steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
「で、村長。ここからが本題なのですが……」
ミームー村への駅開通イベント。
これをこなすと村は外部との交流によって発展し、ゲームでは他で手に入らない貴重なパーツが手に入る。
まあ、俺にとっては今のところ必須の準備ではないが、顔を繋いで周りを整備しておくことが、今後の戦いや世界情勢と主人公たちを取り巻く環境にどう影響してくるかわからない。
敢えてミームー村だけ放置しておく理由が無い以上、早めに動いておいた方がいいだろう。
それに、『ディープアングラー』のスクラップの件がある。
俺はこの鉄材をミームー村への開拓に提供するつもりでいる。
「村長、あなたは周辺を開拓して外部との接触を増やし、この村を発展させたいと思っているのでは?」
「確かに、その通りです。先ほど住民に聞いたら、燃料や金属を運んでくる行商人から聞いて話でトロットビークルの存在を知っている者は居ました。しかし、実物を見たのは今日が初めてです。わしらは、さすがに時代に取り残されすぎた」
村長のマルローに話を聞くと、やはり既にゲームでも登場したネフロ駅長への手紙は用意していた。
原作ではこの村を訪れるのはピジョン牧場駅が完成した後なので、牧場から路線を伸ばす依頼をネフロ駅長のもとに届けることになる。
ゲームでは何故か一晩で湖沿いの岩山が切り開かれて線路が開通するが、現実ではそうもいかない。
今からペンシル鉄道に話を持っていって、ゲーム本編までに開通するかは微妙だな。
「一応、俺の方から鉄道会社に話は持っていきましょう」
悪路を走破するはずのトロットビークルすら立ち入らない辺境の地。
山の向こうにある、都会からすれば既にそこがド田舎である村の行商人が唯一の外部との接触。
それがミームー村だ。
村を出ていくこともできないような環境は、さすがに子どもや若者にとっては辛いものだろう。
村長のマルローは欲と卑しさもある男だが、少なくともミームー村の開発自体はメリットの方が大きいはずだ。
「よろしくお願いします。この話にはミームー村の未来が掛かっているんです」
「私は反対だ!」
突如、テーブルの端に座っていた男が立ち上がり怒声を上げた。
ミームー村の住民たちよりも幾分か都会っぽい仕立てのいい服を着た男だ。
「ミームー村はこの豊かな自然にこそ価値がある。開拓して鉄道など通したら、その美しさは永遠に失われてしまう」
「ゲーブル、もう決まったことじゃ」
原作でも登場したゲーブルという男は、自然豊かなミームー村を気に入り定住した、余所者のナチュラリスト的な人物だったな。
村を発展させたい村長に真っ向から反対し、結局サブイベントを進めて村に鉄道が通ると、その線路が通るルート上にあったゲーブルの家は取り壊されてしまったりと、踏んだり蹴ったりな目に遭うのだ。
さて、現実ではどんな感じなのやら……。
「マルロー村長! あなたは一時の金儲けに目が眩んでいるのではないか? 鉄道が通って外部の人間が訪れられるようになっても、人の手が入っていない自然の恵みと美しさを失えば、すぐに人々はこのような辺境には来なくなるのだぞ。採取し尽くし、荒らされた田舎の村に価値など無いからな」
「しかし、今のままではその自然の恵みを有効活用する手段が皆無ではないか。魚も森の恵みも、取り過ぎなければいいんじゃよ。それに、外の物資が手に入れば皆も喜ぶ」
「……富を分かち合うつもりなど無いだろう。あなたは独占しようとするはずだ」
「なっ!? わしは、そんな……」
まあ、この村長は村で採れるトリュフが高値で売れると知ると、独占して自分の家だけを個室にしたりして、住民には散々恨まれる奴だからな。
少し、釘を刺しておいた方がいいか。
しかし、環境問題は色々とデリケートな案件だ。
ナチュラリストや活動家といった類の連中の多くは、私腹を肥やすことかヒステリーの言い訳に環境問題や動物愛護を使って八つ当たりをすることが目的の気違いだが、ゲーブルがどういう人間なのかはこれだけではわからない。
慎重に見極める必要がある。
「ゲーブルさん、環境保護の大切さは俺もナツメッグ博士も承知しています。いずれはビークルや自動車産業も、ガソリンエンジンだけでなく環境に配慮したクリーンなエネルギーを用いた動力源の開発などが必要になってくるでしょう」
「いや、私が言っているのはそういうことではなく、この自然の美しさをですね……」
この反応は現代なら人の話に耳を傾ける気が無いヒステリーで確定だが、この世界では理解できないだけの可能性もあるな。
「まあ、とにかく。この村単位の問題としては、次世代も育まれているそれなりの規模の村という時点で、開拓や利便性の追求より環境保全を優先するメリットが無いということです」
