steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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22話 エルダー戦

 

 ガーランド闘技場にビークルを乗り入れて、俺は選手控室で一人の男の姿を探していた。

 大都市の闘技場だけあって選手控室も豪華だ。

 ネフロとは大違いだな。

 ビークルの待機場を横切ってしばらく歩くと、目当ての人物を見つけた。

 白いスーツの仮面を被った男が、闘技場のホールを見下ろしている。

 彼がビークルバトルトーナメントチャンピオンにして“白い悪魔”の異名を持つ最強のビークルバトラー、エルダーだ。

 仮面の下の正体は、ナツメッグ博士の養子でこの国で屈指のバイオリニストにして元トロット楽団のリーダー、ダンディリオンだ。

「……何か用か?」

 俺の気配と視線に気付いたらしいエルダーはそのままの体勢で声を掛けてきた。

「あなたがエルダーだな。俺は「知っている」」

 エルダーは俺の言葉を遮ってから振り返った。

 数歩前に出て、俺との距離を縮めてくる。

 背丈は俺より数センチ低い程度。

 この世界の基準で言えばかなりの長身だ。

 豪奢なスーツで着痩せしているのかもしれないが、それでも戦いに身を置いているようには見えない細身の優男だ。

 しかし、纏う気配には尋常ではない覇気と研ぎ澄まされたナイフのような冷たい殺気が混じっている。

 なるほど、危険な男だ。

「“ナツメッグ博士の右腕”グレイ。そろそろ来る頃だと思っていたよ」

「…………」

 これは、新たにSランクになったビークルバトラーとして挑戦しにくることを予想していたって話かな?

 それとも、ブラッディマンティスの手先に俺を監視させているという意味か?

 まあ、ここで問いただす意味は無いだろう。

「今日は私の対戦枠も空いている。手合わせしないか?」

「……ああ。俺もそのつもりで来た」

 まさかエルダーから対戦を提案されるとは思ってもみなかったな。

 まあいい。

 俺の心構えも、ビークルの整備も万全だ。

「受付に申請してくる」

「うむ」

 

 

 ガーランド闘技場はその日一番の熱狂に包まれていた。

 有望な新Sランクバトラーの俺とチャンピオンのエルダーの対戦である。

 年に一度のビークルバトルトーナメントではないので、俺が勝ったとしてもチャンピオンの称号やKランクライセンスが手に入るわけではない。

 エルダーにしても、負けたからといってランクが降格されるようなこともない。

 要はエキシビションのようなものだが、それでも俺とエルダーの対戦カードはスポーツ誌に取り上げられてもおかしくないほどの注目度だ。

「さて、行くか」

 俺は闘技場の係員の誘導に従い、ビークルをリフトに移動させた。

 

“白い悪魔” エルダー 【ホワイトレクイエム】

vs

“ナツメッグ博士の右腕” グレイ 【ジャガーノート】

 

 エルダーのビークル【ホワイトレクイエム】は、長距離キャノンアームとエクスカリバーアームという、どちらも数値上では最高スペックを持つ遠距離武器と近距離武器で武装している。

 レッグパーツも強化型なのでダッシュのスピードも速い、タイマン勝負では最強のビークルだ。

 ゲームでは、エルダーの戦法はダッシュで後退しながら長距離キャノンアームを撃ち、近づくとエクスカリバーアームで斬りつけるというものだった。

 ゲーム内ならば長距離キャノンアームを撃たれてから横ダッシュで躱すことも難しくなく、接近してエクスカリバーのラッシュをモロに食らう前に持ち上げて投げ、追撃を加えれば普通に削り切ることができた。

 しかし、現実の戦いはゲームとは違う。

 長距離キャノンアームから発射されるミサイルは、簡単に躱せるなんてことはないだろうし、当たり所が悪ければ一発で俺のビークルはお釈迦になってしまうだろう。

 エクスカリバーの脅威も、ブレードアームやアックスアームより一、二段上のダメージを食らうというだけでは足りないだろう。

 何せ魔法金属を使った超合金の大剣である。

 最悪、ビークルのボディごとコクピットの俺が真っ二つだ。

 現実はHP制じゃない。

 一撃で乗り手がくたばることもあり得る。

 

