steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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52話 到着、大都会

 申し出通り、コンドル砦からハッピーガーランドに向かう道中、盗賊への対処は俺が引き受けた。

 ゲームでは『デビルホッパー』と『ビッグフット』が必ず出現するエリアだが、現実ではフィールドの敵が全てゲームシステムと共通というわけではない。

 運よく、今回は盗賊に遭遇することなくハッピーガーランドに到着した。

 睡眠不足で集中力少々問題がある状態のバニラにとっても、【カモミール・タイプⅡ】の助手席で舟を漕いでいるコニーにとっても、トラブルが無いのはいいことだ。

「遅くなっちゃったね。ここが大都市ハッピーガーランドだよ」

 夕刻を知らせる鐘の音ではっと目を覚ましたコニーが、バニラに声を掛けた。

 ハッピーガーランドの南西の出入り口を潜ったときには、既に日が落ちかけていたが、一週間で到着したのだから上出来だろう。

 十日くらいは掛かると踏んでいたが、嬉しい誤算だ。

「『ロブスター亭』っていう宿屋さんのところで降ろしてね」

 俺のビークルが先を歩いているので道を間違えることが無いと安心しているためか、バニラの視線は都会的な建造物を絶え間なく行き来している。

 わき見運転で事故らなければ問題ないので、俺は何も言わずにオイルモーレ工場とシティーモーターズを通り過ぎ、東地区の商店街までビークルを進めた。

「駐機場はここだ」

 俺の案内に従い、バニラも【ジャガーノート】の隣に自分の【カモミール・タイプⅡ】を停めてエンジンを停止させる。

「楽団の皆が待ってるはずなんだ。こっちだよ」

 ビークルから降りると、早速とばかりにコニーがバニラを促した。

 俺が居なければ、手を引いていたかな?

 原作より二人の仲は進展しているようだし。

「ここがロブスター亭。さあ、入ろう」

 商店街沿いの正面口に回り、コニーが先に立って扉を開ける。

 バニラが彼女に続き、俺も後を追う形で久しぶりにロブスター亭のエントランスを潜った。

 

 

 真っ直ぐにロブスター亭の食堂に入ると、セイボリーが真っ先にこちらに気付いた。

「あっ……ねぇ、バジル、マジョラム!」

「あっ!」

「コニー! それにグレイも! よかった、無事だったのかい?」

「ごめん、みんな。迷惑かけて……」

 俺たちがステージの近くまで足を進めると、安堵の表情を浮かべていたマジョラムが疑問を発する。

「列車事故があったんだろ? どうやってここまで来たんだい?」

「彼のビークルに乗せてもらったの。ガラガラ砂漠を渡って……」

「ガラガラ砂漠!? へえ! 凄いや!」

 コニーが示したバニラに全員の視線が注がれた。

 しかし、バジルは何かを閃いたような仕草とともに口を開く。

「あ、でもそうか。グレイが居たんなら、砂漠の盗賊団なんてへっちゃらか」

 どうやら、バジルは俺がずっと二人のお守りをしていたと思っているようだ。

 今回の俺はバニラたちに直接何かしてやったわけではないので、俺は首を横に振って答えた。

「いや、俺は砂漠では別の用事があったからな。コニーを守り通したのはバニラだよ」

「そうなのかい! バニラ、僕からも礼を言うよ。ありがとう」

 バニラはマジョラムの言葉に照れ臭そうに頭を掻いた。

 立派にコニーの騎士の任を全うしたのだから、そこは誇るがいいさ。

 

 

