steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
フェンネルの【ブルー・サンダー】に乗ったダンディリオンは、真っ直ぐにウミネコ海岸方面の街の出口へ向かった。
俺も自分の【ジャガーノート】を駆り、ダンディリオンと一定の距離を開けて追跡する。
ダンディリオンがネフロの街を出てシラサギ河の中流域に差し掛かったところで、俺は水路の淵からシラサギ河に飛び込んだ。
街中なら他の自動車やビークルも居るので俺が発見される可能性は低かったが、街を出ればビークルの数は極端に少なくなる。
真後ろから追跡などしたら、たとえ物陰に隠れながら移動したところで、エンジン音と足音で尾行がバレてしまう。
シラサギ河は街の近くでは水路が整備されており、橋の下や水門からは激しい水の音がするので俺のビークルも隠れやすい。
耐水仕様で良かったな、本当に。
やがてダンディリオンのビークルはジュウタン工場のあるハヤブサ台地に差し掛かり、道を逸れて雑木林を進み始めた。
「……仕方ない」
ここからはビークルは使えない。
人工物の音などほとんど無い雑木林では、近くにビークルが居たら絶対に気付く。
俺は木の陰に【ジャガーノート】を隠してエンジンを切ると、スコープ付きのボルトアクションライフルを座席の後ろから取り出し、徒歩でダンディリオンを追った。
ビークルに搭乗せず生身で森を歩くのは久しぶりだ。
ピジョン牧場周辺の山でも、鹿などの臆病な動物に接近する際は、ビークルを降りて徒歩で狙撃地点まで移動することはあった。
しかし、大抵の場合はビークルで動物を探し回り、見つけたら徒歩で接近して撃つ、というパターンだ。
今回は失敗できない追跡なので、雑木林にビークルで踏み込むこと自体を控えた。
ここからウミネコ海岸の崖上まではそれなりに距離がある。
今回の追跡は少し長丁場になりそうだ。
木々の間に身を隠しつつ、しかし常に高所を取るように移動する。
人間は得てして目線より高い位置には注意が向きにくいものだ。
途中、ダンディリオンはキラーエレファント団の斥候と思わしき二台のビークルに遭遇した。
アームパーツを省略し、滑腔砲と簡素なシールドを装備した『ルースター』は、キラーエレファント団が配備している標準的なビークルで、複雑な機構の省略により低コストでの大量生産を可能にしている。
原作では最初に登場する盗賊ビークルで、RPGに例えるならゴブリンのような存在だ。
はっきり言って戦闘能力はお察しである。
機動力も無ければ耐久力も低く、現実ではゲームのように砲撃がヒョロヒョロのヘナチョコ弾ということは無いが、それでも戦闘用ビークルとしては本当に最低限の性能だろう。
大勢で迫られるとウザいが、数台程度なら高ランクバトラーにとっては羽虫同然の相手だ。
「ん? おい、止まれ!」
キラーエレファント団にあっさりと発見されたものの、ダンディリオンは【ブルー・サンダー】をスラスターダッシュで木々の間に滑り込ませ、僅かな隙間から長距離キャノンアームを発砲し、一撃で『ルースター』を撃破した。
長距離キャノンアーム自体は【ホワイトレクイエム】も装備しているので、ダンディリオンが操作に慣れていたこともあるだろうが、それでも今の盗賊ビークルを一撃で仕留めた動きは見事だ。
「なっ!?」
驚愕の表情を顔にへばりつけているもう一人のキラーエレファント団員も、ダンディリオンが続けざまに放ったキャノンのロケット弾で、ビークルを木端微塵に砕かれ火に包まれた。
