steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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24話 仮面

 

 ナツメッグ博士の助手の仕事をこなしつつ、トロット楽団の助っ人として定期演奏会に出演する日々を過ごし始めてから一年弱。

 もうそろそろゲーム本編が始まる兆候があってもいいはずだ。

 最近の大きな出来事としては、ついにピジョン牧場駅と俺の家が完成したことだ。

 牧場まで路線が伸びたことで、俺はハッピーガーランドとナツメッグ博士の工房の行き来が今までよりも容易になった。

 ゲームよりも前倒しでの工事終了だ。

 これは主人公たちにとっても大きな利益となるだろう。

 俺の家はナツメッグ博士が設計した最新式のデザインで、俺の個人的な研究室にピアノとドラムを設置した音楽室、大きめのベッドを置いた寝室、それに俺が設計に口を出しまくった浴室で構成されている。

 食事は博士と一緒に摂るので、キッチンと食堂は今まで通り博士の家でこと足りる。

 工房も俺が補佐をしながら博士が作業をして、というパターンがほとんどなので、わざわざ俺の家には作っていない。

 博士の家と俺の家はドア一つで行き来できるので、現代でいうところの二世帯住宅のようなものになったわけだ。

 因みに、浴室には俺が細かく口を出して、広めの洗い場と排水溝に向かって傾斜を付けた床、大きめのバスタブと換気扇の設置、石鹸やシャンプーやリンスを置くための棚を追加したので、ナツメッグ博士も驚きの快適空間になっている。

 現代人の風呂への執着を舐めてはいけない。

 俺の口出しに不可解な顔をしていたナツメッグ博士も、今や自分のところのシャワー室を使わず俺の家に来るくらいだ。

 

 

 ハッピーガーランドのオイルモーレ工場を訪れていたある日、最近では珍しいことにちょっとした諍いがあった。

 今日は洗濯機の話ではなく、ミームー村への鉄道開通のための資材発注に関する話で来たのだ。

 巨大な潜水艦ビークル『ディープアングラー』のスクラップと中に貯め込んでいた資材があるとはいえ、大型の湖を迂回する鉄道ルートを作るほどの資源には到底足りない。

 こういう根回しも必要である。

「んじゃ、よろしくお願いしますよ」

「はい、今日はありがとうございました」

 担当者との話し合いが終わり、ロブスター亭に戻ろうとしていたところで、俺は工場の敷地の隅に人影を見つけた。

 あそこはスクラップ置き場だ。

 奥の方に人が居ることなど珍しい。

 つい興味本位でそちらに足を延ばしてしまう。

「ん?」

 複雑に詰みあがったスクラップの奥に、一台のビークルが隠されるように駐機されているのを発見した。

 どう見ても通常仕様のビークルではない。

 戦闘用のカスタムだ。

「【スティール・モラル】か」

 ビークルバトル仕様ではあるが、強力な武装であるウィップアーム以外は装飾重視だ。

 ガーランド闘技場には俺も何度か出場しているので、このビークルの持ち主を見たことがあるし、対戦したこともあれば言葉を交わしたこともある。

 “女帝”の異名を持つAランクバトラーのサフランだ。

 昼間の彼女は眼鏡を掛けた地味な工員ビスカスとして働き、夜には仮面で顔を隠した妖艶なビークルバトラーのサフランとして闘技場に出場している。

 そういえば、原作では彼女は借金のある男を匿ってビークルバトルで稼いだ金を貢いでいたな。

 サブイベントの結末としては、最終的に男に金を持ち逃げされてしまう。

 サフランも騙されていることには気が付いていたが、嘘でも優しくしてくれる男に……的な内容だった。

「(なっ! 何で居るんだ!?)」

「(っ! リッキー! どこへ行くつもりなの?)」

 原作でのシナリオを思い出していると、先ほど人影が見えた奥の方から声が聞こえてくる。

 この距離からでも緊迫した怒声だとわかる。

 これは無視できない面倒事になりそうだ。

 俺はショルダーホルスターの拳銃を確かめると、サフランのビークルから離れて声のした方向に足を進めた。

 

 

