steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
「何だって? 街外れに俺のビークルを置いただと?」
「ああ。すまない、フェンネル。ちょっと、急用が入ってしまって。とりあえず、街の西にある出張修理屋の近くの駐機場に停めてきた」
ネフロに到着したダンディリオンは、街の外にビークルを停めると、駅前広場でフェンネルにキーを返して報告した。
ここから街の外までは徒歩だとそれなりに時間が掛かる。
フェンネルにしても迷惑な話だろう。
「それじゃあ、僕は行くよ。フェンネル、今日は色々と面倒をかけて悪かった。この埋め合わせは必ずするから」
立ち去るダンディリオンにフェンネルはしばらく首をかしげていたが、やがて立ち上がってギターをケースに片づけると、街の外に向かって歩き出した。
「……はぁ。仕方ねぇ」
フェンネルが出掛けるのを確認した俺は、すぐに【ジャガーノート】を駆ってネフロの街を飛び出した。
ダンディリオンをこれ以上追うのは危険だ。
これからしばらくはトロット楽団の面々から身を隠すだろうし、その間にブラッディマンティスの連中と接触するのであれば、俺が鉢合わせた場合は確実に戦闘になる。
相手が多ければ当然ながら俺の命の保証は無いし、何よりトロット楽団のライブを聞きに大勢の人が集まっている今のネフロで総力戦の衝突などしたら、巻き込まれて犠牲になる人間は相当な数に上ることだろう。
ブラッディマンティスはそれだけ危険な相手だ。
それに、そろそろ主人公たちと合流した方がよさそうだ。
この世界の事情は原作と完全に同じというわけではない。
もしかしたら、俺の介入が無ければ主人公が大事な戦いで敗北してしまうこともあり得る。
幸い、一戦目で雑魚に負けることは無かったが、ジュウタン工場でマジョラムとバジルに会った主人公とコニーは、ネフロに向かう途中でとんでもない敵と相対することになるのだ。
どこのどいつかと言えば、キラーエレファント団の巨大移動要塞『ドン・エレファント』だ。
原作では大型の割に大した脅威でもなく、攻略法さえ分かっていればノーダメージで一方的に撃破することもできる相手だ。
しかし、現実ではそう簡単に事は運ばないだろう。
小規模勢力とはいえ、荒事に慣れている盗賊団の新兵器が相手だ。
相応の苦戦をするはずだ。
案の定、シラサギ河の中流域に差し掛かると、大砲の連続発射音とともに重厚な振動と地響きを感じた。
既に『ドン・エレファント』は出撃しているようだ。
急がなくては……。
シラサギ河中流域の側道を進み、ハヤブサ台地の入り口あたりに差し掛かると『ドン・エレファント』の巨体が目に入った。
どうやらジュウタン工場の下のシラサギ河へと至る水門から出てきたらしく、一番デカい鉄格子が開いている。
主人公たちは……居た。
遮蔽物を使って『ドン・エレファント』の砲撃をやり過ごしながら、バジルが同乗するマジョラムのビークル【イエローベア】は時折前面に出て防御を、コニーが助手席に乗る主人公の濃黄色のビークルは砲弾アームを放っている。
いいフォーメーションだが、どうやら劣勢のようだ。
それも仕方のないことだろう。
原作では『ドン・エレファント』は最初のボスで、耐久力もそれほど高くない、言わばボス戦のチュートリアルだ。
しかし、現実では盗賊団の巨大ビークルの脅威はそんなものではない。
さらに、遭遇したのは決して戦闘に特化しているわけではないマジョラムのビークルと、野晒しになっていた主人公のオンボロビークル。
汎用ビークルがベースでも、俺の【ジャガーノート】レベルの武装をしていれば互角以上の戦いができるが、あの二人の装備ではまず無理な話だ。
主人公のビークルはソードアームと砲弾アームを装備しているようだが、さすがに序盤から怪物じみた強さを発揮しているようなことはない。
「バニラ! どうにかなりそうかい!?」
「ダメだ! 全然、効いてる様子が無い!」
マジョラムの問いかけに返答しながら主人公の少年は砲弾アームを撃つが『ドン・エレファント』の固い装甲に弾かれ、再び砲撃の嵐を受ける。
主人公は何とか岩の影に退避したが、着弾した場所から飛んだ破片が、ビークルのボディに傷をつける。
「コニー! 大丈夫!?」
「う、うん。何とか。でも、どうすれば……」
これは、放置するわけにはいかないな。
