steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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47話 ヒンヤリ遺跡3

 

 遺跡内部は意外に狭く、ゲームと同じくらいの広さと構成だったので、今日一日で各階層を数回は巡ることができた。

 今さっき、本日数回目の第三階層のボス『ダルマイオー』を撃破したところだ。

 ここが最終階層だ。

 『ダルマイオー』は移動ができない設置型で、ビークルと言っていいのかすら疑問だが、狭いダンジョンの部屋で拠点のように運用するのはありだな。

 開けた場所ではただの的でも、狭い通路を塞ぐように鎮座されると、かなり厄介な簡易要塞に早変わりだ。

 俺たちは遠距離から撃破したが、接近戦を得意とするビークル乗りには面倒な相手だろう。

 ゲームでは、三段に別れた構造の一番上だけを撃破すればいいなど、それなりに攻略の近道はあったが。

「さて……」

 ベストのポケットから出した懐中時計を確認すると、既に夕方を過ぎていた。

 遺跡の外はもう日が沈んでいるだろう。

「そろそろ戻るか」

「……え?」

 俺の言葉にバニラは意外そうに顔を向けてくる。

「発掘品と宝石はそれなりに手に入れたろ? 今日はこれくらいにして、休んだ方がいいんじゃないか? 余り遅いと夕食を食い逃すぞ」

 俺たちのビークルのバックパーツには、ズタ袋に入れて一纏めにされた戦利品がどっさりと積まれている。

 骨董品っぽいナイフにサイコロ、彫刻のある中世の盾にベルベットのマントと錫杖。

 ネフロ博物館の学芸員のベルモンドが見たら、扱いが雑だと怒るかもしれないが、一番価値が高そうな王冠は布で梱包したから勘弁してもらいたい。

 どれもゲームで見たアイテムだが、これだけあればバニラにとっても相当な臨時収入になったことだろう。

 宝石に琥珀もある。

 ……この時代の琥珀は今よりも価値が低かったのかな?

 ゲームでは100URと千円にしかならなかったが……もう少し高値で売れることを祈ろう。

 しかし、バニラは今も戸惑ったままだ。

 俺は何か変なことを言ったか?

 収穫は十分で時間も時間だから戻ろうと提案しただけなのだが。

「えっと……僕は、これで帰れるの?」

「? 何を言っているんだ?」

「いや、てっきり……『コニ―が欲しければ、俺を倒してみろ』とか言われる感じかと……」

 

 

 一瞬、俺は目が点になった。

 こいつの言うことには驚かされてばかりだが……今回のは特大だな。

「何でそうなるんだ……?」

「だって……あんな言い方をされたら、そう思うじゃないか」

 バニラが言うには、俺が「どこまで強くなったか見せてくれ」などと言ったから、修行の題目で俺とビークルバトルの試合をさせられると思っていたらしい。

 なるほど、俺は頑固親父ばりにバニラの前に立ちはだかり、「軟弱な男にコニ―はやらん!」と怒鳴りつけ、そのまま制圧した遺跡の中でバニラをボコボコに……。

 盛大な誤解だ。

 そもそも、俺はコニ―の親父ではないし、危険なダンジョン内でビークルバトルをする馬鹿など居るか!?

 そういえば、遺跡に入る前、バニラは何やら妙に悲壮な覚悟を決めたような雰囲気を醸し出していたな。

 ……俺が悪いのか? これ。

「いやいや! 俺は何もそういう意味で言ったんじゃない。ただ、同じナツメッグ博士とジンジャーに教えを受けた者としてだね……キャラバンの護衛なんかもあるし、ダンジョン探索はいい経験になるだろうから、ついでに手伝ってあげようと思っただけだよ。まあ、兄弟子のお節介みたいなものさ」

「そ、そうなんだ……じゃあ、敵の集団に放り込まれて、一人で倒してみろなんてことは……」

「さっきも二、三機くらいなら集団戦の訓練も兼ねてバニラ一人でやらせたが、それ以上の数が集まってきたときに、俺の援護が無かったことがあったか?」

「確かに……」

 俺は別にバニラをいびるつもりなど無い。

 下手のことをして、バニラが敵側に付いてしまったら厄介だ。

 

 

「えっと……グレイはコニ―が好きなんてことは……?」

「ない。いや、楽団のメンバーとして、友人としては大切に思っているが……俺は、バニラとコニ―の仲は応援している」

「そうか……そうなんだ…………………………………………って、ええ? 僕とコニ―の仲って……」

 はいはい、今更今更。

 まったく、バニラは何を考えていたのだか……。

 二人をくっつけるために、俺が今までどれだけ手間を掛けてきたと思っているのだ?

