steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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35話 解放

 

 俺はウズラ山トンネルの直前でトロッコを停め、【ジャガーノート】の助手席に乗る人物に声を掛けた。

「ここからは、いつ敵が出てきてもおかしくない。ネフロ近郊は完全にキラーエレファントの勢力下だ」

「うん」

 引き返すか確かめる意味も含めての確認だったが、帰ってきたのは力強い返答だった。

 俺は小さくため息を吐いて続けた。

「仮にネフロ駅まで順調に進んだとしても、駅構内へ入った途端に戦闘になる可能性がある。コニー、バニラと合流するか街全域の秩序が回復するまで、絶対に俺から離れるな」

「うん、わかってる」

 俺は再度レバーを倒してトロッコを発進させた。

 結局、俺はコニーの申し出を受け入れてネフロへの同行を許した。

 後から考えれば、バニラをハッピーガーランドに連れてくる理由なんていくらでも作れる。

 それこそ、俺が誘えばいいだけの話だ。

 しかし、やはりバニラを案じてハッピーガーランドからネフロに駆けつけるコニーという存在は、バニラにとって非常に重要なものだろう。

 今回は多少の危険を冒してでも原作に近い状況を作ることを優先したのだ。

 上手くすれば、俺たちがネフロに着くころには、バニラが全てを片づけており、街はいつもの活気を取り戻していることだろう。

 それでも、ゲームと現実の差異が、そして俺の過去の行いが、シナリオにどう影響しているのかわからない。

 最悪、ネフロの街では抵抗勢力とキラーエレファント団が血を血で洗う抗争を繰り広げて地獄絵図、なんてこともあり得るわけだ。

 できればコニーにそんな状況は見せたくないな。

 

 

 ネフロ駅に到着したのは深夜のことだった。

 可能な限りトロッコの稼働音を抑え、汽車の停車位置まで侵入する。

 俺の【ジャガーノート】もいつでも飛び出して敵を迎撃できるよう準備していたが、城壁の内外にも駅周辺にも盗賊ビークルの姿は見当たらなかった。

 ここに留まっていても始まらないので、俺は極力ビークルの足音が響かないように注意しながら駅を出た。

 しかし、駅前広場にもキラーエレファント団の姿は無い。

「……どういうこと?」

「(静かにっ)」

 コニーは慌てて口を塞ぎ、戸惑ったように辺りを見回した。

 コニーは未だに誰の姿も確認できないようだが、俺の目は駅前の教会の裏から発進する『ルースター』を捉えた。

 黒塗りの【ジャガーノート】の姿は夜の闇に紛れて彼らの目には映っていないようだ。

「まったく、せっかく街が俺たちのものになったってのに……」

「ふんっ、親分の器に感謝するんだな」

 二台の『ルースター』は街の出口に向かっていく。

 俺は静かに狙いを付けていたチェーンガンアームを下ろした。

「(どうやら、街は今まさに解放されているようだな)」

「(あ、あそこ! 教会から人が出てきたよ)」

 俺がコニーの指差した方に視線を向けると、ちょうど教会から見覚えのある連中が出てくるところだった。

 後ろに街の住民を庇うように先陣を切って出てきたのは、髭を蓄えた長身の男だ。

 俺も何度か見たことがある、ネフロ教会の神父だ。

「……皆さん、駅前に盗賊ビークルは居ません。もう大丈夫です」

 神父の落ち着いた渋い声に応えて、教会の中から次々と軟禁されていた住民が姿を現した。

 俺が自画像を購入し、ネフロの街の風景画を予約したポールも居る。

 博物館の学芸員のベルモンドとは話したことが無いが、あのゲームで見た通りのハンチング帽を被った青年がそうだ。

 俺のビークルが住民たちの方へ近づくと。ポールがこちらに気付いた。

「あ、グレイさん! こんなところで何を? ハッピーガーランドに行ってしまったんじゃ……」

 ポールの声で神父や他の住民たちも俺の存在に気付いて振り返る。

 

 