金でも貰えれば森番や管理人をやる奴くらいいるだろうけどな。
この時代に、国が環境保護のために助成金など出すわけがない。
「もしも、あなたが本気で人の手が入っていない自然が好きだというのなら、他の場所を探した方が賢明だと思いますよ」
ぶっちゃけ、この世界には未開地が結構多い。
ハッピーガーランドやネフロ周辺は開発が進んでいるというだけで、開拓自体が環境問題というほどではないのだ。
そこも原作と違う点かもな。
「……わかりました」
どうやらゲーブルは原作と同じくこの村を出ていくことになりそうだ。
確か、ミームー村の駅が開通した後はハッピーガーランド近くのゴールドーン村で働いていたな。
まあ、そこまで未開地が好きなら勝手にするといい。
……幼い息子を自分の不便な生活に付き合わせるのはどうかと思うけどな。
「村長、この村の特産になり得るものを調べさせていただきたい。鉄道会社に路線延長のメリットを説明する上で説得材料になるので」
「ええ、ええ。それはもう……」
マルローは満面の笑みだ。
「住民の皆さんにも暫定の調査結果は伝えます。これは決定事項です。妙なことはなさらないように」
「は、はい!」
俺が軽く殺気を滲ませて睨んだだけで、マルローは泣きそうな表情で震え始めた。
まあ、トリュフの価値を他の住民が理解しておけば、マルローが利益を独占することにはならないだろう。
ミームー村には伝書鳩を託し、ネフロ駅長には村長マルローの手紙を渡して鉄道延長の件はペンシル鉄道に通したので、この一件はしばらく俺の手を離れるだろう。
まずはピジョン牧場駅の建設だが、それが終わればミームー村への路線延長が本格的に始まる。
その際には俺が『ディープアングラー』のスクラップや積んであった資材を提供するという話も通した。
巨大ビークルとはいえ、長い線路を作るのにあの量の鉄材で賄えるのは微々たるものだろうが、俺が後押しする事業ということでナツメッグ博士の肝煎りであるという箔が付く。
こういう時には名前を大いに利用させてもらおう。
ところで、ミームー村に預けた伝書鳩はいわゆる往復鳩だ。
どういう技術なのかはわからないが、この先もミームー村とネフロ駅間では最低限の連絡がつく。
あとは勝手に進めてもらいたい。
俺が出張るのは、村長のマルローがおかしな欲を出して妙なことを始めた場合だけだ。
「ふむ、お前さんが巨大魚などという与太話の段階から妙に湖の件に執心だった理由は……これか?」
ナツメッグ博士は俺が作ったパスタをフォークで持ち上げながら聞いてきた。
今日のメニューはニジマスのような魚のムニエルとトリュフ入りのチーズソースをかけたパスタだ。
魚もトリュフもミームー村から買ってきたものである。
マルローに公正な取引と利益を独占しないことを約束させた手前、俺も適正価格で買う必要があったので、トリュフは結構なお値段になった。
小さな籠一つ分の食料で銀貨がいくつも飛ぶなど初めての経験だ。
しかし、それだけの金を出す価値は十分にある。
前世では本物のトリュフなど食べたことは無いが、こいつは得も言われぬ美味さだ。
「まあ、トリュフの美味さは予想以上でしたがね。ついでですよ、ついで」
「ふん、まあよい。お前さんの『運命視』で唯一信頼できるのが、事の重大さだけじゃからな」
確かに、ダンディリオンの事情や巨大魚が盗賊の潜水ビークルであることなど、最重要な事柄や脅威度が高いことほど詳しく覚えている。
何だかんだで、ナツメッグ博士も俺のことは信用してくれているようだ。
まあ、度々やらかす記憶が曖昧な点や現実との齟齬を認識できていないところで、ちょいちょい信用は失っているのかもしれないが。
例えば、先日のミームー村行きでも、現実の湖の規模に思い至らず、日帰りで行けると思っていたりとかな。
実際は、向こうで一泊する羽目になった。
「そういえばグレイ、そろそろじゃな」
「……そうですね」
急に博士が真面目な雰囲気になった。
この世界に来てからもうすぐ一年が経つ。
最近は眼鏡越しでも博士の表情が何となくわかるようになった。
大きな進歩だ。
「お前さんがハッピーガーランドで何をしようとしているのかは聞かん。じゃが、くれぐれも気を付けるのじゃぞ」
「ええ」
「……うむ、まあ四六時中狙われるお尋ね者になったわけではないんじゃ。休暇を楽しんでくるといい」
「はい」
後日、俺は荷物をまとめてネフロ駅に向かい、ハッピーガーランド行きの電車に乗り込んだ。
原作では、このサブイベントがシリアスだったのなんのって......。
技術の進歩や発展が人々の幸せに繋がるのか、というテーマはゲーム全編を通して一貫しているのですが、ミームー村と住民たちの描写は深刻なものが多かったですね。((+_+))
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。