steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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56話 港町スームスームへ

 

 マジョラムが契約を取ってきた次のトロット楽団の公演先は、港町スームスームで行われる船の完成記念パーティーだ。

 ドン・スミスという興行師に招かれ、俺たちは遊覧航海中の豪華客船『ウエストウインド号』の甲板で開催されるパーティーの余興として出演する。

 豪華客船の上でやるコンサートということで、トロット楽団メンバーのボルテージも最高潮だ。

 バジルは当然のことながら、コニーも珍しく高いテンションを維持している。

 まあ、気持ちはわかる。

 何も知らなかったら、俺まで年甲斐も無くはしゃいでいたかもしれない。

 だが、残念ながら、俺はスームスームで起こるイベントのことを知っている。

 トラブルが向こうからやって来ることは確定だ。

 簡単に説明すると、ドン・スミスファミリーの若頭であるジェイクという男が、バニラを利用して八百長を画策するのだ。

 奴はトロット楽団メンバーの命を盾にバニラを脅し、あの腰抜けジミーにわざと負けるように強要する。

 結果的には、ドン・スミスの計らいでトロット楽団メンバーは何事も無く済み、ジェイクも拘束されたことで事件は一応の解決を見る。

 このイベントでバニラはスームスームとドン・スミスファミリーの裏側に少し触れることとなるのだ。

 ドン・スミスという人物は興行師などと言っているが、実際は裏社会に精通しているマフィアのボスみたいなものだ。

 財を成した基盤がワインの貿易という意外に平和なものである辺り、某映画のマフィアのドンを参考にしているのかもしれない。

 あちらも表の稼業はオリーブオイルの輸入会社だったな。

 ところで、このスームスームの八百長事件だが、有り体に言ってしまえばドン・スミスの部下ジェイクの反逆もどきであり、最終的にはジェイクが改心することで全てが丸く収まる。

 ジェイク自身もドン・スミスに拾ってもらった恩を思い出し、一年後にはドン・スミスが広い心で彼を赦しファミリーに呼び戻す、というわけだ。

 ぶっちゃけ、下手に俺が手出ししなくても、何も問題ないかもしれない。

 もちろん、全てが原作通りに進むことを想定しての話だが……。

 現実では、俺の存在によって改変される部分があるかもしれないし、何より俺が介入しないと詰む状況が無いとは言えない。

 以前、コニーが占領されたネフロに向かおうとしたときの話は記憶に新しい。

 俺が連れていかなかったら、コニーは未だにバニラと再会できなかったかもしれないのだ。

 さて、どうするか……。

 俺の立場やセントジョーンズ卿とのパイプを利用すれば、事前に安全策のための根回しをすることは不可能ではないと思うが、何気にスームスームのイベントは規模の大きい話だ。

 やはり、現場を見てから決めた方がいいか。

 少々、行き当たりばったりな気もするが仕方ない。

 公演の日まで、俺はおとなしくロブスター亭で待機した。

 無論、セントジョーンズ卿から聞いた話を楽団メンバーと共有することや、バニラがダンディリオンから預かった新曲『I Cry』の譜面をコニーに渡したかなどの確認は、出発する日より前に済ませたが。

 さすがにライブ当日の朝に駅の改札で話す必要は無い。

 ゲームなら当日ギリギリに渡してもコニーは曲に詩を付けて完璧に歌いこなしてしまうが、現実ではそうはいかないだろう。

 俺たちの練習にも時間は必要だ。

 そして、スームスームへの汽車が出る当日。

 俺たちがハッピーガーランド駅に集合するなか、やはりバニラはナチュラルに寝坊してきた。

 

 

