steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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2018/11/11 誤字修正しました。


30話 野外ライブ襲撃

 音合わせが終わったころには、日も完全に落ちていた。

 いつもはガス灯が頼りなく辺りを照らす駅前広場だが、今日はステージのライトが遠くからでも見える眩い光を放っている。

 観客もかなりの数が集まった。

 野外ライブなので、バンドメンバーは全員ビークルのバックパーツから展開したステージの上だ。

 視線が高いと集まった人数の凄まじさがよくわかる。

 会場の収容人数ギリギリのようだな。

「うわぁ、凄い人だね。何だか、ここ最近で一番の歓迎じゃないかな」

「ふふっ、バジルったら緊張しているの?」

「そ、そんなことないよ! セイボリーこそ、大丈夫かい?」

「ええ。気遣ってくれて、ありがとうね」

「い、いやぁ……へへっ」

 相変わらず手玉に取られる緑のちんちくりん。

 いつもの光景だ。

「コニーの地元だからな。それに、グレイの存在も大きいだろう」

 フェンネルの言葉で思い出したが、確かに俺もネフロにはよく買い出しに来ており、街の住人に顔を覚えられている。

 原作よりも客の入りがいいのは、俺が原因でもあるのか。

 ところで、コニーはといえば……。

「バニラ……来るかな……?」

 彼女の視線は落ち着きなく客席の辺りを彷徨っている。

 出会って間もないのにもう惚れたのかと思ったが、今はまだ少し気になる存在といったところか。

「さ、そろそろ開演だよ。皆、準備はいいね?」

 マジョラムの合図で、俺たちは各自ステージのポジションにつき、各々の楽器を手にした。

 現代なら、アコースティックギターやウッドベースをジャズで使用するときですら、スピーカーへの出力は常識だが、この時代はアンプなどの出力機器が無いので、フェンネルのギターもバジルのウッドベースも直前のセッティングなど無い。

 この広い会場で生音とマイクだけのライブなど、はっきり言って現代人の俺には物足りないが、無い物ねだりをしたところで仕方ないだろう。

「みんなー! 今日は私たちの演奏を聴きに来てくれて、ありがとう!」

 ボーカルのコニーが観客に声を掛けると、ライブ会場は一斉に湧いて、歓声が轟いた。

 ステージの下を見ると、ちょうど会場に走ってきた金髪の少年が目に入る。

 バニラもぎりぎり間に合ったようだ。

「それでは聴いてください」

 演奏が始まり、俺もサックスのリードに口を付けた。

 

 

 一曲目の『In Your Voice』の演奏が中盤に差し掛かったとき、俺の目はネフロ南部から接近するビークルを捉えた。

 キラーエレファント団の『ワイルド・ルースター』を中心とした編隊だ。

 ネフロ警察には『ドン・エレファント』の件を報告して、最近になって活発に動いているキラーエレファント団への警戒を強めるように進言したが、やはり街への侵入と襲撃は防げなかったか。

 原作でも、ここで奴らの襲撃がありトロット楽団と協力して撃退することになる。

「(グレイ!)」

 集中が乱れたことで僅かにリズムが狂った俺を、フェンネルが小声で注意する。

 しかし、キラーエレファント団の攻撃が今にも始まる可能性がある以上、俺は演奏に集中することはできなかった。

 俺は敵が展開している場所に視線を巡らせ、盗賊ビークルの数を探る。

 駅前広場を包囲するように展開しているのは約十台。

 警察や街の住民の目を潜り抜けて潜入してきたにしては大した数だが、大規模な街の襲撃と考えれば戦力が少なすぎるな。

 この段になると、フェンネルも街に出現した通常仕様とは違うビークルの存在に気付く。

 そして次の瞬間、ネフロの街に轟いた砲撃音が闇を引き裂いた。

 

 