 

「っ!」

 開始の合図と同時に【ホワイトレクイエム】の長距離キャノンが発射された。

 あの武器の弾は、ミスリルのなり損ないだか副産物の『魔銀』を加工して弾頭に搭載し、熱源からビークルを探知して追尾する、対空ミサイルの基本形のような構造だ。

 ミサイル型の飛翔体なので、弾頭に詰められている炸薬も多く、平行移動で遮蔽物の合間を縫って回避行動を取っていた俺の近くで激しい爆発を起こすと、瓦礫の破片が飛び散って視界を覆う。

 俺も負けじとチェーンガンを打ち返すが、向こうも遮蔽物の使い方を熟知している。

 命中弾は無かった。

「おっと」

 エルダーの長距離キャノンで吹き飛ばされた遮蔽物から飛び出し別の場所に移ったことで、偶然にも俺とエルダーを阻む壁はスクラップのバスだけとなった。

 いつ接近戦に突入してもおかしくない距離だ。

 ジンジャーとの特訓で培った近距離武器と射撃武器のスムーズな切り替えが役に立ちそうだ。

 バス越しに隙間から狙いを定め、エルダーの【ホワイトレクイエム】のボディ横にチェーンガンを撃ち込む。

「っ!」

 突如、エルダーはエクスカリバーの巨大な刀身を掲げ、俺の銃撃を凌ぐとそのまま剣を振り下ろしてきた。

 俺のバックステップが間に合ったので、エルダーのエクスカリバーはバスを真っ二つに断ち切っただけで終わった。

 俺はカウンターで右のアームの強化ブレードを突き出す。

 攻撃モーションの直後で伸び切ったエクスカリバーアームの接合部を狙った。

 金属を打つ鈍い音が闘技場に木霊する。

 俺はこの攻撃で有効打を与えたかと思った。

 しかし、エルダーは巧みなハンドルさばきでビークルの上半身を反転させて、俺のブレードの切っ先のクリーンヒットを避ける。

 【ホワイトレクイエム】のエクスカリバーを搭載したアームには深い傷が入るが、大破には至っていない。

 失敗だ。

「くっ!」

 一旦、落ち着いて仕切りなおすつもりだった俺は、予想外のエルダーの行動に一瞬だけ判断が遅れてしまう。

 俺に向かって真っ直ぐな向きで対峙していてエルダーは、敢えてダッシュで接近し、ブレストパーツのスパイクで正面から突進してきたのだ。

 ミスリルの装甲ブレストと傾斜装甲のおかげで【ジャガーノート】に目立った損傷は無いが、流し切れなかった衝撃に一瞬だけ息が詰まる。

 背筋に感じた寒気に従い、俺は急いでビークルを後退させたが、次の瞬間、【ジャガーノート】の装甲ブレストに大きな亀裂が入った。

 体勢を立て直しながら見ると、【ホワイトレクイエム】はエクスカリバーアームを大きく振り抜いた後だった。

 どうやらざっくりとブレストパーツの装甲を斬られたようだ。

「(危ねぇ……)」

 回避が間に合わなければ、俺は完全に相手の斬撃に捉えられていた。

 チャンピオンの名は伊達じゃない。

 エルダーのバトルのセンスには、神がかったものがあるようだ。

 

 

「…………」

 【ホワイトレクイエム】のエクスカリバーアームからは不自然な火花が噴き出している。

 どうやら俺の強化ブレードアームで軽くないダメージを受けたところに、無理なモーションで攻撃を繰り出したため、まともに剣を振ることはできないようだ。

 仮面で表情が読めず無言のエルダーだが、気配からは焦りと若干の諦めが見て取れる。

 悪いが、同じ土俵に立っている以上、このチャンスを逃すつもりは無い。

 俺はペダルを踏みこんで【ジャガーノート】を加速させると、エクスカリバーの攻撃範囲を警戒してアウトレンジで戦う場合よりも近い距離を保ち、確実にボディにチェーンガンの弾を撃ち込んでいく。

