steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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29話 ネフロに帰還

 

「よし、これでいいだろう。あとはネフロの修理工場にでも行って、燃料補給ついでに細かく診てもらうといい」

「ありがとう」

 俺はバニラのオンボロビークルに応急処置を施し、最低限の修理を済ませた。

 ナツメッグ博士の弟子としては、この程度では恥さらしもいいところかもしれないが、俺のビークル整備や工作の才能は、博士曰く中の上程度なのだからあまり期待しないでほしい。

 まあ、この世界で生き抜くためには、射撃とビークルの扱いの才能があっただけでも感謝すべきだな。

「それじゃあ行こうか」

 マジョラムの声掛けで、三台のビークルはネフロの街に向かって、再び歩き出した。

 

 

 主人公の名前はバニラビーンズ。

 ゲームでのデフォルト名と同じだった。

 開発やユーザーからの愛称はバニラで、この世界でも皆は彼のことをバニラと呼んでいる。

 先ほど、攻撃を担当していたことで損傷を受けたバニラのビークルを修理する際に、彼の紹介と事情はあらかた聞き終えた。

 やはり、原作と同じく記憶を失くしており、ウミネコ海岸に座礁していたジュニパーベリー号という大型帆船に乗っていたのかもしれない、とのことだ。

 物語の主人公だけあって、彼の活躍はストーリーの核を担う重要なものだ。

 バニラがノーマルルートへ進みトロット楽団メンバーと協力してブラッディマンティスを倒すか、悪人ルートで俺たちと敵対する存在となるのかは重要だ。

 俺としては、どうにかノーマルルートの善人でいてほしいわけだ、

 しかし、目的ははっきりしていても手段が確定しない。

 何せ、バニラの奴は記憶を失くしている。

 原作では、名前を変えられる主人公でありプレイヤーの分身という点、それに開発元であるアイレム特有の会話イベントにおける選択肢が膨大なこともあり、いわゆる無個性タイプの主人公だった。

 正直、現実であっても思考や好みが読めない以上、バニラを確実にこちらに引き込む手段が見つからない。

 とりあえずは、俺が色々と便宜を図って世話を焼き、仲間意識や恩義で縛る。

 あとは、ヒロインのコニーとくっ付けるように配慮するくらいしか、俺にできることは無いか。

「いや~、それにしても……グレイが来てくれて助かったよ。あ、でも僕のビークルがあったら、そんなの必要なかったけどね」

「ちょっと、バジル! わざわざ助けに来てくれたグレイに失礼だよ。グレイ、本当にありがとうね」

 バジルは相変わらずだな。

 しかし、コニーはできればバニラに集中してくれた方がいい。

 俺に感謝してくれるのも結構だが、彼女はバニラをたらし込む重要な役割を担っているのだ。

「ところで、グレイはどうして街の外に?」

 マジョラムが水を向けてきた。

「何だか嫌な予感がしたんでネフロから出てみたんだが……そうしたら巨大ビークルの音が聞こえてね。一応、ネフロとピジョン牧場周辺の盗賊討伐や治安維持には協力する立場をとってきたわけだし、マジョラムたちがジュウタン工場に居るのは知っていたからさ。さすがにあんな化け物が出てくるとは思わなかったけど」

「そうだったんだ。おかげで本当に助かったよ。グレイが来てくれなかったら、どうなっていたことか……」

「気にすんなって。まあ、借りだと思ってくれるんなら、今日のセッティングは任せてもいいかい? ネフロ警察にさっきのキラーエレファント団の巨大ビークルのことを報告に行ってくるから」

「わかったよ。ステージの準備は任せておくれ。コニーもローズマリーさんのとこに寄るでしょ。来るのはゆっくりで大丈夫だからね」

「うん。ありがとう、マジョラム」

 

 

