるが……二人とも、男社会で人一倍の努力をして技術を身に着け生きてきた女性だ。

 ある程度の時間を共に過ごして交流すれば、色々と共感できることもあったのだろう。

 そんな二人を尻目に、俺はシブレットの攻撃から逃れてホッと安堵の息を吐いているミゲールに声を掛けた。

「ところで、この船に搭載しているビークルについても聞いていいか? できればそっちも妻に見せてやりたいんだが……」

「ぁ、ああ。奥さんの整備の腕は聞いてるぜ。……そうだな、うちの船には砲撃戦用の射撃型ビークルと作業用の汎用ビークルがいくつかあるんだが、整備場にも入れるよう手配しておく。なんなら、少し弄ってもらっても構わないぜ。あの【ジャガーノート】を世話してる腕利きの整備士ってんなら、間違いないだろう」

 快く承諾してくれたミゲールの言葉をマルガリータに伝えると、彼女は殊の外喜んだ。

 そして、俺たちはそのままの脚でビークルの整備ドックへ向かうこととなった。

 

 

 船倉と同じ階層に整備エリアに到着すると、ミゲールは俺たちにビークル格納エリアを示した。

「見てくれ。これがうちのビークル部隊だ」

 格納庫には俺たち乗客の持ち込んだ機体のほか、およそ10台のビークルが収納されている。

 半数ほどは完全初期仕様の【カモミール・タイプⅡ】に、砲弾アームを両腕に装備しただけのまさに砲台替わりといった出で立ちのビークルだ。

 これは原作のチュートリアル……初代ジュニパーベリー号に搭載されていた、バニラとマーシュが乗っていた頃のラインナップと変わらない。

 まあ、簡単な作業のためのビークルなら装備自体は初期仕様でも問題は無いし、中古の旧モデルを使えばそれだけコスト削減になるからな。

 だが、今回俺たちが目にしているビークルのなかには、バズーカアームやショットガンアームなど、より強力な武器を搭載した戦闘ビークルもあるようだ。

 こちらは新型の【カモミール・タイプⅢ】や、エンジン・駆動系もチューンアップしている機体も多い。

「大口径の火砲に制圧用の火力支援ビークルだ。この船には固定式の火器なんかも揃えているが……やっぱり、戦いの花といったらビークルだぜ! 敵船の横っ腹にどデカイ穴を拵えるバズーカに、小舟なんざズタズタに引き裂いちまうショットガンも外せねぇ」

「最近の海賊は、以前よりいい装備を揃えていることも多いからな。航路の安全の確保も私たちの仕事だ。船と積み荷を守るためには、我々もそれなりの戦力を整える必要がある」

 因みに、この整備ドックから上甲板までは吹き抜けになっており、ビークルはリフトやクレーンで出入りができるようになっている。

 敵の襲撃や砲撃戦になった際は、ここから必要な装備を整えたビークルが出撃するわけだ。

 当然、機体を操るのはクルーの中でもビークルの操縦技術に長けた者が担当しており、この船はそこらの海賊なら容易く撃退してしまう戦力を持っていることになるな。

「あとは、作業ビークル用にクレーンアームを調達させた。固定式のクレーンとノーマル仕様のビークルだけで荷物の積み下ろしをしていた頃と比べて、作業効率は段違いだ」

「もちろん、新製品の釣り竿アームも仕入れているぜ。備品はいくつか予備もあるから、グレイの旦那もよかったら使ってみてくれよ。そして……」

 これが本題とばかりに、ミゲールは一台の緑色の塗装のビークルに近づくと、ボディの装甲を叩きながら胸を張った。

「これが俺の愛機【ネプトゥヌス】だ。元々は砲撃戦用のビークルのお下がりだが、そいつを色々改修して汎用の戦闘ビークルに仕上げたんだ」

 

 

 およそ3年前、ウミネコ海岸沖で船を沈められスームスームに漂着したシブレット以下旧ジュニパーベリー号の面々は、街に身を隠しつつ再起を目指して活動を始めることとなる。

 襲撃者の存在を鑑みればあまり大っぴらに活動することは避けるべきだが、クルーたちの陸での生活を成り立たせるためには先立つ物が必要で、労働やビークルを使った仕事で報酬を得なければならない。

 何より、同時に船の再建資金も集めなければならないわけで……そんな生活が、俺と出会いドン・スミスの支援が取り付けられるまで続いていたらしい。

 当時の彼らは流れ着いたばかりで、何の後ろ盾も無い余所者だ。

 見知らぬ地、それもあまり治安のよくない街で活動し、しかも資金を貯めて再起を図ろうというのであれば……それなりに危ない橋を渡ることもあっただろう。

 そんななか、シブレットのビークルは大破して、マーシュの面倒も見なきゃいけない状況。

 まともな戦力として動かせる人員もごく僅かなので、そうなるとやはりビークルを操縦できるミゲールが、残った仲間を守るために強くある必要が出てくる。

 彼が他のクルーと比べて一段上のビークルに関する知識や技術を持っているのは、そういった必要に迫られての部分もあってのことというわけだ。

 なかなかに世知辛い話だな。

「まあ、ビークルに関しちゃ……俺も腕には少し自信があったんでな。副業も兼ねてスーム闘技場には何度か出場してたんだ。ファイトマネーでそれなりの装備を整えることもできた。どうだい? いい機体だろ? 何なら、ちょっくら中を見てくれてもいいぜ」

