steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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53話 定期演奏会

 

 一週間後。

 とうとう、定期演奏会の日がやって来た。

 曲目は『Impossible』に『In Your Voice』。

 フェンネルが抜け、代わりにバニラが加入した新生トロット楽団の初お披露目だ。

 原作と違う点は、俺が居ることか。

 その影響で、マジョラムはサックスではなく本業のドラムを演奏する。

 コニーは原作通りギターの練習を詰め、ボーカルと兼業でギターを演奏する。

 バニラは……トランペットを使うようだ。

 練習は順調だった。

 コニーも空いた時間で練習していたし、俺もどうにか勘を取り戻して後れを取らないように努めた。

 強いて言えば、一番ヤバかったのは、トラブル続きで集中力を欠いていたバジルか。

 ウッドベース自体の調子もあまり良くないみたいだが、練習が手につかなかったことも影響しているだろう。

 まあ、それでもバンドとして形になる程度には仕上がった。

 今日という日のためにできることはやった。

 あとは、練習の成果を発揮できるよう、全力を尽くすだけだ。

「ああっ、ここのステージも久しぶりだなぁ」

「ふふっ……バジル、緊張しているの?」

「ぜ、全然だよ! セイボリーこそ、大丈夫かい?」

「ええ。心配してくれて、ありがとね」

「いやぁ……」

 この二人はいつも通りか。

 あと、バジル。

 お前さんはワンパターンだな。

 二人に続いて控えエリアまで行くと、ロブスター亭の食堂には、俺たちのステージの開演を待つ客が大勢詰め寄せているのが見える。

 因みに、客席にはポールも居た。

 一昨日、ハッピーガーランドに到着したポールが向こうから俺に挨拶しに来たのだ。

 要件はコンドル砦からハッピーガーランドまでの旅客ビークルの礼だった。

 俺が忙しくて迎えに行けないため人を雇っただけだが、ポールにしてみれば何から何まで世話になったという認識のようで、俺に砂漠の絵を渡してきた。

 代金を頑として受け取らなかったので、俺はトロット楽団の定期演奏会に招待したのだ。

 まったく、芯が強いのはいいが、芸術家なら自発的なパトロンにくらい甘えてしまえばいいと思うのだが……。

 生活が苦しい割にこういうところが頑固なので、やはり彼を大学の教授に推薦する話は早く進めないとな。

「さ、開演だよ」

 マジョラムの合図で、メンバーそれぞれが各配置に散っていく。

 俺はトランペットを片手に強張った表情を浮かべるバニラの肩を叩いた。

「落ち着いて、練習通りにやればいい」

「グレイ……」

「君の位置はコニーの向かって左……ちょうど彼女の真横だ。(少しでも気を引けるよう、頑張るんだな)」

「なっ!? 僕は、そんな……」

「はははっ、幸運を祈る」

 俺はバニラを軽く茶化すと、自分の立ち位置に向かった。

「(ん? バニラ、どうしたの?)」

「(な、コニー!? 何でもない……)」

 青春だねぇ。

 俺は後ろに聞こえる二人の会話にほくそ笑みながら、サックスのポジションであるドラムの前まで進み、ストラップを首に装着した。

 

 

 

 

 

 

