steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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2018/11/11 誤字修正しました。


39話 画家と逃亡者

 ネフロの街の北西出口に向かったバニラとコニーを見送った俺は、改めて地下道のジンジャーにバニラがしばらくネフロを留守にすることを伝え、ビークルのバックパーツに水の入った大型タンクを固定して、二人の後を追った。

 保存食はレイブン砦の方が砂漠の環境に適した加工品が手に入る可能性が高いが、水は砂漠の近くで買っても高くつくだけだ。

 自分一人で飲む分なら、砂漠に出てオアシスに到着するまで、シートの下の小型タンクの容量でも充分なので、この量は多すぎるように思えるが、この大樽の水を使う用事は別にある。

 当然、原作の知識があるからこそできる準備だ。

「そういえば……ポールもこれから砂漠に行くんだよな」

 原作ではネフロで絵を買ってから、ガラガラ砂漠に行けるようになると、北西出口から出たすぐの所の停留場にポールが居る。

 彼もまたレイブン砦が目的地で、バックパーツの人員輸送パーツに乗せて送ることでサブイベントは進行するのだ。

 しかし、現実ではポールが四六時中バス停に立っているわけもない。

 彼のイベントを進めるには、どうにか見つけ出して話さなければならない。

 さて、どうしたものか……。

「あれ、そのビークルはグレイさん」

 俺が街の出口のところで悩んでいると、後ろから声を掛けられた。

 見ると旅支度をして大荷物を持ったポールがそこに立っている。

「ポール! もしかして、君もガラガラ砂漠に?」

「あ、はい。灼熱の砂漠をキャンバスに収めてみたくて……」

 まさかここでポールに会えるとはな。

 タイミングがいいにもほどがあるが、今はただ幸運に感謝だ。

「ポール、俺もこれから砂漠に行く予定なんだ。もしよかったら、レイブン砦まで乗っていくか?」

「いいんですか!? あ、でも……グレイさんほどのビークル乗りを雇えるお金は……」

「いや、君から金を取る気なんて無いから」

 そもそも今ポールのポケットにある金だって、元はといえば俺が買った絵の代金だ。

「バックパーツには荷物があるから、助手席に乗ってくれ。あと、途中で少し寄り道もしたいんだけど……それで良ければ乗ってくれ」

「はい、大丈夫です! ありがとうございます!」

 ポールは助手席の下に荷物を押し込み、入らない分はボディパーツの斜め後ろ辺りに引っ掛けた。

「(何とも都合がいい……)」

「え、何です?」

「いやいや。砂漠の絵、楽しみにしているよ」

「はい!」

 俺はポールが座席に座るのを確認すると【ジャガーノート】を発進させた。

 

 

 アレハーテ丘陵はネフロの街からガラガラ砂漠の入り口のレイブン砦までの間にあるフィールドだ。

 砂漠にほど近い地域で開拓に伴う伐採を無計画に行ったため、一帯は砂嵐をモロに被り乾燥した荒野へと変貌したらしい。

「この辺には商人を狙う盗賊ビークルが出没するそうですね。何でも、レイブン砦の市場やキャラバンに納入する商品を中心に狙っているとか」

 ポールの言う通り、原作でもこの丘陵には旅の商人を捕えて拷問にかける盗賊団が出没する。

 ここで登場する敵のビークルは、移動できない固定要塞『アビ・Qカーン』だ。

 盗賊の搭乗する要塞部分の中心に、棘の付いた大きな車輪を回転させているだけの、遠くから物を投げるなり射撃武器で撃つなりすれば簡単に倒せる。

 車輪に触れないようにタイミングを計って接近して殴っても問題ない。

 はっきり言って雑魚だ。

 さらに、倒すと車輪に括りつけられていた商人が礼に宝箱を置いていくという、非常においしい獲物だ。

 まあ、現実はそんなに都合のいい敵しか居ないわけではないだろうな。

 襲撃には別の機動力のあるビークルが向かってくるはずだ。

「でも、僕たちが襲われる可能性は低いでしょうね。完全な戦闘用ビークルに乗るグレイさんを襲うほど、奴らも馬鹿ではないでしょう」

 ポールの言う通り、本当に俺の目的地に着くまで、アレハーテ丘陵で盗賊に襲われることは無かった。

 まあ、襲われなかった理由は、俺のビークルの武装だけでなく、ポールが一見しただけで貧乏人とわかる出で立ちだったせいもあるだろう。

 

 