破片で体の数十か所を貫かれ、火だるまになった盗賊の生存は絶望的だ。
原作ではこのようなエグい描写は無いが、大口径の火砲をまともに食らえば、こうなるのも当然だろう。
あらためて、トロットビークルを用いた戦いは、常に命がけの攻防であることを再認識させられた。
やがて、ダンディリオンのビークルはウミネコ海岸の崖の上に到達し、ゆっくりと木々の間から岸壁に顔を出す。
「ふ……間に合ったな」
俺も近くの木の影から【ブルー・サンダー】のコクピット上のダンディリオンにライフルの狙いを定めながら、ウミネコ海岸の様子を確認した。
海岸には二つの人影が見える。
一人は俺も先ほどまで顔を会わせていたコニーで、もう一人も原作で見た覚えのある金髪の少年だ。
彼がゲーム本編の主人公だ。
主人公が海岸に打ち上げられ、コニーに助け起こされたところでゲームは始まる。
主人公の設定としては、チコリの仇としてダンディリオンに狙われるマーシュが留学先で知り合った友人だ。
彼は船が撃沈されたときのショックで記憶を失くしているが、そんなことは知らないダンディリオンはこのウミネコ海岸で彼の排除を企むのだ。
しかし……。
「コニー……何故、ここに……?」
ダンディリオンはコニーがウミネコ海岸に来ていることを知らず、いざ主人公を始末する段になって、彼女の前で人を惨殺することを躊躇する。
さて、ここからが問題だ。
このまま原作通り、岸壁の岩を撃ち落として道を塞ぐだけならいい。
しかし、もしもダンディリオンが現実では主人公を本気で排除しにかかるのなら、この場で狙撃することも選択肢に入れなければならない。
原作のルートを辿りつつブラッディマンティスを壊滅させることはできなくなるが、背に腹は代えられない。
強力な戦力でノーマルルートでは心強い味方になる主人公を失うくらいなら、ここでダンディリオンを殺して色々と運命を狂わせてしまうのも致し方ないことだ。
「くっ! あいつ……」
ダンディリオンは慌てて長距離キャノンアームの引き金を引いた。
海岸を見ると、主人公はコニーが薬草を採る様子をしばらく眺めていたが、どうやら何の気なしに海岸の入り口に足を進めたようだ。
それを見たダンディリオンは焦って発砲してしまったようだ。
キャノンのミサイル砲弾が着弾した岸壁の岩が、ゆっくりと崩れ落ちて海岸から戻る道を塞ぐ。
「……くそっ、撤退だ」
ダンディリオンは踵を返して岸壁からビークルを引いた。
俺は海岸の主人公とコニーの無事を確認すると、ライフルを下ろした。
どうやら、ここは原作通りの展開になるようだな。
海岸からネフロ方面に戻る道を塞がれたコニーは、主人公と協力して脱出する方法を探す。
古びた漁師小屋の影に、ジュニパーベリー号から投げ出されたオンボロビークルを見つけ、主人公の操縦で岩をどかして脱出するのだ。
先ほど確認したところ、ゲームで見た通りの濃黄色のビークルはきちんとあったので問題ないだろう。
主人公はきちんとコニーを送る……よな?
ジュウタン工場への道で絡まれる、キラーエレファント団の『ルースター』との戦闘は、心配といえば心配だ。
何せ初めて扱うビークルで盗賊団との戦闘……いや、主人公が記憶を失っていることを考えれば、ジュニパーベリー号での航海中にビークルの操縦と戦闘の経験があったのかもしれないな。
しかし、主人公が原作通り盗賊に勝利できる保証は無い。
ダンディリオンの監視と、どちらを優先するべきだろうか?
