steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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49話 砂漠2

 

 キャラバンのルート周辺に居るデザートホーネット団を掃討した次の日、俺は駱駝や一般人が砂漠を超えてコンドル砦へ向かうのに使うルート周辺へビークルを向かわせた。

 昨日一日でデザートホーネット団は大きな損害を受けたはずだ。

 何せ、俺は片っ端からデザートホーネット団のビークルを撃破し、一機たりとも逃がさず仕留め続けてきたのだから。

 しかし、分隊を十個ほど撃破した頃には、キャラバンのルート周辺の『イエロー・ワスプ』は密度を一気に減らしていた。

 恐らく、何らかの方法で襲撃を受けていることを察知し、他の偵察隊を引き揚げさせたのだろう。

 もしかしたら、こちらの視界のアウトレンジから攻撃できる手段は無くても、観測する術くらいは持っているのかもしれない。

 それでも、俺が数十機のデザートホーネット団のビークルを破壊したのは事実だ。

 明日の商人への攻撃能力は大きく落としているに違いない。

 これで、砂漠の商人たちへの借りは返した。

 こちらの要求以上の地図をくれた分の仕事はしたと言っていいだろう。

 昨日はバニラの護衛するデルセン一行が使うものとは別のキャラバンルート周辺を掃除した。

 今日の目標は、ポールが通る予定のルート周辺のデザートホーネット団を掃討することと、あとは『サンド・キャッスル』の撃破だ。

 今日の夜中、オアシスで休息を取っているコニーがデザートホーネット団に誘拐される。

 バニラはコニーを助けに向かい、最終的にコニーたちは解放され彼らと友誼を結ぶことになる。

 その帰り道、デザートホーネット団のアジトとオアシスの中間くらいに出現する、砂漠に潜航する巨大な移動要塞が『サンド・キャッスル』だ。

 あれは危険だ。

 俺が先回りして撃破する。

 連日の働き詰めだが、昨日の夜はレイブン砦の近くまで引き返してからビークルを駐機して休息を取ったので、すぐに退却できる場所である程度は安全が確保された環境のもと眠ることができた。

 集中力を欠くほど疲労が蓄積されているわけではないので大丈夫だろう。

「……やるか」

 早速、砂丘の向こうに僅かに見える敵ビークルの影を視認した俺は、チェーンガンのトリガーに指をかけたまま、砂嵐に紛れるようにしてビークルを進めた。

 

 

「や、うわぁぁぁああぁぁぁぁぁ!」

 俺のチェーンガンが分隊で最後の生き残りである『イエロー・ワスプ』の燃料タンクを撃ち抜き、敵のビークルは全て無力化された。

 爆発の衝撃で機体が大破したことにより、バランスを崩して倒れ伏すビークルのコクピットから搭乗していた盗賊が投げ出されて砂地に叩きつけられる。

「がっ……うぐっ……」

 奇跡的に爆発による火傷は無いようだが、全身を強く打ち付けたうえに地面に落下した盗賊は、しばらくは這うこともできずに苦悶の息を漏らした。

「……少ないな」

 デザートホーネット団の標準ビークル『イエロー・ワスプ』で構成された部隊をいくつか撃破したところで、俺はこのエリアが妙な状態であることに気付いた。

 デザートホーネット団のビークルがやけに少ないのだ。

 確かに、キャラバンのルートに比べて一般人が多く通るルートは儲けが多くないので、展開している部隊が少ないこと自体は何もおかしくはない。

 しかし、昼まで探し回ったにもかかわらず、遭遇したデザートホーネット団のビークルは数える程度。

 さすがにこの数の少なさでは、エリア全域に目が確保できず、偵察の意味すら成していない。

 昨日のキャラバンルート付近では、途中で付近の別動隊に俺の襲撃の存在が察知され、正体不明の敵により多大な存在を被っていることを把握し、早めに戦力を退いた可能性もある。

 しかし、今日の俺が攻撃を仕掛けているのは一般人が通るルートなので、昨日とは完全に別のエリアだ。

 対応が早すぎる。

 

 

「くそっ、“ナツメッグ博士の右腕”か……」

 地面を見ると、先ほどまで搭乗していた『イエロー・ワスプ』が大破して投げ出されたデザートホーネット団の男が、片腕を押さえながらこちらを見上げていた。

 俺はショルダーホルスターから拳銃を抜き、男の眉間に照準を合わせる。

「くっ……」

 ゴーグルと覆面で表情は見えないが、体から力を抜いて項垂れたことから察するに、もうほとんど抵抗を諦めているようだ。

 しかし、今回は俺がすぐに引き金を引くことは無かった。

 今までなら余計なことはせず盗賊はすぐに始末していた。

 目の前の男の仲間もそうだ。

 全員がビークルに搭乗したまま俺のチェーンガンに撃ち抜かれるか爆発に巻き込まれて息絶えている。

 それも当然の話だ。

 盗賊に襲われて死ぬ者も多いので、こちらが盗賊を殺すのもお互い様だ。

 下手に生かしたまま帰らせても、その男は再び盗賊行為を働く。

 次の被害者を出さないためにも、普通なら見逃すのは無しだ。

 逆に拷問もしない。

 生き残った仲間に俺が盗賊を非道に痛めつけて殺したことがバレたら、俺に待っているのは凄まじい復讐という名の拷問死だ。

 生身の俺は普通の人間なので、ビークルから降りているところを数十人に囲まれたら普通に捕まってしまう。

 生皮を剥がれて一寸刻みにされるのはご免だ。

 だから、今までは遭遇した盗賊は極力その場で殺し、情報を仲間のところに持ち帰らせることを阻止して、死体にも拷問の形跡を残さず、復讐心を抱かれるリスクを可能な限り回避してきたのだ。