「じゃ、すまないが、ちょっと行ってくるよ」

「はい」

 俺はアレハーテ丘陵の岩場の隅に建てられた廃屋の前にビークルを停めた。

 ここが俺の野暮用の目的地だ。

 素通りしてもおかしくない場所だが、ここには二種類のサブイベントが存在する。

 一つは廃屋の住民関連だが、もう一つはここまで逃げてきて廃屋の前庭のベンチで途方に暮れている男のイベントだ。

「さて、まずウラジミールは……」

 ぐるりと見回すと、廃屋の影に隠れるようにして、中年の男がこちらを窺っていた。

 さすがに二十四時間ベンチに座っているわけではないか。

 いや、どうやら俺の姿を見て離脱したようだ。

「ひっ」

 目が合うと、男は後退りして逃げようとする。

「お、おい! 待て待て。俺は追手じゃない」

「な、何故、私が追われていることを……?」

 俺は両手を広げて敵意が無いことを示しながら、ゆっくりと近づいた。

「ええっと、あなたがウラジミールさんですね?」

「あ、ああ……」

 俺が目の前に立つと、ウラジミールは何やら諦めたような表情で頷いた。

 俺は敵じゃないって言ったのにな。

 初っ端からこんなに警戒されるとは思ってもみなかった。

 まあ、小柄な少年のバニラに比べれば、俺の方が恐ろしくも見えるか。

「早速ですが……黒ずくめの男に追われていたりしませんか?」

「っ! 何故、それを……?」

「そいつは俺の敵の一味の可能性があります。そいつの人相と、居場所に心当たりがあれば、教えていただけますか?」

 ウラジミールはしばらく俺をじっと見据えていたが、やがて観念したかのように話し出した。

「人相はサングラスを常にかけていたのでよくわからない。ただ、最近ハッピーガーランドでよく目にするという秘密結社のような黒ずくめのスーツを常に身に着けている。今も居るかはわらないが、私の経営している不動産屋の目の前にある『ジェームズ・イン』のバーから、うちの店を見張っていた」

 

 

「参考までに聞きますが、あなたが追われている理由は? 何を見てしまったので?」

 先ほどよりも長い時間迷った末に、ウラジミールは口を開いた。

「トロット楽団の野外ライブの前日の話だ。あの日はうちの不動産屋が定休日でね。翌日のライブ当日も街はお祭り騒ぎで、不動産屋に客なんて来やしないだろうから、まとめて連休にしたんだよ。久しぶりの休日だ。天気も良かったので、私はシラサギ河沿いの土手に釣りに出かけたんだが……」

 前置きが長いが、正確に状況を把握するためだ。

 我慢しよう。

「夕方になって急に天気が崩れて雨が降り出した。先ほどまでの快晴が嘘のような嵐がやって来たので、私は急いで釣り道具を片づけて、ネフロに取って返そうとしたのだが……雨風の勢いがあまりにも強く、私は近くの洞窟で雨宿りをする羽目になった。その時……」

 俺やトロット楽団のメンバーはちょうど『ホテル・ジャコウジカ』に荷物を運び入れているときだな。

 その数時間後には、ウミネコ海岸沖でバニラたちが乗るジュニパーベリー号がエルダーに撃沈される。

「豪雨と防風の向こうに見えたのだ。巨大な長距離キャノンアームを装備したビークルが、海の方に向かっていくのを!」

 ウラジミールが見たのはそれだけだった。

 確かに、彼が見たビークルはエルダーの【ホワイトレクイエム】で、ジュニパーベリー号を襲いに行く真っ最中だ。

 しかし、彼の証言はエルダーの違法性に直結する内容ではない。

 この話をどこかで口に出してしまい、ブラッディマンティス構成員も耳に入れてしまったのだろう。

 ウラジミールも迂闊だが、こんな話でウラジミールを追う黒い服の男もいい面の皮だ。

 そもそも「長距離キャノンアームを装備したビークル」という表現自体がややこしい。

 長距離キャノンは高価で強力なビークル用の武装だが、それほど珍しいパーツでもない。

 ハッピーガーランドでは普通に流通しているし、原作キャラでもエルダーの他にフェンネルが愛用している。

 むしろ、長距離キャノンアームはフェンネルの愛機【ブルー・サンダー】の代名詞だ。

 プレイヤーはウミネコ海岸ではフェンネルの【ブルー・サンダー】に襲撃されたことがあるので、余計に混乱するのだ。

 エルダーの【ホワイトレクイエム】は長距離キャノンアームよりもう一つの武装エクスカリバーアームの方が目立つはずだが……。

 一応、決定的な差となる情報を聞いておくか。

「ウラジミールさん、そのビークルは何色でしたか?」

「色? 確か、白かったな」

 ウラジミールが見たビークルは【ホワイトレクイエム】で確定だ。

 

 

「さて、知っていることは全部話した。君は、やはり私を殺すのかね?」

 ウラジミールは寝ぼけたことを言っているが、これだけ聞けば俺の方も方針は決まった。

「ウラジミールさん。今すぐとは言えませんが、例の黒ずくめの男は俺がネフロに戻ったらついでに処理しておきます。始末がついたらもう一度ここに来るので、それまでは身を隠しておいてください」

「……ほ、本当に、私の味方なのかね?」

 ウラジミールはまだ俺をブラッディマンティスの殺し屋と勘違いしているようだ。

「口で言って納得してもらうのは難しいですけどね。あなたと顔を会わせたことはありませんし」

 博士の家に住んでいる俺に、ネフロの不動産屋との接点などあるはずも無い。

「でも、例えば……俺の名前はあなたも聞いたことがあるんじゃないですか?」

「ん? 有名人なのかい?」

「自分で言うのもなんですが、まあ最近ではそれなりに」

 トロット楽団にも入ったし、ナツメッグ博士の弟子にしてSランクビークルバトラーの俺は、ネフロでは前からそこそこの有名人だ。

「俺はグレイといいます。ナツメッグ博士の助手です」

 ウラジミールは目を見開いて俺を凝視した。

 俺の顔を知らなくても、名前は聞いたことがあるらしい。

「あなたが……」

「先ほども言いましたが、その黒ずくめの男は我々の敵の一味です。処遇は俺に任せていただきますが、あなたの前に二度と姿を現さないように対処するつもりです」

 ウラジミールはしばらく呆けていたが、やがて深々と頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 俺はウラジミールに強く頷いた。

 さて、これでアレハーテ丘陵の雑用は一つ片付いた。

 早速、次のイベントに行こう。

 とはいっても、二つ目の要件もこの廃屋にあるんだけどな。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
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