steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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43話 サブイベント完了×3

 

 翌日、俺はビークルでアレハーテ丘陵の廃屋に来ていた。

 昨日は夜遅くまでドタバタしていたので疲れているが、キャラバンがレイブン砦を出発するまであと四日。

 無駄にできる時間は無い。

 まずはウラジミールに男が消えたことを報告だ。

「そ、それでは! 本当に、あの黒い服の男を追い払ってくれたんですか!?」

「ええ、もう奴がネフロに現れることは無いでしょう」

「あ、ありがとうございます! 何て、お礼を言ったらいいか……」

 ブラッディマンティスの男は郊外のゴミ捨て場で撃ち殺し、死体は燃えるゴミと一緒に処理したが、生々しい話まで伝える必要は無いだろう。

 ウラジミールは俺が男を説得したか権威をチラつかせて黙らせたと思っているかもしれないが、そういった認識でも特に問題は無い。

 目の前の男はごく普通の不動産屋で堅気だ。

 今後、彼を必要とする場面は無い。

 原作では、彼のサブイベントをクリアすることがジンジャーのサブイベントを始めるフラグになるが、俺はとうの昔にジンジャーと接触しており、既にバニラとも引き合わせている。

 ブラッディマンティスの下っ端の始末が終わった以上、このおっさんは用済みだ。

「さ、早く奥さんに無事な姿を見せてあげるといい」

「はい。それでは、失礼します。このお礼は、いつか必ず」

 ウラジミールは人前でエルダーのビークルに関してこぼしてしまう間抜けだが、彼の妻が居れば大丈夫だろう。

 原作でも、ウラジミール不動産に黒ずくめの男が乗り込んできたときには、彼女はいち早く警察官を呼んで男を退散させていた。

 このゲームに酷似した現実世界では、ウラジミールが今後絶対に安全である保障は無いが、少なくとも黒ずくめの男を始末したことで後顧の憂いを断つことには成功した。

 いずれ、暇が出来たらウラジミールの妻には事情を話してやるかな。

 

 

 さて、この後はレイブン砦に戻ってもいいのだが……廃屋の子どもたちの件を少しでも片付けておくか。

 廃屋でシスターと暮らす三人の子どもたちは、ゲームを進めるとバニラが知己を得ることになる人などに引き取られていく。

 その中で、ネフロ周辺で話が済むのは、花が好きなメルヘン少女フローラだ。

 彼女が引き取られるのはアレハーテ丘陵とピジョン牧場・ワグテール渓谷の間にあるジメット湿地の奥に位置するミツバチ園だ。

 ここでは小さな花畑農家が養蜂を営んでいる。

 この農家からは俺も定期的に蜂蜜を大瓶で買っているので顔見知りだ。

 原作では、フローラが今まで育てていた花が枯れていることを告げ、ミツバチ園の少女から花の種を貰い、フローラに種と水を届け、花が咲くまで待って、手紙を届けて……と言った具合に、フローラが引き取られるまでの過程が非常に面倒くさい。

 そこで俺は、この面倒なプロセスを省略することを考えついたわけだ。

 ……まあ、実際には蜂蜜とミードを買いに行ったときに、農家の親父さんと世間話のついでに彼らの事情を聞いておいただけだが。

 親父さんはまだ小さな娘に同年代の友達が居ないことを心配していた。

 もう一人、兄弟姉妹が居たらよかった、なんてことも農家の親父さんはこぼしていた。

 まだるっこしいやり取りをしなくても、フローラが一度ミツバチ園を訪れてみればいいのではないか?

 それで向こうがフローラを気に入れば解決だ。

 俺は早速シスターにミツバチ園の農家のことを伝えた。

「そんなわけで、一度フローラちゃんにミツバチ園を見せてみたらどうでしょう?」

「なるほど……お話は分かりました。確かに、花が好きなフローラにとってミツバチ園は楽園でしょうね。しかし、ジメット湿地には恐ろしい盗賊団が出没するという話ですが……」

 盗賊が出るのはこの廃屋の周辺も同じだが、シスターとしては我が子のように育てている子どもたちの遠出が心配なのも当然だろう。

「その点はご心配なく。フローラちゃんは俺のビークルに乗せて行きます。ただ……俺もこの件に何日も関わっていられるわけではないので、ミツバチ園に移住するかどうかは今日中に決めていただきたいのですが……」

