steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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14話 王都観光 前編

 

 ある日の早朝。

 王都ナツメッグ邸の朝食の席で、ナツメッグ博士から嬉しい知らせがあった。

「今日は休みじゃ。お前さんたちも自由にしててよいぞ」

 アホみたいに長い広間のテーブルの対面から、ナツメッグ博士はトーストを齧りつつ上機嫌で言った。

 言葉少なく博士から告げられた一言に、俺とマルガリータも思わず口元が緩む。

 ここのところ、俺も彼女もずっと忙しかったからな。

 国王との謁見の手続き以外にもナツメッグ博士に持ち込まれる用事は多く、最近はかなり多忙を極めていた。

 ビークル関連企業との商談に会食、貴族との面会に大学やイベントでの講演……。

 当然、ナツメッグ博士の護衛兼運転手兼秘書である俺は、常に博士と行動を共にし書類作成からカバン持ちまで身の回りの雑務をこなすこととなる。

 もちろん、個人的に電化製品の販路の開拓やビジネスの話も並行して進めていく必要があるので、はっきり言って仕事漬けの日々だった。

 一方、マルガリータも博士からこの地域でしか流通していないビークルパーツや新技術の解析・レポート作成の仕事を任されており、毎日忙しくガレージや博士の書斎で働いていた。

 特に期限やノルマがあるわけではないが、技術者としてナツメッグ博士が満足するレベルの仕事をマルガリータ本人も目指しているため、彼女もなかなかに忙しそうにしていたな。

 そうして漸く、俺たちは夫婦共々忙殺されていたわけだが……いよいよ国王との謁見のため王城へ向かう日取りも決まり、俺たちも粗方の雑用が片付いたところで、ようやく休みを取れることになったわけだ。

「謁見は明後日じゃ。それまでお前さんたちもしっかり羽を伸ばしてくるといい」

「そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて」

「ありがとうございます、先生」

 そうして、俺とマルガリータは待望の王都観光に乗り出した。

 

 

 

 

「……それで何で銃砲店なのさ?」

「いやぁ、何と言いますか……」

 最初の目的地に到着した俺は、早々にジト目のマルガリータから詰問を受けていた。

 行き先のリストアップは万能執事ことミカエリスにお任せで、王都デートの日程を組んでもらった。

 王都に到着してからそれなりの日数が経過しているとはいえ、中心街のビジネスエリアと工業地区以外、俺とマルガリータは全く以ってこの街の地理に明るくないからな。

 移動も普段なら自分たちでビークルを運転するところだが、たまの休日ということで、今日は人員運搬パーツを装備したビークルを一台雇っている。

 ハイヤーを貸し切ってのデートとは、まさに御大尽だが……何故か、ミカエリスのリストを渡した運転手が俺たちを最初に連れてきたのは、商店街に店を構えるガンショップだった。

 俺もマルガリータも博士の助手の技術者ということで、ミカエリスなりに気を使った結果が、この実用一辺倒なチョイスなのだろうか……?

 もちろん、俺はトロット楽団でサックス奏者を務めたミュージシャンであり、完全に理系に振り切った二人に比べれば文系の分野にも明るいのだが……いや、あの執事のセンスはそれ以前の問題かもしれない。

「ったく。もうちょっと普通のデートスポットは思いつかなかったのかよ……」

「当人は至って真面目なんだろうね。あの人、冗談が通じるタイプじゃなさそうだし」

 仕事は淡々とこなすが、ユーモアや感覚的な部分が問われると途端にポンコツになるタイプか。

 有能だが思いもよらぬところに落とし穴がある人間は多い。

 まあ、深刻な実害がないあたり、ミカエリスは大分マシな方だろう。

「……とりあえず、入ろうよ。いつまでもここに居ても埒が明かないし」

「ああ、そうだな」

 何はともあれ、マルガリータがそこまで怒っていないようで何よりだ。

 物騒な看板と陳列棚に不釣り合いな洒落た扉を開き、俺たちはガンショップへ入店した。

 

 

 銃砲店の品揃えは……まあ、普通だ。

 ほとんどがダブルバレルのショットガン、鳥撃ち用の二連散弾銃で、拳銃はありきたりなリボルバーがほとんど。

 ライフルの類も無くはないが、それもほとんどが競技用で、軍用や本格的な狩猟用のものは全くおいていない。

 何と言うか……ラインナップに乏しいな。

 しかも、どの銃も性能の割に高すぎる!

 極めつけは、ほとんどのショットガンが、銃身やストック表面に余計な彫刻や派手な装飾が施されている点だ。

 どうやらこの店は、実用的な武器を売る店というより、貴族のスポーツ用品店のようだな。

 ミカエリス曰く、王都で一番のガンショップとのことだが、これはアテが外れたと言わざるを得ない。

 マルガリータも特に興味を引く機構の銃が無いのがわかって、明らかに落胆の表情を見せている。

「お気に召しませんか?」

「ん? ああ、どうも。すいませんね……」

 気が付くと、ガンショップの店長?らしきスーツの男性が声を掛けてきた。

 俺たちの食指が動いていないのを見抜かれていたようだ。

 わざわざ店にケチをつけて揉めるつもりも無いのでつい謝ってしまうが、店長は愛想よく口を開いた。

「確かに、手前どもの商品は高貴な方向けの品物が多いですからね。お客様のように高性能な実用品をお求めの方からすると、ご不満もありましょう」

「いやぁ……」

 既にこちらの事情はお見通しのようだが、何となく言葉を濁してしまう。

 そんな俺に構わず、店長は言葉を続けた。

「恐縮ですが、私もガンスミスの端くれでして……実はこういった商品もご用意しているのです。この街ではあまり需要が御座いませんが、稀に高貴な方の護衛を務める方からのご要望で提供することも……」

「へぇ、これは凄いね!」

 俺よりも早く、マルガリータが食いついた。

 俺を押し退けるようにして体を乗り出すマルガリータの後ろから見てみると、店主が出してきた箱の中身はモーゼルC96によく似た拳銃だった。

 店主曰く、フルオート機構を備えているらしいので正確にはモーゼルM712……いや、マガジンがノーマルの10連発であることを考えるとアストラM901あたりに近いか?