 しかし、今度ばかりはそうも言っていられない。

 ポールの通るルートで敵に遭遇できないことは、都合よく解釈すれば敵を追い払ったことになるが、悪い想定が当たっていればデザートホーネット団は一時撤退して戦力を集結している状態だ。

 最悪の場合、ポールが出てきた直後に敵が大挙して押し寄せることになるわけだ。

 このままではマズい。

 何せ、このままサーチアンドデストロイを繰り返すだけでは、ポールの件に対応できないかもしれないのだ。

 何か、対策を取らなければ。

 最低限、情報は手に入れなければならない。

 

 

「俺のことを知っているのか?」

「…………」

 盗賊の男は答えない。

 相変わらず顔を隠しているので表情は見えないが、恐らく何を喋ってもどうせ殺されると考えているのだろう。

「質問を変えよう。俺のことを、お前たちデザートホーネット団はどう認識している?」

「…………」

 男は沈黙を保ったままだ。

 このまま引き金を引いて片腕でもぶち抜いてやりたくなるが、ここで拷問するわけにはいかないのでぐっと堪える。

 普段なら、死体を処理してしまえば拷問の事実はバレないかもしれないが今回は別だ。

 俺の存在をデザートホーネット団がいち早く察知したことからの推測に過ぎないが、敵にはこちらを遠くから観測する手段があるかもしれない。

 何せ、ここはデザートホーネット団の庭だ。

 今この場面を見られているとしたら、後で死体を始末しても拷問した事実は隠せない。

 だから、こいつにはできるだけ素直に色々と吐いてほしいのだ。

 少なくとも、向こうの観測状況くらいは知りたい。

「おとなしく質問に答えてくれたら殺さない。見逃してやる」

「……信用できるかっ」

 ようやく口を開いて男から発せられたのは、吐き捨てるような拒絶の言葉だった。

 まあ、そりゃそうでしょうよ。

「俺の目的はお前たちの壊滅などではない。今回は仕事だったからキャラバンのルート周辺を掃除したが、俺は長くてもあと数日でガラガラ砂漠から消える。今ここに留まっているのは、駱駝に乗って砂漠を渡っている貧乏な画家の友人を守りたいからだ」

 俺にとって、砂漠の商人は絶対的な正義でも庇護下にある連中でもなければ、彼らがデザートホーネット団とどういう関係なのか厳密には知らない。

 もしかしたら、砂漠の民を襲撃しても命は取らないという密約などがあるのかもしれない。

 あったとしても、どれほど重いものなのか、どこまで脆弱なものなのかも知らない。

 知らないことに、深く首を突っ込もうなどとは考えないさ。

 それに、デルセン一行を守るのはバニラの役目で、バニラとコニーがデザートホーネット団の頭領ノーラに会わないとゲーム通りのイベントが進まない。

 原作のシナリオに沿ってもらうためだ。

 そちらには可能な限りタッチしないようにした方がいいだろう。

「質問に関しても、お前たちの内部情報を吐けなどとは言わん。ただ、俺についてどこまで知っているか、どこまで監視しているか、それと『サンド・キャッスル』の……ブラッディマンティスの潜航要塞について話してくれればいい」

 

 

 デザートホーネット団の男はしばらく俺の拳銃の銃口を見て迷っていたが、やがて諦めたように口を開いた。

「……昨日から現れた黒いビークルが我々を潰しまわっているという情報は既に回っている。観測した者の話では、そのビークルは高い機動力と射撃能力を持ち、俺たちを徹底的に殲滅する容赦の無い奴とのことだった。そして、恐らくその正体は“ナツメッグ博士の右腕”と呼ばれる凄腕のビークル乗りだろうと」

