steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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41話 砂漠の商人と暗殺の準備

 

 ジミーとポールと別れた俺たちは、砦の隅の駐機場で今後の予定を話し合うことにした。

「それにしても、グレイは思ったよりも来るのが早かったね。野暮用とやらは終わったのかい?」

「まあ、一段落はした。一応、これからこの砦で準備を整えて、俺も砂漠に出ようと思っているよ」

 俺がバニラに答えると、今度はコニーが疑問を投げかけてきた。

「それで、グレイが合流できたってことは、ここからは一緒に行くの?」

「いや、恐らく、君たちとは別のルートになるだろう」

 悪いが、俺にはやらなければならないことがある。

 生身で砂漠を渡ろうとするポールのお守りもそうだが、他にもバニラたちより先回りして片付けたい案件があるのだ。

「そっか……」

「ああ。それで、ハッピーガーランドへ向かうルートなんだが……」

 ここからハッピーガーランドへ行くには、砂漠を超えてオアシスを経由し、コンドル砦を通る必要がある。

 原作では、ガラガラ砂漠のマップは円形のような四角形っぽい形で、カワセミオアシスは砂漠のど真ん中に位置する。

 ここレイブン砦とハッピーガーランド方面に続くコンドル砦の位置関係は、大体隣りの頂点同士――弧で言うと九十度――だ。

 ゲームで初めて砂漠を超えるストーリーイベントは、一旦オアシスのある砂漠の中心に向かい、翌日にオアシスを出発してコンドル砦に向かう、というルートだ。

 普通に考えてマップの端を通って真っ直ぐコンドル砦に向かった方が早い。

 オアシスを経由するルートが砂漠マップの半径rを往復して2rの距離を移動するのに対し、砂漠マップ外周を通る場合の移動距離は直径×πの四分の一、すなわち1.5rほどだ

 しかし、現実の砂漠がどれだけ歪な地形をしているか全く予備知識が無いうえに、砂漠の盗賊団デザートホーネット団以外にもどんな危険が潜んでいるかわかったものではない。

 初めてガラガラ砂漠に足を踏み入れるのならば、砂漠地帯での行動に慣れた案内があり、既に開拓されているルートを通ることが望ましい。

 俺のビークルは低燃費で増設燃料タンク付きなので、多少の道草で遭難したりはしないだろうが、汎用ビークルに乗るバニラたちは別だ。

 彼らは砂漠で立ち往生などしたら命取りになる。

 俺は原作知識の件は伏せて、案内人の必要性をバニラとコニーに伝えた。

「――そんなわけで、単身で砂漠に乗り込むより、どこかのキャラバンに同行した方がいい。せめて君たち二人だけでも」

「それはわかったけど……でも、そう都合よく案内してくれる人なんて……」

「なぁに、すぐ向こうから寄ってくるさ。何せ、君はあのダッドリーを見事に下したんだからな。ほら、噂をすれば……」

 俺たちが休憩するベンチに、いかにも砂漠の民といった風情の装束を着た小太りの男が近づいてきた。

「き、君! さっき、そこで見事なバトルをしていたビークル乗りだろ。うちのキャラバンを護衛してくれないか?」

 

 

 小太りの男の名はデルセン。

 つい最近に起業した、砂漠を渡るキャラバンを所有する、デルロッチ貿易の社長だ。

 ゲームでは、彼のキャラバンの護衛を引き受けて、砂漠の商人プレートを入手してビークルに装備しないと、レイブン砦から砂漠に出ることができない。

 二回目以降は単身でも別のプレートを装備していても出られるので、完全にストーリー進行の都合で作られたイベントだ。

 現実では、そんな護衛依頼などの事情が無くても砂漠には出られるはずなので、別にバニラがコニーも乗っている状態で危険な仕事を引き受ける必要は無い。

 しかし、ガラガラ砂漠はゲーム内の描写よりも広大で、初めて足を踏み入れるとなれば想像以上に過酷な場所になる可能性がある。

 護衛を引き受ければ、デルセンたちはバニラにとっては有能な案内人となるだろう。

「君みたいなビークル乗りに出会えるとは、チャンスの女神は私を見放してはいなかった!」

 デルセンは一人で舞い上がって続ける。

「砂漠を超えてコンドル砦へ行きたいんだが、無事に送り届けてくれたら……」

 デルセンの提示した報酬は、現実のこの世界の相場と照らし合わせても、決して理不尽なものではなかった。

 