 サフランの家はオイルモーレ工場のスクラップ置き場にある掘っ立て小屋だ。

 Aランクバトラーに相応しくない暮らしぶりだが、これもヒモ男のリッキーを目立たない住居の地下に匿うためだ。

 声の主を追うと、案の定ゲームで見たのと同じ汚い小屋が目に入った。

 小屋の前では一組の男女が口論している。

「くそっ! ビスカス、何でこの時間に……」

「き、今日はたまたま試合が組まれた時間が早かったのよ。だから……」

「ちっ、そういうことかよ……。あ~、わざわざありがとう。でも、俺はちょっと野暮用があるんだ。すぐ戻るよ」

「な、何を言っているの!? 捕まってしまうわ! リッキーは家の中に「うるせぇ!」っ!」

 サフランことビスカスがヒモ男のリッキーに突き飛ばされた。

 鈍い音がして、サフランは地面に倒れ込む。

 彼女の荷物鞄も手から投げ出され、中身がこぼれ落ちた。

 その中には闘技場で見慣れた仮面もあった。

「へ、へへっ、何だよ……。凄腕のビークル乗りでも、生身じゃただの弱っちい女じゃねぇか……」

「リッキー……何故……?」

「何故? お前も気付いていたんだろ。俺がお前を騙していることによ」

「っ!」

「まあいい。これだけありゃ、借金を返してもかなり残るな」

 リッキーは近くにあった金属パイプを持ち上げるとサフランに近づく。

「へへっ、悪く思うなよ。追ってこられると面倒だからな……」

 マズいな。

 まさかここまでの急展開になるとは。

 俺は物陰から出ると拳銃を抜いてリッキーに鋭く警告した。

「動くな!」

「っ!」

 俺の銃の照準はリッキーの眉間にぴったりと合わされている。

 距離は五メートル以内。

 絶対に外さない距離だ。

 リッキーは慌てて鉄パイプを捨てた。

「ま、待て! 金ならある! 借金は、今返すから……」

「あなた……グレイ?」

 リッキーは俺を借金取りだと思ったようだが、サフランはすぐ俺に気が付いた。

 まあ、闘技場では何度も顔を会わせているからな。

 それに俺は別に変装なんかしていないし。

「くっ、お前……ビスカスに雇われたのか? いや、こいつの男か? 畜生! 俺以外に男が居たなんて聞いてないぞ!!」

 今度はゲスな勘繰りか。

 救い難い奴だな。

「リッキー、両手を上げて地面に伏せろ」

「か、金を山分けしないか!? ビスカスが欲しいんなら、あんたにやるから……」

 俺は拳銃のハンマーを起こした。

 こんな動作を戦闘中にすれば、狙いがブレるうえに撃鉄を親指で操作している間は引き金を引いて撃つことができない。

 隙を作らないためには本当はやりたくないのだが、シリンダーが回りハンマーが後ろにロックされる金属の音はそれだけで人間を委縮させるのに効果的だ。

「ひっ」

「二度は言わん」

 リッキーは金の入ったバッグを放り出すと、両手を高く上げて膝をついた。

 そのまま頭を下げて地面にうつ伏せになろうとするが……俺はリッキーの側頭部を蹴り飛ばした。

「びぇぶっ!」

 回し蹴りがクリーンヒットし、俺の体重が転化された衝撃をモロに食らったリッキーは、地面を転がりながら吹き飛んだ。

 小柄な優男のリッキーが俺の手加減無しの蹴りを食らえば、こうなるのも当然だ。

 リッキーはサフランの小屋の壁に背中からぶち当たった。

 頭から血を流して呻いている。

 俺は撃鉄とフレーム内のファイアリングピンの間に指を挟んで、慎重に拳銃をデコックしてホルスターに仕舞った。

 そのまま頭を押さえて蹲るリッキーに歩み寄る。

「や、やめて!」

 サフランは俺を止めようとするが、このままリッキーを放置するのは危険だ。

 とりあえず後ろからリッキーの首根っこを掴んで地面に押し倒すと、リッキーの右腕を踏みつぶして関節を破壊した。

「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」

 これでリッキーは利き手が使えない。

 凶器を出して反撃してくる可能性は、ほとんど無くなったと見ていいだろう。

 

 