 エルダーは苦し紛れにエクスカリバーアームを振るうが、質量だけの攻撃ではスピードの面で遥かに俺のブレードには及ばず、出力の伝達に問題がある以上はパワーにおいても完全に【ジャガーノート】に劣る有様だった。

 結果、強化ブレードアームと打ち合って簡単に弾かれたエクスカリバーアームは、その衝撃が致命傷になったのか完全に動かなくなる。

 長距離キャノンを使えない接近戦の中、左アームの手の部分を用いた格闘でもエルダーは一定の力量を示したが、シュナイダーで接近戦タイプの敵に慣れていた俺には通用しない。

 亀裂はあるものの健在な装甲ブレストで突進を繰り出し、【ホワイトレクイエム】がバランスを崩したところでレッグパーツの関節部をチェーンガンで撃ち抜いた。

 足を奪われた【ホワイトレクイエム】では戦闘の継続は不可能だ。

 審判が俺の勝利を告げた。

 

 

 【ジャガーノート】のブレストパーツの応急修理を闘技場の整備士に頼み、ファイトマネーを受け取った俺が控室に戻ると、そこにはフェンネルが居た。

「よう、グレイ。見てたぜ、エルダーとの試合。凄ぇじゃねぇか、チャンピオンに勝っちまうなんてよ」

 どうやらフェンネルは俺の後に闘技場にやって来て、俺とエルダーの対戦を観ていたようだ。

「ああ、フェンネル。どうにか勝てたよ。まあ、通常対戦の結果としては上々だろう。ちょっとブレストパーツのダメージが大きかったけどな」

 既にジンジャーを相手取ったときに装甲ブレストを凹まされるという経験がある。

 それなのに、今回は躱しきれないどころかざっくりと切り裂かれてしまった。

 ジンジャーが知ったら呆れるかもしれないミスだ。

「まったく、とんでもねぇな。こりゃ、今年のビークルバトルトーナメントには一波乱ありそうだぞ」

「……あ~、フェンネル。今年のトーナメントには俺は出ないと思う」

「そうなのか?」

 もうすぐ、毎年恒例の世界中の有名なビークル乗りが集められて勝敗を競う大会、ビークルバトルトーナメントが開催される。

 しかし、ゲーム本編開始と主人公の到着まであと一年ほど。

 ナツメッグ博士の助手の仕事の傍ら、本編時期への準備とトロット楽団の助っ人をこなす俺に、今年のトーナメントに出場しているほどの時間と余裕があるとは思えない。

 既に、ガーランド闘技場の受付からも俺に出場要請が来る可能性については聞いていたが、こればっかりは仕方ない。

 今年の出場は見送らせてもらう方向で伝えてある。

「そいつは残念だ。お前には観客だけでなく多くのビークル乗りも期待しているんだけどな」

「すまんね。次回は出られる……と思う」

 そんな何気ない会話をフェンネルとしながら、俺は自分のビークルの応急修理が終わるのを待っていたが、ふと控室の隅で目にした光景に目を見張った。

「エルダーは……何をしているんだ?」

「ん? ああ、あいつは整備士に頼らない。【ホワイトレクイエム】には一切触らせないんだ。バトルで傷ついたときも控室に機材を広げて自分で修理するし、バトル前も外で万全の準備を期してから闘技場に姿を現す。恐らく、整備士経由でビークルの情報が漏れるのを防ぐためだろう」

 そんなに秘匿したところで何になるのかな?

 長距離キャノンアーム含め、基本的な【ホワイトレクイエム】のパーツは強力だがそれほど珍しいものではない。

 エクスカリバーアームには謎も多いだろうが、見る人が見れば大体の性能の予想はつく。

 それこそ、うちには世界中のビークルパーツの知識があるナツメッグ博士が居るので、そんな小細工など意味が無いものに思えてしまう。

「今日はお前に散々壊されたからな。修理に苦労しているみたいだ」

 なるほど、そいつはお気の毒様だ。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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