steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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51話 砂漠4

 

 深夜、デザートホーネット団のアジトにて。

 コニーの独唱による『Impossible』のお披露目が終わった。

 荒くれの盗賊たちが歌声の余韻に浸る中、頭領のノーラがコニーの前に進み出る。

「ありがとう。いい曲だねぇ。とってもいい気分だよ」

 彼女もまた、灼熱の砂漠とは別の世界の文化に触れる機会は少なく、コニーの歌声に酔いしれる者の一人だった。

 しかし、次の瞬間には、ノーラは表情を引き締めて厳しい目をコニーに向ける。

「それじゃ、今日はこれで帰りな。それと、一つ言っておくよ」

 緊張感のある空気に包まれたことで、すぐ近くに居たバニラも固唾を飲んで彼女の言葉に耳を傾けた。

「盗賊はアタシたち、先祖代々の生業だ。次に砂漠で会ったら、遠慮なく狙わせてもらうから、そのつもりでね」

 彼らは砂漠の盗賊団。

 縄張りを通る者を襲い、金品を奪うことで生活を成り立たせている。

 場所が場所だけに、もうしばらくはそういう時代が続くだろう。

 技術が発展しても、馬と槍がビークルとガトリングに変わっただけだ。

 だが、ノーラも今の一言で示しはついたと判断したのか、今度は二人に笑顔を向けた。

「でも、この砦までたどり着いたら、その時は客として迎えるよ。これは歌のお礼だ」

 張り詰めた緊張感のある空気が霧散したことで、バニラはほっと安堵の息を吐き出す。

「ついでにそこの……マーシュ……じゃない」

 ノーラはコニーの横に立つバニラに声を掛ける。

 マーシュと間違えて捕まえられたが人違いだと分かり、解放されたものの自己紹介がまだだったことを思い出したバニラは改めて名乗った。

 バニラの挨拶を受けたノーラは、振り返って一人の部下を呼び止める。

「おい!」

「へい頭領!」

 ノーラに呼ばれた部下を見たコニーは、そこであることに気付く。

「あ、この人! デルセンさんのキャラバンの……?」

「いや、すみません……」

「こいつはアタシたちの仲間さ」

 コニーが攫われた際にバニラをデザートホーネット団のアジトまで連れてきた人物。

 それは、デルセンの助手を務めていた男だった。

 ノーラの一言で、全てに納得するバニラだった。

「お客さんのお帰りだ。オアシスまできちんと案内してあげな」

「わかりました」

 

 

「(すみません、人違いだったようですね。頭領はある人を捜しているらしいんですが……)」

 デルセンのキャラバンに潜入していたデザートホーネット団の男の案内で、バニラとコニーがオアシスに向けて出発したのを確認すると、ノーラは普段の定位置であるアジトの二階に戻る。

 彼女は再び頭領の顔に戻ると、側近たちを呼び出した。

「それで?」

「はい。夕刻に我々の砦の近くで起きた爆発に関しては、確認に向かわせた者から既に報告が上がっています。ノーラ様の読み通り、ブラッディマンティスの要塞で間違いありませんでした。巨大ビークルの残骸から、奴らのワッペンや制服の切れ端が見つかったそうです」

「ふん、やはりな。大方、マーシュの受け渡しの際に追加報酬やら何やらゴネられるとでも思ったのだろう。アタシたちへの脅しも兼ねての巨大要塞か……。敢えて事前に話を通さず来たのも、自分たちが上だと誇示するためだろうね」

「黙って従え、と?」

「弱い犬ほどよく吠えるってことさ」

 楽観的に嘲笑する別の側近を、ノーラは厳しい目で睨みながら鋭く咎める。

「調子に乗るんじゃないよ! ブラッディマンティスの力は侮れない。余裕と油断は違うよ」

「っ! はっ! 申し訳ありません」

 硬直して姿勢を正した男に、他の側近メンバーが呆れたような視線を送った。

 空気の悪さを感じ取ったノーラは、話題を変えるように口を開いた。

「まあ、最終的に砂漠に朽ち果てているんじゃ、世話ぁないけどね。……やったのは、“ナツメッグ博士の右腕”かい?」

「はい。観測手によると、今日の夕刻から日没にかけて、例の黒いビークルが巨大要塞と戦闘を行ったそうです。結果は偵察部隊の報告通り。搭乗員は皆殺しで、要塞が鉄クズ同然になるまで破壊し尽くす徹底ぶりです」

 グレイの戦いぶりとビークルの性能は、『イエロー・ワスプ』との戦闘においても彼らは報告を受けている。

 彼のチェーンガンが自分たちの同志に向けられた例も、実際に体験しているのだ。

 ノーラの側近の何人かは、珍しくブラッディマンティスに同情したい気分になった。

 

