steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
ライフルとLMGを片付けた俺は、続いて9mm弾の弾薬箱を取り出した。
俺の護身用火器といえば、マルガリータがミスリル等をふんだんに使ってカスタムしてくれたワルサーがまず挙げられるが……今はシートの下に同じ規格の拳銃弾を使用する
八十数センチの全長、木製ストックにドラムマガジン。
これもマルガリータの作品で、スオミKP/-31とPPSh-41の中間のようなデザインのSMGだ。
元々、旧ソ連のPPSh-41――バラライカやマンドリンとも呼ばれる――は、冬戦争でフィンランドへ侵攻した際にフィンランド軍から鹵獲したスオミKP/-31をゲオルギー・シュパーギン技師が解析し設計したものなので、構造や外観が似ているのは当然だろう。
もちろん、軽機関銃的な運用も期待されたスオミKPは、信頼性や精度の高さと引き換えに重量が嵩み、近距離の制圧火力を補うため開発されたシュパーギン短機関銃は、軽く製造コストが低い反面精度は悪いなど、設計思想からして両者には若干の違いがあるが……。
で、肝心の俺の短機関銃の方はといえば……木製ストックの握り心地とレシーバーの上側に位置する排莢口、銃身の放熱カバーの角ばったフォルムはシュパーギン寄りだが、口径は9mmで内部機構もスオミSMGに近い。
要は、操作性と軽さ、信頼性と命中率の高さを兼ね備えた代物ってことだ。
弾倉は71連のドラムマガジンのほか、32連発のボックスマガジンもいくつか用意している。
スオミの71連弾倉は構造が複雑なドラムマガジンにしては珍しく信頼性の高いことで有名だったが、やはり大容量のドラムマガジンは重く嵩張るからな。
リロード時の動作においても、普通のボックスマガジンの方が扱いやすいのは明白だ。
そこら辺の規格を鑑みると、どうもこの銃はドイツ軍が鹵獲品のPPSh-41を改造しMP40の弾倉と9mm弾を流用して使えるようにしたMP41(r)に近いか。
SMGと聞いてまず大型拳銃サイズをイメージする現代の感覚からすると、かなり古い型の銃だが……それでも数十発の弾をバラ撒いて複数人を相手に制圧できる連射兵器の存在は、手元にあるだけでも心強い。
以前、『グランドフィナーレ』に拳銃一丁で潜入したときは、本当にギリギリの戦いを強いられたからな。
あの時はマジでSMGやアサルトライフルを用意していなかったことを後悔した。
いざという時、この銃があれば頼りになるだろう。
まあ、最善なのは以前のように生身で敵地のど真ん中に潜入し銃撃戦をするハメにならないことだが……こればかりは運次第なので何とも言えないな。
そんな具合に、かつての苦い記憶に思いを馳せながら、俺はSMGのストックを肩付けして、じっくり目標に狙いを定め、トリガーを絞り落した。
ライフルなどに比べれば遥かに火薬量の少ない拳銃弾を、短機関銃の分厚いレシーバーや銃身を通して発射しているので、銃声は思いのほか小さい。
「っ! 今の、当てたの?」
何の気なしに狙った100メートルほど先の木片は、初弾から綺麗に撃ち抜かれ、オガ屑を散らしながら粉砕された。
さすがにこの結果には、銃の製作者であるマルガリータも驚いたようだ。
彼女も技術者として人並み以上には銃や火砲の知識がある以上、拳銃弾でこの距離の目標を正確に撃ち抜くむずかしさは、重々承知している。
とはいえ、拳銃より遥かに長いSMGの銃身から放たれた9mm弾は、その分ガス圧の推進力を多めに受けつつ弾道も安定するため、普通に拳銃で撃った時よりも射程や威力が向上するのだ。
さすがにオープンボルトで弾をばら撒くことを主目的にした銃だけあり、後年のアサルトライフルとほぼ変わらない撃発機構のMP5シリーズほどの精度は出ないが、それでもマルガリータお手製のSMGは100m程度の距離なら普通に精密射撃もこなせる性能を持っていることがわかった。
「さすがだね」
「いやいや、君のガン・スミスとしての腕がいいからさ。マルガリータが丹精込めて作ってくれた銃があれば、この程度軽い軽い」
「何言ってるの。ライフルならともかく、腕が良くなきゃ短機関銃でそんな芸当できないのは、さすがにあたしでもわかるよ」
俺の煽てに冷静な反応を返しつつも、マルガリータは僅かに頬を染めながら微笑んだ。
続けて俺は、短機関銃のセレクターをフルオートに切り替え、20m~50m辺りに設置した的を銃口でなぞるように掃射する。
ドラムマガジンの分も銃本体の重さがあるので、思ったほど銃身は跳ね上がらない。
71連マガジンを撃ち尽くし、前進したまま止まったボルトを引いて薬室を開放すると、連続射撃の熱が篭った機関部から僅かに白煙が立ち上る。
短機関銃からマガジンを外してレンジの方に目を向けると、先ほど狙った的の大半は粉々になっていた。
拳銃弾の射程や威力・貫通力が低いとはいえ、これだけの火力なら十人の敵も相手取れるだろう。
フルオート掃射を前提とした人体目標の有効射程は、大体150mくらいか。上出来だ。
「…………」
「? グレイ、どうしたの?」
短機関銃をテーブルに置いた俺は、疑問を発するマルガリータに曖昧な表情を返すと、ショルダーホルスターから愛用のワルサーP38を抜いた。
