steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
宝箱を回収しつつ、しばらく進んだところで、俺たちはこの階層の最奥辺りに到達した。
狭い部屋に通路が入り組んだエリアだ。
部屋の中を見ると、そこには一台のビークルが待ち構えていた。
しかし、レッグパーツの稼働音が響いているにもかかわらず、敵の姿は地面には無い。
「っ! 上か!」
思いも寄らぬ敵の居場所に、バニラはつい声を出してしまう。
それが原因で、こちらに気づいた敵のビークルは通路の奥に退いて行った。
「くっ」
バニラは慌てて追いかけようと飛び出しかけたが、どうにか冷静さを保ち、無計画に突っ込むことはしなかった。
それで正解だ。
第一階層の最奥に居たのは『ウォーキングバット』。
ゲームでは第一階層と第二階層のボスとして登場する敵だ。
天井に張り付いて移動し、全方向に火の玉をばら撒いて攻撃してくる。
ゲームでは、接近して下に潜り込んでからジャンプ攻撃で殴り続ければ簡単に倒せる敵だが、現実の人間が搭乗している以上、そう簡単に仕留めさせてはくれない。
恐らく、あのままバニラが突っ込んでいたら、機動力を発揮できない狭い通路に誘い込まれ、回避もままならず集中砲火を浴びていただろう。
「グレイ、あいつを倒すんだよね?」
「……ああ」
正直、強力な敵との戦闘を避けてお宝だけ持って帰れるならそれでいい。
しかし、俺たちは既にこの階層をほとんど探索した。
ゲームでは、次の階層に進むにはボスの討伐が必要不可欠だったが、現実ではどうだろうか?
このヒンヤリ遺跡は妙にゲームと似通った環境だ。
宝箱の出現など、誕生して間もないピジョン牧場近くのダンジョンでは無かったシステムである。
やはり、少しでもこのダンジョンについて知るためにも、『ウォーキングバット』は撃破してみるべきだろう。
「行くぞ、敵は回転式の射撃武器を搭載しているようだ。弾幕に注意して、自分がカバーできなくなる位置取りはするなよ」
「わかった」
チェーンガンを構えて慎重に角を曲がる俺にバニラが続き、俺たちはこの階層のボス『ウォーキングバット』と相対した。
黒い塊が通路に飛び出すと同時に『ウォーキングバット』の砲台が稼働して火の玉を連続で吐き出し始める。
三百六十度に弾幕を張れる砲台による一斉射撃だ。
通路は一瞬で炎の雨に包まれる。
敵の眼前を横切ろうとした黒い塊は一瞬で火炎弾に呑まれた。
「ぐ、グレイ……」
「今だ、行け!」
「っ! このぉ!」
当然ながら、黒焦げになったのは【ジャガーノート】ではない。
薄暗いダンジョンなので敵もビークルと見間違えてくれたが、あれは先ほどの部屋の隅にあった岩だ。
デコイとして俺が投げ込んだのだ。
投擲物で視界を塞ぎ接近攻撃を仕掛けるシュナイダーの戦法の応用だ。
バニラは弾幕に一瞬たじろいだが、敵の攻撃を完全に逸らしたことで、接近する隙は十分に生じた。
暗闇から放たれたチェーンガンの点射が天井ごと敵ビークルを薙ぎ払った直後に、バニラの【カモミール・タイプⅡ】のクローアームが『ウォーキングバット』の中心部を切り裂く。
俺のチェーンガンで機動力を完全に封じられたところに、研ぎ澄まされた大型の爪の一撃だ。
『ウォーキングバット』は砲台のパーツを軋ませながら分解して天井から落下した。
しかし、階層のボスとして君臨する『ウォーキングバット』は大破して落下してなお、砲台を稼働させて火炎弾を乱射しようと試みる。
「バニラ!」
「大丈夫!」
これはゲームではあり得なかった状況なので、俺の方が面食らってしまった。
しかし、敵に近い位置にいるバニラは油断などしていなかった。
追い打ちとばかりに再度クローアームを振るい『ウォーキングバット』に爪を叩きつける。
今度こそ、完全に敵のビークルは沈黙した。
「グレイ、倒したよ」
「……ああ」
いかんな。
今回は俺の方が先入観で判断を誤りかけた。
確かに、俺自身は止めを刺したと思われる敵と一定以上の距離を保ち、いつでもチェーンガンで迎撃できる態勢を整えていた。
しかし、ヒンヤリ遺跡の第一階層と第二階層のボス『ウォーキングバット』の行動を、俺はどこかでゲーム内のアクションしか想定していなかった。
一歩間違えれば、バニラは反撃を食らってお陀仏だ。
……俺の方こそ、気を引き締めなければならんな。
「あ、あれは……」
バニラが指差す方に目を向けると、そこには先ほどまで影も形も無かった扉が現れていた。
ボスビークルを倒して現れたということは、あれが遺跡の入口に戻るドアか?