 待ってましたとばかりに、マルガリータは【ネプトゥヌス】の各部を点検し始めた。

 彼女の腕前は俺の【ジャガーノート】の性能と合わせて既に広まっているので、整備を担当していたクルーたちもマルガリータの動きや手つきをじっと観察している。

「ふんふん……武装はきちんとメンテナンスされてるね。放水器の摩耗しやすいパーツは新しいものに換装してるし、モーニングスター部分も整備が行き届いてる。いざって時に錆びついて武器が使えないなんて心配は無さそうだよ。あと、ボディや外装の手入れもそれなりにしてるみたいだね。この水牛の角を象った飾りも、丁寧に磨いているみたいだし」

「お、バッファローブレストのことかい。へへっ、いいだろ? それもスーム闘技場でランクを上げて手に入れたんだ」

「そうかい。ただ……」

「?」

「アームの可動部が少しガタついてるのと、操作系の基盤がまるで調整されていないのが気になるね。整備は人任せで、細かい調整にもまるで気を配っていない、典型的な雑なビークル乗りの使い方だよ」

「うっ!」

 言葉を詰まらせタジタジの顔で目を泳がすミゲールに、マルガリータはやや呆れた目を向けた。

「曲がりなりにも高ランクのバトラーなら、制御系の体感とのズレは致命的だってわかってるはずだけどね……何なら、最近はあまり頻繁に乗ってないんじゃないかい?」

 まあ、彼も『ジュニパーベリーⅡ世号』の戦闘として多忙な日々を送っているからな。

 最早、彼もただのビークル乗りではいられない。

 仕方ない部分もあるだろう。

「それに比べて……」

 一方、シブレットの【グレートセーリング】は、マルガリータのお眼鏡にかなったようだ。

 装備のグレードこそ砲弾アームにシールドアームとAランクバトラーにしては大分貧弱だが……ありきたりなパーツということは整備性が高いことも意味しており、また防御と射撃を繰り返す徹底してシンプルな立ち回りを想定したカスタマイズは堅実の一言に尽きる。

 何気に、彼女のビークルは機動力を阻害しない程度に装甲のレベルを以前より一段更新しており、エンジン機関も新型モデルに積み替え、増設弾薬ボックスを装備していることからも、地味に生存能力と継戦能力が上昇していることが窺える。

 つまり今のシブレットなら、余程の強敵と遭遇した場合や特殊な状況下でなければ、防御を固めた体勢から粘り強く射撃を繰り返すことで、大抵の敵を確実且つ安全に各個撃破できるということだ。

「ほう、さすがに慧眼だな、マルガリータ。私の愛機の設計思想を、この短時間でそこまで詳細に見抜くとは」

「そうだろそうだろ。うちのカミさんは凄いんだ」

 彼女が褒められるとつい俺まで嬉しくなる。

 自慢したい気持ちを抑えられなかった俺は、マルガリータを抱き寄せて髪を撫でるが……周囲の視線を気にするマルガリータは、頬を染めながらも俺の鳩尾に肘を打ち込んで距離を取ってしまった。

 ぐっ……そんなに照れなくてもいいのに。

「と、ところで! この船は飛行ビークルは載せないのかい? 前にグレイがそんな事を言っていたような気がするけど……」

「ああ、確か艦載機と航空母艦運用だったか? 実現すれば強力な兵器なのは間違いないが、まだ皆概要が理解できていないのと、何より誰が扱うのかという問題がな」

「なるほどね。確かに、飛行ビークルは扱いが難しいからね。戦いや偵察の前に海に落ちてるようじゃ話にならないか」

 納得するマルガリータに頷き、シブレットは口を開いた。

「ふむ……ちょうどいい、マルガリータ。航海中、私とミゲールの機体の改修作業を頼めるか? 本艦の船団運営や戦闘行動についても資料をまとめて見せるゆえ、必要な機能の追加やメカニズムの強化・メンテナンスを頼みたい。平たく言えば、私たちの機体を実験台に有用そうな発明を試作してほしいというわけだ」

「あ、ああ。もちろん、構わないさ。あたしも海上とか艦載式のビークルの運用には興味があるからね。色々試させてもらうよ」

「うむ、お前になら安心して任せられる。運が良ければ、先ほどマルガリータの言った飛行ビークルの運用に関しても、何か着想に進展があるだろう。期待している」

 俺を蚊帳の外にして、話はまとまったようだ。

 腹を摩る俺を見るシブレットの目が、何だかミゲールを見るときのそれに近づいてきた気がするが……気のせいだろう。

 『しょーもない』とでも言いたげな様子で肩を竦めたシブレットは、ふと何かを思い出したようにミゲールへ向き直った。

「ところで、ミゲール。もし私の艦隊指揮に不満があるのなら……ビークルバトルで決着をつけるか? 私に勝てたら、今の地位を譲ってやってもいいぞ」

「いや、勘弁してくだせぇ……ビークルの扱いで万全の司令に勝てる野郎が居ねぇのは、よくよくご存じでしょうに」

「ふっ……まあ、バトル云々は冗談だ。私も艦隊司令として公然と下手な振る舞いはできんからな」

 なるほど。

 万が一、クルーたちの前で無様を晒せば、それこそ彼女の沽券にかかわるわけだ。

 彼女も既に色々と柵を抱える立場になってしまったな。

 だが、そんなことを考える俺をシブレットは軽く一瞥し、目の前の愛機【グレートセーリング】を見上げた。

「だが……ビークルの腕が鈍っていいことはない。マルガリータの整備が終わったら、少し乗り回してみるとするか」

 

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