steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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38話 トンネル事故発生

 

 ネフロの街の北西に建つ宿屋『ジェームズ・イン』に泊まった俺は、早朝にジンジャーのアジトに向かった。

 この街で夜を明かすのならば、俺が匠の技で快適な居住空間に変身させたジンジャーの住処が一番なのだが、昨日はバニラが泊まっていたはずだ。

 三人でも寝られないことはないが、バニラとジンジャーの師弟二人で積もる話もあるだろうから、昨日は俺が遠慮したわけだ。

 今日は俺がジンジャーとサシで話をさせてもらおう。

 ……おっさんに会うのに順番待ちだなんて、何だか悲しくなるな。

「ジンジャー、居ますか?」

 俺は地下道を進むと、ジンジャーの住処に向かって声を掛けた。

「む、グレイか」

 奥から相変わらず飛行帽に髭面のジンジャーが出てきた。

 服はさすがにもうボロ布を卒業したようだが、やはり堂々と表通りを歩いている人間には見えない。

「君と会うのはトロット楽団とかいう連中のイベント以来か。バニラの話で君が無事なのは聞いていたが、少々心配したぞ」

 ジンジャーから心配なんて言葉が出るとは珍しいな。

「一応、俺もトロット楽団のメンバーみたいなものでしてね。あの襲撃のあとはすぐにハッピーガーランドに戻らなければならなかったので」

「そうか」

 ジンジャーは一拍おいて口を開いた。

「イベントの日、私と別れた後のエルダーの動向は?」

 俺はダンディリオンの見た目でフェンネルにビークルを借り、バニラたちを殺そうとしたことを伝えた。

 トロット楽団の面々には今の段階で暴露したところでどうしようもないので、ここら辺の事情を教えていないが、そのこともジンジャーは了承済みだ。

「なるほど、あの青いビークルを使ったのか。あのビークルの持ち主もなかなかいい腕を持った若者だったな」

 ジンジャーはフェンネルのことは知らないようだが、キラーエレファント団の襲撃があったライブの日にフェンネルの戦いぶりは少し見ていたようで、彼のビークル乗りとしての腕を評価した。

「彼もこちら側の人間です。エルダーとブラッディマンティスとの戦いでは、心強い味方となってくれるでしょう」

 初見プレイでは海岸でフェンネルのビークルに攻撃されたことから猜疑心を持ってしまうが、事情を知っていればフェンネルが敵側の人間でないことはわかる。

 俺というイレギュラーの介入で、ジンジャーは原作よりも俺たちに深く関わっている。

 説明不足でジンジャーが見当違いな疑いを持ってしまったら大変なので、こういう情報は確実に伝えておかないとな。

 

 

「ところで、ジンジャー。バニラには結構いい感じにビークルバトルを指南してくれたみたいですね」

「ああ、彼は素晴らしい才能を持ったビークル乗りだ」

 どうやらジンジャーもバニラを気に入ったようだ。

「そういえば、わざわざ危険を冒してまで水路から出て、キラーエレファント団の前線基地の壊滅にも力を貸してくれたそうで」

 ジンジャーには以前からいつか現れる少年にも指南してほしい旨を伝えていたが、まさかここまでの助力が得られるとは思ってもみなかった。

「君に託された少年だからな。彼が盗賊団に拘束されたときは焦った。バニラのビークルが盗賊団の占領部隊のビークルに包囲されたときは、すぐに飛び出して助けようかとも思った。しかし、彼は黙って監禁されるようなタマではない。結果的に、バニラが街を自力で出るのを待って正解だった」

「それに関しては感謝の言葉もありません」

 俺が留守の間、キラーエレファント団との戦いにおいても、ジンジャーはずっと子守をしてくれていたようなものだ。

「……で、バニラの腕は?」

「ふふっ、やはり気になるのかね?」

 ジンジャーも博士と同じ反応だ。

 そんなに俺はバニラに嫉妬しているように見えるのだろうか。

「ああ、すまない。何だか……子どもの成長を気にする父親のようだと思ってな」

「父親……。俺まだ結婚もしてないんすけど……」

「おや、そうなのかい」

 ジンジャーは一通り俺を茶化して満足したのか、真面目な表情で俺を見据えた。

「君は私が最後に稽古をつけたときからエルダーに勝つほどの強さを有していた。あれから君もさらに研鑽を積み、もっと強くなっただろう。もう私では手も足も出ないほどに。しかし、才能でいえばバニラも君に匹敵するほどのものを持っている」

 俺は冷静にジンジャーの言葉に耳を傾けた。

「機体の性能差と経験の差、それに君の方が圧倒的に勝る射撃武器の扱いで、今は君の方がバニラより圧倒的に強いだろう。しかし、バニラの成長速度は驚異的だ。彼は既に私を超えた」

