steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
「巨大魚じゃと?」
「はい……そういう報告でして……」
ピジョン牧場駅の建設が大幅に遅れるという話を聞いて、俺とナツメッグ博士はネフロ駅に顔を出していた。
説明する駅の職員も、未確認の突拍子も無い話に歯切れが悪い。
ピジョン牧場にあるスキトール湖は、牧場の船着場から遊覧船も出ている観光名所だ。
酪農とナツメッグ博士の家くらいしか名物の無いピジョン牧場において、貴重な客寄せパンダもとい客寄せ湖である。
そんなスキトール湖に船を転覆させる巨大な魚が出現した。
幸い、被害に遭ったのは小型の作業船で遊覧船と乗客に被害は出ていないらしいが、脅威度を鑑みて遊覧船の運行は中止された。
そんな事情があって、観光地としての価値が無くなったピジョン牧場への路線の延長と駅の建設が先延ばしになったのである。
「もちろん、ピジョン牧場駅の建設はペンシル鉄道本社が一度決めた方針ですので覆りません。ただ、現状ですと作業班の再編成や再度の安全確認の必要性などから、延期は避けられない状況でして……」
それでゲーム本編までピジョン牧場駅は完成していなかったのか。
本編開始は一年以上も先だ。
相当な影響だな。
「で、巨大魚の正体は何なんじゃ?」
「そ、それが……決死の確認作業にもかかわらず、確認は取れず仕舞いで……」
俺は気の毒な駅職員の弁明が終わったのと同時に口を開いた。
「博士、恐らく潜水艦の……水中に潜行できるタイプの盗賊ビークルでしょう」
「ほう……」
ナツメッグ博士は俺の表情を察し、原作で事情を知っていることに思い当たったようだ。
その通り。
この巨大魚のイベントは原作ゲームに出てくる。
巨大魚の正体は『ディープアングラー』という潜水艦型の盗賊ビークルだ。
主人公が湖に入れるのは、イベントで耐水ボディMを手に入れてからなので、こいつと戦えるのはストーリー中盤以降になる。
そうなると、俺が動かなかった場合『ディープアングラー』は一年以上も放置されることになるのか。
ところで、俺のビークルのボディは耐水仕様だ。
単に水に濡れても故障しないだけでなく、ボディパーツを水に浮かせることができるのだ。
装甲のミスリルは頑丈さの割に軽いので、このような地球ではあり得ない代物が出来るわけだ。
耐水テストついでに『ディープアングラー』を討伐してみてもいいかもしれない。
それに、スキトール湖を渡った先にはミームー村という辺境の村がある。
原作では、ピジョン牧場のすぐ対岸にある割に、住民がトロットビークルの存在を知らないほど田舎であるという謎設定だったが、現実ではどうなっているのだろうか?