「サフラン、大丈夫か?」

「……ええ」

 俺はリッキーに突き飛ばされて腕を痛めたサフランを助け起こすが、彼女は俺と目を合わせようとはしなかった。

 その弱々しさからは仮面の女帝バトラーの姿は想像もつかない。

「サフラン、言っておくが……こいつの思惑がはっきりしてしまった以上、今までの関係に戻ることはできないぞ」

「わかってる……」

 ヒステリーな女なら俺を責めてもおかしくないが、さすがは女帝サフラン。

 強い女だな。

 こういう部分を見ると、衣装は違っても確かに彼女がサフランなんだと確信できる。

「ぐっ……いてぇ……。ビスカス……お前、強いんだろう……? あの化け物を殺してくれよぉ……」

 今も痛みに呻きながら無責任なことを言うリッキーに僅かに視線を送るサフラン。

 彼女も既に後戻りできないことはわかっているはずだが、やはり自分から決別の言葉を口にすることはできないようだ。

「おい」

「や、やめてぐれ! 何が欲しいんだ? ビスカスならやるって……」

「まだ言うか、ゲス野郎!」

 正直、こんな奴とはもう話したくないが尋問はしなければ。

 リッキーが借金をしているのは本当らしい。

 そいつらが非合法な組織なのであれば、その情報は役に立つはずだ。

「お前が借金をした相手はどこのどいつだ? 吐け」

「そ、それを言ったら……逃がしてくれるのか?」

 俺はサフランの方に一瞬だけ視線をやるが、彼女はこちらを見ようとはしない。

 さすがにリッキーと話す気力は残っていないようだ。

 俺が片付けさせてもらおう。

「ああ。さっさと吐いて失せろ」

「へへっ……ありがてぇ……」

 リッキーは闇金組織と取り立て屋の名前を吐いた。

 この情報だけではブラッディマンティスや盗賊団との関係はわからんな。

「あと、もう一つ。お前、サフランのビークルに関して、どこかに情報を流したか?」

「? そんなことしてねぇ。俺はビークルとかバトルのことなんて全然わかんねぇよ」

 サフランの方を確認すると僅かに頷いた。

 リッキーがブラッディマンティスや何かの手先でサフランの情報を探らされている可能性は低いか。

 サフランのビークルのパーツ情報を手に入れても、そもそもビークルに関する知識が無いリッキーではまともに伝達できないだろう。

「よし、もういいぞ。消えろ」

「あ、足が……」

「両手両足を切り落とすか?」

 俺がナイフを取り出すと、リッキーは脂汗を流しながらも立ち上がって走り出した。

 

 

「…………」

「あ~、すまなかったな。君の稼いだ金は奴が持ったままだ」

「ううん、いいの。ファイトマネーは元々リッキーのために稼いでいたものだし……」

 何ともまあ……。

 Aランクバトラーのファイトマネーなら、それだけで小金持ちの生活ができる。

 そいつを全部あのヒモに食い潰されたわけか。

「生活費は……?」

「こんな場所に勝手に住み着いて潜伏しているのよ。目立たないためには、お金があっても最低限の食料くらいしか買えない……。工員の給料だけでもお釣りが出るわ」

 重い、重いよ。

「……バトルには、もう出ないのか?」

「わからない……でも、しばらくは……無理かも……」

 まあ、そうだろうな。

 Aランクのビークルバトラーといえば誰でもなれるわけではない。

 彼女も血の滲むような努力の果てに、今の強さとライセンスを手に入れたはずだ。

 そうして手に入れた財産を全てリッキーに捧げてきた。

 その献身を全面的に否定された彼女の心情は如何なるものか?

 おまけにあのゲス野郎は、自分が助かるためにサフランを犠牲にしようとした。

 本人の前で二回もサフランを俺にくれてやるなどと言ったのだ。

 正直、あれには俺も腸が煮えくり返る思いだ。

「しばらくは休むといい。リッキーのことを忘れちまえなどとは言えないが、早いところ復帰するこったな。君の出場を心待ちにしている連中が居る。観客も、対戦相手も」

「うん……」

「俺も相談とか愚痴くらいなら聞くからさ」

「うん……」

 しばらくはサフランの心の傷は開いたままだろうが、彼女はそれで自殺を考えるようなタマじゃないだろう。

 時間が解決してくれるはずだ。

 俺は地面に落ちたサフランの仮面を拾って手渡す。

「それじゃ、俺はこれで」

「うん……ありがとう」

 俺は踵を返してサフランのもとを辞した。

 それにしても展開が速かったな。

 まさか主人公が来る前に、サフランのトラブルがクライマックスを迎えるとは。

 原作知識が当てにならない部分なのか、俺の行動によって変わった部分なのか……。

 因みに、リッキーを尾行して彼と接触した借金取りをボコって尋問したところ、出てきた闇金組織はケチな弱小だった。

 念のためガーランド警察のファーガスンに情報を流して強制捜査に踏み切ってもらったが、ブラッディマンティスとの金の流れなどは掴めなかった。

 思いもよらぬところに手掛かりが、ってのを期待していたわけだが、そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないか……。

 




先に宣言してしまいますが、サフランは攻略対象ではありません。
もしかしたら、ビークル乗りとして力を貸してくれる展開にはなるかも......?w

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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