steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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48話 砂漠1

 

 デルセンのキャラバン一行やポールが出発する前日。

 俺は一人【ジャガーノート】を駆ってガラガラ砂漠に足を踏み入れていた。

 昨日のヒンヤリ遺跡攻略の二日目も探索は順調に進んだ。

 バニラに戦闘の経験を積ませるということに関しては、凡そ俺の計画通りだ。

 簡単な見立てだが、恐らく今のバニラなら、Sランクバトラーのシュナイダーも工夫次第で倒せる。

 ……まだ、バニラの腕はその程度だ。

 精々、一年半ほど前の俺と同じくらい。

 俺とやれば、まずこちらが負けることは無いだろう。

 ……少しほっとしたのは内緒だ。

 記憶をなくす前の分も含めてバニラがビークル乗りとして初心者ならば、彼はほんの数週間で俺の半年近くの研鑽に追いついたことになる。

 俺もこの国ではトップクラスのビークルの腕を持っているはずだが……本当に、主人公補正は凄まじいな。

 まあ、何はともあれ、あれならキャラバンの護衛も問題ないだろう。

 俺が色々と介入してしまった分によるバニラの経験不足は、ジンジャーの修行とダンジョン探索で相殺できたと見ていいだろう。

 今日のバニラは待機の最終日、ビークルの整備の最終確認と、消耗品の調達のためバザーに行っている。

 昨日の午後にネフロへ戻って博物館に発掘品を売り払ったので、懐は温かいだろう。

 今頃は、コニーに高い砂漠の装束をプレゼントしているはずだ。

 あの二人の外堀を埋めるのは十分だ。

 やり残したことは……大丈夫、無いはずだ。

 商人に金を握らせて、ポールには少々年を食った安い駱駝を売ってもらった。

 ビークルに乗る俺たちよりは遅くなるだろうが、これでポールも砂漠を渡ってハッピーガーランドに到達できるはずだ。

 後は、念のため駱駝のルート周辺も盗賊を減らしてやればいいだろう。

 俺の旅支度も何度も確認済みだ。

 予備のタンクで水を多めに持ち、食糧も余裕を持たせてビークルに積み込んだ。

 砂嵐避けのスカーフと、日差し対策にアラブっぽい頭巾――クーフィーヤとかいうやつ――も買った。

 いざとなったらレイブン砦に退却するので、方角も常に意識して行動する。

 準備は完璧だ。……恐らく。

 

 

 さて、レイブン砦から商人や砂漠を渡る連中が出発するのは明日なのに、俺が何故このような場所に居るかといえば、当然ながら先回りしてデザートホーネット団を掃討するためだ。

 デルセン経由で商人連中から貰った地図は想像以上のクオリティだった。

 ガラガラ砂漠全域の地形が把握でき、ハッピーガーランド方面のコンドル砦だけでなくデザートホーネット団のアジトに油田の位置や距離も正確に読み取れる。

 駱駝で砂漠を渡る際のルートはもちろん、キャラバンのルートも十通り以上が記載され、別紙にはここ最近で不審な消息の絶ち方をしたビークルの情報などが時間や場所付きで細かく書かれている。

 はっきり言って、最後の情報は企業秘密に近いものだろう。

「まったく、抜け目ない……」

 俺はこの地図を二つの仕事と引き換えに要求した。

 一つはデルセンへのバニラの紹介というか身元の保証というか微妙なものだが、もう一つは俺が事前にデザートホーネット団へ攻撃を仕掛けて盗賊ビークルの数を減らすというものだ。

 これだけの物を受け取っては、俺もナツメッグ博士の助手という立場がある以上、中途半端な仕事はできない。

 恐らく、デルセンから話を聞いた商人たちは、それを見越して敢えてこれだけの代物を寄越したのだ。

「とりあえず、バニラが居るデルセンのキャラバンと離れているルートから掃討していくか」

 今回はどちらにせよデザートホーネット団への攻撃は計画していたので、俺の要件のついでに済みそうな話だが、これ以上は砂漠の商人と係わるのは避けた方が無難かもな。

 回数を重ねるごとに、押し付けられる面倒事のレベルが上がりそうだ。

 

 