 一日くらいなら付き合えるが、それ以上は無理だ。

 こちらも早くレイブン砦に戻りたい。

「今日中ですか? それはまた随分と急な……。私はフローラ自身が納得できるのならばよいのですが、先方の都合は大丈夫なのでしょうか?」

「まあ、そこら辺はうまくいくと思いますよ。向こうの家の事情もあるんで」

 ミツバチ園の農家の娘が同年代の友達を欲している事情もそうだが、最近あの農家は花畑の面積を増やした。

 その裏には、蜂蜜酒の品質向上とローヤルゼリーやプロポリスの生産量を増やしてもらうために、俺がビークルを使って花畑の拡張に手を貸していた過程があるわけだが。

 農家としても、花畑の世話に積極的なフローラは、是非とも招きたい存在なわけだ。

 数年後には、フローラが花畑の管理を任されることになるかもしれない

 俺としても、さらに美味い酒が手に入り、貴重な生薬であるローヤルゼリーやプロポリスを博士に供給できるわけだ。

「……わかりました。グレイさんを信じましょう。すぐにフローラの荷物をまとめます」

 シスターが俺の提案を受け入れ、フローラのミツバチ園行きが決まった。

 しかし、最初から片道が前提で話されると、さすがに俺が困惑してしまう。

「いいんですか? 一往復くらいなら付き合いますよ」

「ええ、グレイさんにはフローラがミツバチ園で幸せに暮らせるという確証があるのでしょう? ならば問題ありません。あなたを信用していますから」

「……恐縮です」

 フローラの私物は袋一つに納まる量だったので、引っ越しの準備はすぐに終わった。

 シスターが襤褸切れから縫い直したと思わしき、着替えというにはあまりにも粗末な装束と、スクラップから作った歪な形の小さなシャベルと如雨露、それに空のプランターだけだ。

 プランターの中身の枯れた花も持って行くと言うかと思ったが、どうやら死んでしまった植物は土に返すと自分で決めたようだ。

 自分が飲む分の水をケチって花にやっていたかと思えば、この物分かりの良さだ。

 どうにも思考回路が理解できないが、まあ俺が気にしても仕方ないな。

 ビークルのバックパーツにちょこんとフローラの荷物を載せ、フローラ自身は助手席に座ってもらい、俺はミツバチ園に向かった。

 

 

「では、よろしくお願いします」

「いやいや、こちらこそお世話になりっぱなしで……」

 連れ立って花畑の方へ向かったフローラと農家の娘を見送った俺は、養蜂家の親父さんにフローラのことをくれぐれもと頼み、自分のビークルに戻った。

 あの調子ならフローラもすぐにミツバチ園に馴染むだろう。

 フローラはミツバチ園に着くと、ビークルから荷物を下ろすのも忘れて花畑に駆けて行った。

 プランターの一輪の花さえ咲かない砂漠の近くに比べて、この湿地帯のすぐ近くの森ではいくらでも植物が育つ。

 まさに、フローラにとっては夢のような光景だったはずだ。

 彼女はミツバチ園の娘ともすぐに打ち解けた。

 お互いに年齢の近い同性が近くに居らず退屈していたのだ。

 やはり面倒な文通のパシリなどする必要は無かったな。

 これでフローラの件は体よくまとまった。

「さて、シスターに報告して、レイブン砦に戻るか」

 俺は【ジャガーノート】のハンドルを操作し、ミツバチ園の出口に向かって歩を進めた。

 しかし、農園を出て湿地に差し掛かったところで、俺は前方から接近するビークルに顔を顰めた。

「あれは……」

 

 