 ここで、コニーが違和感に気付いた。

「……あれ? フェンネルは?」

 確かに、トロッと楽団のメンバーが勢揃いしているこの場にフェンネルが居ない。

 何気ないコニーの一言だったが、セイボリーたちは一様に歯切れが悪くなって言い淀む。

「どうしたの? みんな……?」

 俺は事情を知っているが、ここは口を噤んだ。

 皆の視線が遠慮がちに注がれたマジョラムが、代表して口を開く。

「フェンネルなら出てったよ。もう僕たちとバンドを組みたくないんだって」

「えっ!?」

 コニーの驚愕の声に、バジルがマジョラムの言葉を継ぐ。

「前から様子が変だったんだよ。でも、コニーが居なくなってから……」

「私が勝手にネフロに帰ったから……」

 前からと言っているのに、コニーはバジルの言葉が聞こえていないかのように呟いた。

 様子が変なのは、新曲の練習にフェンネルが来なかったことなど、コニーも知っているはずなのに……ああ、バニラへの恋煩いで、腑抜けていたときか。

 俺たちがフェンネルのことを話していても、耳に入っていなかったな。

 だが、いざ実際にトラブルが起こってみると、コニーの判断は素早く行動力の高さを発揮した。

「私、フェンネルのところに行ってくる」

「説得しても無駄だと思うよ。僕らも何度も行ったけど……」

「でも……直接会って謝りたいし……」

 マジョラムもコニーの気質は理解しているため、それ以上は引き止めなかった。

「そうかい……それでコニーの気が済むなら……。フェンネルはステーションホテルに居るよ」

「うん、じゃあ行ってくる」

 コニーは小走りでロブスター亭を後にした。

 俺は口を開きかけたセイボリーに先んじてバニラに声を掛ける。

「バニラ、すまんがコニーの様子を見て来てくれないか?」

「わかった、行ってくるよ。僕も心配だからね」

 即決だな。

 まあ、バニラが常にコニーのことを気にしてくれるのは悪い傾向じゃない。

「頼むよ。思い詰めやすいタイプだから、せめて傍に居てやってくれ」

 ステーションホテルの場所を教えると、バニラも急ぎ気味にロブスター亭を出ていった。

 ……実は、セイボリーが頼む場合だと、主人公バニラのセリフの選択肢にセイボリーとのデートを条件に引き受けるというものがあるので、俺の行動にはその展開を予防したという意味もあるのだが。

 無いとは思うが、この二人の距離を近づけるのは避けたい。

 バニラのヒロインはコニーだからな。

 セイボリーの色気にバニラが鼻の下を伸ばす可能性もゼロではない。

 

 

「グレイ、お疲れ様」

「ん?」

 突然、マジョラムから労りの言葉を掛けられたので、俺は怪訝な表情で振り返った。

「バニラとコニーのこと、ずっと守ってくれたんでしょ」

「いや、俺がお守りをしたのはネフロまでで、ここまでコニーを乗せてきたのはバニラ……」

「じゃあ、コニーたちを影ながら守ってたってわけだ。あとは、助けが必要なタイミングを見計らっていたとか……」

 まあ、『サンド・キャッスル』を先回りして撃破したことは、陰ながら守るうちに入るのかな。

 タイミングを見計らうなんて高度な真似はしていないが、バニラたちが疲弊しているコンドル砦からハッピーガーランドまでの道のりを俺が護衛したことは、いいタイミングだったと言えるか?

 さすがにマジョラムの言葉は俺を買いかぶり過ぎだと思うが……。

「グレイは……どこか僕たちを気に掛けて、さりげなく助けてくれることが往々にしてあるからね。君がそれだけ消耗しているのは、例の『別の用事』だけではないんだろ?」

 俺は苦笑いしながら手を上げて降参の意を表した。

「はぁ……マジョラムは何でもお見通しか」

「いや、何でもじゃないさ。ただ、メンバーの体調や様子なんかには気を付けるようにしているからね。……フェンネルの件では、役に立たなかったみたいだけど」

 目の前の状況に話題がシフトしたことで、自然と俺に関する話は終わった。

「ところで……グレイはフェンネルの件、知っていたのかい?」

 当然、フェンネルの件とは彼がトロット楽団を抜ける話だ。

「う~ん、知っていたわけではないな。直接、本人から脱退を考えている話を聞いてはいないし」

「そっか。確かに、フェンネルはそういうことを人に相談するタイプじゃないかな」

「ああ、彼がもっと革新的でパワフルな音楽に憧れていたのは、それこそ俺と会うより昔からのことだろ? ただ……」

「ただ?」

「……フェンネルの目指す音楽には、やはり既存の楽器……今のギターだけでは到達できないのかな、と。俺も薄々そう感じていた」

 フェンネルの話は、その後サブイベントとして進行する。

 バニラがこの先のストーリーで訪れる場所のイベントをこなすことで、この世界で初のエレキギターを作るのに役立つパーツが集まり、フェンネルはエレキを使ったバンドを立ち上げるのだ。

 エレキの発想が、電車のみたいなデカいものを動かせるパワーを持つ電気をどうにかして楽器に使う、というものだったのはアレだが……。

 とにかく、フェンネルのバンドはこの世界初のエレクトリックバンドとなる。

 イメージとしてはベンチャーズかビートルズあたりか?