 一斉に発射されたキラーエレファント団のビークルによる砲弾は、ネフロの街のあらゆる建造物に着弾して瓦礫の雨を降らす。

 そこかしこで上がる悲鳴に子どもの泣き声。

 街は一瞬で阿鼻叫喚の地獄と化した。

「きゃああぁぁぁ!」

「助けてくれぇぇ!」

「キラーエレファントだー!」

「うわあぁぁぁ!」

「うぇーん!」

 俺がステージから飛び降りて【ジャガーノート】を起動した。

 トロット楽団のステージ付近にも、敵の砲弾やミサイルは飛んできている。

 何発かは駅前広場に着弾した。

 俺に続いてフェンネルも【ブルー・サンダー】に搭乗してバックパーツのステージを収納する。

 真っ先に戦闘準備を整えた俺は、再び群衆に向けて砲台を発砲しようとしていた『ワイルド・ルースター』に向けて、チェーンガンを連射した。

「げあっ!」

 マズルフラッシュがネフロの街に煌めき、付近一帯ごと掃射された盗賊ビークルは機体を貫かれて沈黙した。

 どうやらコクピットの盗賊ごと撃ち抜いたようだ。

 距離が開いているので、一発も命中しないのではないかと心配だったが、俺の射撃センスも捨てたものではなかったな。

「グレイ、正面は任せたぞ! マジョラムは防御を固めろ! バジルは左を頼む! セイボリーはコニーを連れて後ろへ! くそっ、奴らどうやって入ってきやがった!」

 言われるまでもない。

 俺は長距離キャノンアームを構えるフェンネルに頷き返し、スラスターを起動して飛び出した。

 敵の数は最初に撃ってきた連中だけで全てじゃない。

 まずは正面から押し寄せてくる連中を食い止めて、最終的には本隊を叩かなければ。

 しかし、コニーはフェンネルのビークルの前に立ち塞がった。

「フェンネル、やめて! ここで戦ったら街が壊れちゃうよ」

「何を言ってる! 奴らを放っておいたら、それこそ街が潰れるぞ!」

 まあ、フェンネルが正論だな。

 俺は後ろに聞こえる声を無視して、正面からブースト装置を使って突っ込んできた『ワイルド・ルースター』に強化ブレードアームの一振りをくれてやる。

 シールドごとエンジンを切り裂かれて破壊された『ワイルド・ルースター』は崩れ落ち、燃料に火花が引火したのか火だるまになった。

 視界の隅にバニラがコニーに駆け寄るのが見える。

 次の瞬間、どこからか飛んで来たミサイル弾がバジルの乗る【グリーン・リーフ】に向かった。

「まずい!」

 そういえば、バジルはこのキラーエレファント団の襲撃でビークルをぶっ壊されて負傷するのだった。

 セイボリーに手玉に取られる様子を見て呆れてばかりで、そのことをすっかりと忘れていた。

 原作では、バジルは怪我をするだけで死にはしないが、現実では何が起こるかわからない。

「バジル! 伏せろ!」

 俺はペダルを踏みこんで空中に躍り出ると、チェーンガンをバジルの【グリーン・リーフ】すれすれの位置に向かって連射した。

 撃ち落とせる確率は低いが、やらないよりはマシだ。

 本当に運のいいことに、俺の放った銃弾は『ワイルド・ルースター』のミサイル弾と衝突し、バジルに向かったミサイルは空中で爆散した。

「うわぁ!」

「「「「バジル!」」」」

 バニラとコニーは【グリーン・リーフ】に駆け寄る。

「バジル、大丈夫か!?」

「マジョラム! フォーメーションを崩すな!」

「……わかったよ」

 フェンネルは隙を見せずに長距離キャノンアームの狙いを定め、連続で四発ほど発砲する。

 熱源を捉えて飛翔するキャノンのミサイル弾が飛び出し、キラーエレファント団のビークルが続けざまに撃破された。

「だ、大丈夫……。グレイ、ありがとう」

 どうやらバジルは原作のように大怪我をすることは無かったようだ。

 【グリーン・リーフ】を見ると破片にボディを貫かれ、かなりの損傷を受けてはいるが、完全な大破には至っていない。

 まあ、ミサイルの直撃を食らって吹き飛ばされた原作に比べれば、ダメージは明らかに少ないだろう。

 しかし、レッグパーツとの接合部などには相当な衝撃を受けたようで、バジルのビークルは脚から崩れ落ちてしまった。

「あ、あれ? ……駄目だ、ちょっと限界みたい」

 まあ、バジルのビークルは、規格で言えばノーマルサイズながらも、軽量化による機動力を重視したタイプだ。

 耐久力が低めなのは仕方ないか。

「まったく、驚かせやがって」

 フェンネルは悪態をつきつつも安心した表情だった。

 

 

