steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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34話 蚊帳の外

 

「え!? ネフロが、占領……」

「ああ」

 ネフロの街がキラーエレファント団に占領されたという報が、今日になってハッピーガーランドに届いた。

 俺はコニーに答えつつアーバン新聞の夕刊をテーブルの上に広げる。

 コニーとマジョラムとセイボリーが覗き込んだ。

 第一面を見たときのコニーの驚きようは相当なものだった。

 それまでのバニラへの懸想で色ボケした表情とは打って変わって、顔を蒼白にしている。

「あそこには、お母さんと、バニラが……」

「コニー! しっかりしなさい!」

 ふらつくコニーをセイボリーが支えた。

「街の人たちはビークルや車を没収されただけって書いてある。一部のビークルバトラーや警察官は軟禁状態みたいだけどね」

「そう。それなら、ローズマリーは無事ね」

 新聞にざっと目を通したマジョラムに応じて、セイボリーはコニーに言い聞かせた。

「でも、バニラは……」

 キラーエレファント団によるネフロ占領イベントは、原作ではナツメッグ博士のところから帰ってきたときに起きる。

 占領下のネフロからの情報漏洩の難度と、この世界の情報の拡散速度を考えると、ネフロの襲撃があったのは数日前だろう。

 バニラが俺の忠告通り動いたとしたら、彼はナツメッグ博士によるビークルの教練は既に終わらせており、ジンジャーからのビークルバトルの指南もある程度受けているはずだ。

 少なくとも、キラーエレファント団の下っ端に撃破されるようなことはないだろう。

 余程の多勢に無勢で距離を詰められたら降伏するしかないだろうが。

 もしも原作通りバニラが拘束されたのなら、今頃はキラーエレファント団に仮入隊をして親分に話を付けに行っているはずだ。

 ……原作通りにバニラが行動すればの話であるが。

「皆、大変だよ! ネフロの街がキラーエレファント団に……」

「今、その話をしているところだ」

 ようやくバジルがロブスター亭に駆け込んできた。

 

 

「今のところ、街の人間は人質に取られている状態だが、死者は出ていないようだ。キラーエレファント団の襲撃は明け方だったらしい。民間人は寝ているところを、警察も当直の係しか起きていないところを襲撃されて、一気に街の全域が制圧されたようだ」

 原作では、主人公がピジョン牧場へ行って帰ってきてネフロに入ると、街はつい先ほどキラーエレファント団に占領された、というイベントの進み方をする。

 ゲームのシステムでは街に入ると時間が進むので、必然的に主人公の帰還は昼から夜になり、襲撃時間は朝か昼過ぎか夕方に限られる。

 やはり現実はゲームとは違うな。

 効率的な襲撃なら明け方というのは常識だ。

 現実では定石に従っている。

「なら、ローズマリーは無事だろう。奴らの目的は住民を殺すことじゃねぇようだ」

「じゃあ、バニラは……?」

 いつの間にか現れたフェンネルの一言に、コニーは縋るように質問する。

「それは、わからん。あいつはなかなかセンスのいいビークル乗りだが、バトルライセンスを取得していたとしても、まだ日が浅い。低ランクバトラーが見せしめに殺されることはないだろうが、もし襲撃時に敵と衝突していたら、無事では済まないだろうな」

「そんな……」

 フェンネルの言うことは配慮に欠けているかもしれないが事実だ。

 セイボリーはフェンネルに責める視線を送るが、コニーに間違った認識が植え付けられるよりはいい。

「ガーランド警察は動けないだろう。ネフロの人間が一人でも殺されたことが明らかになれば、強行策も本格的に検討されるだろうし、国軍の出撃要請も視野に入れられるはずだ。しかし、今現在わかっているのは住民全員の命がキラーエレファント団に握られていることだけだ。刺激は禁物。できることといえば、出撃に備えた突入部隊の編成と、ネフロ内部からキラーエレファント団に働きかけて解放されることを期待するくらいだ」

 結局、トロット楽団としては休演期間を延長することをマジョラムが決め、俺たちは各自解散した。

 まあ、ネフロの件が与えた衝撃はハッピーガーランドにも強く影響しており、定期演奏会のムードではなくなってしまった今の状況では妥当な判断かもしれない。

 震災時の日本の自粛ムードほどではないが、やはり身近な危機を再認識させられる事件があると、俺たちのような娯楽系の商売の客足は鈍るものだ。

 

 

