steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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45話 ヒンヤリ遺跡1

 

 ゲームのストーリー進行上、ヒンヤリ遺跡は最初に入ることができるダンジョンで、遭遇する敵の耐久力が低く、難易度も比較的低い。

 しかし、現実では、ダンジョンで遭遇する敵のビークルが、全てゲームと同じだという保証は無い。

 他の探索者のビークル乗りも、魔が差せば他人の収穫を横取りしようとして襲ってくる可能性もある。

 そもそも、ダンジョン自体が規制や管理に難がある存在なのだ。

 俺がピジョン牧場近郊で攻略していたダンジョンのように、発見間もないダンジョンであれば、脅威度の推定のために警察や公権力が介入することもあるが、一般的な遺跡は無法地帯に他ならない。

 盗賊もチンピラのようなビークル乗りも野放しだ。

 原作のヒンヤリ遺跡に関する知識は、あまり通用しないと思った方がいいだろう。

 たとえ原作と同型のビークルでも、運用方法に関しては別物で狡猾に襲ってくると思っておいた方がいいだろう。

「よし、まずは連携してこの遺跡を少し探索してみよう。一つの階層を数回ずつだ。とりあえず、敵の傾向と資源の状態をある程度理解しないとな」

「わ、わかった」

「そう緊張するな。まずは俺が先行する。最初は俺の真似をして、周辺の警戒をしてくれればいい。とはいっても、俺も経験を語れるほどキャリアがあるじゃないけどな」

「…………」

 俺がこの世界に来たのは約二年前。

 ジンジャーなんかに比べれば、俺のビークル歴などたかが知れている。

 そもそも、トロットビークル自体が今も存命のナツメッグ博士によって、近年に開発されたものだ。

 その道一筋ウン十年の職人の技などと比べるべくもない。

「それに、こういった長きに渡り盗賊が巣食うダンジョンに来たのは俺も初めてだ。俺がピジョン牧場近郊で出入りしたのは出来立ての……発見間もないダンジョンだからな。いいか? もし、俺がヤバくなったら、すぐに自分の判断で身を守れ」

「……わかった」

 

 

 早速、敵のビークルの待ち伏せを受けた。

 通路の角から現れたのは『ビスモールGT』。

 車の鼻先に車体より遥かに長いドリルを付けたようなビークルで、そのドリルを使って突進するのが唯一の攻撃だ。

 予想に反して、ビークルの概要も登場エリアも原作通り。

 ゲームと違うのは、ドリル部分をタケノコのように突き出して車体を地面に埋め、敵が接近したら飛び出して攻撃、という運用をしていない点だ。

 まあ、あの戦術は現実では謎過ぎる。

 隠れるなら、もっとわからないようにした方がいい。

 恐らく、ここでは盗掘作業に使われる作業用ビークルなのだろう。

 後ろに回り込むなり、正面に立たずにコクピットを撃ち抜けば瞬殺できる相手だ。

 しかし、俺は回り込んで有利な位置取りをしようとし始めたバニラを手で制した。

「(グレイ、どうしたの……っ!)」

 一瞬遅れて『ビスモールGT』の後ろから現れたのは『フィーバーフロッグ』だ。

 これもゲームではヒンヤリ遺跡に登場した敵で、火炎放射アームを装備した戦闘用ビークルだ。

 ここでは採掘ビークルの護衛かパトロールとして運用されているのだろう。

 こういうところが、現実の厄介な部分だ。

 恐らく、あの二台のビークルは連携を取ってくる。

 ゲームでは各個撃破して進めばいいだけだったが、こういう状況を目の当たりにするとやはり自分は慢心しているのだと思えてくる。

「(グレイ、どうする?)」

「(『ビスモール』を……ドリルの付いたビークルをやれ。前からは攻撃するな。正面に捉えられている間は距離を保って回避に専念しろ。奴が俺の方を向くようなら、そのままケツを攻撃するんだ)」

「(わかった)」

 

 

 俺はチェーンガンアームの狙いを『フィーバーフロッグ』につけ引き金を引いた。

 薄暗いダンジョンの闇と静寂を、銃口から吐き出されたオレンジ色の閃光が舌なめずりするように切り裂き、『フィーバーフロッグ』の火炎放射アームの燃料タンクは点射で放たれた数発の弾丸に貫かれる。

「ぐわっ!」

 当然ながら、タンクには火炎放射器に使われる可燃性の物質が満載だ。

 数発の弾丸が吸い込まれた直後、『フィーバーフロッグ』は爆散した。

 チェーンガンの弾丸とビークルのパーツが衝突して発生した火花が、内部の火炎放射燃料に引火したのだ。

 搭乗していた盗賊も、あの爆発では無事では済まないだろう。

「くっ……こっちだ!」

 俺が『フィーバーフロッグ』を片付けている間に、バニラは『ビスモールGT』の前をスラスターダッシュで派手に横切り、注意を引き付けていた。

 ついでとばかりに、バニラは【カモミール・タイプⅡ】の左に装備したスパイク鉄球アームからモーニングスター状の射出体を飛ばし、『ビスモールGT』のドリルの付け根部分を攻撃する。

