steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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31話 暫しの別れ

 

 消耗の激しいバジルをビークルのシートに寝かせ、マジョラムはバジルの体調を心配して彼に付き添った。

 まあ、原作でもバジルは次の日の朝には全快していたから大丈夫だろう。

 フェンネルは弾を補給すると言って闘技場の整備室へ向かった。

「弾切れ? 戦闘中にか?」

「ああ、しくじったよ(まったく……使ったんなら使ったと言えよ。ダンディリオンの奴……)」

 俺はバニラが戦闘に参加した後すぐに駅前広場を離れてしまったので見なかったが、どうやらフェンネルは最初の四発で撃ち止めだったようだ。

 原作でも、このキラーエレファント団襲撃イベントで、フェンネルが早々に弾切れになる描写があった。

 そういえば、昨日ダンディリオンが【ブルー・サンダー】を借りたとき、途中のキラーエレファント団との戦闘にウミネコ海岸に、長距離キャノンアームは何度も放たれていた。

 よくよく考えれば、フェンネルのような高ランクバトラーが弾切れなんてヘマをするのは不自然だ。

 こういう事情だったんだな。

 セイボリーはマジョラムたちと一緒か。

 ここで怪しい動きは無いな。

 俺も瓦礫の撤去と負傷者の捜索を少し手伝い、ビークルのシートで休憩を取った。

 ローズマリーの無事を確認したバニラとコニーが戻り、メンバー全員が『ホテル・ジャコウジカ』に置いていた荷物を回収したころには、既に夜が明け始めていた。

 

 

 翌朝、俺たちはネフロ駅に集まった。

 バニラも俺たちとコニーを見送りに来ている。

 トロット楽団はロブスター亭で定期演奏会を控えているので、ハッピーガーランドに戻らなければならない。

 セイボリーは少し遅れて俺たちのところへやって来た。

 原作では、ここでダンディリオンがエルダー衣装で仮面をして堂々と列車に乗り込むのだが、さすがに現実ではそんなことは起こらなかった。

 俺とはエルダー時に闘技場で顔を会わせているし、Aランクバトラーでガーランド闘技場に出場しているフェンネルも、エルダーの顔は当然ながら知っている。

 エルダーが目の前に現れれば、彼がここに居るのがおかしいことくらい気付くだろう。

 どうやらエルダーは俺たちと鉢合わせないように、別のルートを使ったか、他の場所から列車に乗り込んだようだ。

「昨日は、本当に大変だったね」

「町はところどころ壊れてしまったけど、怪我をした人が居なくてよかったよ」

「そうだよね」

 厳密に言えば、軽傷者はそれなりの数に上り、警察官には重傷者も出た。

 しかし、民間人に死者や重傷者が出なかったのは幸いだ。

 あれだけの戦闘が街中で起こっていた状況下で、これは奇跡と言ってもいい。

「(あら、コニーったら……)」

 セイボリーの呟きに彼女の視線を追ってみると、コニーとバニラは人目も憚らず手を握り合っている。

 これだけなら原作でも見た光景だが、二人の顔の近さから察するに、なかなか進展が早いようだな。

 まあ、その一因には俺が昨日の夜に誘導したこともあるか。

 彼女がローズマリーのところへ様子を見に行くとき、バニラと二人っきりになるように仕向けたからな。

「一日だけの付き合いだったけど、いろいろありがとう」

「こちらこそ、友達が出来てよかったよ。ありがとう」

 一応、二人の関係はまだ友達止まりか。表面上は。

 ただ、バニラの様子からもコニーを好ましく思っている様子は見て取れる。

 これは順調に事が運びそうだ。

「あ、そうだ。ピジョン牧場っていうところに、ナツメッグ博士という名のおじいさんが住んでいるの。グレイの先生よ。で、そのおじいさん、お医者さんでもあるのよ。君、海辺で倒れていたんだから、一度おじいさんに診てもらったらどうかしら。この手紙を見せれば、診てもらえるからね」

 コニーはバニラに手紙を渡した。

 博士の診察なら俺も紹介状を用意しているが、コニーの気遣いの方が嬉しいだろうと思ったので、俺は何も言わない。

「うん、ナツメッグ博士に診てもらうよ」

 バニラの表情も心なしか浮かれているように見える。

 まあ、俺みたいな野郎に心配されるより、ヒロインの方が嬉しいよな。

「それじゃ、元気でね」

「「「元気でね」」」

 トロット楽団のメンバーは汽車に乗り込んでいった。

「コニー……」

 コニーも汽車に向かうが、バニラが呼び止める。

「また、いつか会えるといいね」

「うん、そうだね。きっと会えるよ」

 コニーが振り返り、寂しくも甘い空気が漂い始めた。

「あ、そうだ……」

 コニーは急に何かを思い出したように鞄を探り、バニラの元へ戻る。

「君、ハーモニカ持ってたよね。次に会うときまでに、これ練習しておいてね。それじゃ、さようなら」

 コニーはバニラに『In Your Voice』の譜面を渡して汽車に駆け込んだ。

 さて、俺も用を済ませないとな。

 最後に話すのがヒロインじゃなくて悪いけど。

「ん? グレイ、どうしたんだい?」

「バニラ、俺からも渡す物がある」

 俺はバニラに手紙入りの封筒を二つと紙束を渡した。

「封筒にナツメッグ博士と書いてある方は俺からも博士への紹介状だ。診察に関することなんかも書いてあるから、博士に渡してくれ。あと、そっちの紙束には君の今後に関して必要なことが書いてある。必ず目を通してほしい。もう一つの手紙の使い道も書いてあるから」