「遅いよ! 何してたんだよ」

 開口一番にバニラをディスるバジルだが、原作通りの展開は望むところだ。

 むしろ、バニラが時間通りに来ていたら、帰りに色々と修正しなければならなくなる。

 簡単にネタバレしてしまうと、ここでバニラが汽車に間に合わずビークルでヒバリ田園地帯の農家に寄ることで、ストーリー終盤で必要なイベントアイテムが手に入るのだ。

 バニラには穀倉地帯を通ってもらわなければならない。

 バジルを中心にガヤガヤと騒いでいると、汽笛が駅構内に鳴り響いた。

 発進の合図ではないから、あれは乗務員を招集し、まもなく出発することを告げるための合図だ。

「もうすぐ汽車が出るよ。急ごう。駅員さん! すいません、もう一台ビークルを貨物車に載せたいんですが……」

 マジョラムが呼び止めた駅員から返ってきた言葉は、やはり原作通りのものだった。

「ビークルですか? 申し訳ありません。もう貨物室がいっぱいでして……」

「えっ! そうなんですか? どうしよう……」

「まったく! 君がもたもたしているから、こんなことになるんだよ!」

 バジルはキャンキャンと騒いでいるが、俺は内心でほくそ笑んでいた。

 これでバニラはビークルに乗って穀倉地帯を通りスームスームまで来ることになる。

 ダッドリーと遭遇して農家に寄ることになれば期待通りの展開だ。

「こうなったら、スームスームまでビークルで歩いて行くしかないんじゃない?」

「う~ん、仕方ないな。君、悪いけどそうしてくれるかい?」

「でも、スームスームまでの道、知らないでしょう? 私も一緒に行って案内するよ」

 俺は些か緊張気味にバニラの様子を窺うが、彼は淀みなくコニーの申し出を承諾した。

「うん、案内はコニーにお願いするよ」

「任せといて!」

 よかった。

 これでコニーの案内を断りセイボリーを指名しそうになった日には、俺はバニラにボディブローをお見舞いするところだった。

「決まりだね。僕らは汽車で行くよ。それじゃあ、二人とも気を付けてね」

 

 

 スームスーム行の汽車に乗り込み、バニラとコニーを除く俺たちトロット楽団一行は、同じコンパートメントを確保して思い思いの席に腰掛ける。

「マジョラム、俺にも契約書類を見せてもらえるか?」

「ああ、いいとも」

 俺は自然にマジョラムを呼んで隣の席に誘導した。

 これでバジルの隣に座るのはセイボリーだ。

 せめて今だけは、バジルにいい思いをさせてやろう。

「(グレイ……!)」

 バジルは俺を救世主のように見ている。

 もっと崇めても構わんぞ。

「主催者は興行師のドン・スミスさん。今回、僕らが演奏する『ウエストウインド号』以外にも、客船や輸送船を数多く所有している街の名士だよ。それに、確か闘技場の支配人でもあるらしい」

「スームスーム全域を取り仕切る有力者ね」

「へぇ~」

 マジョラムとセイボリーの説明に、バジルは興味無さそうに相槌を打つ。

 俺はマジョラムから手渡された書類を見てみるが、特に妙な点は見つからない。

 なるほど、興行師と名乗るだけあって、こういった仕事には抜かりが無いようだ。

 裏稼業の連中が作った書類とは思えないな。

「そういえば、グレイはドン・スミスさんのことを知っているのかい?」

「会ったことは無いが名前くらいはな。確か、ワインの輸入が本業だとか。海路での交易ルートの開拓には、間違いなく彼が一役買っているのだろうな」

「まあ、そうなの! それで舶来物のワインがあんなに出回っているのね」

「ふぅん」

 ドン・スミスが裏社会に精通している話などできるはずも無いので、俺は当たり障りのない情報を提供した。

 セイボリーはワインの話題に少し興味を覚えたようだが、バジルはまたしても興味なさげだ。

「あら、バジルにはまだお酒の話は早かったかしら?」

「ちょ! セイボリー!」

「ふふっ、冗談よ」

 あまり煽ってやるな。

 こう見えてバジルには飲んだくれの才能があることを俺は知っている。

「ワインか……博士とピジョン牧場の連中への土産にいくつか確保するかな」

「いいわね! 私も買いに行こうかしら」

 残念だが、セイボリーと一緒に買い物に行くのは勘弁だ。

 あの街にはマーシュが居るので、彼女にそれを勘付かれるわけにはいかない。

 何より、バジルの目がヤバイ。

「俺は量が多くなるから業者の方に注文することになると思う。バジル、セイボリーの荷物持ち、手伝ってやってくれるか?」

「もちろん! セイボリー、僕に任せてよ!」

「ありがとう。頼りにしてるわ」

 

 