 距離を取っていたこともあり、バニラの中距離用の打撃武器はそれほど大きなダメージを与えられていない。

 一瞬で戦闘用ビークルの護衛を吹き飛ばした俺を危険視してこちらに向き直ろうとしていた『ビスモールGT』は、両側から敵に挟まれたことで動転し動きを止めた。

 俺から見ると『ビスモールGT』はちょうど横向き。

 高ランクのビークル乗り相手では致命的な隙となる。

 俺はペダルを踏みこんで【ジャガーノート】を加速させると、右のアームを稼働させて強化ブレードを振り抜いた。

「ひ……ぎっ!」

 『ビスモールGT』に搭乗する盗賊は俺に気付いたが、既に眼前まで俺のブレードが迫っていては成す術がない。

 コクピットと駆動部を深く切り裂かれた敵のビークルは、鈍い金属音を響かせながら部品をばら撒き沈黙した。

 

 

「やった……」

「っ! バニラ、動くな!」

「え!? グレイ! 何を!?」

 俺は戦闘が終わって気を抜きかけたバニラに鋭く警告する。

 俺の【ジャガーノート】のチェーンガンは、一見するとバニラのビークルに向けられている。

 しかし、よく見れば僅かに右に狙いを付けているのがわかるはずだ。

 銃口の先は、先ほど俺たちが入ってきた通路だ。

 暗くて何も見えず、通路の先に何があるのか定かではないが、暗闇の向こうから僅かに聞こえる機械の稼働音は、唯一の手掛かりとなって俺たちに他のビークルの存在を知らせている。

 レッグパーツの稼働音から察するに、恐らく俺たちのカモミール系統の汎用ビークルとは異なる、もっと大型のビークルだ。

 このヒンヤリ遺跡で運用されている盗賊ビークルが原作通りだとすると、敵は『モテマザウルス』あたりか?

 この段になると、バニラも俺が警戒する存在に気づいた。

「(ゆっくり下がれ。俺の後ろに)」

「(う、うん)」

 バニラは自分のビークルから出る稼働音と地響きに注意しながら、慎重に平行移動して俺の近くに寄った。

 俺はしばらく大型ビークルの音に向かってチェーンガンを構えていたが、やがて音は遠ざかっていく。

 向こうが俺たちの存在をどこまで把握していたのかはわからないが、とりあえず接近してくることは無いようだ。

 ビークルが離れていったことが確認できたので、俺はチェーンガンアームを下した。

「バニラ、敵は常に決まった場所にしか居ないわけじゃない。盗賊団の中で決まったポジションはあるかもしれないが、こちらの進軍に合わせて部屋のど真ん中で待ち構えているパターンの方が稀だろう。先ほどのように、通路の角や部屋の隅の死角に隠れていることもあれば、こちらが消耗した隙を狙って第二陣が襲ってくることもあり得る。気を抜くなよ」

「わ、わかった」

 説教じみたことを言ってしまったが、これがゲームと現実の大きな違いだ。

 ダンジョンを進めば一匹ずつ敵に遭遇するなどと言う、昔のRPGのようなシステムではないのだ。

 徒党を組んで襲ってくることもあれば、こちらの隙を突いてくる可能性もあり、戦闘自体に関しても敵ビークルの操縦者が人間である以上は駆け引きもしてくる。

 それに……今のところ出会っていないが、盗賊以外の敵に遭遇することもあり得る。

 漁夫の利を狙うハイエナ野郎に、とりあえず突っかかってくるダッドリーのような連中だ。

 こういった手合いとダンジョン内で鉢合わせない保証は無い。

 やれやれ……。

 俺もバニラを常に庇うほど余裕があるわけじゃないんだけどな。

 しかし……ダンジョンとはいえ、ゲームのように撃破した敵ビークルが金や燃料をドロップすることは無かったな。

 

 

「あ、グレイ! あそこ!」

 バニラが指差した方向に目を向けると、そこにはくすんだ緑色の箱が置かれていた。

 宝箱だ。

 なるほど、一攫千金狙いの連中が集まるわけだ。

 地球なら、盗掘で一山当てられる確率など極端に低いので、ツルハシを担いでいつまでも徘徊する諦めの悪い連中など一握りだ。

 しかし、この世界のダンジョンでは、壁や地面を掘る以外にも、こうして向こうからお宝がやってくる可能性がある。

 要は、費やす労力と時間に対するリターンが大きいのだ。

 まあ、リターンの割合は宝箱の中身にもよるが……。

「バニラ、君が見つけた宝箱だ。開けてみろ」

「わかった」

 バニラはビークルのアームを伸ばして宝箱のロックをずらした。

 有名なRPGならミミックだったり罠が仕掛けてあったりするが、この世界にモンスターは居ないようだし、ビークルに乗った状態なら罠も大丈夫だろう。

「っ! これは……」

「ほう、ダイアモンドか」

 バニラは一発目で宝石を引き当てた。

 原作でも、ヒンヤリ遺跡で手に入れられる宝石の一つで、売値も一番高価なものだ。

 とはいえ、ゲームでの売値は400URだったが……さすがに現実で四千円ということはないはずだ。

 宝箱から出てきたダイアモンドはそれなりの大きさなので、これを持ち帰ってデルロッチ貿易に売り払うだけでも、バニラが買いたいコニ―の服には十分だろう。

 しかし、バニラはここで引き返す気は無いようだ。

「グレイ、次行こうか(こんなんじゃ、認めてくれないだろ)」

「お、おう」

 バニラは何やら呟いていたが、残念ながら俺には聞こえなかった。

 やる気があるのはいいが、盛大にコケないでくれよ。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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