「今後って……?」

「見ればわかる。悪い話じゃない」

「……わかった」

 バニラは完全には納得していない表情だったが、最終的には頷いてくれた。

 必ず読んでくれよ。

 この世界を効率的に攻略してもらうのに必要だからな。

 ついでに口にしたくないことも書いて済ませたが。

「グレイ! 何してるの?」

「もう汽車が出るよ」

 バジルとマジョラムが俺を呼んでいる。

「おっと、それじゃ、俺も行くよ」

「うん、また」

 俺は踵を返すと、楽団の皆が待つ汽車に乗り込んだ。

 

 

「ねえ、グレイ。バニラと何を話していたの?」

 汽車に乗り込み楽団のみんなと同じコンパートメントに座ると、早速、俺はコニーの詰問を受ける羽目になった。

 いや、俺はノーマルなんで腐の疑惑は勘弁。

「ああ、俺からもナツメッグ博士への紹介状を渡しておいた。俺なりの所見とカルテも入れてある。診察に役立つだろう」

「あ、そうなんだ。ありがとう」

「一応、俺も博士の助手だからね」

 コニーは納得したようだ。

 これに関しては俺も嘘はついていない。

 ただ、バニラが前に話したこの世界の運命を大きく動かす少年で、記憶喪失に関することを当たり障りのない範囲で少々記載し、博士にビークルのメカニズムや操作に関する指南をしてくれるように頼んでおいただけだ。

「ふふっ、コニーったら随分バニラのことが気になるみたいね?」

「え!? ち、違うよ! ただ、海辺で倒れていたから、身体を悪くしていないか心配で……」

 生暖かい微笑みを送るセイボリーに、必死になって否定するコニー。

 この光景がまさか現実で見られるとは、ゲームをプレイしていたときには夢にも思わなかった。

 しばらくは顔を赤くして必死に捲し立てていたコニーだったが、やがて隣に座るセイボリーに頭を預けて寝息を立て始めた。

 コクリと船を漕いだ拍子にコニーの前髪が目にかかり、セイボリーが細い指先で後ろに流してあげている。

「(疲れていたみたいね)」

「(当然だろう。夜明け近くまで、あんな騒ぎだったんだ)」

 セイボリーもフェンネルも、コニーを起こさないように小声で囁くようにして話している。

 よく見ると、マジョラムとバジルもシートに深く体を埋めて寝息を立てていた。

 バジルは負傷して消耗しているし、マジョラムも看病で疲れているはずだ。

 今は寝かせておこう。

 バジルは起きたら残念がるかもしれないな。

 コンパートメントでは俺とフェンネルとマジョラム、コニーとセイボリーとバジルで別れて座ったのだ。

 念願のセイボリーの隣に座れたのに、汽車に乗っている間ずっと寝ていたなんて、バジルにとっては悔やんでも悔やみきれないことだろう。

 俺は大丈夫だよな?

 何か忘れて後悔するようなことは……。

 ん?

 本当に、何か忘れているような……。

「あっ」

「どうした?」

「ポールの絵、受け取れなかったな……」

 まあ、あんな騒ぎがあった後では仕方ないか。

 原作の時間軸的にポールの絵は完成しているはずだが、受け取るのは次回でもいいか。

 

 

 

 

「よろしくお願いします。ようし、それでは建物の修理に取り掛かろう」

「はいっ」

 ネフロ駅前で博物館の学芸員と館長を見送った後、バニラは自分のビークルに戻ってグレイから渡された紙束を開いた。

 バニラが記憶を失った状態でこの地に流れ着いて、まだ一日しか経っていない。

 たった一日で、彼の周囲は目まぐるしく動いた。

 トロット楽団メンバーとの出会いは、帰る場所も頼る人も居ないどころか、自分が何者かもわからないバニラにとって、この不安な状況下で大きな心の支えになったのは間違いない。

