steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

150 / 168
9話 釣りと襲撃者

 

「グレイの旦那! 引いてるぜ!」

「っ、おっと! ありがとよ」

 甲板に駐機した愛機【ジャガーノート】のコクピットで、ウトウトと舟を漕いでいた俺は、横合いから掛けられた船員の声で我に返った。

 シートから体を起こし、即座にハンドルとアームの操作系を握りなおす。

 普段は高周波振動装置つきの強化ブレードを装備している【ジャガーノート】の右アームパーツだが、今は巨大な伸縮式の釣り竿が装着されている。

 金属製の外装を持ちながらも、粘性がある素材を芯に組み込んだ大型の釣り竿だ。

 よく撓る複合素材の竿は、獲物の質量と海中へ引き込むような力に、激しく湾曲し軋むような音を立てていた。

「おおっ、今回も結構デカいぞ! そろそろいい時間だからな。最後にもう一勝負と行こうか」

 アームを操作しつつ、ビークルの機体越しに感じる揺れと反動に俺は思わず口角を上げた。

 釣り竿アームは試作段階ではあるものの、ビークルの質量とウインチを利用した大掛かりな仕掛けだけあって、コツさえ掴めば手釣りより確実かつ安全に大物を釣り上げることができる。

 前世なら、似たようなものがあってもただのネタ枠だっただろうが……

 今日、俺は既に何匹か大物の魚を釣り上げており、その性能は完全に実証済みである。

 脂が乗ったブリやヒラマサやカンパチが掛かったときは、なかなかにテンションが上がった。

 スキトール湖で鱒を釣るのとは、迫力からして雲泥の差だな。

 そうこうしている内に、俺の釣り竿に掛かった魚は海面のすぐ下まで引き寄せられていた。

 タイミングを合わせてビークルのアームパーツを持ち上げると、やがて海面から飛び出した獲物が水中起動を取れなくなったことで、釣り竿への負荷が一気に弱まった。

 そのままウインチを巻き上げ、大型の銀青色の魚体を甲板まで持ち上げる。

「――よっしゃ! こいつは……ブリか。なかなかのサイズだ」

「いいねぇ、締めとくぜ」

 俺から獲物の魚を預かった船員の男は、早速とばかりにブリの鰓に手鉤を打ち込んだ。

 急所を穿たれた魚は瞬間的に硬直し、尾鰭をビクビクと痙攣させながら息絶える。

 海の男だけあって魚の扱いには馴れており、さすがのお手並みだ。

 【ジャガーノート】の隣に作業用ビークルを並べ一緒に釣りをしていた彼も、この数時間で大量の魚を釣り上げておりこれから面倒な魚の下処理が待っているわけだが……この手際なら大丈夫そうだな。

「さて……」

 この後は、甲板に鍋やバーベキューコンロを持ち出して、非番のクルーや船内で知り合った他の乗客と一緒に獲れたてのシーフードを味わう予定だ。

 日中、マルガリータは砲撃用・作業用ビークルの整備デッキに入り浸ることが多く、ナツメッグ博士は無遠慮に声を掛けてくる他の乗客連中に辟易して船室に引き籠っているが……さすがに普段から俺の料理を口にしている二人だ。

 ブリシャブとヒラマサのたたきの匂いに気が付かないわけも無い。

 すぐさま上甲板の簡易調理場にやって来るだろう。

 もちろん、木造船の甲板で火を炊くなど普通なら言語道断なので、俺たちはシブレットにしつこく注意を受けたが……まあ、近くにバケツの水と放水アームを装備したビークルを用意しているので、万が一の際にはすぐに消火できるから大丈夫……だと思う。

 何はともあれ、バーベキューの準備は船員たちがしてくれるので、それまで俺は暇だな。

 とりあえず、【ジャガーノート】の装備を戻すのに、整備場へ運び込んでおくか。

 愛機を適当に放置しようものなら、マルガリータにどやされる。

 そんなことを考えていると、不意に甲板の端から声が上がった。

「漂流者だー!」

「左舷前方! ボートだぞ!!」

 

 