「コニー、ここに居ては危険だ! 僕についてきて」

「だけどバジルが……」

 早速、バニラが主人公しているな。

 コニーはバジルの身を案じるが、今回はそれほどの怪我ではないぞ。俺のおかげで。

「コニー、僕の方は大丈夫だから。早くバニラのビークルに避難を」

 バジルの怪我は軽いが、彼のビークルは原作通り戦力外になってしまった。

 敵の数はまだ多い。

 せめて駅前広場の安全を確保する戦力がもう一人欲しい。

 このままでは俺がここから離れられないので、バニラには早めに戦闘に参加してもらいたいところだ。

「おい! あれ、お前のトロットビークルだろ?」

 俺と同じことを考えていたフェンネルがバニラに声を掛けた。

 フェンネルが示した駅前広場の駐機場には、バニラの乗ってきた【カモミール・タイプⅡ】がある。

 どうやらネフロモーターズで修理をしたようだ。

 俺の応急処置よりも格段にいい状態までボディは輝きを取り戻している。

「お前もビークル乗りなら、奴らをぶっ潰すの、手伝え」

 バニラはフェンネルの言葉に一瞬面食らったようだが、すぐにコニーを促して駐機場へ向かった。

 俺はバニラのビークルが停めてある駐機所への道に現れた『ルースター』を、チェーンガンの射撃で撃ち抜く。

 続けざまに着弾しシールドを割って貫通した銃弾は、エンジンから燃料タンクを撃ち抜いたようで『ルースター』は火だるまになる。

「バニラ! 今だ、行くんだ!」

「っ! わかった」

 俺の声に答えたバニラは、コニーの手を掴んで走り出し、駐機場のビークルに乗り込んだ。

 

 

「撤退だ!」

「野郎ども! 引き上げるぞ!」

 俺の【ジャガーノート】が押し寄せるキラーエレファント団のビークル部隊を突破し、ウミネコ海岸方面の出口に近い場所まで進軍すると、キラーエレファント団は一斉に撤退し始めた。

 バニラが駅前広場の戦力に加わったので、俺はトロット楽団のメンバーを任せて敵に突撃してきたのだ。

 ゲームだとまだ序盤だというのに、バニラの戦闘の手並みは大したものだった。

 既に平均的なBランク以上の腕はあるだろう。

 さすがは主人公。とんでもない補正が掛かっている。

 俺もここに来るまでに三十機以上の敵ビークルを破壊した。

 街の各所で警察ビークルと戦っていた連中も、パラパラと退き始めている。

 正直、敵の増援にそれなりの被害を出すまで退かないと思っていたので、この展開には些か拍子抜けだ。

 しかし、その理由はすぐにわかった。

 スクラップが散乱する街の入り口で見つけたビークルには見覚えがある。

 搭乗するのは相変わらず傷のある顔を不機嫌に歪めているように見える不愛想な男だ。

 “ネフロの英雄”の異名を持つSランクバトラーのシュナイダーである。

 ビークルは彼の愛機【マキシマム】だ。

 ボディにはところどころ浅い傷痕が増えている。

 俺が近づくとシュナイダーもこちらに気付いた。

「……グレイか」

「シュナイダー、一応聞いておくが……ここに居た敵の増援は?」

「追い返した」

 まあ、彼を見たときから確信していた。

 この狭い街の出入り口に密集していたところを、格闘戦に秀でたSランクバトラーのシュナイダーに突撃されたのだ。

 敵も尻尾を巻いて逃げるしかなかっただろう。

「……全滅させるのは無理だった」

 シュナイダーは不満そうだが、そいつは高望みというものだ。

「いや、おかげで助かったよ。じゃあ、俺は駅前に戻るから」

「……ああ」

 俺たちの会話はそれだけで十分だった。

 

 

 駅前広場に戻ると、戦闘は既に決着がついており、どうにか敵を殲滅したトロット楽団の面々が駅前広場に集まっているところだった。

 マジョラムはバジルの手当てを終えたようだ。

 バジルの怪我は原作よりも軽いので、軽く消毒をして包帯を巻いただけで済んだ。

 バニラとコニーがバジルに歩み寄り、ビークルから降りたフェンネルがため息をつく。

「はぁ……何とか片付いたようだな」

 駅前にも既に警察のビークルが盗賊の残党を探しに巡回してきており、当面の脅威は去ったと見ていいだろう。

 しかし……。

「だけど、こんなに壊れちゃって……。ひどいよ……」

 コニーの言う通り、ネフロの街はとんでもない規模の被害を受けた。

 駅前の建造物では今も火の手が上がり、瓦礫がそこかしこに散乱している。

 俺たちが泊まっていた『ホテル・ジャコウジカ』も、上階部分が大きく崩れていた。

 今夜の宿は無しか……いや、ビークルを片づけたり荷物を回収したりしていれば、夜が明けてしまいそうだな。

 マジョラムは立ち上がって口を開いた。

「皆、悪いけど明日には出発するよ。ロブスター亭での定期演奏会もあるからね。それまでに各自、準備を済ませておいて」

 慌ただしいことだが、こればかりは仕方ない。

 俺はマジョラムに頷いて、コニーに向き直った。

「コニー、さっき確認したときは着弾した形跡は無かったが、一応ローズマリーさんのところに顔を出した方がいい」

「うん、そうする……」

「バニラ、コニーを送ってくれるか?」

「ああ、任せてくれ」

 




作者はこのイベントのフェンネルの発砲シーンがお気に入りでした。
ムービー中のフェンネルの射撃モーションが好きだったのですが......わかっていただけますかね?w

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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