 まあ、バニラ本人に俺のスタンスを伝えられたのは収穫か。

 そもそも、俺はコニ―より十歳も上だ。

 バニラが居なかったところで、俺はさすがに年が離れすぎだろう。

「バニラ、コニ―はいい子だろう?」

「え? どうしたの、いきなり? そりゃ……可愛くて優しくて行動力もあって、素敵な女の子だと思うけど……」

 おうおう、手放しじゃないか。

 聞いてるこっちが砂糖を吐きそうだよ。

「俺はトロット楽団では最年長だが、メンバーになったのは一年くらい前のことでね。はっきり言って、コニ―たちとの付き合いは俺が一番短い。だが、それでもメンバーの気質はある程度わかるつもりだ。コニ―は……俺たちの前だと、少し無理をして明るく振舞おうとする節がある」

「無理をして……?」

 マーシュとチコリの件など、詳しいことは本人からある程度聞いてからの方がいいだろう。

 俺が事情を把握していることについては、ナツメッグ博士から聞いたことにでもしてしまえばいいが、バニラに予め伝えておくとなると、色々と予定が狂ってしまうかもしれない。

「誰にだって事情はある。問題は、コニ―にとって素のままで接することができる相手が居ないことだ。まあ、バンドのボーカルとしての使命感が先に立つのと、年の離れている俺なんかには遠慮があると捉えてくれればいい。彼女には、年の近い気の置けない友人が必要だ」

「グレイ……」

「だから、バニラにはコニ―の理解者になってもらいたい。彼女との付き合いが俺よりもさらに短い君に頼むのも、おかしな話かもしれないけどさ」

「……ははっ、そういえば、同じことをローズマリーさんにも言われたな。うん、わかったよ」

 そういえば、バニラが初めてネフロにやって来てコニ―の母親と対面したとき、彼女からそんな風に言われるイベントがあったな。

 まあ、結果的にチコリとダンディリオンと昔から親交のあるメンバーではないバニラが、柵が無くてちょうどいい人選なわけだ。

 身も蓋も無い言い方をすれば。

 俺は多少ボカして、肝心のチコリの死に対する負い目については話さなかった、いずれバニラも知ることになるだろう。

「だから、君が道を誤らない限り、俺はコニ―のことを君に任せるつもりでいる。……何か、結局は父親みたいなこと言っちまってるけどな」

「道……?」

 っと、少し喋り過ぎたな。

 まあ、今から下手にネタバレをして、運命に狂いが生じるのは避けたい。

 予防線を張ったつもりで、肝心の俺が原作のシナリオを参考にした立ち回りが出来なくなっては、色々と準備してきたものが水の泡だ。

 この世界にリトライは無い。

 慎重に行かなければ。

「とにかく、コニ―のことを大切にってことさ。友人以上の関係になっても、俺としては構わないからな」

「わかった……って、ええ!? 友人以上って……」

 バニラは完全には納得していないようだが、とりあえずは頷いてくれた。

 まあ、バニラがノーマルルートかブラッディマンティスルートの選択という大きな岐路に立つのは、もう少し先のことだ。

 今はまだ、目の前のことに集中してもらおう。

 

 