 やはり、遠くから俺のビークルの姿は見られていたか。

 どんなに小細工をしたところで、所詮はデザートホーネット団の視界の中だってわけだ。

 恐らく、今もどこかから俺たちの様子を観察している奴が居るのだろう。

 見られている以上、下手に拷問や惨殺ができないことは確定した。

 俺の身分をどこから知ったのかは謎だが……そういえば、こいつらはレイブン砦周辺に住む砂漠の民とのルートを持っている。

 レイブン砦ではダッドリーやジミーとの件で、俺に関する噂はド派手に流れているはずなので、俺の情報を集めるのはそう難しいことではないだろう。

「俺の正体を知ったのは、レイブン砦の堅気からの情報でか?」

「…………」

 男は再び黙りこくった。

 まあ、この件に関してはあまり突っ込まなくてもいいだろう。

 下手に執着しているように取られて、情報を流した民間人を俺が殺すと思われても厄介だからな。

 死を覚悟しても罪なき民を守ろうとするとは立派なものじゃないか。盗人だけど。

「ブラッディマンティスの移動要塞については?」

「『サンド・キャッスル』だったか? そのようなものは知らん。ブラッディマンティスの奴なら、数日前にノーラ様のところへ来たが、すぐに帰ったぞ」

「そいつの話の内容は?」

「知らない。ノーラ様の機嫌が悪そうだったのは覚えている。あの調子では、側近も根掘り葉掘り聞けないだろうな」

 まあ、そうか。

 デザートホーネット団の頭領ノーラは、借りがあるからブラッディマンティスに協力してはいるが、さすがにゲームのように自分たちの砦の目の前に巨大な移動要塞が来るのは許容できないだろう。

 恐らく、あれはノーラに話を通さず、ブラッディマンティス側が勝手にやったことだ。

 デザートホーネット団から直接『サンド・キャッスル』の情報を得るのは無理だな。

 ここは、原作通りオアシスとデザートホーネット団のアジトの間まで進んで、そこで待ち構えるしかないか。

 しかし、この男もブラッディマンティスにあまりいい感情を抱いていないようだな。

 奴らに関してはペラペラと喋ってくれる。

 

 

 現状についてと『サンド・キャッスル』に関して把握できるだけの情報を手に入れた以上、もうこいつに用は無いな。

 いつもなら始末するところだが、今回は監視の目もありそうなので却下だ。

「最後に一つだけ聞いておこう。仲間の仇として、俺をしつこく追いかけてくる奴は居るか?」

「……あんたはハッピーガーランドに行くのだろう? 我々に砂漠の外での狼藉は許されない。盗賊行為の最中に戦死した仲間の復讐は……殺した相手を追うのは掟に反する」

 はっきり言って、信用できる話ではないな。

 だが、ブラッディマンティスとの縁が出来るきっかけにもなった三年前の警察の手入れで、デザートホーネット団が活動地域を近場の砂漠のみに定めたというのはあり得る話だ。

 それに、たとえ俺を追ってくる奴が居たところで、今の段階でできることは少ない。

 既に俺の姿は見られており、デザートホーネット団の本部にこちらの正体が知られてしまっているのだ。

 一人残らず始末して俺の情報が渡らないようにする手はもう使えない。

 俺にできることは、少しでも貸しを作って、頭領や盗賊団の総意として俺に対する悪意レベルを下げるだけだ。

 当然、確実に復讐を思い留まってくれる保証は無い。

 まったく、面倒な……。

 金輪際、盗賊とそういった関係を持つのは遠慮したい。

 

 

 俺は水筒を一つ男に投げ渡した。

 今までに撃破したデザートホーネット団のビークルから奪ったうちの一つだ。

 この男も砂漠に生きる人間だ。

 これだけの水さえあれば、ビークル無しでも生きて仲間の元まで辿り着けるだろう。

「行け。二度と俺の前に面を出すな」

「……本当に見逃してくれるのか?」

 男は半信半疑といった様子だが、俺は快楽殺人犯でもデザートホーネット団に親を殺された復讐の鬼でもない。

 今回は容赦なく処刑した方がデメリットは大きそうなので、こいつは逃がしてやることに決めた。

「次に会うことがあったら殺す。あと、ノーラに伝えておけ。俺はブラッディマンティスの起動要塞を潰したらガラガラ砂漠を出ていく。俺を襲ってきた奴は殺す。今、一般ルートで砂漠を超えている俺の友人の画家が被害を受けたら、デザートホーネット団のアジトを吹き飛ばす。だが、それ以外なら何をしようと構わんし、そっちの予定を変更する必要も無い、とな」

「……わかった」

 ノーラやデザートホーネット団がどう行動を変えるかはわからない。

 俺との衝突が得策ではないと判断してくれれば、今回の砂漠越えをする連中が渡り切るまで一般ルートは安全だろうし、バニラたちも原作通りの展開を迎えるはずだ。

 彼らのプライドが想像以上の代物で天邪鬼だったら、ポールたちは襲われてバニラたちのイベントにも狂いが生じる。

 だが、残念ながら今の俺にできるのはこれだけだ。

 必要なことは伝えた。

「失せろ。俺の前から永久にな」

「わかってる。あんたとやり合うのはもうご免だ」

 デザートホーネット団の男は、痛む体をどうにか起こして、足を引き摺りながら去っていった。

 男の姿が見えなくなったところで、俺も拳銃をショルダーホルスターに仕舞う。

「さて、もうひと踏ん張りだ」

 一息つきたいところだが、状況はこちらを待ってはくれない。

 早速、俺は撃破したデザートホーネット団のビークルの残骸を漁り始めた。

 今回は簡単にチェーンガンの弾薬と燃料を補充するだけで済ませ、俺は再び【ジャガーノート】のハンドルを握る。

「よし、行くか」

 次はいよいよ『サンド・キャッスル』の討伐だ。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

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