少なくとも、牧場からそれらしき場所は見えなかったが……。
ミームー村へのルート開拓のためにも、俺が一肌脱いでおこうか。
「では、グレイ。気を付けてな」
「ええ、行ってきます」
数日後、俺の【ジャガーノート】は一時的に水上戦用のパーツを取り付けられ、スキトール湖に入水した。
普段と違う装備といえば、バックパーツを水上での機動のための装置に付け替えたくらいだ。
原作でも、フロートというバックパーツが、水上でもダッシュができるようになるアイテムとして登場する。
今回、ナツメッグ博士が用意してくれたのは、フロートの大型版ともいえる、スクリューとウォータージェット付きのバックパーツだ。
どういう仕組みやプログラムでビークルの操作と連動しているのかはわからないが、陸上での移動と同様にハンドルを操作した方向とは逆側へジェットが噴射し、非常にわかりやすい形で推進力を高めてくれる。
こいつは便利だ。
しかし、『ディープアングラー』を討伐するには移動だけできても仕方ない。
攻撃して沈めなければならないのだ。
爆雷なんて気の利いたものは無いし、さすがのチェーンガンアームも水中で撃つことは想定していない。
小火器でもグロックや特殊部隊御用達のHK416などはともかく、昔のM16ライフルなんかは銃を逆さにして振っても水が抜け切らずに銃身炸裂を起こしたことがあるそうだ。
同じ運命は辿りたくないな。
ビークルに搭載するサイズの火器が詰まって銃身炸裂など起こしたら悲劇だ。
とはいえ、ロシア製の某水中銃の仕組みなど俺にわかるはずもない。
博士はチェーンガンの銃身や機関部周りを改良して水が零れ落ちて抜けやすいようにはしてくれたが、水中で発砲するのは避けた方が無難だな。
どうにか左アームが水に浸からないように掲げたまま、俺はスキトール湖の中心に向かって移動を続けた。
湖は原作の感覚より遥かに広い。
ゲーム内では数分も掛からずビークルの立ち泳ぎで横断できるが、現実の湖がそのようなサイズのわけがない。
随分と沖に出て、ピジョン牧場の様子も見えないほどになっているが、まだミームー村の存在さえ確認できない。
どうやら完全な対岸ではないようだ。
岩場の構造も原作より複雑だ。
「はぁ、これ見つかるのかね……」
【ジャガーノート】は低燃費のハイブリッドエンジンを搭載しているうえに増設燃料タンクまで積んでいるが、それでも一度の航続距離に限界はある。
何も今日中に『ディープアングラー』を倒さなければならないわけではない。
「今日は帰るかな……」
次回は暇潰しに釣り竿でも持ってこよう。
そんなことを考えていたが、次の瞬間、俺はビークルに強かな衝撃と揺れを感じた。
「ぐっ! 何だ!?」
一瞬、敵の攻撃を疑ったが、爆発や鋭い衝撃ではなかったことを思い出す。
ビークルの制御をどうにか取り戻しながら水面を見ると、穏やかな湖とは思えない荒波が渦巻いていた。
俺のビークルはあの急激な波にさらわれてバランスを崩したようだ。
「くそっ、どこに……っ!」
水中を見回すと、先ほどまで何もなかった岩山の底から、巨大な影が見えた。
間違いない。
『ディープアングラー』だ。
確かに、潜水艦を知らない連中が見たら巨大な魚に見えるだろう。
「出やがったな」
まさか捜索一日目にして遭遇するとは。
『ディープアングラー』は俺に狙いを定めたらしく、ゆっくりと艦首をこちらに向けて迫ってきた。
徐々に浮上し、水面から顔を出す寸前の浅い場所を走り、俺のビークル目掛けて特攻してくる。
俺はバックパーツのスクリューとウォータージェットをフル回転させて回避行動を取った。
原作の『ディープアングラー』は魚雷による攻撃が主だったが、現実のこいつはその大質量を以って押しつぶす攻撃もしてくるようだ。
俺は平行移動で突進を躱すと、チェーンガンをフルオートで連射して水面越しに艦首から艦尾にかけて銃弾を撃ち込む。
水面越しだったことで、銃弾の多くは軌道が逸れて貫通力も失い『ディープアングラー』のボディを貫けない。
「ちっ」
俺がチェーンガンを引くのと同時に、今度は敵の魚雷が発射された。
数発の魚雷が不気味な泡の尾を引きながら、こちらに迫ってくる。
「おおぉ!」
再びチェーンガンを構えた俺は、一番嫌な軌道で接近してくる魚雷に向かってチェーンガンを乱射した。
運よく一発が魚雷に命中し、魚雷は目標を捉えることなく爆散する。
破片が装甲ブレストに跳ね返される音が不快だ。
再び、魚雷が水を切って接近する嫌な音が聞こえた。
俺は水中に散らばる破片の一群を盾にするように【ジャガーノート】を移動させ、第二陣の魚雷の一斉射撃をやり過ごした。
「ふぅ……ぬぉ!」
急にビークルの足元に衝撃を感じるのと同時に、【ジャガーノート】はバランスを崩して倒れ込んでしまう。
下を見てみると、先ほどまでの水面ではなく鉄の地面だ。
いつの間にかすぐ近くに接近していた『ディープアングラー』が、俺のビークルもろとも浮上したようだ。
今の俺は敵のビークルの船体の上に居ることになる。
どうやら魚雷のコンボに続けて俺のビークルを鹵獲し止めを刺そうとしているようだ。
そびえ立つ艦橋から稼働音が聞こえると同時に、いくつもの銃眼が現れて小口径の砲身が俺に向けられる。
「待て! 奴は健在……」
「構わねぇ! やれ!」
「とどめだ!」
俺はチェーンガンで撃ち返そうとしたが、ビークルは崩れた体勢を立て直している最中だ。
反撃が間に合わない。
こちらが撃つ前に蜂の巣にされてしまう。
いや、あの程度の火砲であれば【ジャガーノート】のコクピットの下に身を隠せば耐えられるか?