 ヒンヤリ遺跡を出てレイブン砦に戻ると、宿泊所のあるバザーの区画でコニ―に出くわした。

 どうやら、彼女も今帰ってきたところのようだ。

「あ、バニラ! お帰り」

「うん。ただいま、コニ―」

 早速、新婚のような雰囲気を醸し出す二人に俺は再び砂糖を吐きそうになるが、まあダンジョン探索という危険な仕事を終えた後なので大目に見てやるか。

「えっと……大丈夫、だった?」

「うん。グレイが色々と助けてくれたから」

「そうなんだ。あっ、グレイもお帰りなさい」

「ああ」

 コニ―はようやく俺の方に向き直った。

 別に慌てて俺なんぞに構わなくてもいいのよ。

 バニラがへそを曲げたら困る。

 まあ、既にバニラ本人にはコニ―との仲は応援すると伝えているので、これ以上変な勘繰りをされる心配は要らないか。

「ところで、コニ―もどこか出かけていたみたいだけど、何かあったの?」

「ううん、特に用事があったわけじゃないの。バザーも一通り見て回っちゃったから、ちょっと他の人の邪魔にならないとこに行って、歌の練習をしていただけだよ。今頃、ハッピーガーランドの皆は練習しているだろうから、私もちゃんとしないと……」

 コニ―は砦の外れの方を示しながらバニラに答えた。

 なるほど、こんな時も自主練とは真面目なことだ。

「グレイは大丈夫? 『Impossible』のお披露目は、次の定期演奏会だよ」

「……ははっ」

 確かに、ここからハッピーガーランドに戻ってからだと、練習に充てられる日数はそう多くないな。

 新曲の『Impossible』は何気に俺の出番が多い。

 特にイントロはサックスのソロパートなので、ここをミスりでもしたら大目玉だ。

 ……明日はネフロ博物館に戦利品を持っていく時間も必要だから、丸一日ダンジョンに潜ることにはならないはずだ。

 午後は少し楽器の練習に充てるか。

 

 

 そして、夕食を終えた俺たちは、宿泊所の前で別れて各々の部屋に向かう。

 ……さすがに、バニラとコニ―を押し込む壁の厚い二人部屋は無かったな。

 コニ―は女性用の天幕に引き上げていった。

「それじゃ、おやすみ」

「あ、待ってグレイ。発掘品とか分けないと」

「ん? 俺は別に要らんぞ」

「え? でも……」

 バニラは自分の都合でダンジョン探索に俺を付き合わせたと思っているから、何か礼をしないと気が済まないのだろう。

 でも、ぶっちゃけ欲しい物なんて無いんだよな……。

 宝石に興味など無いし、発掘品もナツメッグ博士のお土産にするには微妙な品ばかりだ。

 考古学的な価値はあっても、博士はそういったものに食指が動くタイプではない。

 魔法金属でも発掘できれば別だが……。

「じゃ、貸しイチだ」

「貸し……?」

 適当な物を貰ってもいいが、そろそろ未来のことも本格的に考えていかないとな。

 今までは、コニ―とくっ付けることでバニラを俺たち側に縛る方針で来たが、俺個人が恩を売れるのならばそれも構わない。

「でも……今までもグレイには色々とお世話になって……」

「そう思ってくれているなら、俺が困ったときに手を貸してくれ。俺はナツメッグ博士の助手で、博士はこの国有数の偉大な研究者だ。悪党が寄ってくることは往々にしてある。そんな時、決して敵側に立たないでほしい」

「そりゃあ、そんなことするつもりは無いけど……」

「重要なことだ。くれぐれも、俺たちやコニ―の味方でいてくれ」

「……わかったよ」

 バニラも俺が何かを予見していることは気づいているだろうが、俺としてもここで問い詰められたからと言って全てを話すわけにはいかない。

 ブラッディマンティスの背後にダンディリオンとセイボリーが関わっているので、奴らを単純に滅ぼせばいいというだけではない。

 この物語は少々複雑なのだ。

 俺という大して器用ではない人間が介入する以上、やはり原作と大きくシナリオを外すのは得策ではないだろう。

「まあ、今はそこまで深刻に考えなくてもいい。とりあえず、明日もダンジョンだろ? 今日よりは短くなるかもしれないが」

「……そうだね」

「早いとこ休め。それとも……俺とビークルバトルの修行をするか?」

「あははっ、それは勘弁」

 俺たちは各々の部屋に戻り、ようやく眠りについた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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