「おお! あなたがグレイさんですか。っ! コニーも居るのですね」

「ああ! あなたが……」

 ポールと神父とベルモンドがこちらにやって来た。

 ちょうどいいから彼らに聞いてみよう。

「キラーエレファント団はどうなりました? 見たところ撤退しているようですが」

「ええ、街を占拠していた無法者たちは、次々とビークルに乗って引き揚げています。どうやら、彼らの頭領から街を解放するように指示があったようですが……」

「彼ですよ! バニラさんです! キラーエレファント団の親分のところに、話しをつけに行くって言ってましたから」

「え!? バニラが……?」

 ベルモンドの言葉にコニーはかなり動揺している。

 彼女がネフロに来た一番の目的はバニラなのだから当然か。

 そして、建物内に軟禁されていた人たちが次々と俺たちの周りに集まる。

「なあ、街を抜け出してキラーエレファント団のボスの所へ話をつけにいった奴が居たよな?」

「確か……バニラとかいうビークル乗りだろ」

「ええ。そして、ネフロの街は今まさに解放されているわ」

「ってことは、説得は成功したのか?」

「何でも、キラーエレファント団のボスを倒したらしいぜ」

「何だって!?」

「団員がボヤいていたのを聞いたんだが……ボスが強さと度胸を認めて、街から手を引けっていう要求を呑んだって話だ」

「本当か!?」

「凄ぇぞ!」

 彼らの話で大体のところはわかったな。

 どうやらバニラは原作のシナリオ通りキラーエレファント団のアジトに向かい、ボスとの対決などをこなして街の解放に成功したようだ。

 本当に勝ったのかどうかはわからないが、少なくともバニラは俺の介入なしでも原作通りの活躍をしてくれた。

 俺がわざわざトロッコを借りてまでネフロに来たのは無駄な労力だったが、このことが確認できただけでも収穫だな。

「あの……グレイさんは、もしかして僕たちを助けに?」

「……まあ、そのつもりでビークルの武装は整えてきたが、無駄骨になったな」

 俺は熱狂する住民たちを尻目に声を掛けてきたポールに答える。

 結局、俺は一発も撃たなかった。

 しかし、ポールは首を横に振った。

「いえ、グレイさんは何の見返りも無く、危険なネフロに単身乗り込んできてくれたんです。確かに、街を解放したのはバニラかもしれませんが、僕はあなたにも感謝します」

 そう言うとポールはしっかりと梱包された絵を俺に差し出した。

「グレイさん、長らくお待たせして申し訳ありません。ご予約いただいた風景画です」

 そういえば、ポールに1万UR渡して風景画を完成前から予約していたな。

 街が占領下にあるときも肌身離さず持っていたのか。

 律儀なことだ。

「ああ、確かに受け取った」

 

 

「コニー、今日はもう遅い。家まで送るよ」

「うん……」

 コニーはまだバニラのことが心配でならないといった表情だが、だからといって彼女を徹夜で街に出口で立たせるわけにもいかない。

「明日いっぱいはネフロに居るんだろ? なら、バニラには明日家に来てもらえばいい」

「うん、わかった……」

「ベルモンドさん、神父さん。バニラが帰ってきたら、コニーの家に来るように伝えてくれませんか?」

「わかりました。お任せください」

「ええ、ローズマリーも彼のことを心配しているでしょう」

 俺は未だに表情の優れないコニーを促して、ローズマリーの待つ彼女の家に向かった。

 いつも通りネフロベーカリー前の駐機場に【ジャガーノート】を停め、路地を歩いてアパートの立ち並ぶ住宅地に入る。

 キラーエレファント団の残党が潜んでいるかもしれないので、俺はいつでもショルダーホルスターのS&W M10を抜けるように準備しつつ、ポケットのフォールディングナイフも確認した。

 しかし、そんな心配は杞憂に終わり、無事コニーのアパートに到着した。

「さて、護衛の真似事はここら辺で十分かもしれないが……一応、俺もローズマリーさんに挨拶させてもらってもいいかい?」

「うん、もちろん」

 俺はコニーに続いて彼女の家に足を踏み入れた。

 

 

「お母さん」

「え? まぁ、コニー! あなた、ハッピーガーランドに居たんじゃ……」

「おやまぁ! グレイも一緒かい」

「お邪魔します」

 コニーの家には隣のフライパンのおばさんも居た。

「どうしたんだい? キラーエレファント団は撤退を始めたって聞いたけど、まだ鉄道は復旧してないだろ?」

「まさか……ハッピーガーランドから助けが?」

 二人の疑問にはコニーが答えた。

「ううん、私がどうしてもネフロに行きたいって言ったから、グレイが小型トロッコにビークルを乗せて、ここまで送ってくれたの」

「何だって!? じゃあ、あんたたち二人で来たってのかい?」

 おばさんは一瞬だけ俺を責めるような表情をしたが、まあ仕方ないよな。

 下手をすれば駅についた途端に戦闘になっていた可能性もある。

 そんな状況で足手纏いの少女を連れて来るなど、並みのビークル乗りであれば自殺行為である。

 俺が危険を承知でコニーを連れてきたのは事実だ。

 たとえ、警察や軍の増援が共に来ていたとしても、コニーを一緒に連れてくるのは普通に考えて十分に危険な行為だろう。

 これがいい大人ならコニーの判断に関して俺を責めるのは筋違いだが、日本人の俺の基準でもコニーは未成年でギリ子どもだ。

「いいのよ。コニーなら、きっと一人でもネフロにやって来たでしょう? グレイ、コニーのことを守ってくれて、本当にありがとう」

「……そうさね。あんたを責めるのもお門違いな話か」

 この二人は思った以上にコニーに対して理解があるようだ。

 まあ、この世界は何だかんだで現代日本よりも厳しい環境だ。

 コニー自身も歌手として独立して身を立てている以上、立派な大人扱いされるのも納得できる。

「いえ、まあ、勝算はありましたが、危険が無かったと言えば嘘になります。本当なら、俺だけが警察や軍と一緒に来るべきだったのは事実です。申し訳ありません」

 しかし、俺は気遣いのできる日本人。

 こういうところでは気配りをしておかないとな。

 俺はコニーに向き直った。

「じゃ、俺は行くから。今日はゆっくり休みな。どうせ、バニラが帰ってくるのは明日になるだろうし」

「うん。グレイ、色々ありがとう」

「いえいえ。あ、それと……」

「ん? 何?」

「俺はナツメッグ博士のところにも寄るから、ハッピーガーランドに戻るのは少し遅れるかもしれない」

「あ、そうなんだ……。でも、仕方ないよね。グレイには手が空いているときにトロット楽団を手伝ってもらうって約束だったし」

「悪いな。それじゃ」

 俺はコニーのもとを辞した。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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