steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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5話 盗賊のアジトから脱出

 

 トロットビークルに乗って一通り集落を見て回り、隠れている者が居ないのを確認した俺は、拳銃を握り締めてさらに一つ一つの家屋の中を検めた。

 生存者は居ない。

 どうやら、先ほど頭領の家の中で止めを刺した奴で最後だったようだ。

 まあ、もっと離れた場所に他の仲間が居ないとも限らない。

 ありったけの物資を掻っ攫ったら、早めに逃げた方がいいな。

 まずはビークルの整備場と思わしきトタン小屋の中身を持ち出すことにした。

 中で最初に目に付いたのは、手入れの行き届いた四台のトロットビークルだ。

 恐らく、頭領の家の中でくたばった連中か食堂で始末した奴のビークルだろう。

 今、俺が乗っているのは先ほどの戦いに使い、ソードアームの攻撃をボディに受けて傷ついているものだ。

 うん、乗り換えよう。

 問題はどれを選ぶかだが、すぐに決めることができた。

 何故なら、整備場内のビークルの内三台は両腕が砲弾アームか、もしくは武器パーツを装備しているのは片腕だけだったからだ。

 俺のゲームでのスタイルは右手に近接武器で左手に射撃武器。

 右にソードアームで左に砲弾アームを装備したビークルが、ゲームで使っていたビークルの感覚に近い。

 整備場内で見つけたキーを使ってエンジンをかけ、俺は新しいビークルに乗って、建物内の物資を運び出した。

 

 

 トロットビークルが手に入ったので、遠慮なくアジトのほとんどの物資を頂戴した。

 俺が搭乗できるビークルは一台なので、さすがに全ての物資を積み込むのは厳しいかと思ったが、整備場で牽引用のアタッチメントを手に入れたのだ。

 無人のビークルの脚を車輪付きの台に載せて、連結して俺が搭乗するビークルで引く装置だ。

 これを使えば他のビークルも全て引っ張って行くことができる。

 燃料タンクを撃ち抜いて大破させたビークルを除いて、新品のビークルを三台、血塗れだが損傷が軽微なビークルを五台、それに先ほどまで乗っていた頭領のビークル。

 俺が乗るやつ以外に九台のビークルがあるので、積める荷物も相当な量になる。

 まず、整備場内の資材と燃料は全ていただいた。

 これだけあればピジョン牧場に着くまでにガス欠になることはないだろう。

 大破したビークルの残骸も勿体ないので、無人ビークルのキャリアーに積んでいこう。

 次に食堂の建物にあった食料と食器に調理器具、あとは頭領の家とそれぞれの家屋にあった金品を頂戴した。

 盗賊のアジトにしては、金銀財宝の類はそれほど見つからなかったが、貨幣はある程度まとまった額が手に入ったと思う。

 バンピートロットの世界の貨幣はUR(ユーロッチ)という何ともシュールなネーミングセンスを感じる単位の通貨が流通しており、パンが大体10URだったことを考えれば1UR=10円ほどだと思う。

 しかし、ビークルのパーツが数百URを相場にして、最高クオリティの武器アームが数千URだと言うのだから謎の単位だった。

 これは銅の剣や鉄の剣が数千円で、天〇の剣が数万円で買えるのと同じだ。

 普通に考えてあり得ない話だろう。

 この世界ではどうなっていることやら……。

 まあ、少なくとも銀貨に1000URと書いてあり、これが百枚以上あるので、たとえ金以外の戦利品が相応な額で処分できなくても、しばらくは生活するのに困らないはずだ。

 あと……気は進まないが盗賊の死体も運ばないとな。

 懸賞金が出るのか不明だが、もしも奴らの首に賞金が付いているのなら逃すのは惜しい。

 疫病対策の観点から言うとさっさと燃やしてしまいたいが、討伐が確認できない状態で報酬を払ってもらうことは難しいだろう。

 この世界の懸賞金のシステムがわからないからな。

 首だけ持って行けばいいのか、指紋を取る指だけ持って行けばいいのか……。

 そこら辺が不明な以上、全身を持って行くしかあるまい。

 せめて要らない樽や木箱に詰めよう。

 

 

