steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
原作ゲームのエリア内で最大の都市であるハッピーガーランドに到着した。
ネフロに比べると、数十年は技術レベルが進んでいるような街だ。
建物から漏れる光の量が多く、路面電車の線路が街中に敷かれている。
近代化が凄まじい勢いで進んでいるようだな。
駅を出てすぐ右にある建物は闘技場だ。
Sランクの俺は今すぐにでもエルダーに挑戦できるのだが、さすがに今日の宿も決まっていないうちからバトルに出場する気にはなれない。
とりあえずはトロット楽団メンバーの定宿であるロブスター亭に行こう。
金はあるのでステーションホテルかリバーサイドホテルに泊まってもいいのだが、あの二つのホテルでは支配人同士が見栄を張り合っていて鼻持ちならないほど気取っている。
ゲームでも、主人公が訪れると予約でいっぱいだの何だのと言われて宿泊を断られるのだ。
実際には、経営は火の車状態で完全な赤字だ。
ナツメッグ博士の身内である俺ならば、普通に部屋を借りられる可能性もある。
恐らく、有力者や有名人の宿泊は断らない。
ゲームではフェンネルも普通にステーションホテルに泊まっているからな。
しかし、原作での印象の悪さから、どうしても敬遠してしまうのは仕方ないだろう。
それこそ、俺がどちらのホテルに泊まったかで面倒事が起きる可能性もある。
大人しくロブスター亭に泊まろう。
ゲームのように客室が二部屋だけなんてことは無いはずだ。
ロブスター亭の駐機場にビークルを停め、シートの下からスーツケースと楽器ケースを引っ張り出した俺は、ロブスター亭に足を踏み入れた。
「いらっしゃい」
迎えるのは小太りの宿の主人ダスティンだ。
原作では、玄関から入ってすぐステージ付きの食堂があり、ダスティンはバーテンのクリスと一緒にバーカウンターの中に居たのだが、現実では構造も多少違っているようだ。
入り口の受付からは階段が見えるが、食堂とは壁で仕切られているのでステージの様子は見えない。
「お泊りかい? 食事だけかな?」
「部屋をお願いします。とりあえず一週間で」
「はいよ」
台帳に記入すると、店主は驚いた表情で俺の顔を凝視した。
「グレイ……黒髪の大男。もしかして、コニーちゃんたちが言ってた、ナツメッグ博士の助手ってのは……」
どうやらトロット楽団の面々から俺のことが伝わっていたようだ。
「まあ、そうですね。コニーとフェンネルとセイボリーとは面識がありますよ」
「こりゃたまげた。てっきり、あんたはステーションホテルかリバーサイドホテルに泊まるものだと思っていたよ」
「ええ、それも考えていたのですが……ちょっと、向こうに泊まると面倒な事情がありましてね」
そんな会話をダスティンとしていると、見知った顔が階段から下りてきた。
「あ、見て! グレイよ」
「あら、グレイ。久しぶり。ハッピーガーランドに来ていたの?」
「セ、セイボリー? 知り合いなのかい?」
「グレイ? ああ、前にコニーたちが言ってた、ナツメッグ博士の助手の?」
「……よう、久しぶりだな」
ゲーム主人公が入団する前のトロット楽団メンバーが勢揃いしていた。
「じゃ、改めてよろしく。僕はマジョラム。トロット楽団のドラマーで、マネージャーみたいなこともやっているんだ。あ、グレイと同じくサックスも吹くよ」
「僕はバジル。……ねぇ、グレイ。君はセイボリーとはどんな関係なんだい?」