 キャラバンのルート沿いを進んでいると、砂漠の向こうに鈍く光る金属の塊が横切った。

 デザートホーネット団のビークル『イエロー・ワスプ』だ。

 長いレッグパーツで砂に足を取られることなく高速で砂漠を駆け、ガトリングによる遠距離攻撃を仕掛けてくる厄介な敵だ。

 ゲームでは、砂漠地帯ではこちらのビークルの移動速度が低下することもあり、厄介な敵として印象に残ったプレイヤーも多いだろう。

 編隊を組んで包囲してから射撃してくるので、一体を追いかけまわしていたら背後から連射を食らうなんてのも珍しくない。

 俺にとっては初めての砂漠、敵にとっては自分の庭、さらに向こうは五機の編隊でこっちは一人だ。

 少しでも戦闘が長引くようだったら撤収するつもりでいたが……デザートホーネット団の掃討は思いのほか順調だった。

 この世界のビークルの火器は、射程距離と精度において地球のものを大きく下回っているのだ。

 ビークルに搭載するサイズの武装は、前世なら車載武器にあたるので、最低でも50BMG弾を使うM2ブローニングの有効射程二キロメートルなんてものが基準になる。

 迷彩で砂漠の砂に紛れて数キロ先から狙撃などされたら、元軍人などではない俺は簡単にお陀仏だろう。

 しかし、デザートホーネット団が使うガトリングは、まともに命中させるためにはかなりの近距離まで接近する必要があった。

 もちろん、標的が人体ではなく鋼鉄のボディを持つトロットビークルなので、制圧するためには何発も命中させる必要があるという事情も存在するのだが……。

 とにかく、敵の戦術はこちらを数十メートルか百メートルの距離で包囲して銃撃戦を挑んでくるというものなので、俺としては非常にありがたい状況になるわけだ。

 俺の視界の外から狙撃を食らうことは無い。

 こちらが視認できる距離まで向こうから近づいてくれるので、次は必然的に距離を保ちながらの撃ち合い、銃撃戦というよりは間合いを測りつつ剣で切り結ぶ感覚に近い状況になる。

 遮蔽物が無いだけで、いつもやってきた盗賊討伐やビークルバトルと同じだ。

 直線移動の巡航速度においてはレッグパーツの構造上【ジャガーノート】は『イエロー・ワスプ』に遥かに劣るが、中距離の戦闘における機動力ならこちらも負けていない。

「ぐわっ!」

「くそっ……」

 さらに、『イエロー・ワスプ』のガトリングよりも俺のチェーンガンアームの方が精度は上だ。

 俺は敵のガトリングの射線を意識しながらスラスターで【ジャガーノート】を滑らせ、包囲網に割り込んで敵ビークルを盾にする位置取りをしながら、次々とデザートホーネット団のビークルをチェーンガンで撃ち抜いていく。

「や、やめ……がっ!」

 最後に残った一機に搭乗する盗賊は、迫れば降伏したかもしれないが、残念ながら俺に容赦をする余裕は無い。

 そのままコクピットごと強化ブレードアームで叩き斬った。

「悪いな」

 デザートホーネット団は義賊のような面もある組織だが、こちらを襲ってくる以上は情けなど掛けられない。

 一人も殺さず無力化することを狙うなど、俺の命の方が危険だ。

 一部だけ殺さずに逃がしても、仲間を殺られた盗賊は復讐心を抱くことになるだろう。

 下手の生きたまま帰して、根に持つ奴につけ狙われでもしたら厄介だ。

 バニラは彼らと友誼を結ぶことになるが、俺が同じような関係を築ける保証は無い。

 盗賊団との関わりは、その地域で襲ってきた奴を殲滅する以外、俺は構築することが難しいわけだ。

 なら、最初から容赦せずに殲滅した方がいい。

 

 

「……よし、追い剥ぎだ」

 撃破したデザートホーネット団のビークルから使える物資をかき集める。

 砂漠の盗賊団だけあって遭難にも備えているらしく、『イエロー・ワスプ』には水筒と食糧が常備されていた。

 元々、今この辺りに展開されているデザートホーネット団のビークルは、キャラバンを襲う本隊ではなく偵察部隊なのだろう。

 その証拠に、分隊指揮官が搭乗する複座型の高性能機体『クリムゾン・ホーネット』は見当たらない。

 食糧物資が充実しているのは、強襲ではなく偵察任務による長時間の遠征を想定しているためもあるのだろう。

 俺も自分の食い物や水はビークルに積んであるが、敵から奪ったものも備蓄しておけば余裕が出るので、残骸の中で無事だったものは遠慮なく頂いた。

 彼らのガトリングの弾は俺のチェーンガンと共通なので、弾薬も貰っておこう。

 チェーンガンアームの弾倉に補弾し、余った分は弾薬箱ごと奪って【ジャガーノート】のバックパーツに積む。

 燃料タンクを破損させずに倒したビークルからは、タンクごと取り外して燃料も奪う。

 バックパーツにはまだ余裕があるので、敵ビークルの残骸からガトリングも一つ頂戴しようか迷ったが、これは利用法が無いのでやめておいた。

 予備部品として使うにしても、初めて触るパーツなので、俺ではまともに分解することができない。

 使いたければ、博士の工房で一度じっくり解体して分析する必要があるだろう。

 これからしばらくナツメッグ邸に戻る予定はないので、予備パーツの現地調達はあきらめた方が良さそうだ。

 コンドル砦やハッピーガーランドに持ち帰って武器として売り払えば小遣いの足しにはなるかもしれないが、はした金のために積載物の重量を増やして攻撃を食らったりしたら馬鹿を見る。

「さて、次だ」

 俺は【ジャガーノート】を軽く点検して準備を整えると、次の獲物を求めて再び砂漠にビークルを進めた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

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