 

「でも、何で僕に? グレイの方がずっと強いけど……」

「あ、いや……私もグレイさんに頼めるものなら頼みたいけどね……」

 デルセンは俺の方をチラ見しながら言葉を濁したが、敢えて俺に護衛を依頼しない理由は明らかだ。

 俺はナツメッグ博士の身内でSランクビークルバトラー――トーナメント外だがチャンピオンを下した経験もある――にして、盗賊の討伐においてもこの近辺どころか国全体でも屈指の功績があるビークル乗りだ。

 デルセンも部下に聞いたのか俺のことを知っているようだ。

 はっきり言って、俺は上場して間もない中小企業の貿易会社が、キャラバンの護衛などに専属で雇えるレベルのビークル乗りではない。

 俺に護衛を依頼して元を取るためには、この数倍の規模の編隊での取引が必要だろうな。

 俺はデルセンに向かって意味ありげに微笑み、バニラに助言した。

「バニラ、引き受けるといい。どちらにせよ、俺は用事があるから別行動になる。コンドル砦で合流できるかもしれないが、それまでは別のルートだ。デルロッチ貿易のキャラバンについていけば、砂漠で迷うことも無いし、小遣い稼ぎにもなるだろ?」

「……そうだね、わかった。コニーもいいかい?」

「うん」

 バニラはデルセンの方へ向き直った。

「デルセンさん。護衛の話、引き受けます」

「本当かい!? いやあ、助かるよ。おい、出発の準備だ! 各自、商品の積み込みを開始しろ!」

 デルセンは小躍りしながら喜んだ。

「では、出発は六日後だ。それまでに、各自装備を整えてくれ。うちのキャラバンもそれまでには商品の選別と積み込みは終わるだろう」

 さすがに現実ではゲームのようにその日のうちに出発はできないか。

 まあ、デルセンたちもいつ砂漠に出られるかわからない状況だったのだから当然だな。

 商品だけビークルに積み込んだところで、護衛が見つからず足止めを食らい続けたら、品物がダメになってしまう。

 

 

「さて……」

 俺はデルセンに近づくと、小声で耳打ちした。

「(デルセンさん、バニラの腕は保証しますよ。何せ、俺と同じ師に教えを受けたビークル乗りですから)」

「(そ、そうだったんですか……)」

 バニラもナツメッグ博士とジンジャーにビークルの指南を受けているので嘘はついていない。

 まあ、詳しく説明するつもりはないけどな。

 特に、ジンジャーに関しては極秘事項だ。

「(それで、ものは相談なんですが……)」

「(は、はい!)」

 デルセンは脂汗を流して緊張している。

 大方、俺が弟弟子も同然のビークル乗りを融通してやった見返りに、何を要求されるのか警戒しているのだろう。

 確かに、俺の要求は簡単に呑める類のものではないな。

「(砂漠の横断ルートの情報を手に入れてもらえませんか? キャラバンの使う各ルートと、徒歩やラクダで砂漠を超えるルート、その両方が記された地図などあれば最高ですね。あと、デザートホーネット団のアジトへのルートも欲しい)」

「(なっ!? そ、それは……)」

 ポールにも六日後まで砂漠に出るのは待つように伝えてある。

 遠慮するポールに強引に滞在費を押し付け、レイブン砦の宿泊所に泊まらせた。

 何故かといえば、六日後にはデルセンのキャラバンだけでなく、ほかの商隊もコンドル砦に向かって出発するのだ。

 ガラガラ砂漠はデザートホーネット団の庭だ。

 単体のビークルならまだしも、大所帯のキャラバンは気づかれずに通り抜けることはほぼ不可能だ。

 それならいっそ、同業者と示し合わせて同時に出発し、別ルートを行くことで襲撃してくる盗賊の戦力を分散させ、近い場所で同業者が襲われていたらお互いに援護し合うというが、砂漠の商人たちの盗賊対策らしい。