 翌日、俺が外出先である用事を済ませてからロブスター亭に戻ると、ラウンジではコニーが何やら捲し立てていた。

「だから! それを承知でお願いしているの!」

「あわわ……コニー、落ち着いて」

「コニー、今ネフロに戻るのは危険すぎるわ。わかるでしょう?」

「でも! バニラが……」

 オロオロと慌てふためくバジルに、心苦しそうな表情でコニーを押し留めるセイボリー。

 マジョラムは落ち着いているように見えるが、あの難しい表情は相当な困難に直面したときの顔だ。

「あ、グレイ! 君からも何とか言ってくれよぉ」

「どうした?」

 こちらに気付いたバジルが俺に水を向けてきた。

 大体の事情は想像がつくが、一応何があったか聞いてみた。

「コニーがネフロに行くって言って聞かないんだよ。今、向こうはキラーエレファント団の占領下だろ。とてもじゃないけど、行かせるわけにはいかないよ」

「そうよ、コニー。ネフロの人たちが心配なのはわかるけど……」

 俺はマジョラムに視線を向けた。

「当然、僕の意見もコニーがネフロに行くのは反対だ。でも、何かネフロの情報が手に入る手段がないものか……」

 マジョラムはせめてコニーのためにネフロ内部の情報を入手できる手段を考えているようだ。

 まあ、この世界の情報伝達速度では、ネフロが解放されたとしても、ハッピーガーランドにその知らせが届くのは、早くても数日後だな。

「そうだ! なら、グレイに確かめに行ってもらえばいいんじゃないかな? グレイならキラーエレファント団のビークルなんて軽くぶっ飛ばしちゃうだろうし」

 確かに、バジルの言うことは一理ある。

 普通に考えれば、俺がネフロに向かうのが最も効率的だろう。

 ネフロを探りに行った先で戦闘になっても、俺ならよほどのミスをしない限り盗賊ビークルを蹴散らして撤退できるし、上手くやれば闘技場と警察署を解放して、俺一人の襲撃でも街からキラーエレファント団の勢力を一掃することも可能だろう。

 しかし、コニーは首を横に振った。

「私だって、それが一番なのはわかってるよ。でも! ここで行かなかったら、二度とバニラに会えない気がして……」

 ……そうか。

 コニーとバニラの再会は、バニラがキラーエレファント団のアジトに乗り込んでネフロを解放して戻って来たときに、ローズマリーのところで顔を会わせる予定だ。

 そして、翌朝コニーがハッピーガーランドに戻ろうとしたとき、ウズラ山トンネルの事故で汽車が出られなくなり、バニラがコニーを送っていくことになる。

 このイベントが無ければ、確かにバニラとコニーが今後も絡むことは無くなるかもしれない。

 何せ、今のバニラはネフロでビークル乗りとして生活しているのだ。

 コニーの頼みごとが無ければ、彼がハッピーガーランドに行く理由も、コニーに楽器の腕を披露してトロット楽団へスカウトされる機会も無くなる。

 下手をするとフラグが潰れていたわけか。

 原作通りのシナリオを外れたこの世界がどう動くか俺にはわからない。

 もしかしたら、結構危なかったのかもしれないな。

 さすがはヒロインの修正力。

 助かった。

「だからお願い。行かせて……」

「……仕方ないわね」

「これは、止めても無駄じゃない?」

「そっか。コニーはそこまで……」

 コニーの強い意志が伝わったのか、トロット楽団の面々も渋々ながら彼女の言うことを受け入れた。

 マジョラムまでもが折れてしまった。

 しかし、俺はコニーの申し出をそのまま呑むことはできなかった。

「それは……無理だ」

 

 

 コニーは信じられないものを見る目で俺を見てきた。

 慌てなさんな。

 今説明してやっから。

「コニー、俺が今どこに行ってたかわかるか? ハッピーガーランド駅だ」

「駅……?」

 バジルは首をかしげるが俺は続けた。

「今、ネフロに向かう汽車は全て運休だ。ネフロ近郊の路線がキラーエレファント団に封鎖されているんだ。列車は街に近づくことすらできないだろう」

「っ! そんな……」

 俺はコニーがネフロに戻ることを知っていたが、一つ気掛かりなことがあった。

 それは、ネフロが封鎖されているのに、何故コニーは戻ってくることができたのか、という点だ。

 原作では、主人公がキラーエレファント団のアジトに出向いて親分に話をつけると、ネフロに戻って来たときには既に占領部隊に伝書鳩が届いており、街は解放済みでコニーもローズマリーのもとに居る。

 ゲームでは、ストーリーの都合上、このように淀みなくイベントが進行するわけだが、現実では街が解放されてすぐに列車の運行が確保されることは考えにくい。

 そうなると、この世界ではコニーがネフロに行けるのは、もっと時間が経って街が復旧してからになるはずだ。

 もしかしたら、ここが原作通り事を運ぶために、俺が介入しなければならないところなのかもしれない。

 バジルに提案されるまでもなく、既に俺は自分がネフロに行くことを視野に入れていた。

 しかし、誰がネフロに向かうにしろ、肝心の移動手段が動いていない。

 今の時期に汽車でネフロに行くのは、ハナから不可能だったわけだ。

「じゃあ、グレイが行くのも無理なの?」

「いや、バジル。確かに、汽車でネフロに向かうのは無理だが、方法が無いわけじゃない」

 俺の言葉にコニーが顔を上げて表情を輝かせる。

「さっき、駅で話を聞いてきた。汽車を貸し切るのは無理だが、工事用の運搬トロッコなら動かせるらしい」

 原作でウズラ山トンネルを占拠した盗賊ビークル『スチーム・ハムレット』を倒しに行くときに乗ったあれだ。

 似たような小型駆動機つきの作業用トロッコがあり、これを一台借りられることになったのだ。

 もちろん、壊したら弁償だが……。

 まあ、俺なら普通に用意できる額だな。

 これで俺と【ジャガーノート】のネフロまでの運搬手段は確保できたわけだ。

「じゃあ、このことはグレイに任せて解決だ! よかったね、コニー」

 しかしコニーはバジルの言葉に反応せず、俺をジッと見据えた。

 まあ、彼女の口から出る言葉は予想がつくさ。

「グレイ、私も連れてって」

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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