 

「ノーラ様、よろしかったのですか? ブラッディマンティスの潜航要塞は数日前にも観測されているので、我々はその位置を把握していました。“ナツメッグ博士の右腕”が潜航要塞を狙っているという話を伝えれば、あの者たちへ恩を売れたはず……」

「ふむ、どうやってだい?」

「は?」

 おずおずと質問した側近に、ノーラはとぼけた様子で言葉を返す。

「“ナツメッグ博士の右腕”がブラッディマンティスの潜航要塞を狙っている話をアタシたち知ったのは今日の夕刻。奴のビークルと交戦して一時捕虜になった者が帰って来た後の話だ。そこから、どこでコンタクトを取れるかわからないブラッディマンティスに半日足らずで連絡する。現実的じゃないよ」

 先ほど要塞の位置は把握していたという話を聞いたうえでのノーラの言葉だ。

 側近たちはその意図を完全には把握しかねて首をかしげる。

「そもそも、アタシたちは潜航要塞のことなんて知らない。情報を伝えようにも、相手がどこに居るのか知らないんじゃねぇ……」

「え? しかし……」

「知らないんだよ、アタシたちは。ブラッディマンティスがロクでもない代物を砂漠で運用していたことも、うちの縄張りに我が物顔で侵入していたことも」

 知らなかったという建前。

 ここまで言われれば、察しが悪い者もノーラの意図を悟った。

 『サンド・キャッスル』はもう無い。

 今更、ブラッディマンティスが舐めた真似をしたことを騒いでも、血気盛んな下っ端が跳ねるだけだ。

 デザートホーネット団とブラッディマンティスの関係を、表面上の同盟に至るまで、いたずらに悪化させることになる。

 既に『サンド・キャッスル』を問題にするメリットが無いのだ。

 要は、この一件に関しては、側近たちの腹の中だけに収めておけという話である。

「それに……」

「それに?」

「気に入らない話だが、奴はアタシたちの仲間を一人見逃してくれた。生殺与奪の権を握り、そのうえで盗賊を……アタシたちの仲間を逃がしてくれた。むしろ奴にブラッディマンティスの要塞の情報を流してやりたかったくらいさ」

「ノーラ様、それは!」

 グレイが聞いていたら、手土産を山ほど持ってノーラのもとを訪ねて来そうな話だが、側近は焦ったように窘めた。

 ブラッディマンティスに恩があり、グレイに同志を多数葬られた手前、既にデザートホーネット団が彼と友誼を結ぶことは不可能だ。

 仲間を何十人も殺された蟠りは、そう簡単に捨てられるものではない。

 少なくとも、上に立つ者として取れる態度ではない。

「わかってるよ。そもそも、要塞の目撃情報自体がデザートホーネット団の中でも一部でしか共有されていなかったし、あれが本当にブラッディマンティスの連中の物か確認も取れていなかったからね。ただの愚痴さ」

 ノーラがこれ以上の罵詈雑言を吐かなかったことで、側近は安堵の息を漏らした。

 必要とあれば同志に対しても口を閉ざしノーラの意思のみを優先する、彼らの腹心という立場を鑑みれば、不用意な発言は控えてほしいと思うのも当然だ。

 そもそも、要塞のことを知らなかったという建前を、ノーラ自らぶち壊す物言いだ。

「それはそうと、最近は色々なトラブルがあったおかげで、実働部隊が甚大な被害を受けているね。このままでは総合戦力の低下が避けられない。ビークル部隊を再編成する必要がある。一般人の砂漠越えルート周辺に展開している奴らを呼び戻しな」

「ノーラ様……」

「車輪式の高機動ビークルの実戦投入の予定もある。早い方がいい。大至急、所要の措置を取りな!」

「……はっ!」

 そして、グレイが解放した捕虜経由で伝えた内容にも、ノーラはさりげなく配慮をすることを怠らない。

 これで、図らずもグレイが懸念したポールの安全は確保された。

「“ナツメッグ博士の右腕”グレイか……」

 ノーラは月の見えるバルコニーに進み出て再び呟く。

「一体、どんな男なのやら……」

 

 

 

 

 

 