標的のほとんどが壊れたので、そろそろ新しい物に交換しようと思うが……撃ち漏らしの一部を残したままにするのは何となく気持ちが悪い。
ターゲットに対してほぼ真横を向いた状態で銃を握った右腕を伸ばし、古典的な片手射ちのスタンスを取った俺は、セーフティを解除したワルサーの引き金をゆっくりと絞り落す。
軽い炸裂音と手首を蹴り上げるような反動の後、俺が狙った木片はど真ん中を撃ち抜かれて宙を舞った。
SMGより銃身が短いため銃声は先ほどより若干激しめだ。
「っ!」
そのまま続けてトリガーを引くと、俺の放った9mm弾は狙った標的に面白いように命中した。
近い距離に並べた木片はもちろん、50mを僅かに超えると思わしき位置にある短い角材も、高速弾の鋭いパンチを受けて宙を舞う。
これも研鑽の賜物と言いたいところだが……ミスリル合金をふんだんに使用してマルガリータがカスタムしたワルサーは、拳銃とは思えない恐ろしい精度を発揮する。
この世界の火砲は総じて精度が低めだが、この俺の相棒は前世の射撃競技にも使えるレースガンレベルの性能だ。
「まっ、こんなもんか」
「っ――――」
全弾命中という結果に上機嫌で拳銃のマガジンを交換していると、マルガリータの息を呑むような音が微かに聞こえた。
その後、残った9mm弾を全て消費する勢いで、CQBエリアの的を撃ちまくった。
実際の撃ち合いを意識した、タクティカルリロードや銃のスイッチングも交えた簡易的な戦闘射撃訓練だ。
遮蔽物から可動ギミックで次々と姿を現す人体標的に、目にも止まらぬ速さで短機関銃から弾を撃ち込んでいく。
時折、短機関銃を下ろして、ショルダーホルスターから抜いたワルサーに持ち替え、素早いスイッチングを意識しつつ効率よくターゲットの中心に弾をぶち込んだ。
移動ターゲットの操作はマルガリータにお任せだ。
そんな具合に、いつも通りの訓練メニューをこなした俺は、普段の平均より二回りほど上のスコアでコンバットシューティングのトレーニングを終えた。
「……次は君もどうだ?」
「え? あたしも? いや、遠慮しとくよ」
「そう言わずに。ちょっとだけ。な?」
何度かしつこく勧めると、マルガリータは渋々といった様子で俺の短機関銃を手に取った。
俺のように本格的な戦闘訓練は積んでいないとはいえ、彼女も決して運動神経は悪くないうえ火器の構造なんかはよく理解しているので、銃を撃つ姿はそこそこ様になっている。
それに、何だかんだ短機関銃をフルオートで撃ちまくっていれば、彼女も銃をぶっ放す快感を徐々にわかってきたようで、腰だめに構えたSMGのマガジンを慣れた手つきで交換し、体を捻るようにして9mm弾を掃射し近くの木製ターゲットを薙ぎ払った。
せっかくなので、現代の射撃技術をベースとしたコンバットシューティングも少し覚えてもらおう。
カバー体勢からのクイックピーク、姿勢を低くした状態から素早いインスティンクト射撃と……もちろん、手取り足取り指導させていただきましたとも。
そして、銃のクリーニングを済ませて射撃場の後片づけを終える頃には、既に日が落ちかけていた。
「――あぁ~、疲れたぁ! でも、たまにはこういうのも悪くないね。あんたが銃にこだわる理由が、ちょっとわかった気がするよ……って、もうこんな時間っ!? 大分、遅くなったね」
「そうだな。そろそろ帰るか。博士も腹を空かせているだろうし、早いとこ飯にしよう」
因みに、その日の夕食の献立は、ナツメッグ博士たっての希望で、以前にも作ったミラノ風カツレツだった。
上質な仔牛の肉を叩き、チーズをたっぷり混ぜた衣を塗してバターで揚げる、高カロリーで濃厚な料理だ。
マルガリータも気に入ってくれたようで何よりだが、せっかく運動した意味が……。
数日後、ナツメッグ邸にて。
博士の研究室で軽く仕事の打ち合わせをしていると、開けっ放しのドアをマルガリータが軽く叩き、俺たちの意識を自分へ向けさせた。
「グレイ、電話だよ。ネフロ闘技場の支配人から」
「え? ディーノだって?」
予想外の名前にいささか面食らいながらも、俺はマルガリータに電話を取り次いでくれた礼を言い、固定電話のあるダイニングへ向かった。
外したまま台の上に置かれている受話器を手に取り耳に当てる。
「もしもし」
『あっ、グレイ! もうっ! やっと出たわね! いつまで待たせるのよぅ!』
聞き覚えのあるオカマ野郎の声が響く。
相変わらず、電話越しでも喧しい奴だ。
もういい加減、あいつのキンキン声にもハチャメチャな言動にも慣れてきたので、俺は億劫な空気を隠しもせず事務的に用件を尋ねる。
「どうしました? 何かトラブルで?」
『大変なのよ! とにかく、一刻も早く闘技場に来てちょうだい!! 一大事よっ!(ガチャッ)』
あいつ……言うだけ言って、一方的に切りやがったな。
掛け直しても、ディーノからこれ以上のまともな情報は得られないだろうし……仕方ない。
明らかに厄介事の予感がするが、向こうも俺の所属するネフロ闘技場のトップという立場のある人間だ。
面倒だが、無下にはできないか……。
俺は博士とマルガリータに急遽外出することを伝えると、【ジャガーノート】のキーを手に取りナツメッグ邸を後にした。