 ロブスター亭の食堂からほとんどの客が退出し、街に明るい照明が灯る。

 先ほどまで喧騒に包まれていた会場は、僅かな酔客を残すのみとなった。

 俺たちもステージを軽く片付けて控え場所に戻る。

 記念すべき、トロット楽団の定期演奏会の第一回目は無事に終了した。

 大絶賛の嵐とともに。

「でも、何とか無事に終わってよかったよ。ありがとう」

 急遽、助っ人になってくれたバニラにバジルが礼を述べる。

 最初はバニラの演奏技術に懸念を隠しきれなかったバジルだが、実際に公演が終わってみれば何の蟠りも無く彼を楽団の一員と認めた。

 まあ、バジルは素直なだけで、新参者や下の人間に当たる奴じゃないので心配はしていなかったさ。

 しかし、バニラと話していたバジルは急に訝しげな表情を浮かべ、またしても素っ頓狂な驚愕の声を上げる。

「あれっ……そのペンダント! そうだ!」

「えっ? ああっ!」

 釣られてバニラの方を向いたマジョラムも珍しく大声を上げるが、コニーが気づいて訂正した。

「違うの! そのペンダントは友達に貰ったんだって」

「じゃあ、その友達がマーシュなのかもしれないんだね」

 バニラの記憶喪失に関しては、コニー経由で楽団メンバーもとっくに承知している。

 しかし、このバニラにはある程度の記憶が朧げに残っているみたいだな。

 バジルはもう少し根掘り葉掘り突っ込みたそうにしていたが、コニーへ一瞬だけ視線をやったセイボリーがインターセプトした。

「マーシュのことは、また今度にしない?」

「そうだね。せっかく無事にライブが終わったことだし……」

 マジョラムは珍しく少々慌てたように相槌を打つ。

 多少苦しい言い訳だったのを自覚しているのか、マジョラムはそのままバジルに向き直り、強引に話題を変えた。

「でもバジル。ベースが何だか調子悪そうだったね」

「そうなんだ……。明日、ダンディリオンの工房に行くよ」

 バジルは目先の重要な要件に話題がシフトしたことで、自然とそちらに意識を移動させた。

「皆も行くだろう?」

「僕は次の公演の手配をしなきゃいけないからなぁ……」

「私も約束があるから行けないわ」

 馬の合うマジョラムと憧れのセイボリーが不参加と知り、バジルは残念そうな表情を浮かべたが、順番に予定を聞いていく。

「コニーは?」

「……私もやめとく。ギターの練習もしたいし……」

 確かに、フェンネルが抜けた穴を埋める意味でもコニーは忙しいだろうが、やはりダンディリオンには会いにくいだろう。

 ここで俺が介入して無理に連れていくのも、今更何の意味も無い。

「グレイはどうするんだい?」

「すまん。俺も野暮用があってな」

 マジョラムの問いにはこう答えたが、嘘はついていない。

 ポールの件を進めておきたいのだ。

 そうしていると、皆の視線はバニラに移った。

「君はどうするの?」

 バジルの質問に、バニラはどう答えていいかわからないような表情だ。

 そういえば、バニラはコニーの事情でハッピーガーランドまでやって来て、そのまますぐにトロット楽団のライブのために練習漬けだった。

 いざ公演が終わってみると、バニラに次の予定など無いよな。

 しかし、そんなバニラにマジョラムは何かを思いついたと言わんばかりの表情で頼み込む。

「そうだ君、バジルを送っていってくれないかな? 工房の近くにも、盗賊が出るって話だし。ネフロのライブで壊されてから、バジルのビークル、調子が悪いんだ。君のに乗せていってくれないかな」

 さすがはできる男マジョラム。

 バジルの腕自体を貶めることなく適当な理由を付けて誘導した。

 これならバジルも変な意地を張ることはあるまい。

 付き合いが長い故か、緑の気質をよく理解している。

 バニラも快く承諾してくれた。

「ちぇっ。僕は一人だって大丈夫だよ」

「バジル、無理しないの」

 空気を読まない緑のちんちくりんの背伸びは、大人の女性セイボリーによって軽く窘められた。

 

 

 

 

 

 

 翌日、ダンディリオンの工房に向けて出発したバニラとバジルを見送り、俺はガーランド大学まで来ていた。

 ポールを美術科の教授に推薦する話の続きだ。

 ポールがハッピーガーランドに到着したのを確認した後、定期演奏会の前には既に推薦の手続きは済ませている。

 今日は直接大学に赴いて色々と根回しをする予定だ。

 サンプルとして用意した絵は、何故か1URも払うことなく手に入れてしまった『砂漠』だ。

 大荷物でわざわざ足を運ぶ羽目になり、面倒なことこのうえないが、こういった閉鎖的で前近代的な組織では、手順を簡略化しようとすると余計に面倒なことになる。

 しかし、完全に都合が悪いかといえばそんなことはない。

 例えば、俺の後ろ盾であるナツメッグ博士の威光は、教授の推薦という話において絶大な効力を発揮することだろう。

 俺が正式に話を通し、大学の上の方の人間がその話を公式に聞けば、それだけでポールの招致がほぼ決定事項になるのだ。

 そんなわけで、俺は大学のお偉いさんにアポイントを取って、こうして自ら大学を訪れた。

 全てはポールのサブイベントのために。

「おお! グレイ君ではないか!」

 声を掛けられて振り向くと、そこに居たのは、いかにも研究者然とした初老の男だ。

 ガーランド大学の科学科の教授だ。

「例の問題の答えが出たのかね?」

「いえ、別件です」

「では、他に何か面白い話は?」

「特に」

「ふむ、そうか。ではな」

 教授はさっさと立ち去ってしまった。

 実は、あの教授にも定期演奏会の前に空いた時間で会いに行っている。

 ガーランド大学の科学科といえば、教授がどこの文献から拾って来たのかわからない難解な問題を前に唸っていて、それをアレハーテ丘陵の廃屋に住む子どもたちの一人ロバートに解いてもらい、彼が大学に飛び級で入学するというサブイベントだ。

 あれの準備のために、そろそろ問題が出ていると思われる時期に、科学科を訪れてその難問とやらを見せてもらったのだ。

 自分の研究分野以外に興味が無さそうなあの変人の教授とはその時に会った。

 因みに、問題自体は数ⅡBの知識で解けるものだったが、この時代背景なら地球でも最先端の数学だったのかな……?

 とにかく、俺は無事にロバートが大学に招かれる下地をせっせと準備しているわけだ。

 彼が問題を解く前に、他の誰かが片付けてしまわないことが条件だが……。

 しかし、困ったのは俺自身があの教授に興味を持たれてしまったことだ。

 あのおっさんは権威にもブランドにも媚びない根っからの研究者だ。

 俺のナツメッグ博士の助手という肩書きにも無反応だったため、こちらも雑談ついでに気楽に話してしまったのだが……今思えば、微分積分とグラフの関係を軽く話したことは軽率だったかもしれない。

 現代なら、教科書レベルでわかりやすく視点を変えて説明している内容も、この世界なら目から鱗の内容らしい。

 それ以来、俺はあの教授に妙にロックオンされてしまった。

 俺がナツメッグ博士の助手だと思い出すと、こちらの専門を自然科学や工学だと勝手に決めつけ、何か興味深い話をしろと常に揺すってくる。

 あのタイプの研究者は、自分の興味が最優先なので、周りの迷惑を鑑みることなく危険な実験を強行したりする。

 俺は今のところナツメッグ博士以外に未来の知識の沙汰を託すつもりは無い。

 もっと安全なことに興味を持ってくれればいいのだが……。

「……ロバート君の解答に期待するか」

 俺は一旦マッドサイエンティストのことは棚上げにし、本来の要件を片付けるために理事たちの待つ部屋に足を向けた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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