steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
俺は【ジャガーノート】のバックパーツに固定しておいた、水の入った大樽を下ろす。
ポールは手伝いを申し出たが、丁重に断った。
彼の細腕では大した助けにはならない。
何より、絵描きが手を怪我でもしたら大変だ。
ビークルのバックパーツに積む樽は百キロ以上あるので、俺でも抱えて持ち上げるのは一苦労だ。
気の利いた持ち手も無いので、下手をすれば落とす危険もある。
俺は安全のためにバックパーツの高さを下げて、地面を転がすようにして大樽を家の前まで運んだ。
一度ビークルに戻った俺は、ビークルのボディの横に引っ掛けてあったキャンバスバッグを手に取る。
中身は自分の分とは別に持ってきた保存肉だ。
これも手に持って廃屋の玄関に戻った。
「さて、居るかな……ごめんください!」
俺は廃屋のドアをノックすると、奥の方から人の足音が近づいてくるのが聞こえた。
廃屋の扉が細く開き、頬がこけた修道服の女性が姿を現した。
不健康な目元と顔色は初めて会ったときのポールといい勝負だな。
彼女はこの廃屋で身寄りの無い子どもたちを世話している修行中のシスターだ。
彼女はここで三人の子どもたちの面倒を見ている。
孤児院と言うにはあまりにもボロい劣悪な環境だが、前の持ち主が残していったベッドや家具があるだけ、この世界ではマシな方なのかもしれない。
「どちら様でしょうか……?」
シスターはかなり警戒している。
それも当然か。
ここには女性と子どもしか居ない
俺のような大柄な男が盗賊だったら一巻の終わりだ。
幸い、この世界に奴隷制度は無いようだが、それでも違法な人身売買が皆無ということはないだろう。
シスターにしてみれば、ここを訪ねる男は猛獣よりも危険な存在というわけだ。
「失礼、驚かせてしまいましたね。俺はナツメッグ博士の助手でグレイという者ですが、ここはあなたの孤児院で間違いありませんか?」
俺はできるだけ穏やかな表情で話しかけた。
「……孤児院ではありません。私は、たまたま知り合った身寄りのない子どもたちの面倒を見ているだけです。いえ、面倒を見るだなんておこがましい。こんな環境しか子どもたちに用意してあげられない、ただの無力な修道女でございます」
確かに、こんな水にも苦労するような場所を拠点にするのはいただけないな。
恐らく、水や食料などの物資はシスターが徒歩で調達に行くのだろう。
荒野を何キロも歩いて。
「それで、今日はどういったご用件でしょうか? 孤児院としての機能を期待なさっているのでしたら、これ以上の子どもの受け入れは不可能でございます。私たちもつい最近ここに住み着いたばかりですし、何より……」
「いや、そういった話ではありません」
正直、どんな形であれ宗教関係者とはあまり関わりたくないのだが、原作でも目にしたサブストーリーである以上、見て見ぬふりをするのは目覚めが悪い。
それに、この廃屋の子どもたちは、原作通りならば主人公がストーリー上で縁を結ぶ人や場所に引き取られていく。
何となく、処理しておいた方がよさそうな案件なのだ。
今までこの辺りは訪れる機会が無くて放置していたが、砂漠行きのついでに多少は手を出してもいいだろう。
「シスター、まずはこれをお渡ししておきます」
俺は保存肉が入ったキャンバスバッグを差し出した。
「っ! いただけるのですか!?」
「ええ、そのズタ袋の中身は干し肉や燻製の類です。あと、外に水も運んでおきました」
シスターは扉を先ほどより大きく開くと、玄関前に置いてある大樽を目にして信じられないといった表情を浮かべた。
「あと、少ないですが、とりあえずはこれだけ……」
俺はシスターに銀貨や銅貨で合わせて1万URほど入った袋を押し付けた。
「ああ! 何と慈悲深い……。あなたは神が遣わした救い主だったのですね」
残念ながら、俺の神に対する好感度はどちらかと言えばマイナスよりなんだけどな。
チートも安全策も無く異世界に放り出してくれやがったことは決して忘れない。
「グレイ様。先ほどの無礼な言動、平にご容赦を。神の代理人に向かって、私は何という……」
「あ、いや……そういうのは勘弁……」
「もし、許していただけるのでしたら、このような場所で恐縮ですが、誠心誠意、歓待させていただきますので……」
「っ!」
シスターはやつれてはいるものの若い年ごろの女性だ。
そんな人が頬を赤らめながら俯いて緊張に手を震わせている。
彼女の言う歓待が何を意味しているかは明らかだ。
「……いや、それは結構」
「わ、私ではご不満ですか……? でも、他に差し出せる人間は……」
うん、まあ……正直、修道服の上からでもわかる痩せすぎの身体にはご不満だけど、それを口に出すほどクズじゃない。
「子どもたちも居るでしょう? さすがに見られて喜ぶ趣味は、俺には無いんですよ」
「っ! そ、そうですね……。すみません、私ったら、はしたないことを……」
どうにか失礼なことを言わずに躱せたな。
まあ、こんな娯楽も刺激も無い辺鄙な場所に住んでいれば、シスターとしても色々溜まるだろうが、そこは頑張って自分で処理してほしい。
水の入った樽を家に運び込み、ようやく俺は【ジャガーノート】に戻って、レイブン砦への旅を再開した。
あの後、シスターに許可をもらって、子どもたちとも話をさせてもらった。
子どもたちの詳細はほぼ原作と同じで、ビークルバトラー志望のわんぱく少年リック、読書好きの秀才少年ロバート、花が好きな少女フローラの三人だ。
この三人の子どもたちは、主人公の仲介でそれぞれの場所へ旅立って行く。
彼らを引き取ってくれる人物と縁を結ぶためには、フローラ以外は原作のシナリオをもう少し進めなければならない。
リックの行き先はスームスームだし、ロバートの場合もハッピーガーランドと往復する必要があるのだ。
そうなると今は時期が悪い。
どちらにせよ、もう少しストーリーを進めないとな。
俺が渡した金と物資で、しばらくの間は彼らも食うに困らないだろう。
時間が取れたときには、俺も様子を見に行くようにしよう。
「ここがレイブン砦ですね」
「ああ」
隣の助手席に座るポールに返事をしつつ、俺は砦を眺めた。
そういえば、ゲームではバニラがレイブン砦に到着するのと同時に、アウトローのビークル乗りダッドリーに喧嘩を売られるんだったな。
もうバニラが制圧したのだろうか?