正直、主人公が殺されなかった段階で、ダンディリオンの追跡は切り上げてもいいわけだが……できればゲームでは描かれていなかったダンディリオンの動向を追いたい。
「くそっ、くそぉ! 僕の、計画ミスだ……」
ダンディリオンは悪態をつきながらも、雑木林の来た道を猛スピードで戻って行く。
ちょっと徒歩で追うのはキツイな。
平地と違いまっすぐにスピードの出せない場所とはいえ、人間の足に比べればビークルは格段に早い。
林の入り口に停めてある【ジャガーノート】に着く前までに振り切られてしまうかもしれない。
しかし、前方に思わぬ来客が現れたことで、俺の心配は霧散した。
「見つけたぞ!」
「やっぱり来やがった。うちの奴がやられた場所から海岸にビークルが向かった形跡があったから、いつかは戻ってくると思ってたぜ」
「よくも俺の仲間を……」
待ち構えていたのはキラーエレファント団だ。
先ほどダンディリオンに撃破された斥候の二人の残骸を見つけたようで、仇が戻ってくるのを待っていたようだ。
「ん? その青いビークル……まさか! “青い稲妻”のフェンネルか!?」
「なっ!? 高ランクバトラーだぞ」
「い、いや、待て! フェンネルは黒髪にサングラスをかけた男だぞ。金髪じゃない」
「え? じゃあ、あの男は……?」
ダンディリオンは黙ってビークルを進めて通り過ぎようとした。
「なっ! 待て、てめ「邪魔を……」あ?」
ダンディリオンがゆっくりと振り向いた。
「邪魔をするなぁ!」
突如、ダンディリオンは【ブルー・サンダー】の左アームを振り回し、目の前の『ワイルド・ルースター』を投げ飛ばす。
キラーエレファント団の戦闘用ビークル『ワイルド・ルースター』は通常仕様の『ルースター』の改良型で、スパイクつきのシールドとミサイル弾を放つ長砲身を装備し、本体の耐久力も僅かに高い。
原作では、普段はフィールドで湧かないが、イベントでは何度か戦う羽目になる。
言わば上位種や亜種のような扱いだ。
ダンディリオンを待ち受けていた三人のうちの一人は、この『ワイルド・ルースター』を駆るエリートのようだ。
しかし、そんな高性能の機体を与えられる団員でも、ダンディリオンの前には無力だった。
流れるような動作で横にダッシュした【ブルー・サンダー】は、走り抜けざまに一台の『ルースター』を長距離キャノンアームで撃ち抜く。
「ひっ」
続いて、硬直した盗賊の乗る『ルースター』に接近し、左のノーマルアームを振りかぶった。
そのまま下に叩きつけるが、正面から滅茶苦茶に殴っただけなので、打撃はシールドの一部を吹き飛ばしただけで終わった。
「ちっ! さっさと死ねよ! 僕の、邪魔をするなって言ってるんだよ!」
ダンディリオンは続けざまに『ルースター』のコクピットを殴り、ついにアームは盗賊の身体を捉えミンチにした。
「くそが……死ねぇ!」
苛立ちで冷静さを失っていたダンディリオンだが、復帰した『ワイルド・ルースター』がミサイル弾を放つと瞬時に反応した。
ダンディリオンのハンドルさばきで急激に向きを変えた【ブルー・サンダー】は、長距離キャノンアームの銃身を流すように振ってミサイル弾を撃ち出す。
交差した二つのミサイル弾は、空中で正面から衝突して爆散した。
「なっ!」
間髪入れずにダンディリオンが放った二発目のキャノンで、『ワイルド・ルースター』も爆炎に包まれて葬られた。
「はぁ……まったく、クズどもが……」
暴れたことで少し冷静さを取り戻したダンディリオンは、キラーエレファント団員の死体に一瞥をくれると、今度は落ち着いてビークルを発進させた。
俺もダンディリオンがキラーエレファント団と小競り合いをしている間に、どうにか距離を詰めて高所を確保した。
あとはこのままフェンネルにビークルを返して、明日の朝にはエルダー衣装でトロット楽団の面々と同じ列車に乗り、何食わぬ顔でハッピーガーランドに戻るのであろう。
それにしても驚きだ。
まさか主人公がネフロの入り口に来るまでの間に、裏でこのような出来事が起こっていたとは。
原作では、ここら辺の事情が聴けるのはエンディング後で、なおかつダンディリオンではなくフェンネル視点の情報だけだからな。
「さて……このまま一旦【ジャガーノート】を……ん? あれは……」
何気なくハヤブサジュウタン工場の方を向いた俺の目には、シラサギ河下流域からハヤブサ台地へと至る坂道が映った。
そこに居たのは、紛れもなく砂浜に打ち捨てられていた主人公のビークルだ。
そして、俺の目が確かなら、今まさに主人公は最初の敵であるキラーエレファント団の『ルースター』を撃破したところだ。
ライフルのスコープで確認すると、スクラップと化した『ルースター』から盗賊が這い出て、ハヤブサ台地の方へ逃げていくのが見える。
「どうやら、杞憂だったようだな」
主人公の強さは本物のようだ。
さすがは主役補正だ。
援護の必要が無かったことに安堵しながら、俺は雑木林を脱出するダンディリオンを追いかけ、木陰に隠した【ジャガーノート】に飛び乗った。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。