 商売ではライバルでも、盗賊団は彼らにとって共通の敵だ。

 砂漠の商人に、この協定を破る者は居ない。

 ポールもできることならその波に乗った方がいい。

 一応、バニラたちと別行動する俺はポールを護衛してやるつもりだが、さすがに生身でデザートホーネットに襲われる奴を守るのは簡単じゃない。

 少しでもリスクを減らした方がいいだろう。

「(先に言っておきますが、俺は皆さんと競合する気はありません。盗賊団に対して優位に立つために利用したいのですよ)」

「(…………)」

「(見返りは、六日後の旅路がより『蜂』の少ない快適なものになることですね)」

「(……ほかの商人に相談してもよろしいでしょうか?)」

「(もちろん。いい返事を期待してますよ。ただ、地図に関しては一般ルートとデザートホーネット団の砦へのルートは絶対条件です)」

「(わかりました)」

 これならデルセンや他の商人たちも受け入れやすいだろう。

 万が一、バニラたちが窮地に陥ったときのために、キャラバンのルートも把握しておきたいが、主語はポールが使う予定の一般ルートとデザートホーネット団のアジト方面へのルートだ。

 さて、ハッピーガーランドの定期演奏会のお披露目まで二週間。

 順調にいけば十日ほどでハッピーガーランドに着くだろう。

 ギリギリだが、どうにか間に合いそうだな。

 そして、出発までの六日間。

 何もせずにレイブン砦で時間を潰すのは勿体ないと思い、俺は早速ネフロ近辺のイベントを片づけることにした。

「じゃ、俺は明日には一旦ネフロに戻るから」

「わかった」

「うん、行ってらっしゃい」

 砦に一泊した俺は、バニラとコニーに見送られてレイブン砦を出た。

 最初の仕事はウラジミールを追うブラッディマンティスの処理だ。

 

 

 

 

 ウラジミールを追っているブラッディマンティスの男は、不動産屋の向かいにある宿『ジェームズ・イン』に泊まっている。

 男は大抵宿の一階の酒場スペースに入り浸っており、いつウラジミールが帰ってきてもいいように張り込みをしている。

 とはいえ、奴も四六時中同じ場所で張り込んでいるわけではない。

 単独での行動である以上、切れ間なく監視することはハナから諦めているようで、深夜を過ぎれば寝室に戻るはずだ。

 今もどこかに出かけているようで、ウラジミール不動産周辺に黒ずくめの男の姿は無かった。

 何だか、執拗にストーカーしている割にはザルだな。

 まあ、俺にとっては都合がいい。

「いらっしゃい。おや、グレイさん。お泊りですか?」

 俺が宿に入ると、主人のジェームズが声を掛けてきた。

 どうやらブラッディマンティスの男は居ないようだ。

 黒い服を着た男はどこにも見当たらない。

「いや、今日はちょっと頼みがありましてね」

「はいはい、何なりと」

 俺は気のいい主人に耳を寄せるように言い、カウンター越しに顔を近づけて密談をする。

「最近、酒場に黒ずくめの男が居座っているでしょう?」

「ああ、はい。あのずっと飲んでるお客さんですね。お知り合いですか?」

 あいつ、見張り中にずっと酒を飲んでいたのか。

 本当にポンコツだな。

「ああ、まあね。あいつが迷惑を掛けて、申し訳ない」

「いやいや。まあ、確かに、あの不穏な風貌で居座られると、他のお客さんが飲みにくくはなりますが……それでも、毎晩お酒を注文していただいているので……」

 そうでしょうね。

 たとえチンピラのレベルだったとしても、ヤクザ者と言うのは善良な一般市民にとって恐ろしい存在だ。

「で、頼みというのは、あいつのことなんだが……」

「何です?」

 俺はジェームズの前に銀貨をジャラジャラと押しやった。

 カウンターに小山を作る銀貨は、どう見ても俺が今注文する酒代の量ではない。

「えっと、グレイさん? このお金は……?」

「あんなナリをしているが、あいつは女に振られてヤケ酒をしているただの可哀想な男でしてね。何も言わず、強くて酔える酒を出してやってくれませんかね。迷惑料も兼ねて、これで……」

「なるほど。承りました」

 ジェームズはあっさりと俺の言葉を信じた。

 これであの黒ずくめの男は確実に今夜ベロベロになる。

 最悪、強襲することも視野に入れているが、できれば穏便に拘束と誘拐を済ませたい。

 我ながらいい案だろう。

 そして金の力は偉大だ。

「ああ、俺のことは伝えないでください。あいつ、酔いが醒めると妙に義理堅くて……気を遣わせてもやりにくいんで……」

「はい、わかりました」

 さて、黒ずくめの男が戻ってくるまで待つか。

 この計画が上手くいけば、俺は友達想いのいい男という評判のまま、ブラッディマンティスの手先を一人暗殺できる。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

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