steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
「ふむ、こんなもんかの」
「お疲れ様です、ナツメッグ博士」
電気冷蔵庫の奥に仕舞っておいた、とっておきのフルーツブランデーをグラスに注いで、ナツメッグ博士に示した。
冷凍庫というか製氷機のようなものは都会には普及しており、氷を入れた冷蔵庫はそこそこの数が普及しているが、凍らせることなく適温で保存できる電気冷蔵庫があるのはうちの工房くらいだ。
生鮮食品は保存料の無い世界の習慣で冷蔵庫はあまり必要にならない頻度で買い出しに行くので、冷蔵庫の本来の用途である冷蔵保存での出番は少ないのだが、こういう酒を冷やすときには便利だ。
「ふん! 本当にお疲れじゃわい。まったく」
湖畔に設置したクレーンから降りた博士は、俺が運んで来たトレイからグラスを引っ手繰ると、中身を一気に飲み干した。
「か~っ! 仕事の後の一杯は効くの~」
俺が乗組員を皆殺しにした後、ピジョン牧場に引っ張ってきた『ディープアングラー』は、どうにか牧場近くの浅瀬に辿り着いた。
そのあとはネフロの警察官を呼びつけて、盗賊の死体と戦利品の回収を行い、巨大魚の正体は正式に盗賊ビークルだと証明された。
これでピジョン牧場駅の建設は原作よりも早まるだろう。
俺が適当に進路を設定して乗り捨てた『ディープアングラー』が、船着場にでも突っ込んで物を壊すことが無かったのも幸いだ。
しかし、仕事はこれで終わりじゃない。
上陸した部位の他に、浅瀬に散らばった『ディープアングラー』の残骸はかなりの量に上ったのだ。
急遽、ナツメッグ博士が組み立てたクレーンで浅瀬の残骸は引き揚げられることになり、今ようやく後始末が終わったところだ。
「さ、オットーとウィリーも。皆さんもどうぞ」
「お、悪いね、旦那」
「ありがと、グレイさん」
上陸した『ディープアングラー』の解体にと引き揚げた物も含めて残骸の運搬には、オットーとウィリーはじめピジョン牧場のビークル乗りが協力してくれた。
うちの工房周辺に収まり切らないほどのスクラップだ。
片付けには相応の労力が必要になる。
こんな酒とつまみで協力してくれるのならば安いものだ。
山盛りで持ってきたドライソーセージを頬張るウィリーを見ながら、俺も酒に口を付けた。
「で、このガラクタの山はどうするんじゃ?」
博士が山と積まれた資材を見て疑問を投げかけてきた。
確かに、巨大な潜水艦ビークルだけあって『ディープアングラー』の残骸はかなりの量だ。
「すぐにとは言いませんが、このビークルの残骸は丸々片付くことになると思いますよ」
「ほう、それもお前さんの知る『運命』かの」
「いや、原作ではスクラップとの関連は無いのですが、まあ似たようなもんです」
翌日、俺は再びスキトール湖にビークルを浮かべていた。
今日も沖に向かって進むが、目的地は『ディープアングラー』と戦った場所のさらに先の対岸だ。
原作ではミームー村がある場所だ。
スクリューとウォータージェットのバックパーツのおかげで、通常の帆船などとは比べ物にならない速度が出ているはずだが、それでも目的地のミームー村は影も形も無い。
こういうときにヒロインが助手席に座っていたら退屈しないんだろうな。
この単調さでは瞼が重力に抗えなくなりそうだが、一度も通ったことの無い道で気を抜くことはできない。
盗賊が『ディープアングラー』だけとは限らないからな。
原作では、水上にも普通にアメンボ型の盗賊ビークルが出現した。
見える範囲に敵影は無いが、油断して奇襲を受けてお陀仏になるのはご免だ。
やがて、本格的に眠気が襲ってきそうになったところで、岩場を抜けた先に海辺の村を発見した。
湖畔には木造のボートが停泊している。
あれが、ミームー村だろうか?
