steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
俺が『サンド・キャッスル』を自ら撃破しに行く理由は三つある。
巨大な要塞である以上、バニラが単独で挑むのが危険だというのが一つ。
バニラの腕は問題なくても、助手席のコニーが危ない。
二つ目は、ゲームでは『サンド・キャッスル』のHPを削り切っても撃破できず逃げられてしまうということ。
実際、ストーリーが進むと、ブラッディマンティスが占拠した油田基地でその姿を見ることができる。
奴らに巨大要塞の戦力は残したくない。
あと三つ目は、上手くいけばブラッディマンティスの社員を捕まえて尋問できるかもしれないという点だ。
俺だけが手を汚すなどという思い上がりはもう無いが、やはりこういった仕事では、俺が先回りして手を下した方がいいだろう。
拷問はもちろんのこと、容赦なく敵を殲滅することに関しても、コニーを助手席に乗せたバニラでは思い切り戦えないので厳しいはずだ。
俺はビークルをデザートホーネット団のアジトとオアシスの間くらいの場所まで進ませた。
原作で『サンド・キャッスル』と遭遇した場所だ。
少々急ぎ気味で来たが、もう日は落ちかけている。
俺の目的の『サンド・キャッスル』もそろそろこの辺りに来ていてもおかしくない。
「さて、どこだ……」
ライフルのスコープを使って、俺は敵の影を探し続ける。
数日前にブラッディマンティス社員が頭領ノーラに面会したことは聞いたが、その時にどのような会話が交わされたのかは、俺が尋問したデザートホーネット団の男も詳しく知らなかった。
まあ、ノーラからマーシュのペンダントを持った男を近いうちに捕らえると聞いたか、それともブラッディマンティス側からマーシュのペンダントを持つ男を捕らえろという指示が出たか、そのどちらかだろう。
どちらにせよ、デザートホーネット団はペンダントからバニラをマーシュと勘違いして捕らえる。
何故か、巻き込まれ体質のコニーが先に攫われ、バニラは彼女を助け出すべく自らデザートホーネット団のアジトに潜入することになるわけだが……。
とにかく、バニラとコニーは人違いであったことが判明し、デザートホーネット団から解放される。
その帰り道、二人は謎の巨大要塞『サンド・キャッスル』に遭遇するわけだ。
推測に過ぎないが、恐らく『サンド・キャッスル』にはマーシュの護送の任でもあるのだろう。
マーシュの引き渡しの話が事前にデザートホーネット団へ通っており、彼らが『サンド・キャッスル』の存在を知っていたのなら、話はまた違ったはずだ。
その場合は、ノーラは事前に人違いだったことなどブラッディマンティス側に報告し、バニラが『サンド・キャッスル』と遭遇することにはならないだろう。
しかし、『サンド・キャッスル』の存在がデザートホーネット団に無断でブラッディマンティスから送られたものである以上は、そういった展開に持っていくことは難しい。
このままではバニラとコニーは『サンド・キャッスル』と戦闘になる。
阻止するには、この場所で先回りして迎え撃つしかない。
最初はデザートホーネット団から『サンド・キャッスル』について何らかの情報を引き出せると期待していたが、奴らが知らない以上はどうしようもない。
こちらから捜索に出るのは下策だ。
すれ違いになったら、この広い砂漠で一体の敵を探すのは困難だ。
結局、直前で網を張る羽目になってしまった。
しかし、残された時間は少ない。
デルセンのキャラバンはもう砂漠のオアシスに到着しているはずだ。
コニーが誘拐されるのは今日の夜。
「現れてくれよ。せめて、日が沈む前に……っ!」
俺の願いが通じたのか、耳を澄ますと地面から断続的な振動とともに大型の機械の稼働音が聞こえてくる。
ようやく来たか。
ゲームでは、『サンド・キャッスル』は砂漠の砂に潜航する要塞だった。
浮上せずに航行しているとすれば、本体は砂の中か。
「潜望鏡は……?」
しかし、そのような物の姿は砂地のどこにも無かった。
スコープ越しにかなり遠くまで見てみるが、地面から突き出した金属の管は発見できない。
やはり、ゲームのように都合よくはいかないか。
しかし、いくらスチームパンクな技術力で砂漠に潜航できる潜水艦を作ったとしても、砂の流動性は水より小さいはずなので、巻き上げられた砂埃などは目視できるはずだ。
砂地とはいえ地盤の固い場所なら尚更……ということは、もっと地面の緩い場所に居る……?