部屋に荷物を置いた俺は、食堂でトロット楽団の面々と顔を会わせていた。
会って早々セイボリーとの仲を邪推するとは……バジルのそういうところは原作通りか。
「ああ、よろしく。マジョラムにバジルとは初対面だったな。あと、セイボリーとはフェンネルと一緒にネフロのバーで会ったんだよ。俺が演奏しているときにさ。それ以来だな」
「そ、そうなんだ……ほっ……」
ネタバレしてしまうと、バジルの思いは永遠に届かないんですけどね。
「それで、グレイはどうしてハッピーガーランドに来たのかしら? 観光?」
セイボリーの問いに俺は微妙な表情をした。
「うん、まあ、休暇も兼ねているんだけど……ナツメッグ博士の使い走りの仕事もあってね」
オイルモーレ工場に製造を委託した洗濯機の件でも、一度は俺が視察に行って話を詰めなければならない。
これはナツメッグ博士から任された大切な仕事だ。
個人的な用事の方も、闘技場でエルダーと対戦して、チコリの件を改めて調べて、ブラッディマンティスの情報を集めなければ。
可能ならばゴールドーンにも顔を出しておきたいな。
あそこの温泉は整備しておきたい。
やることは山積みだ。
「何だか、忙しそうだね」
いえいえ、楽団のマネジメントを一手にこなしているマジョラム君には敵いませんよ。
「そういえば、お前Sランクになったらしいな。闘技場には出るのか?」
フェンネルは自身がAランクのビークルバトラーなのもあって、俺がシュナイダーに勝ってSランクになった話も知っているようだ。
「時間があるときには出ようと思ってるよ。エルダーと一度は手合わせしてみたいからな」
チラっとセイボリーの方を盗み見るが、彼女の仕草や表情には何の変化も無かった。
さすがにボロは出さないか。
彼女はエルダーことダンディリオンの代理でブラッディマンティスを仕切っており、言わば真の総帥といった立場にある。
長いこと秘密結社を裏で操ってきた女傑だ。
俺のカマかけに反応してしまうほどの未熟者ではないだろう。
「そうか。できれば、俺とも手合わせを頼む。ネフロの英雄シュナイダーに勝つほどのビークル乗りだ。きっと相当な腕なんだろう?」
「ああ、ご期待に添えるかはわからないが、機会があったら頼むよ」
「ねえ、グレイ。前にセイボリーとフェンネルから聞いたんだけど……」
俺たちはコニーに向き直った。
「グレイって、サックスとピアノが凄く上手なんだって?」
本職の彼らを前にして肯定することなどできないが、俺が困った顔をしているとセイボリーとフェンネルが揃って口を開いた。
「ええ、そうよ。ピアノの技術に関しては、私よりも上でしょうね」
「ああ、サックスの腕前も大したもんだ」
「へぇ! そうなのかい? セイボリーはともかく、フェンネルが褒めるなんて珍しいね~」
馬鹿正直なバジルの物言いにフェンネルの眉間に皺が刻まれるが、セイボリーはさらに尻馬に乗って茶化す。
「ふふっ、確かにそうね。珍しいわね」
「……俺は事実を言っているだけだ」
フェンネルが不機嫌に鼻を鳴らし、俺が返答に困る中、マジョラムは落ち着いて口を開いた。
「この二人がそこまで言うなら間違いないな。グレイ、もしよかったらトロット楽団に入ってくれないか? 今は定期演奏会のための練習と調整の期間だから、次の公演には十分間に合うはずだ」
正直、この話は予想外だ。
まさか、楽団メンバーの方から勧誘があるとは。
しかし……こんなザルな審査でいいのだろうか?