 盗賊団のアジトからある程度離れた森の中の川辺で、俺はビークルを停泊させてキャンプを張った。

 マッチがあるので火熾しにそれほど苦労しなかったのが幸いだ。

 奪った調理器具と食材で簡単なスープを作り、パンを浸して平らげた。

 鞄一つ分しか持ち出せなかったら、硬い干し肉だけの飯だったこともあり得る。

 厨房の中身を丸々持ち出せたのも幸運だったな。

 生鮮食品から消費するべきだと自分に言い訳し、人参や玉ねぎにベーコンらしき生に近い干し肉を使ったスープはなかなかに美味だった。

 食事を終える頃には、すっかり日も暮れてしまった。

 今日はもうこれ以上の移動はできないだろう。

 一度煮沸した湯をカップに入れて飲みながら、俺は今日のことを思い返した。

 森の中で倒れていることから始まり、盗賊団を一つ壊滅させて皆殺しに、ここがバンピートロットの世界だとあたりを付けて、稀代の天才ナツメッグ博士の居るピジョン牧場を目指している。

 日本に居た頃の俺に話したところで、まあ信じるわけがない荒唐無稽な話だ。

 二十一世紀の若者として人並みに異世界転生への憧れは持っていたが、まさかスチームパンクのゲームの世界とはな。

 とにかく、今はナツメッグ博士に接触することが最優先だ。

 彼と話せば元の世界のことがわかるかもしれないし、これからの身の振り方を考えるためにも彼の意見を聞いておきたい。

 分捕ったビークルや資材もナツメッグ博士のところに持って行けば何かに役立ててくれるかもしれない。

 まずはナツメッグ博士をはじめとして、バンピートロットの主要人物との接触を始めるべきだな。

 ゲーム本編に対して今がどの時期なのか不明だが、もしもエンディング前なのであれば、これからバンピートロットの登場人物を中心に、この世界には激動の時代が訪れることになる。

 生き抜いていくためには、彼らとの縁も必要になってくるだろう。

 しかし、俺は本当に元の世界に戻れるのだろうか?

 魔法的な要素をほとんど含まない作品の世界という時点で、その難易度は既に数段上である気がする。

 いや、そもそも俺は本当に戻りたいのか?

 今の俺は、原作の知識を生かして、この世界でどう生き抜こうかを考えている。

 大好きでやり込んだゲームの世界。

 どうやら俺に膨大な魔力やチートは無いようだが、それでも俺はゲームの経験を活かして、日本でブラック企業に勤め続けるよりは幸せな人生を送れる気がする。

 まあ、既に原作とは違う要素に直面して死にかけているわけだが……。

 ゲームのフィールドの外のエリアに放り出され、原作では全く登場しなかった敵と紙一重の殺し合いをするハメになった。

 この世界で生きていくのは簡単なことではない。

 俺は、どうするべきなんだ……?

 

 

「うっ……朝か」

 ビークルのコクピットで毛布に包まり夜を明かした俺は、何事もなく朝を迎えられたことに安堵した。

 シートの下に隠していた拳銃も無事だ。

 一度シリンダーを開いて軽くチェックして鞄に予備のナイフと一緒に納める。

 親分の家から根こそぎ持ちだした十数発の予備の弾丸も、布で包んで鞄に仕舞ってある。

 どちらも即応性に欠ける装備の仕方だ。

「弾丸は最悪ポケットでもいいが、ホルスターは欲しいな」

 皮革加工の店や職人がピジョン牧場に居ないものか。

 無理ならネフロで探すしかないな。

 牽引していたビークルにも変わった様子は無い。

 盗賊の生き残りが追って来るのではないかと心配していたが杞憂だったようだな。

 もしかしたら、アジトには残党が戻ってきている可能性もあるが、さすがにこれ以上は一人で危険を冒すのは勘弁だ。

 川の水で顔を洗い、焚火でお湯を沸かしてこれも盗賊のアジトから持ってきたタオルで体を拭く。

「はぁ……石鹸が欲しい」

 当然、盗賊のアジトにそんな気の利いたものはあるはずもなく。

 ナツメッグ博士は作れるだろうか?

「あと……街に行ったら、まずは服を新調しないとな」

 俺の恰好は相変わらずスウェットにパーカー、スニーカーだ。

 汚れの少ない布切れを再度洗ってタオル代わりにするのならともかく、盗賊の服を奪う気にはなれなかった。

 家探しをしても、予備の服はほとんど見つからず、あってもボロボロで臭くて着れたものではなかったのだ。

 ナツメッグ博士に会ったら、一刻も早くネフロで服を買わないと。

 牽引するビークルを全て確認した俺は、自分が搭乗するビークルのエンジンをかけた。

 静寂の森に響く鋼鉄の稼働音が心地いい。

 まあ、環境には悪いことをしているわけだが、スチームパンクはいつまで経っても男のロマンなのですよ。

「さて、行くか」

 念には念を入れて地図を確認した俺は、ビークルのハンドルを握り締め、ピジョン牧場への移動を始めた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

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