「……グレイさん? どうかしましたか?」
「ん、いや、何でもない。入るぞ」
「はい」
俺はビークルを進めて砦の扉を潜った。
次の瞬間……。
「てめぇ!! 何だ、その目は!?」
「うわわわ! 僕なんにもしてないですよぅ……」
「黙れや! 腰抜けの癖に、調子乗ってんじゃねぇぞ、オラァ!!」
赤い四足タイプのレッグパーツを装備したビークルが、緑のビークル目掛けてソードアームを振り下ろすところが目に入った。
轟音と共に弾け飛んだビークルの破片が、砦の敷地内に散乱する。
砦の中の人々は盗賊ビークルが侵入できない安全圏であるはずの砦内で起こった惨劇に言葉を失っている。
レイブン砦はガラガラ砂漠の入り口に位置する交易拠点であり、近くには遺跡のダンジョンも存在する最前線だ。
当然、砦には荒っぽいビークル乗りや労働者が日常的に出入りし、人間同士にビークル同士の喧嘩も絶えない。
しかし、砦のど真ん中で派手にやらかせば、騒動に慣れた人々もさすがに足を止めて注目する。
「う、あ……」
緑のビークルに搭乗する人物から呻くような声が聞こえた。
彼の名は腰抜けジミー。
バニラがネフロ闘技場で代役を頼まれたときの、本来出場するはずだったビークルバトラーで、バニラがレイブン砦に来たときにちょうどダッドリーにボコられていたビークル乗りだ。
ジミーの視線は目の前にばら撒かれた大量の破片に向けられている。
そう、大量の赤い(・・)破片に。
先ほど、俺が咄嗟にチェーンガンアームを起動し、ダッドリーのビークル【レッドタランチュラ】のアームパーツの付け根を狙って掃射したのだ。
「くそぅ! 誰だ!?」
ソードアームを失った【レッドタランチュラ】を立て直しながらダッドリーが吠える。
しかし……。
「ぐぉ!」
ダッドリーの【レッドタランチュラ】はバランスを崩して再び体勢を崩した。
当然だ。
先ほどソードアームの付け根を吹き飛ばした後、続けざまにレッグパーツも撃ち抜いたからな。
【レッドタランチュラ】のレッグパーツは四足なので立っていられるが、二足歩行タイプならば既にひっくり返っている。
シュナイダーのレベルなら俺の放った弾丸を躱していただろうが、ダッドリー程度のビークル乗りならこのザマだ。
「てめぇ……」
「ダッドリー! まだ懲りないのか!?」
ビークルの損傷を無視してダッドリーは俺に向かってきたが、そこに一台のビークルが近づいてきた。
バニラの【カモミール・タイプⅡ】だ。
搭乗するバニラは珍しく険しい表情だ。
先ほどの怒声もバニラの声だったが、彼がここまで声を荒げる場面なんて初めて見たな。
「ちきしょう……覚えとけよ!」
ダッドリーは壊れたレッグパーツをどうにか動かして、野次馬の中心から去って行った。
「助かりました。お二人とも、ありがとうございます。バニラさんには、二度もご迷惑をお掛けして……」
「いやいや。ジミー、君が無事で何よりだよ」
「ああ、俺の方は実害が無かったから、気にしないでいい」
ジミーの礼に軽く返し、俺はバニラに向き直る。
「どうやら、さっきのビークル乗りはバニラが既に痛い目に遭わせたようだな」
「うん。砦に入ったら、いきなりジミーが吹き飛ばされてきて、僕もダッドリーにビークルバトルを仕掛けられたんだ。こっちにはコニーも乗ってるっていうのに……」
それで先ほどのバニラはいつもよりキレていたのか。
まあ、同乗者を危険に晒されればムカつくよな。
俺ですら、今はポールを乗せているので荒事は最小限にしたい。
ましてや、バニラのビークルの助手席に乗っているのは、彼の運命の相手であるコニーだ。
そりゃ、同乗者への危険もお構いなしにバトルを挑んできたダッドリーへの印象は最悪だろうな。
「凄かったんですよぉ。バニラさん、終始ダッドリーを圧倒して……」
どうやらジンジャーの教えは活きているようだ。
ダッドリーなどナツメッグ博士とジンジャーの指南でパワーアップしたバニラの敵ではない。
ここでバニラはようやく俺とジミーの面識が無いことを思い出したようで、改めて紹介を始めた。
「グレイ、彼はジミーといって、ネフロの闘技場のビークルバトル選手だったんだ」
うん、知ってる。
今はまだ、ジミーが本当に腰抜けだということも知っている。
しかし、ジミーは俺のことを知らないはずなので自己紹介しておこう。
「俺はグレイだ。ナツメッグ博士の助手をやっている」
「え、グレイって……まさか、Sランクの!?」
ジミーもネフロ闘技場の選手だけあって、同じ街でSランクに認定された俺のことは知っていたようだ。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。