 虫型四足のレッグパーツに赤いペイントの大型ビークル。

 ミツバチ園にやって来たのは、レイブン砦のチンピラにして荒くれビークル乗りダッドリーが搭乗する【レッドタランチュラ】だ。

 アームパーツの武器は前回見たときと違って火炎放射アームを装備している。

 俺はようやくダッドリーのサブイベントを思い出した。

 レイブン砦でダッドリーと初対面を果たしてからミツバチ園を訪れると、プレイヤーが到着したときには、ダッドリーは花畑と農家に火を放っている。

 サブイベントの内容としては、ビークルバトルでダッドリーを撃退し、農家の連中を救出するというものになる。

 しかし、ゲームの性質上どうやっても主人公がサブイベントを開始したときには、既に農家が半壊しているのだ。

 俺が居るときにダッドリーが訪れるとは運がいい。

 花畑に入る前にぶちのめさせてもらおう。

「くっそー……むしゃくしゃするぜ! 砦のど真ん中で大恥をかかせやがって……」

「そりゃ、相手の力量を測らずに喧嘩を売ったお前さんが悪いな」

「なっ、てめぇは!」

 奇襲を仕掛けようかと思ったが、ダッドリーは本気で闇に葬って殺すべき相手ではないので、堂々と姿を現すことにした。

 何だかんだで、ダッドリーはバニラのライバルとしてだけでなく、ストーリー終盤で力になってくれることもあるのだ。

 まあ、俺だったらこんな面倒な奴と関わるのはご免だが、そこはバニラとダッドリーの関係なので仕方ない。

 それにしても、原作でダッドリーがミツバチ園で暴れていたのはこういう理由か。

 今回は俺が原因だが、本来の展開ならバニラに負けて恥をかいたので、憂さ晴らしに弱い者いじめをしに来た、と。

「てめぇ、グレイ! あの時はよくもやってくれたな! てめぇのせいでレッグパーツの修理代が嵩んでスッカラカンだ! 畜生!!」

「ははは、レッグパーツだけに足が出たってか」

 現実のビークルバトルの野試合は、ゲームのようにクラッシュしてもバトルが終われば元通り、というわけにはいかない。

 喧嘩っ早いビークル乗りがエキサイトしてビークルバトルの野試合を始めた場合、機体に損傷を負ったとしても、近くの整備場で金を払って修理してもらうしかないのだ。

 俺のように最低限の修理技術を持っていればまだマシだが、ほとんどのビークル乗りが自分の機体の整備すらできない。

 当然、ダッドリーもバニラとのバトルや俺の狙撃で負った機体のダメージは、レイブン砦内か近くの整備場で修理したはずだ。

 こいつに修理代など余裕で出せるほどの稼ぎなどあるわけもなく……。

「くっそー! もう、許さねぇ! この火炎放射アームで何か燃やしてやるつもりだったが、てめぇから先に片づけてやる!」

 ダッドリーは湿地の泥を跳ね散らかして俺に突っ込んできた。

 面倒くさいが、ミツバチ園がターゲットにならなくて助かったな。

 

 

「ぐ……畜生……」

 ダッドリーとの勝負は一瞬で決着が付いた。

 ミツバチ園を背後に庇うように立ち塞がる俺に、ダッドリーは火炎放射アームを起動させながら真っ直ぐ突っ込んできた。

 当然、火炎放射器よりも俺のチェーンガンの方が初撃の速さは上だ。

 そして、市販品の火炎放射アームはかなり単純なつくりをしており、燃料タンクが剥き出しになっている。

 俺の真骨頂はチェーンガンによる正確な速射だ。

 真っ直ぐに突撃してくるダッドリーはいい的だった。

 こいつには学習能力が無いのかね?

 レイブン砦で俺の武装と精度はよくわかったはずだが……。

 俺のチェーンガンが火を噴けば、撃ち抜かれた火炎放射アームのタンクは爆散し、高熱の炎と破片は【レッドタランチュラ】自身のボディパーツを貫いてエンジンを大破させた。

 奇跡的にダッドリーは無傷だったが、ビークルは完全に立ち往生だ。

 牽引用の装置を使えば人力でもビークルは引き摺ることができるが、この湿地から運び出すのは大変だぞ。

 いい気味だ。

「そのザマではここから先の上り坂は移動できないだろう。諦めて引き返すんだな」

「この野郎……」

 ダッドリーは傾いたコクピットからこちらを睨みつけてくるが、俺は無視して【ジャガーノート】を発進させた。

 ダッドリーはクラッシュした【レッドタランチュラ】を再起動させようと四苦八苦している。

「おい、待てよ!」

「俺は次のキャラバンの出発と同時に砂漠を渡る。お前のビークルは……それまでに修理が間に合うかな?」

「くっ……」

 こういう挑発をしておけば、ダッドリーは意地を張って俺たちを追いかけ、真っ直ぐに砂漠を超えてくるだろう。

 もうミツバチ園には向かわないはずだ。

 ダッドリーがミツバチ園を襲う可能性が無くなったので、俺は悠々と【レッドタランチュラ】の横を通り過ぎてアレハーテ丘陵の方へ向かった。

 さて、ミツバチ園の件は全て片付いたことだし、廃屋のシスターに報告したら、一度バニラとコニーの居るレイブン砦に向かおう。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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