「そっちか」
俺は音を頼りに【ジャガーノート】を進め、砂丘を登っていく。
ビークルのレッグパーツが取られて機動力を確保できないが、今は我慢するしかない。
「どこだ? どこに……うわ!」
突如、俺の目の前に砂丘の中から巨大な要塞が姿を現した。
「来やがったな……」
重低音を響かせながらゆっくりと砂から浮上してきた青みがかったメタリックな装甲を持つ要塞は、間違いなく『サンド・キャッスル』だった。
砂埃を巻き上げながら巨大な機動要塞が迫ってくる姿は、現実ではなかなかに迫力があるものだ。
敵は俺に完全に狙いを定めて、全速力でこちらに向かっている。
ゲームでは、『サンド・キャッスル』は砂漠の砂地で潜航と浮上を繰り返し、周囲に機雷をばら撒いて攻撃してくるフィールドボスだった。
見た感じ、砂丘のようになっている地帯に半ば埋もれながら移動しているようだ。
恐らく、流動性の大きい砂が高く積もった場所を通っているのだ。
なるほど、そういう仕組みか。
周囲に気取られず砂漠を移動し、こうして邪魔者が目の前に現れたら浮上して攻撃するのだ。
こいつが今後もブラッディマンティスによって運用されるとなると、こちら側としてはなかなかの脅威だ。
それに、移動するたびに砂漠の砂地をぐちゃぐちゃにかき混ぜる要塞の存在は、砂漠の民的にも許容できない環境破壊かな?
さて、シナリオ的には、バニラたちが遭遇した時点ではまだブラッディマンティスのことなど一言もイベントには出ておらず、完全に正体不明の敵という扱いである。
だが、俺はこいつがブラッディマンティスに所属する要塞だということも、奴らが今後敵になることも知っている。
案の定、『サンド・キャッスル』の側面に装備された機雷型の砲弾を打ち出す砲台の後ろには、ブラッディマンティスの軍服を着た男が僅かに見えた。
「くたばれ」
俺のチェーンガンが火を吹き、砲台の僅かに横辺りに着弾した弾丸は、火花を散らしながら薄い装甲を貫通する。
砲台の後ろに居た男は、ビークル搭載サイズの武装をまともに食らって挽き肉になった。
しかし、要塞の中では僅かにパニックになったものの、すぐに別の人間が砲手を交代したようで、反撃とばかりに機雷をばら撒き始める。
「おっと」
俺は慌ててペダルを踏み込み、スラスターダッシュでビークルを後退させた。
なかなかに対応が早い。
『サンド・キャッスル』に搭乗するブラッディマンティス社員はそれなりにエリートのようだ。
砲台から撃ち出されて砂地を転がり時間差で起爆する大質量の爆弾を躱し、俺はチェーンガンを『サンド・キャッスル』の側面に撃ち込んでゆく。
現実であの大きさの爆弾を食らったらヤバいので、俺は攻撃よりもむしろ回避を優先していた。
しかし、このままでは突破口は掴めない。
ゲームでは、『サンド・キャッスル』は一定時間ごとに潜航と浮上を繰り返し、浮上している間だけ砲撃してくるというパターンがあったので、攻略には近道があった。
潜航した隙に潜望鏡にぴったりとビークルを寄せ、浮上した際に甲板の上に出ることができるポジションを取れば、そのまま攻撃に晒されること無く要塞の中心部を殴れる。
ところが、現実では敵ビークルを操っているのはPS2時代のNPCではなく人間だ。
俺のチェーンガンが分厚い装甲に阻まれて『サンド・キャッスル』に有効打を与えられていない以上、向こうが攻撃の手を緩めて退く理由は無い。
だが、俺もいつまでも無為に劣勢になっているわけではない。
無駄弾を使わされた借りは返してやる。
「そこだ」
俺は砲台の発射レートのリズムを観察し、次弾が装填されたと思わしきタイミングでチェーンガンの引き金を引いた。
砲口とその周辺に向かって。
「ぐわっ!」
「っ! あいつ! 砲口に……がっ!」
点射で撃ち込んだチェーンガンの弾丸のうちの一発が砲台を正面から撃ち抜き、装填されていた機雷が衝撃で起爆した。
砲台の近くに居た乗組員は、閉所で爆発に晒されて甚大な被害を受けたことだろう。
砲身とその周辺も、弾薬がまとめて誘爆したことでボロボロになって大破している。
「撤退! 撤退だ!!」
逃がすか。
ここで退却を許したら、原作のバニラたちと戦った場合と同じになってしまう。
俺は吹き飛んだ砲台の横辺りを、右のアームパーツに装備した強化ブレードで斬りつけた。