 その中でも、海岸で自分を助け起こしたコニーという可憐な少女に、バニラは感謝や友情とともに僅かな恋心を抱いていた。

 一番長い時間を共に過ごしたこともあるが、彼女に惹かれるのは運命と言ってもいいくらい、自分にとって自然なことのように感じる。

 そして、グレイという青年。

 楽団メンバーの中では最年長で、今のバニラでは逆立ちしても敵わないほどのビークルの操縦技術を持つ、黒髪の大柄な男だ。

 『ドン・エレファント』との戦闘で、バニラはグレイの卓越したビークルの操縦技術とその機体の性能に驚愕した。

 バニラは彼に何か感じるものがあった。

 自分とは二回り以上も違う体格と戦闘能力から来る迫力だけではない。

 どこか、人を見通すような印象を受ける、僅かに警戒心を含んだ、自分を案じるような目。

 初対面のはずだが、グレイはバニラのことをよく知っているような雰囲気だった。

 バニラにとって、グレイはそんな不思議な存在だった。

 だから、バニラはグレイに託された文書をできるだけ早く読もうと思ったのだ。

 

 

 グレイが文書に書き起こした内容は、本来の歴史のバニラをかなり先取りして強化するものだった。

 まずは、汽車に乗って一刻も早くナツメッグ博士のところに行くこと。

 そして次は、ネフロに戻ったら駅下の地下道に居るジンジャーを訪ねて、ビークルバトルの指南を受けるよう書かれていた。

 書類を読み進めると、博士への手紙にはバニラの事情が書いてあり、ジンジャーには話を通してあるとのことだった。

 それ以上の説明は無い。

「『そこから先の出来事では、自分で考えて道を選べ』って……どういうことだろう? グレイには、何か起こることが、わかっているのか……?」

 グレイの書いたメッセージはそこで終わっており、二枚目の紙にはジンジャーの住処の地図、あとの紙には注意すべき盗賊団の情報が書き込まれている。

 本来なら、ここでのバニラは先ほどネフロ博物館の連中に頼まれた化石発掘と闘技場で旅費を貯め、ビークルに乗ってピジョン牧場へ向かう。

 しかし、グレイが先回りしてピジョン牧場駅の建設を終えているので、わざわざビークルで歩いて行く必要は無い。

 グレイから博士への手紙には、ビークルの扱いの基礎やメカニズムを教えてやってほしいと書いてある。

 さらに、グレイは博士の工房でバニラの【カモミール・タイプⅡ】の総メンテナンスをするように頼んである。

 これだけでもバニラの戦闘能力は格段にアップすることは確実だ。

 元ビークルバトルチャンピオンで、現在はエルダーの手を逃れてネフロ地下道に潜伏し、日雇い労働者としてその日暮らしをしていたジンジャーは、グレイの支援でバニラを受け入れる態勢を整えた。

 ジンジャーの住処は、今や下手な宿よりも住みやすいスイートルームへと大変身を遂げている。

 グレイが小分けにして持ち込んだ家具や雑貨、食料に冷蔵庫まであるので、長期間の潜伏でも快適に過ごせるのだ。

 資材も大量に持ち込んだので、ビークルの修理に困ることは無い。

 その居心地の良さは、ジンジャー曰く、堕落して危機感が鈍るのが心配になるほどだそうだ。

 これならバニラも修行に集中できることは間違いない。

 本来なら、ジンジャーの指南はもっとストーリーを進めないと発生しないサブイベントなのだが、グレイがフラグを無視して根回ししたのだ。

 もちろん化石発掘と闘技場にも少しは行ってほしいと思っているので、グレイにしてもバニラに完全にジンジャーとの修行漬けの日々を送らせるつもりは無かった。

 しかし、たとえ一時とはいえ、宿代と食事代にも事欠くような生活を送るはずだったバニラにとって、このグレイの根回しは非常にありがたいものとなる。

 何せ、闘技場のビークルバトルは低ランクではファイトマネーなど高が知れているし、化石発掘も慣れるまでが大変で、新人の稼ぎなど雀の涙だ。

 グレイにしてもゲームでは化石発掘でホイホイ稼げていた印象があるので、これを知ったときには大層驚いた。

 現実はゲームではないので、化石堀りも闘技場も楽な仕事ではない。

 それが、ジンジャーの住処に行けば、最低限の生活には困らないのだ。

 別にグレイはバニラを蝶よ花よと育てたいわけではないが、どうせ苦労するならバニラ自身の強さや自分への恩として還元される方がいいとグレイが考えた結果だ。

 そんな事情はバニラが知る由も無いが、この文書が自分に悪意を持って書かれたわけではないことくらいは読み取れる。

「グレイ、あなたは一体……?」

 バニラは読み終わった紙を仕舞おうとして、最後の紙に短く書かれた一文を見つけた。

「えっと……『もし、闘技場でライセンスの発行が滞りなく進まないようだったら、受付や職員に話が通じないようだったら、どうしても他に手段が無かったら、二つ目の封筒の手紙を支配人に渡せ』、か。何で、こんな最後の手段みたいに……?」

 ネフロ闘技場の支配人といえばディーノ。

 グレイが敵の陣営以外で最も苦手とする人物である。

 バニラが事情を理解するのは、もう少し先の話。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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