 クルーによって漂流者発見の報が齎された直後、『ジュニパーベリーⅡ世号』は舵を切った。

 乗組員の男たちはキビキビと動き、ロープ等や救助に必要な資材を運び、ドックで整備中のビークル隊も作業に駆り出される。

 マルガリータとナツメッグ博士が何事かと甲板に上がり、船団全体に進路指示を出したシブレットとミゲールも船の甲板の左前方にやって来た。

「漂流者の救助は商船の義務だ。災害による転覆、事故、海賊との戦闘……経緯は様々だが、水難から辛くも生き残った勇士を、我々は決して見捨てない」

「なるほど。さすがに無視して先を急げと言う乗客は居ないか」

「ああ、幸い我が艦に乗る客人たちは皆、施しの精神と情けを持つ紳士淑女の方々だからな。しかし……」

 一瞬、シブレットの顔が険しく強張った。

 甲板には、救助に向かうクルーだけでなく物見高い乗客たちまでわらわらと集まって来ている。

 一応、クルーたちは危険なので船内に居るよう乗客を説得しているが、どうしても一定数は話を聞かない連中が居る。

 船上とは思えないフリフリの服に身を包んだご婦人たちは、やがて肉眼で見える位置まで近づいてきたボートを心配そうに見つめる風を装っているが、その表情はただただ同情の言葉を紡ぐ自分に酔っていた。

 まあ、俺も乗組員ではなく乗客であることに変わりはないので、あまり偉そうに人のことを言えないが……。

 しかし、そんな具合に他人事を決め込む俺に、シブレットは些か硬い声を掛けてきた。

「グレイ。お前、銃は持っているな?」

「ん? ああ、そりゃ拳銃は常に持ち歩いているが……」

 そこまで言われれば、俺も何となくシブレットが緊張している理由に察しが付く。

 要は、要救助者を装った海賊の可能性もあるわけだ。

 シブレットが言う以上、その確率は決して低くはないのだろう。

 マルガリータとナツメッグ博士も様子を見に来たが、念のため二人には船室へ戻ってもらった方がいいな。

 俺は若干表情が強張るのを自覚しつつも、ショルダーホルスターの中のワルサーを握り、心強い相棒の存在を確かめた。

 

 

「(お~い! こっちだ、助けてくれ!)」

「(ここだぞー!)」

 やがて、漂流するボートから助けを求める声が響いて来た。

 ボートに乗っていたのは、『ジュニパーベリーⅡ世号』のクルーと同じような肉体労働者風の男たちで、小さな船体にかなりの人数が犇めいている。

 何と言うか、ムサいな……。

「お前ら! 大丈夫かっ!?」

「助けに来たぞ!」

「一体、何があったんだ!?」

 『ジュニパーベリーⅡ世号』の甲板から声を掛けるクルーたちに、漂流者の男たちは口々に事情を叫んだ。

 何でも、数日前に漁船が転覆し、乗組員だった男たちは救命ボートで脱出してそのまま海上を流れていたらしい。

 ちょうどそこに、俺たちの船団が通りがかったというわけだ。

 よくある話だ。

 聞く限り、特におかしなところは無さそうだが……シブレットは船員たちの間から進み出ると、漂流者の男たちに声を掛けた。

「そうかそうか。今までよく頑張ったな。ところで……お前たちは随分と優秀な船員のようだな?」

 一見優しい言葉を掛けているように見えるが、シブレットの声にはどこか含みがある。

 疑問符を浮かべる一部のクルーや乗客を尻目に、シブレットは言葉を続けた。

「いや、なに……。船が転覆したにしては、お前たちは随分と身綺麗だと思ってな。ブーツも型崩れしていないし、服も濡れていない」

 その一言で、両者は俄かにザワついた。

 普通なら、シブレットの言葉通り、船の沈没後に迅速かつ最適な行動をとった結果だと思うところだろうが……取り繕いつつも明らかに慌てている彼らの様子は、俺やクルーに強い疑念を抱かせるのに十分なものだった。

 素早くシブレットの意図を察したミゲール以下クルーたちは直ちに行動を開始し、救助作業のために出てきたビークル部隊も即座に体勢を変える。

 俺も無言で【ジャガーノート】に乗り込み、そっとハンドルを握り込む。

 そんななか、漂流者たちは口々に言い訳じみた言葉を並べ、早く助けろと怒り出す者も出始めるが……シブレットは落ち着いた様子で咳ばらいをした。

「いや、結構。諸君らの有能さはわかった。沈みゆく船からボート一艘で脱出し、今まで生き延びてきたことは称賛に値する。だが……一つだけ聞かせてくれ」

 一拍置いて、シブレットは言葉を続ける。

「そこの……お前たちのボートのすぐ下に潜水しているビークルは、一体なんだ?」

「っ!」

 