しかし、万が一にも俺自身に銃弾が当たったらお陀仏だ。
「くっ!」
ビークルが立ち上がる途中の不自然な姿勢にもかかわらず、俺はショルダーホルスターから拳銃を抜いた。
コクピットは水を被っているが、運のいいことに俺の上半身はあまり濡れていないので、ホルスターからの抜き撃ちはスムーズだ。
「うわっ!」
「撃ってきやがった!」
六発の拳銃弾を全て銃眼の辺りに叩き込み、制圧射撃で時間を稼ぐ。
「野郎!」
銃座に戻った盗賊が俺に狙いを定めるが、その時には俺もビークルの座席の後ろからライフルを取り出していた。
銃座に取り付く盗賊の頭をスコープ越しに捉え、そのまま引き金を絞り落とす。
盗賊の頭がザクロのように弾け飛んだときには、俺のビークルの体勢も立て直されていた。
慌てて他の盗賊が銃座に戻ろうとするが、今度は俺のチェーンガンアームが先に火を噴く。
続けざまに撃ち込まれる大口径の弾丸で、装甲の開いた銃座と中に居た連中はズタズタに切り裂かれた。
「ぅらぁ!」
一通り銃座にチェーンガンの弾を撃ち込んだ俺は、強化ブレードアームを振りかぶって艦橋に突っ込んだ。
そのまま銃座にブレードを刺し込んで切り開く。
魔法金属で強化したブレードアームは、装甲の薄い銃眼を簡単に引き裂き、ビークルが侵入できるほどの穴が開いた。
再度、アームを振るって瓦礫を弾き飛ばし【ジャガーノート】は『ディープアングラー』の内部に侵入した。
「や、やめろ! がっ……」
艦橋とは別の場所にあったブリッジに侵入した俺は、最後の生き残りと思わしき盗賊を強化ブレードアームで斬り殺した。
真っ二つになった盗賊の胴体が床に叩きつけられて湿った音を立てる。
少々、オーバーキルかもしれないが、ここは敵の腹の中だ。
生身で歩く度胸は無い。
『ディープアングラー』は俺との戦いによって艦橋に大きな損傷を負い、既に浸水が始まっている。
今すぐに沈没する雰囲気ではないが、この文明の時代に何重もの隔壁やら安全対策やらがあるとは思えない。
「ちょっと急ぐか……」
まずは先ほどチェーンガンで撃ち殺した幹部クラスと思わしき連中の服からワッペンを切り取った。
続いて、ブリッジの操舵席っぽい場所に近づき、潜望鏡を頼りに水面を確認して大雑把にピジョン牧場へ進路を取る。
潜水艦の操舵方法など俺にわかるわけがないが、どうにか舵らしきパーツで向きを調節して牧場方面に艦首を向けた。
最悪、この潜水艦の残骸は湖に沈むことになるが、貧乏性の俺としてはできれば持って帰りたいところだ。
艦内を再度検めて残党が居ないことを確認した俺は、浸水の恐怖に耐え切れず外に飛び出した。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。