 この銃自体、軍ではかなり最新の部類に入る自動拳銃なので、そこへさらに尖ったカスタムを仕込むなど、なかなかの変態っぷりだ。

「ふ~ん、このサイズの拳銃に連射機構が付いてるなんて画期的じゃないか。それも、元々半自動(セミオート)の銃を切り替え式に改造して、こんなスムーズなメカニズムなんて……あんた、相当な職人だね」

「恐れ入ります」

「ただ、これだけの発射速度を出すなら、ちょいと装弾数が足りないんじゃないかい? ビークルの火器みたいに増設弾倉から引っ張るのは無理だろうけど、せめてこの銃把の前の弾倉を延長してやれば……」

「おお、何と! そこに気付かれるとは、さすがですなお客様。ただ、この形状でロングマガジンにすると、ホルスターへの収納に難がありまして……まあ、元々コンパクトとは言い難い銃ではありますが、やはり火力とコンシールド性能はトレードオフになってしまいますな」

 生粋の技術者であるマルガリータは、早速店主にあれこれと質問している。

 磨き上げた技術を理解してくれるマルガリータの言葉に、店主は無表情を装うもどこか嬉しそうだ。

 うん、それは構わないが……あまりうちの嫁さんにデレデレしないでもらえるかな?

 何はともあれ、俺も銃の性能に関しては一家言ある身だが、さすがに細かい内部機構の話になってしまうとちょっと付いていけない。

 それに、やはり俺としては、銃に関しては武器としての実用性を先に意識してしまうため、いかに興味深い機構やロマンがあろうと、このモーゼルにはそこまで食指が動かない。

 確かに、10連発でフルオート掃射も可能ということは、火力面では俺のワルサーP38に勝るが……さすがに普段から持ち歩くコンシールドウェポンとしてはデカすぎるからな。

 火力、精度、信頼性を兼ね備え、取り回しが良く且つショルダーホルスターで常時携帯するのに無理のないサイズ感という点では、この店にもマルガリータの作ってくれたワルサー以上の物は無いわけだ。

 しかし……。

 

 

「うん、買うか」

「……よろしいので?」

 俺の言葉に、店主は僅かに眉を上げた。

 彼も職人ではあるが王都に店を構える商売人であり、使用者である俺のニーズにそこまでマッチしていない以上、このまま売り込むことが難しいことには気づいていたようだ。

 まあ、そこは間違いないが、この銃には別の使い道もある。

「俺の普段使いにするかは未定だが……マルガリータの研究用には悪くないだろう。こいつは君に預けるから、バラしてみるなり何かの参考にするなり、上手いことやってくれ」

 俺の言葉に、マルガリータは軽く微笑みつつ頷いた。

 彼女なら、この銃をヒントに、さらに強力な携行火器やビークルの強化パーツを開発してくれるだろう。

 そんな期待も込めて、この件はマルガリータに丸投げだ。

 因みに……モーゼルの値段は驚くほど安かった。

 本来なら、軍用のフルオート火器は民間用の猟銃などと比べて文字通り桁の違う価格帯のはずだが、やはりニーズの問題か。

 まあ、傍から見れば店主の趣味全開のネタウェポン枠だからな。

「では、こちらでお包みいたします。……そうそう、王都内での拳銃の携帯には許可証が必要となりますので、ご注意を」

「え? そうなんすか?」

 よくよく考えれば、俺はこの街での銃器の携帯についてよく知らなかった。

 マズいな。つい、いつもの癖で、愛用のワルサーP38をショルダーホルスターにぶち込んだまま、その辺をプラプラ歩いていたが……。

 そんなことを考えていると、店主は咳払いして言葉を続けた。

「ナツメッグ博士の関係者の方であれば、然程の問題とはならないでしょう。ご自身でお持ち込みになった拳銃については、特段見咎められることも無いかと。もちろん、王城の中などは別ですが……」

 なるほど、王都でも多少の融通が利くくらいには、ナツメッグ博士の威光は健在か。

 しかし、この店主……俺たちが博士の身内だということに気付いていたんだな。

 一応、お忍び?的な感じでプライベートのお出かけなのだが……。

 銃器マニアが高じてガンショップを開いたと言わんばかりのオタクっぷりなのに、この店主もなかなか侮れない。

 俺が一人で感心していると、店主は僅かに表情を引き締め言葉を続けた。

「ただ、当店で購入された拳銃を、堂々と振り回すのはご遠慮ください。どちらに正義があろうとも、問題を口実に高貴な方々に目をつけられてしまいますと、私どもの商売にも支障が出かねない次第でして……」

 なるほど、そこは腐っても貴族社会か……。

 それにしても、この店長も随分とドライな物言いをするものだ。

 こんな一等地で商いをしている成功者の割に、彼はさほど階級意識に染まっていない……というか、どこか醒めた目線でお高く止まった連中を見ている。

 まあ、彼は貴族ではなく商売人なので、それも不思議なことではないが……意外な一面だったな。

 




デート回のはずが、何とも色気の無いお買い物になってしまった……。
次話ではもう少しロマンチックな描写ができることを期待しましょう(ヾノ・∀・`)ムリムリ
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