 

 次の瞬間、漂流者の男たちは豹変した。

「クソっ! 構わねぇ、やれ!!」

「うぉおおぉぉぉォォ!」

「畜生! こうなりゃヤケだ!!」

 ボートの中に隠してあったと思わしき武器を手に取ると、一斉にシブレットたちへ銃口を向ける。

 さらに、彼らは漂流者を装ったボートの下に仲間のビークルを待機させていたようで、鋼鉄のコクピットとボディが次々と海面に顔を出した。

 現れた数台のビークルは、防水キャノピーに酸素ボンベのバックパーツを装備している。

 どうやら、最近開発されたビークル用の潜水装備を使っていたようだが、あまり性能が高くないのかそれほど深くには潜れず気泡も大量に出るため、俺も途中で存在に気付いていた。

 そんな漂流者もとい海賊の彼らは、開き直り一斉にシブレットの船団へ攻撃を仕掛けようとするが……しかし、その時には既に『ジュニパーベリーⅡ世号』のクルーたちも応戦を開始していた。

「撃てぇ!!」

 船の左舷に並んだビークル部隊は、シブレットの砲撃開始の合図で一斉に砲弾アームを発砲した。

 大口径の砲弾が船の片舷からバラ撒かれ、海賊たちのボートとビークルへ雨のように降り注ぐ。

 ビークルバトルの基準からすると、艦載ビークルの装備する砲弾アームは火力も精度も最低クラスの代物だが、それでも車載火器のサイズである。

 近距離で十台近くのビークルから斉射を受ければ、当然、海賊たちの乗っている小さな木製ボートなどひとたまりも無い。

 水柱を上げながら叩き込まれる放火のなか、着弾の衝撃と爆風で海賊たちのほとんどは海に投げ出された。

「う、うわぁああぁぁぁ!」

「ギェぇ!」

 当然、俺も既に戦闘準備を整えていたので、【ジャガーノート】の射撃装備を起動して甲板から撃ちまくる。

 普段、近接装備の強化ブレードを装備している右アームは今は釣り装備で塞がっているが、左のアームパーツは普段のカスタムチェーンガンのままだ。

 凄まじい連射で吐き出された高速弾は、木製ボートをズタズタに切り裂き、浮上していた潜水ビークル数台に穴を穿ち耳障りな金属音を残した。

 完璧に整備された精度も連射性能も桁違いの機関砲は、それ一丁で『ジュニパーベリーⅡ世号』のビークル部隊の斉射に負けず劣らない火力を発揮している。

 相変わらず、さすがの性能だ。

 マルガリータ様様だな。

「よくも……くっそー!!」

 突如、海面に浮上していた潜水ビークルの一台が、フロートからスラスターを噴射し、空中に躍り出た。

 粗方、敵は片付けたが、どうやらあきらめの悪い奴が居たらしい。

 俺は遠慮なくトリガーを切り替え、空中の敵ビークルにチェーンガンのアンダーバレルから長距離キャノンをお見舞いする。

 小型化と短銃身化により、フルサイズの長距離キャノンより精度も弾道加速も劣る武器だが、それでも炸薬弾等を搭載した大口径のミサイルランチャーだ。

 目標の中心を捉え炸裂したミサイル弾は、爆音とともに海賊の潜水ビークルのボディを粉々に破壊した。

「ま、待て! 降参だギェ!」

「頼む、許して……ぁげッ!」

 コクピットまで木端微塵になった仲間のビークルを見て、海賊たちの戦意はみるみるうちに萎んでいった。

 元々が、船団相手に少人数で挑もうとした、分の悪い博打うちだ。

 勝ち目が無いことを悟った彼らは、海中へ武器を投げ捨てて両手を上げた。

 投降の声を聞き逃して、俺はさらに数人ほどチェーンガンであの世へ送ってしまったが……やがて、シブレットの指示で生き残りの海賊たちは全て捕縛された。

 こちらの被害はゼロ(弾薬消費のみ)で、敵は制圧済み。

 やれやれ……これでようやく一件落着か?

 




初戦闘は海戦?でした。
原作では、チュートリアルと僅かな描写だけの船要素ですが、パイレーツ好きとしてはもう少し広げてほしかった内容ですね。(^▽^)/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。