村の船着場に近づくと、陸地の様子も見て取れるようになった。
どうやら村中の人間が集まっているようだ。
こちらを指差しているので、近づいてくる俺のトロットビークルを発見したのだろう。
「(何だい、あれは……)」
「(船じゃないわ。でも、人が乗っているわよ)」
「(僕、聞いたことある! 山の向こうでは、あんな機械に乗った人たちがたくさん居るんだって)」
どうやら驚愕や戸惑いの声が大多数のようだ。
無邪気なのは子どもだけか。
船着場の漁船にはエンジンを搭載しているものもあるので、全く外部との接触が途絶えているわけではないだろう。
燃料や金属資源は外部から入手する必要があるはずだ。
しかし、このように周囲を切り立った崖と険しい山に囲まれていては、村に来る商人なんかも馬やラクダを使用する者が大半で、トロットビークルを見る機会など無いだろう。
浅瀬から村に上陸すると、村人たちのざわめきはより大きくなった。
「おお、凄ぇ! 下はあんな形になっているのか」
「人間みたい!」
「大きい~!」
村の入り口のところまで行くと、一人の老人が進み出てきた。
恐らく、彼が村長のマルローだろう。
「ちょっと、あんた! これは、一体? この機械は何なんじゃ?」
「これはトロットビークル。今や世界中で輸送、土木、農業、警察、消防とあらゆる業務に使用されている機械です」
「へぇ~! トロットビークル! 外の世界にはこのようなものが……」
どこかで聞いたような会話をマルローと交わす。
俺は彼の招きに応じて、大きな平屋の家にお邪魔した。
「何と!? では、グレイ殿のお師匠様が、このトロットビークルの開発者なのですか?」
「ええ、そうですね。まあ、俺がナツメッグ博士に師事したのは最近のことですが」
そういえば、まだ一年も経っていないんだよな。
俺はミームー村の住民全てが収まる平屋で、村の特産である魚料理とワインの歓待を受けて住民たちと歓談した。
原作のようにこの家で村民全てが共同生活を送っているわけではなさそうだが、それでもこの建物が村で唯一の公共建造物のようだ。
見たところ、村長の自宅と村役場と公民館と迎賓館と食堂を兼ねる場所のようだ。
やはり裕福とは程遠い生活をしている村のようだな。
綺麗な言い方をすれば自然が豊かな場所だが、少なくともこの規模の人間たちが居住地とするには不便すぎる。
「そんなお方が湖を渡ってまで我が村にいらっしゃるとは……」
「まあ、こちらも湖に用事があったんでね。ここに来たのはついでみたいなものなんですが」
原作ではミームー村のサブイベントを進めると湖沿いの岩山を切り開き、ピジョン牧場駅からさらに鉄道を伸ばしてミームー村にも駅が出来て外部との交流が生まれる。
ゲームではこの村を発展させないと手に入らないパーツや交易品があった。
ブレードアームとボウガンアーム、トリュフがそうだ。
俺の場合はこの村の発展が必須というわけではないし、トリュフならば今も言えば売ってもらえるだろう。
しかし、折角ここまで来た以上、ミームー村の発展イベントも進めておきたいな。
「しっかしあのトロットビークルってのは凄ぇ乗り物だな。マルガリータにも見せてやりてぇ」
漁師らしき住民の男の言葉が耳に入った。
そういえば、この村で唯一トロットビークルを整備できるのは、船大工のマルガリータという女性だったな。
今も食堂に姿は見当たらないし、先ほどの村の住民が集まってきたときにも、それらしき女性は見かけなかったな。
聞いてみると、今日は船で沖に出ているらしい。
「また、怪物の正体でも確かめに行ったんだろう」
「大丈夫なのかねぇ……あれでも女の子だよ」
「まあ、下手な男衆より度胸もあるし、昨日も一昨日も無事に戻ってきたんだ。心配するだけ無駄だろうよ」
「違ぇねぇ」
怪物というのは聞き捨てならないな。
って、湖の怪物ってことは『ディープアングラー』か?
「もしや……怪物ってのは巨大魚では?」
「お、何だグレイの旦那。知っているのかい?」
聞けば、この村の漁獲量が最近減っており、岩場を抜けて沖まで調べに行った漁師が消息を絶ったそうだ。
恐らく、魚の減少は『ディープアングラー』の湖の盗賊団による乱獲、漁師の命は盗賊に奪われたってとこだろう。
事情を話すかどうか少し悩んだが、結局のところ俺は巨大魚の正体が巨大な潜水ビークルだったことと討伐済みであることを伝えた。
「そうかぁ。じゃあ、グレイさんは俺たちの仲間の仇を討ってくれたってことだな」
「ありがてぇ」
逞しい住民たちで助かった。
どうやら悲嘆に暮れるよりも喜んでくれるようだ。
「マルガリータという女性にも戻ったら伝えてください。もう、奴を警戒する必要はありません」
ヒロインのあの娘の登場は、もうしばらくお待ちください。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。