数回ほど斬撃を打ち込むと、既にズタボロになっていた装甲版が千切れ飛び、『サンド・キャッスル』の側面には【ジャガーノート】が通れる程度の穴が開いた。
「早く! 潜航し……ぎぇぁぁ!」
どうにか、要塞全体が砂に沈み込む前に、俺は【ジャガーノート】を内部に滑り込ませることに成功した。
目についた乗組員のブラッディマンティス社員を、至近距離から強化ブレードを振るって斬り殺す。
生身の人間がこの世界の重機であるトロットビークルの出力で放たれた攻撃に耐えられるわけがない。
スキトール湖の『ディープアングラー』のときと同じ戦法だ。
そして、俺は要塞の中に居るブラッディマンティス社員を、片っ端から処刑しながら、『サンド・キャッスル』の中心部を目指した。
「終わったか……」
全部で四つある砲台の内部を破壊し尽くし、ブリッジにチェーンガンの弾をたっぷりと撃ち込んだところで、潜航要塞『サンド・キャッスル』は活動を停止した。
内部から食い破るように破壊されては、巨大な移動要塞も一巻の終わりだ。
駆動系が完全に停止しているので、もし生き残りが居ても再び要塞を動かすことは叶わないだろう。
俺は破壊工作を一時中断して要塞内部の生存者の捜索に移った。
しかし……搭乗していたブラッディマンティスの社員は全員が息絶えている。
残念だ。
ブラッディマンティスの人間が一人でも生き残っていれば、少しは何か聞き出せたかもしれないのに……。
まあ、やっちまったものは仕方ないな。
俺も『サンド・キャッスル』を逃がさないように、自分が撃破されないように必死だった。
確実に破壊できただけでもよしとしよう。
俺は鉄くずの塊と化した要塞から脱出するために、壁に向かって強化ブレードアームを振るった。
黒鉄とオリハルコンを用いて稀代の天才ナツメッグ刀匠によって造られた刃は、足場も体勢も安定している状態で放たれたことで、その切れ味を十全に示す。
『サンド・キャッスル』の装甲はぱっくりと割れ、四角形に切り取られた要塞の壁が床に落ちる。
しかし……。
「わっぷ!」
同時に要塞の内部に砂がなだれ込んできた。
「くそっ……」
戦闘でも俺と【ジャガーノート】はガラガラ砂漠の乾いた砂を存分に浴びる羽目になったが、またしても砂まみれだ。
俺は悪態をつきながらビークルを進め、要塞から這い出す。
上手い具合に、出口はそれほど深く埋まっていないようだ。
気が付けば、外では既に日が沈んでおり、砂丘の向こうには明るい月の姿がはっきりと見えていた。
「少し、急ぐか……」
このままのんびりしていては、コニーを攫いに行くデザートホーネット団か彼女を助け出すためにオアシスを飛び出したバニラと鉢合わせしてしまう。
俺は少々駆け足気味に弾薬庫から機雷をいくつか運び出し、要塞の各所に転がしてから、残ったいくつかを先ほど開けた出口付近に設置する。
そして、数十メートルほど『サンド・キャッスル』の残骸から離れ、チェーンガンの照準を機雷に合わせた。
そして、静かにアームパーツの武装を稼働させるトリガーを引き絞る。
次の瞬間、眩い爆炎とともに、先ほどまで砂漠の地中を駆けていた起動要塞は轟音を発して爆散した。
「汚ねぇ花火だ」
誘爆した機雷の爆発で、『サンド・キャッスル』は完全に修理が不可能なまでに破壊された。
「はぁ……これで本当に任務完了、だな」
俺は休息を求める体に鞭打って、【ジャガーノート】のハンドルを握って移動を始める。
もうひと踏ん張りだ。
夜通しビークルを運転し続けることになるかもしれないが、俺はこのままコンドル砦に向かう。
何はともあれ、ガラガラ砂漠で俺ができることは全て終わった。
次は、コンドル砦でバニラたちと合流だ。
「はぁ……疲れた……」
さっさとこの忌々しい砂漠からおさらばしよう。
もう二度と……そういえば、次にネフロに帰るときはまだ鉄道が復旧していないので、また砂漠を通ることになるのだった。
さらに、ゲームとしては大分先だが、ブラッディマンティスが油田を占拠した際の戦争で、この砂漠にはもう一度足を踏み入れることになる。
気が滅入る話だ。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。