いや、それ以前の問題として今からメンバー入りするのはスケジュール的にキツいのではないだろうか。
「マジョラム、ありがたい申し出けど……俺にもナツメッグ博士の助手の仕事がある。君たちと常に同行するのは無理だ。悪いが……」
「あら、それなら助っ人になってもらえばいいんじゃない?」
断ろうとした俺に、セイボリーが待ったをかけた。
「助っ人?」
「そう。グレイの楽器はサックスとピアノよ。彼がサックスを吹いてくれればマジョラムもドラムに集中できるでしょう? それに……私が私用で出られないときに、ピアノを代わりに弾いてもらえるのなら助かるわ」
普段の担当がサックスならば、居なくなってもバンドが成立しなくなるパートじゃないのか。
そういえば、ゲームではロブスター亭の定期演奏のときは、ドラマーのはずのマジョラムがサックスを演奏することが多かったな。
現実でどういう構成にするつもりだったのかはわからないが、少なくとも俺が居ればドラムとサックスの両方が欠けることなく演奏できるわけか。
しかし、最後のは少し引っ掛かる。
セイボリー不在時の代理ということは、俺が居ることで彼女がブラッディマンティスの活動により多くの時間を割けるようになるだろう。
……いや、もし俺が彼女を疑っていることを承知しているのならば、こんなあからさまな真似はしないか。
俺を代理に立てて姿を消せば、今まさに怪しいことをしています、尻尾を掴んでください、と言っているようなものだ。
結局のところ、俺は助っ人を引き受けることになった。
バラードメインのポップスを演奏する楽団なので、サックスパートが居なくなっても曲の構成全体に大きな影響は無く、ピアノもセイボリー不在時の補欠だから常に必要とされるわけではない。
これなら、ゲーム本編開始までの時間を多少は楽団に割いても大丈夫だろう。
「ありがとう、グレイ。それじゃあ、次の合わせ練習から来てくれるかな?」
「ああ、わかった。……もし、俺の力量が足りないと思ったら、遠慮なく言ってくれ。先に言い訳しておくが、トロット楽団の曲は俺の専門ジャンルじゃないからな」
「ははは、そんなことにはならないと思うけどね」
いや、マジでそれは心配なんだ……。
マジョラムから受け取った譜面は、意外なことに「Fly me to the moon」そっくりの譜面だった。
コード進行がほとんど同じなのは助かった。
これならやりやすい。
まだ本編の楽曲はダンディリオンから来ていないようだ。
後日、俺はトロット楽団の練習に参加することになったのだが、マジョラムたちからの反応を見る限りどうやら合格のようだ。
よかった。
ナツメッグ博士の楽器に感謝だな。
夜、ロブスター亭の俺の部屋に来客があった。
「ん、バジルか。どうしたんだ?」
「うん、ちょっとグレイに聞きたいことがあるんだ……」
何やら思い詰めた表情だ。
彼がこういう顔をするのはセイボリー絡みだろう。
俺と彼女の仲を邪推するのは終わったはずだが……。
「最近さ、セイボリーの髪が凄く綺麗になったじゃない」
「いや、知らんけど……」
しかしバジルは止まらない。
「もちろん、あのキラキラした金髪は前から綺麗だったけど、最近は……何かこう艶が出てきてさ。それに、凄いサラサラに纏まっているんだ。風に靡いたときなんて、太陽の光を反射して女神のようだった。あ、セイボリーが言うにはコニーの髪も綺麗になったらしいんだよ。まあ、セイボリーが一番だけどね」
これ……最後まで聞かなきゃダメか?
「どうやら最近あちこちで流行っているリンスとかいう化粧品を使っているらしいんだけど……セイボリーが言ってたんだ。グレイのおかげ、って」
まあ、この国でリンスを最初に開発したのは俺だからな。
因みに、一般に広く使われているリンスは柑橘類の果汁や皮で作る簡単に自作できるものだが、一部では蒸気で薔薇などから精油を抽出して香りづけに使った高級リンスも販売している。
ナツメッグ博士経由で精油の抽出法を確立し、高級品として売り出したのだ。
富裕層向けの限られた商売だが、小遣い稼ぎには十分すぎるほどの金が舞い込んでいる。
コニーはともかく、セイボリーが使っているリンスは恐らく高級な方だろう。
有名人のセイボリーが使ってくれれば、宣伝効果で売り上げもアップするというものだ。
ありがたいことで。
「リンスとグレイに何の関係があるの?」
バジルはそこら辺の事情を知らないようだな。
しかし、そんなことを聞くためだけにわざわざ俺のところに来たのか……。
セイボリーとコニーに聞けばいいのに。
まあ、セイボリー絡みだとバジルはおかしくなるので仕方ない。
「リンスは俺とナツメッグ博士で開発したものだよ。どうやら、男性にはまだあまり定着していないみたいだけどな。基本的なリンスなら自宅でも作れるが、富裕層の女性向けに香りにこだわった高級品も売っているんだ」
「あ、そういうことか……」
バジルは納得したようだ。
「よかった……てっきり、グレイがセイボリーに……」
勘弁してくれ。
最終的には敵対する可能性のある相手だぞ。
彼女と深く関わるつもりは無いさ。
しかし、こんな心配をしていても、セイボリーの心の中にバジルは居ないんだよな。
何せ、彼女がブラッディマンティスの側に付くのは、愛するダンディリオンの復讐に協力するためなのだから。
可哀想だからこれは伝えないでおこう
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。