ゲームでは、各階層のボスビークルを倒すと、数秒後に選択肢が表示される。
そのまま同じエリアの探索を続けるか、再び階層を選んで別のエリアのダンジョンに挑戦するか、それとも遺跡から出るかを選べる。
ボスを倒せば出口が出現するという話は、俺もレイブン砦で小耳に挟んではいた。
さすがに現実ではワープはできないようだが……なるほど、こういうシステムか。
「グレイ、ジミーから聞いたんだけど……ボスのビークルを倒したときに現れる扉を潜ると、遺跡の入口に戻れるそうだよ。本人が見たわけじゃないらしいけど」
まあ、この時のジミーは自分からダンジョンに潜るタマじゃないよな。
しかし、ヒンヤリ遺跡自体に関しては、バニラの奴もしっかりとリサーチしているじゃないか。
こりゃ、本当に俺は戦闘の援護以外に役に立たないかもしれないな。
いや、戦闘に関しても、本来ならバニラ自身の強化を最優先しなければならない。
俺は既にビークル乗りとしての戦術が固まってきているので、今後において必要なのは、射撃精度をさらにコツコツと向上させるなどの細々とした研鑽だ。
しかし、バニラはまだビークル乗りとしての経験が浅く、今が伸びしろの大きい時期である。
……次のチャレンジからは、バニラに先行させてみるか。
俺も先入観に捕らわれず敵を観察し戦闘をシミュレートする訓練をしながらな。
「ほら、グレイ。行こう」
「ああ」
俺たちは扉を潜って、ヒンヤリ遺跡の入口に戻った。
遺跡の入口には、またしても先ほどは存在しなかった扉が増えている。
あれが第二階層へ向かう道か。
しかし、まだ先に進むには早い。
「もう一度、だね」
「そうだな。情報通りなら、もう一度同じ階層に潜れば、また同じレベルの敵と遭遇するはずだ。俺もまだこの遺跡に慣れていないし、さっきの探索も百点満点とは言い難い。慎重に行った方がいいだろう」
「わかった。それじゃあ、第一階層の扉を潜るよ」
俺たちは、再び最上層のエリアに足を踏み入れた。
予想通りと言うべきか、再び潜った第一階層は、マップのデザインこそ変わっているものの、広さや宝箱の数も大体同じだった。
俺たちは再びボスの『ウォーキングバット』を倒し、またしても現れた扉を潜ってダンジョンに挑戦し続ける。
「不思議だ……扉をくぐるたびに、道が変わるなんて……」
バニラはこの摩訶不思議な空間に感動しているが、俺は別のことを考えていた。
今のところ、このヒンヤリ遺跡に出現する敵は、原作ゲームと同じ構成だ。
階層のレベルごとに敵が決まり、それこそ意図的にゲーム的なダンジョンを構成しているかのように編成されている。
第一階層なら『ビスモールGT』や『フィーバーフロッグ』などの雑魚が複数、『ウォーキングバット』がボスとして一機。
この構成が、何度入りなおしても、一回の挑戦エリアごとに繰り返される。
これは盗賊団のビークル分隊の編成と戦術がゲームと似ているだけでは説明がつかない。
『ウォーキングバット』をリーダー機とする分隊ごとに散開して遺跡内を徘徊しているにしても、直で他の分隊に遭遇できない以上、やはり存在する意思が盗賊団の物だけとは思えないのだ。
何故なら、たとえどこかの隠し通路などで他のエリアに内部で繋がっていたとしても、一つのエリアに固まっている盗賊の戦力は少なすぎる。
『ウォーキングバット』はそこそこの腕を持つビークルバトラーなら撃破できる程度の性能であり、周囲に散らばる雑魚を含めても、包囲されなければ大した脅威ではない。
自分たちが生き残ることを少しでも考えているのなら、馬鹿でもあの二倍の規模の編隊を組んで行動するだろう。
第一階層の『ウォーキングバット』一機をボスとする構成では、腕利きのビークル乗りと本気でやり合うことはまず不可能なのだ。
自らダンジョンに潜る時点で、ここに来るビークル乗りはそれなりの腕自慢だ。
そういう連中を相手にする覚悟がある盗賊とはとても思えない。
だとすると、ダンジョン本体の意思が敵を割り振っている……?
第一階層までは、トレジャーハンター紛いの大した腕を持ち合わせていないビークル乗りでもそれなりに戦えるレベルに抑えているという可能性がある。
それなら盗賊以外の他のビークル乗りと未だに鉢合わせしないことも納得がいくが……ダンジョンから見れば俺たちも盗賊と変わらないだろう。
別に正規のトレジャーハンター資格を持っているとかではないしな。
俺たちと盗賊、侵入者がお互いにやり合うよう調整しているのだとしたら、ダンジョンは相当な知能を持った存在ということになる。
宝箱が出てくるメカニズムも謎だ。
今のところほぼ妄想の類だが、恐らくダンジョンはビークルを呼び込みたいのではないか?
排気ガスを食っているのか、流行りの小説の設定で解釈すれば、生命体が内部で活動することでダンジョンにとって有益なポイントになっている可能性もある。
残念だが、俺の知識ではそこら辺を解明することはできないな。
ナツメッグ博士に聞いてもはっきりとした答えは返ってこないだろう。
以前、俺のビークルのボディや武装にも使われたミスリルや黒鉄やオリハルコンなど魔法金属について聞いたが、博士自身も使い道に関すること以外は大してわからないと言っていた。
魔法金属は全てダンジョンから産出したものだ。
ダンジョンは、この時代の科学では簡単に解明できないのだろう。
「(グレイ)」
「(ああ、居るな)」
バニラもダンジョンの環境に慣れていたようで、俺から数秒も遅れることなく部屋の隅の敵を発見した。
「(援護する)」
「(わかった)」
バニラがスパイク鉄球アームの射出体を振りかざしながら飛び出すのと同時に、俺もチェーンガンを構えてビークルを横向きに滑らせた。
そうして、俺たちは順調に敵を撃破し、宝箱の中身を回収しつつ、ダンジョンの探索を進めていった。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
-
是非、読みたい! 早く晒せ!
-
要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
-
そんなことよりお腹が減ったよ。