 そして、汽車に揺られること数時間。

 俺たちは港町スームスームへ到着した。

 駅を出て荷物を搬出し、各々のビークルに乗り込むと、俺たちは真っ直ぐ『ウエストウインド号』が停泊するスーム海浜公園に向かう。

「さすがにコニーたちはまだ来てないみたいだね」

 ビークルの駐機場にバニラの【カモミール・タイプⅡ】が無いのを見てマジョラムが呟いた。

「そのようだな。だが、『ウエストウインド号』のクルーや会場スタッフは居るだろう。現場の連中への挨拶は早めに済ませておくか」

「賛成だね。機材とかを運べるようなら先に設置してしまおう。コニーたちがいつ到着するかわからないからね」

 ビークルを下りた俺たちは、マジョラムに続いて停泊中の豪華客船に向かって歩いてゆく。

 船から出てきた船員が俺たちを迎え、タラップを昇って船の甲板に出ると、すぐに船長やボーイ頭っぽいスタッフがやって来てマジョラムと打ち合わせを始めた。

 最初の挨拶で、俺たちの仕事は終わった。

 後はマジョラムが迅速に処理してくれる。

 セイボリーは遠目に見つめる船員たちに手を振ってファンサービスをしているが、俺とバジルは完全に手持ち無沙汰だ。

 いや、バジルは船員たちと一緒になってセイボリーを見ているから忙しいのか。

 

 

 暇を持て余した俺は、軽く船の構造でも見学しようと思い、甲板や船着き場の辺りを歩いてみる。

 すると、物陰から俺の方を見ている怪しい男たちを発見した。

 雰囲気も服装も、どう見ても堅気ではない。

 日本に居た頃の俺なら、確実に道を譲っている種族の連中だ。

「(ジェイクさん、あいつはヤバいっすよ)」

「(あの眼を見ましたか? きっと何百人も殺してる……。俺らじゃ手に負えませんって)」

「(いくら名の知れたビークル乗りだからって……)」

「(馬鹿かてめぇは! 腕利きの殺し屋が協力してくれんなら、俺たちにとってはラッキーじゃねぇか)」

 向こうも俺を警戒しているようだが、相手が相手なので、俺も些か緊張しながら聞き耳を立てつつチンピラどもに視線をやる。

 もちろん、ショルダーホルスターの拳銃をいつでも抜き撃ちできる体勢で。

 奴らの押し殺した会話でわかった。

 チンピラたちの中心に居る白いスーツの男は、バニラに八百長を持ち掛けてくるドン・スミスファミリーの若頭ジェイクだ。

「(ジェイクさん。もしや、ドンの始末をあの男に?)」

「(なっ!? 馬鹿! 滅多なことを言うんじゃねぇ! あいつに持ち掛けるのは八百長の方だ)」

 ジェイクはこちらに近づいてきそうな雰囲気だったので、俺は警戒をより一層強めてジェイクとチンピラたちを見据える。

 右手はベストの襟に掛け、最短距離で拳銃を抜ける位置だ。

 先ほどのセリフから察するに、八百長を持ち掛ける相手がバニラではなく俺に変わった可能性があるな。

 それに……ドン・スミスの始末だと?

 何だか、原作よりキナ臭くなってきた。

 自然と彼らを見る俺の目は厳しいものになった。

「(っ! 殺される……)」

「……行くぞ」

「え、ジェイクさん……」

「(ハナからこっちを怪しんでやがる。あれは無理だ)」

 しかし、ジェイクたちはそそくさと船着き場を足早に去っていった。

 彼らは一度も振り返ることなく海浜公園を後にする。

 戻ってくる様子も無ければ、付近に他の人間が潜んでいる様子も無い。

「ふむ……」

 どうやら、こちらの警戒を勘付かれたようだ。

 ターゲットが俺に変わるのなら、それはそれでやりようはあるが、ゲームと展開が大きく異なるのは得策ではない気がするので、先ほどのジェイクの選択はありがたいかもしれない。

 あの様子なら、ジェイクたちは八百長への協力をバニラに持ち掛けるはずだ。

「……ま、当初の予定通りか」

 俺は原作通りの展開を想定した動きで問題なさそうだ。

 ……ドン・スミスの暗殺計画らしきもの以外は。

 とりあえず、プランAの継続を決めた俺は、マジョラムたちの居る船内に戻っていった。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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