 これには俺も驚いた。

 バニラのビークルは俺のようなチート級の性能どころか、一般的な『カモミールⅡ』にも劣るかもしれないスペックだ。

 機体のコンディション上の問題が全てナツメッグ博士により解決したとしても、武装などの面でバニラの機体の現在の性能はジンジャーの【ブラックオデッセイ】に未だ劣る。

 その状態で、僅か数日の修行期間でジンジャーを超えていくとは……さすがに主人公補正はチートだな。

 うかうかしていると俺は軽く追い抜かれてもしまってもおかしくないわけか。

 機体のスペックとチェーンガンによる正確な射撃が無ければ、俺は今のバニラ相手でもかなり苦戦するだろう。

「くくっ、君も油断せずに精進することだ」

 ジンジャーは上機嫌だが俺は気が気でない。

 今のところバニラは俺たちを信頼しているが、彼は下手をするとブラッディマンティス側につくからな。

 そんな危険な才能の塊を敵に渡さないためにも、俺が色々と動いていかなければならない。

 

 

「さて、これからどうするんだ?」

 俺は今後の予定とバニラがしばらくネフロを離れる旨をジンジャーに伝えた。

 ウズラ山トンネルの件を既に俺が知っていたことに関しては、ジンジャーも何かを探るような目で俺を見ていたが、今まで積み上げた信頼からか納得してくれたようだ。

「と、いうわけです。とりあえず、ジンジャーの力がどうしても必要なのはこれで一旦終了です。もしかしたら、ブラッディマンティスが本格的な攻勢に出たときに力を借りに来るかもしれませんが、それまではここで息抜きをしていてください」

「わかった。もしできたら、バニラと君の方針が決まったら、一度は連絡してくれ」

「ええ」

 そういえばスマホが無いんだった。

 バニラが砂漠を渡ってコニーを送り届けることに決めたら、もう一度ここに顔を出さなければならない。

 俺はジンジャーのもとを辞して、コニーが始発に乗ろうとするネフロ駅に足を向けた。

 

 

 俺が駅に到着すると、改札口では駅員に詰め寄る客が目に入った。

 ここのイベントはコニーがハッピーガーランド行きの汽車に乗ろうとしたところで、途中のウズラ山トンネルで事故があったらしく列車が出せないという情報が入る。

 乗客たちの様子からすると、既にウズラ山トンネルのトラブルに関しては説明があったようだ。

 一部は踵を返して駅を後にしているが、納得しきれない者は駅員を罵倒し続けている。

 さて、コニーは今頃バニラにハッピーガーランドに送ってくれるよう頼んでいるはずだが……。

「うん、いいよ。一緒に行こう」

「よかった! ありがとう!」

 駅の構内で二人と博物館の学芸員ベルモンドを見つけた。

 どうやら、バニラはコニーの頼みを快く引き受けたようだ。

「あ、そうだ。グレイに声を掛けないと。ナツメッグ博士のところで用があるみたいで少し遅れるって言ってたけど、一応伝えておいたほうがいいよね」

「うん、そうだね。あと、僕はジンジャーにもこのことを伝えないと……」

 俺は二人に近づいて口を開いた。

「話は聞こえたよ」

「「「グレイ(さん)!」」」

 バニラとコニーにベルモンドが一斉に振り向いた。

 俺はバニラたちの横を通り、駅の職員と向かい合う。

「事情は俺も理解した。駅員さん、ウズラ山トンネルのトラブルが、盗賊がらみにしろ落盤事故にしろ、そちらで対処したとして、どれだけの時間が掛かる?」

「そ、そうですね……場所が場所ですから、原因解明と安全確認だけで合わせて二週間ほどは……」

 やはり無理だな。

 マジョラムが次シーズンのロブスターでの公演開始を遅らせたとはいえ、二週間後ではちょうど演奏会が始まっている時期だ。

「おまけに肝心の盗賊の処理に……もしくは復旧工事なら週単位で時間が掛かると」

「そ、その通りです」

 どう考えても間に合わない。

 俺はウズラ山トンネルのトラブルが盗賊団による占拠だとわかっているので、敵を排除すれば解決のように思えるが、鉄道会社としてはそれだけで終わるわけにはいかない。

 事前の調査と開通前の安全確認は怠れないだろう。

 もし俺が強引にトロッコを出させて盗賊団を排除しても、戦闘の影響で破壊されたトンネルの修繕と安全確認にも時間が掛かる。

 やはり、今ハッピーガーランドに行くためには、ガラガラ砂漠を渡るのが確実だ。

 ゲームでは耐水ボディならスキトール湖を渡ってイワツバメの滝を飛び降りれば、ハッピーガーランドまでの道をショートカットできるが、現実ではスキトール湖からハッピーガーランドまでの距離はそれなりに遠く、何よりあの高さの滝を飛び降りるなんて正気じゃない。

 俺のビークルは耐水仕様だが、イー〇ルダイブ機能など付いていないのだ。

 現実でそんな危険は冒せない。

「バニラ、ビークルバトルライセンスは持っているな?」

「あ、うん。Cランクだけど」

 どうやらこの短期間でも一ランク昇格したようだな。

「ならアレハーテ丘陵からガラガラ砂漠へ向かう道も通行許可が出るはずだ。ネフロ北西出口から出て、アレハーテ丘陵を通ってレイブン砦へ向かえ。砦で消耗品や雑貨の補充など準備を整えてから砂漠に出るといい。ジンジャーには俺から伝えておく」

「ああ、わかったよ」

「グレイはどうするの?」

 俺はコニーに向き直った。

「俺もガラガラ砂漠からハッピーガーランドに行くよ。ただ、ちょいと野暮用があるんでね。レイブン砦で合流できるかもしれないけど、先に行っててくれ」

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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