俺は【ジャガーノート】の出力を利用して崖をよじ登り、高台を確保すると『ドン・エレファント』の甲板に向かって一気に飛び降りた。
そのまま空中でチェーンガンアームの狙いをつけ、砲台の下あたりに次々と銃弾を撃ち込む。
砲塔の内側の弾薬に命中したようで、俺が狙った砲台は閃光とともに爆散した。
「な、何だ!?」
落下してきた俺のビークルに気付いた盗賊がこちらを向くが、俺はその男がしがみ付いている座席に向かって強化ブレードアームを振るう。
「ぎっ……」
鮮血が舞い上がり、無防備にも体を晒していた盗賊は真っ二つになった。
ビークルの武装による攻防は、言わば重機同士のぶつかり合いだ。
そんな用途に用いられる近接武器の直撃は、到底人間が耐えられるものではない。
座席ごとブレードに叩き切られた男が絶命するとともに、『ドン・エレファント』の動きが一瞬だけ停止した。
どうやら俺が仕留めた男の担当は、駆動系の一部のようだ。
残った連中が体勢を立て直そうとするが、巨大ビークルの甲板はバランス悪く傾いている。
「マジョラム! 一旦離れろ!」
「グレイ! 来てくれたんだね!」
「助かった~」
「バニラ! 彼は味方よ!」
マジョラムたちが茫然としていた主人公に俺が知り合いだと伝え、二台のビークルは『ドン・エレファント』から離脱していった。
「ありがとう、助かったよ」
ビークルの一部が『ドン・エレファント』の砲撃で破壊された濃黄色のビークルから、主人公が俺に向かって礼を言った。
俺は金髪の少年に頷き返し、再び『ドン・エレファント』の中心に向き直る。
「くそっ! 何なんだよ……。『ドン・エレファント』の試運転のはずが、何だってこんな……」
「泣き言を言うな! そのための武装だろうが!」
甲板に近距離用の銃座が向けられ、俺の【ジャガーノート】を小口径の砲弾が襲うが、俺は甲板上の起伏を利用してやり過ごした。
なるほど、ここでの『ドン・エレファント』との遭遇はテスト走行だったか。
キラーエレファント団の『ドン・エレファント』は兵器としての運用を狙ったビークルではない。
ゲームの攻略を進めると明らかになる彼らの『夢』を実現するための機械なわけだが……まあ、実際に高い戦闘能力を有しネフロや近隣住民の脅威となることに違いは無い。
残念だが、『ドン・エレファント』はここで破壊させてもらう。
俺は砲台の周辺の予備弾薬庫と思わしき場所にチェーンガンを撃ち込む。
完全な戦闘用のビークルであれば、弱点となる火薬庫の場所を晒すことなどあり得ないので、これも本来の用途から出来たスキなのだろう。
「ぐわっ!」
「あいつ、弾薬庫を……」
甲板や装甲が次々吹き飛び、巨大ビークルの内部が剥き出しになる。
奥に盗賊が見えたら、さらに容赦なくチェーンガンを撃ち込んでくと、今までとは比べ物にならない一際大きい爆発が起こった。
凄まじい衝撃に俺のビークルもバランスを崩して甲板から滑り落ちる。
「おっと!」
どうにか体勢を立て直し、レッグパーツのサスペンションで衝撃を殺して着地した。
顔を上げて『ドン・エレファント』の様子を見ると、どうやら機関部で爆発が起こったようで、駆動の制御を完全に失っている。
燃料にも引火したらしく、火だるまになった盗賊が次々と『ドン・エレファント』から脱出して河に飛び込んでいる。
そろそろこのデカブツもお終いだな。
「っらぁ!」
ダッシュ移動で【ジャガーノート】を『ドン・エレファント』の脚部に滑り込ませた俺は、その勢いのまま強化ブレードアームを振り抜く。
的確に巨大な関節の間を捉えた太刀筋は、それ自体が汎用ビークルほどの太さを持つ脚部を分断した。
ただでさえバランスの悪い『ドン・エレファント』は、脚を一本失っただけでも簡単に崩れ落ちた。
重厚な落下音とともに水飛沫が飛び散る。
数人の盗賊が残骸の下敷きになったが構うことは無い。
高出力で巨体を支える『ドン・エレファント』は、濃密な排気ガスを吐き出しながらどうにか起き上がって体勢を立て直そうとするが、さすがに損傷が激しいらしく首を垂れるように再び崩れ落ちた。
「終わりだ!」
最後に俺のブレードが頭部を模したパーツを胴体部から斬り落とし、燃料に引火した火が巨大要塞を包んだところで『ドン・エレファント』は完全に活動を停止した。
ようやくゲーム主人公の登場です。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。