 ネフロの街の入り口で、俺たちはフェンネルを見つけた。

 どうやら、今【ブルー・サンダー】を取ってきたところのようだ。

「おーい、フェンネル!」

 マジョラムが声を張り上げてフェンネルを呼び止める。

「おう、遅かったじゃないか」

「どこか出かけてたの?」

「まあな。それより、早く行くぞ」

 フェンネルはさっさと街に向かってしまった。

「ああ」

 マジョラムは俺とバニラのビークルに向き直る。

「ほら、皆も行こう」

 しかし、コニーは一瞬だけ顔に迷いを浮かべてから口を開いた。

「マジョラム、グレイ。悪いけど、先に行ってて」

 マジョラムはバニラにビークルを停めさせたコニーに首をかしげるが、フェンネルが既に街に入っていく様子を見ると頷いた。

「わかったよ」

「ああ」

 俺とマジョラムはフェンネルの後を追ってビークルを進ませた。

 コニーはフェンネルのビークルのことが気になるのだろう。

 原作でも、バニラから聞いた「青い物体」が岩を撃ち落としたという話で、フェンネルの【ブルー・サンダー】に疑念を抱いた描写がある。

「(さっき、海辺で『青い物体がミサイルで岩を落とした』って……)」

 後ろでコニーとバニラの会話が僅かに聞こえる。

 フェンネルを疑うのは見当違いなのだが、今ここで真実を言うわけにもいかないか。

 ダンディリオンがバニラを狙ってきたなど、なおさら信じ難い話だ。

「なあ、グレイ。さっき、慌てて街から飛び出していくお前の【ジャガーノート】を見た気がしたんだが……」

 フェンネルが俺に疑問を投げかけてきた。

 意外と目敏いな。

 ダンディリオンの追跡が終わった直後とはいえ、フェンネルの前に出ていったわけではないぞ。

「ああ、嫌な予感がしてね。行って正解だった。キラーエレファント団の巨大ビークルだったよ。まるで移動要塞だ」

 俺はフェンネルに『ドン・エレファント』の話を一通り話して聞かせた。

「そうか……キラーエレファントの連中は、そんなもんを作ってたのか」

「あれは本当に危なかったな。グレイが来てくれて助かったよ」

「凄かったんだよ! グレイがこう……ばんっ、って飛び降りて、ズガガガ、って撃ちまくって、大型ビークルがドカンっ、って木端微塵になったんだ」

 バジルの擬音語ばかりの説明にフェンネルは呆れ顔だ。

「はぁ、もういい。行くぞっ」

 俺たちはフェンネルに続いてネフロの街の門を潜った。

 

 

 ネフロ警察への『ドン・エレファント』の件の報告はすぐに終わった。

 元々、ナツメッグ博士の部下として盗賊討伐でも活躍しており、警察からの信頼もある俺の言葉なのですぐに調査隊が組まれた。

 取り立てて惜しい資材などは無かったので、『ドン・エレファント』と戦闘になった現場は適当に片付けてくれればいい。

 まあ、結局のところ俺が報告したところで警察にできることというのはそのくらいで、特に話し合う必要のある事柄が無かったから、これだけ早く解放されたわけだな。

 現代の日本なら、警察は被害者や目撃者も何らかの形で加害者に仕立て上げようとしてきてもおかしくはない。

 今回の件は物騒な時代であることが珍しくいい方向に働いているわけだ。

 期待以上に早く解放された俺は、駅前広場に向かいマジョラムたちのセッティングを途中から手伝った。

 とはいえ、会場の基礎は出来上がっているので、あとは俺のビークルのバックパーツからステージを展開して楽器を用意するだけだ。

 全ての準備が終わって、各自が自分の楽器を思い思いに調整しているところにコニーが戻って来た。

「ごめん! 皆、お待たせ」

「お疲れさん。まだ合わせは始まらないから、しばらく休むといい」

 俺はコニーにアウトドア用のコップを差し出した。

 中身はジメット湿地奥のミツバチ園産の蜂蜜を使った蜂蜜水だ。

 暖かくなってきたので、そろそろ冷たい飲み物で喉を潤したくなる季節だが、ライブ直前のボーカリストに冷水はよくない。

 まあ、冷蔵庫自体がナツメッグ博士の工房に戻らないと無いし、この世界では水といえば湯冷ましか常温なので、コニーも特に飲みにくいということは無いようだ。

 俺がトロット楽団に入団してから、ハッピーガーランドのロブスター亭以外でライブをする際には、必ずこの常温の蜂蜜水を用意していた。

「うん。ありがとう、グレイ。あ、そうだ。バニラも後で聞きにくるって」

 どうやらバニラとローズマリーたちの顔合わせは済んだようだ。

 しばらくすると、マジョラムがメンバー全員に声を掛ける。

「それじゃあ、そろそろ音合わせを始めようか。皆、準備はいいかい?」

 メンバーはそれぞれのポジションについて、自分の楽器を用意し始めた。

 俺も珍しくネクタイを締めて、ステージに立ちサックスをストラップに掛けた。

「始めよう。まずは『In Your Voice』から」

 さて、ライブがキラーエレファント団の襲撃で台無しになるとわかっている俺としては微妙な気持ちなのだが、やるからには全力で演奏しないとならないな。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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