 実際、エレキギターは偉大な発明だ。

 最初こそ、マイクをアコースティックギターの近くに向けて設置する代わりの、音量増幅機としての使い道しか考えられなかったようだが、それもエフェクターの技術の発展でより一層の音楽の革新を齎すことになる。

 優れた発明だったがゆえに、日本では流行自体が気に入らない老害が挙って批判を始めたそうだが……。

 俺の祖父母の時代には、馬鹿の巣窟の典型である教育委員会やら教師やらが、エレキの迫害に熱心だったらしい。

「じゃあ、コニーの説得も……」

「あまり、期待はしない方がいいかもな」

「……そうだね」

 成功するビジョンのあるものを、俺に止める気が無いというのも理由だけどね。

 

 

 コニーとバニラは揃って戻ってきた。

 原作では、先に出ていったコニーの後を主人公が追う形だったが、現実のバニラはきちんとコニーに寄り添っているじゃないか

「コニー、どうだった?」

「ダメ……やっぱり、戻る気は無いみたい」

 コニーは首を横に振りながらバジルに答える。

「フェンネルは、今までの音楽とは根本的に違うものを作りたいんだ。あれだけの情熱を見えられたら、僕も軽々しく戻ってくれとは言えないかな……」

 バニラはフェンネルのやりたい音楽に関してもしっかりと聞いてきたようだ。

 ということは、バニラは先にコニーをステーションホテルのレストランから出し、帰る途中でコニーに追いついたのかな?

 そんな益体も無いことを考えていると、バジルがボヤくように呟いた。

「どうしよう……フェンネルが居なくちゃ、ギターが……」

「……ギターは、私が弾くわ」

「本当かい? 頼むよ、コニー」

 コニーの言葉にマジョラムは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐにその提案を受け入れた。

 確かに、それが一番無難な選択だな。

 ギターはセイボリーも弾けるが、そうなるとピアノを俺が弾くことになりサックスが抜ける。

 ゲームでは、ロブスター亭の演奏はマジョラムがサックスを吹きドラムが空席なのだが、現実では考えにくい編成だ。

 まあ、それを言ったら、アコースティックギターこそバンドに必須となる状況は少ないのだが……。

「もう時間が無いわ。早く練習を始めましょう」

 セイボリーのセリフはリハーサルではなかった。

 それもそうか。

 さすがに到着してその日にお披露目は無理だ。

 次の定期演奏会は一週間後。

 これから始まるのは、追い込みで各自の個人練習と合わせ練習だ。

「待って!」

 唐突に声を上げたコニーに全員の視線が集まる。

「新曲には、彼も参加してもらおうと思うんだけど……」

 バニラを示しながら言ったコニーの一言に、一瞬の静寂の後、バジルが素っ頓狂な声を上げた。

「えーっ!?」

「……そうね。もう一つ楽器があった方がいいかもしれないわね」

 セイボリーは人を貶めない大人なので、コニーの判断ならとすぐに賛同したが、バジルは素直に疑問を呈する。

「でもコニー、大丈夫なの?」

「大丈夫。彼、すっごく上手いのよ」

 どうやら、オアシスでバニラがコニーに披露した演奏は、及第点を大きく上回っていたようだ。

 ナツメッグ博士のトランペットをくれてやった甲斐があったな。

 コニーに聞かせたのはハーモニカの方かもしれないけど。

 何はともあれ、コニーの保証により、バニラがトロット楽団に参加することが決まった。

 




話の裏側を想像して書くのも楽しいですが、原作のイベントに参加する魅力は二次創作の醍醐味ですね。

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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