「ん……ここは……?」

 見慣れない場所で目が覚めたので、つい警戒しながら周囲を窺う。

 自分の体が横たわっていたのはビークルのシートではなく簡易的なベッドだが、天幕の外から僅かに聞こえる音はレイブン砦のバザーの喧騒には程遠い。

「そうか、コンドル砦か」

 昨日の夜、『サンド・キャッスル』を破壊した俺は、そのままビークルを走らせて、夜が明けた頃にコンドル砦へ到着した。

 夜通しハンドルを握り続けた疲れもあったので、昨日はそのまま宿泊所に向かった。

 またしても自宅のベッドには程遠い環境での休息だが、昨日はレイブン砦に近い砂漠でビークルのシートに体を埋めて夜を明かしたので、それに比べれば今日はマシだ。

 コンドル砦にはデルロッチ貿易以外のキャラバンも集まるので、商店や売り場の規模こそ大きくないが、砂漠を超えて来た者が休憩できる設備はそれなりに整っているのだ。

 しかし、予想以上に短い行程だったな。

 ほぼ徹夜したとはいえ、実質、一日と少しで砂漠を渡れたことになる。

 大所帯で速度よりも積載量と安全を重視するキャラバンも、オアシスで一泊して二日の旅だ。

 駱駝だとこの何倍も……ポールが来るまであと数日は掛かるだろう。

 時代背景が現代の地球よりかなり前の世界とはいえ、やはり内燃機関とトロットビークルは革新的な発明だな。

「さて……」

 懐中時計を見ると、既に昼を回っていた。

 随分と寝坊をしてしまったようだ。

 俺は身支度を済ませて宿泊所を出ると、自分のビークルを一度確認した後、数少ない商店のエリアに足を向けた。

 しかし、デルロッチ貿易本店の辺りを見ても、デルセン一行のキャラバンやバニラの【カモミール・タイプⅡ】は見当たらない。

 デルロッチ貿易の店員に聞いてみると、キャラバンの到着は夕方近くになることが多いそうだ。

 彼らが来るまで、そう時間は掛からなそうだな。

 

 

 予想通り、整備場で【ジャガーノート】の修理や補給を済ませ、砂埃を取り払って点検をし終わったところで、砦にデルセンのキャラバンが入ってきた。

 見たところ、キャラバンに損害はほとんど無いようだ。

 デルセンが上機嫌でバニラに護衛の報酬を渡し、話が終わったところで俺は声を掛けた。

「やあ、二人とも。お疲れさん」

「グレイ! もう到着してたんだね」

「あ、早かったね」

 まあ、こっちは一人でしたからね。

「無事に砂漠を渡れたようだな」

「うん。何度か、デザートホーネット団の襲撃はあったけど」

 見ると【カモミール・タイプⅡ】にはレイブン砦に居たときには無かった傷が増えている。

 心なしか、バニラの顔つきが少し逞しくなった気がする。

 コニーは……洒落たエスニックな装束を着ているな。

 バニラのプレゼントの効果がいかほどのものか、今後が楽しみだ。

「それはそうと……二人とも、少し疲れているようだな」

「うん、ちょっと……」

「あんまり……眠れなくて……」

 確かに、夜中にデザートホーネット団に誘拐されて大騒ぎでは、まともな休息は取れないだろうな。

「まあ、ここからハッピーガーランドまではそう遠くないからな。もうひと踏ん張りだ。少し休憩したら出発するぞ」

「うん」

「安心しろ。今回は、道中の警戒は俺が引き受ける。バニラは事故にだけ気を付ければいい」

「わかった。ありがとう、グレイ」

 

 

 バニラが整備場へ行って【カモミール・タイプⅡ】の修理と点検をしている間、俺は再びデルロッチ貿易本店の方へ行き、社長のデルセンに声を掛ける。

「デルセン社長」

「は、はい」

 何故か怯えられているが……もしかしたら、他のキャラバンからルート上に転がっているデザートホーネット団のビークルの残骸や死体の話でも聞いたのだろう。

 俺は注文以上の品を受け取ったから、体裁のために酷く徹底した仕事をする羽目になっただけ。

 デルセンは俺が腹いせにぶん殴るとでも思っているのだろうか?

 ビビるくらいなら、最初から欲をかかなければいいのに。

「別件で仕事の依頼です。旅客ビークルの予約をしたい」

 デルセンの表情は緊張したままだが、幾分か警戒レベルが下がったようだ。

「ポールという画家が、近いうちに駱駝で砂漠を超えてきます。出発したのはあなた方と同じ日なので、遅くても数日中に」

「ポール……? ああ! あなたがレイブン砦に連れてきた」

「そうです。料金は前払いしておくので、旅客ビークルを一台確保して、彼をハッピーガーランドまで送ってください」

「畏まりました。それで、お代の方ですが……」

 デルセンが提示した金額は、労働者の日当が数日分だった。

 ある程度は盗賊に対処できるビークル乗りを雇うのだから、まあ妥当な金額か。

「じゃ、これで」

「ありがとうございます。確かに、承りました」

 俺がデルセンにポールのタクシー代を渡し終えたところで、バニラが整備場から出てきた。

「さ、行こうか」

「うん」

 そして、俺たちはコンドル砦を後にして、ハッピーガーランドに向けてビークルを進めた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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