steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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6話 ピジョン牧場に到着

 

 トロットビークルで森を歩き続けること数日。

 ピジョン牧場の標識を見つけた。

 街道に出てしばらく進むと、広大な牧草地に数軒の農家、丘の上にはゲームで見た通り実験工房を隣接した家が見えた。

 あれがナツメッグ博士の家か。

 やはり、現実でもナツメッグ博士の家は、一目でトロットビークル開発者の家だとわかる。

 実験工房のデザインがモロにトロットビークルっぽいのだ。

 手足の付いた工房などほかに無いだろう。

 実は、あの実験工房自体が本物の大型ビークルになっており、飾りだと思っていたレッグパーツとアームパーツが起動して移動や戦闘が行えるのだが、ゲームでそれを知るのは相当後の話だ。

「駅は……まだ無いな」

 ゲームで初めてピジョン牧場を訪れるタイミングでは、ネフロから伸ばした線路の建設途中で、作業に従事する土木ビークルは居るものの、駅舎はどこにも無い。

 ゲームを進めて中盤でもう一度訪れるとピジョン牧場駅は完成している。

 今はネフロから伸びる線路すらどこにも見えない。

 ということは、今はゲーム本編開始前ということか?

 とにかく、とりあえずの目標であるピジョン牧場への到達は叶った。

 早速、ナツメッグ博士に会いに行こう。

 

 

「ちょいと! オットー、ウィリー。羊の世話はどうするんだい!?」

「いいじゃないか、お袋。力仕事なら終わらせたぜ」

「僕たちが修理したビークルでね。んじゃ、エリッヒ。あとはよろしく」

「わかりました、兄さんたちも頑張ってください」

「あ、待ちなよ!」

 一番大きな農家から出てきた連中には見覚えがあった。

 羊の酪農を営んでいるメリー乳業の一家だ。

 あそこの親父さんが作るチーズは、ゲーム内では絶品とのことだったな。

 子どもは三人兄弟で、上からオットー、ウィリー、エリッヒ。

 一番下のエリッヒは幼いながらも真面目に羊の世話をしているしっかりものだ。

 オットーとウィリーはトロットビークル弄りに夢中で、母親は上の二人には弟を見習ってほしいなどとよく愚痴をこぼしている。

 あの一家の事情を簡単に説明するとそんなところだが、実はゲーム本編でもあの兄弟は重要な役割を担うことになる。

 パイロットのオットーとメカニックのウィリーは、オービルとウィルバーのライト兄弟よろしく、トロットビークルで空を飛ぼうとしているのだ。

 彼らが繰り返していた飛行実験に関しては空回り感が強いが、ストーリー終盤では彼らの存在がキーになる。

 ゲームで初めてピジョン牧場を訪れたときには、ちょうど飛行実験の真っ最中で、彼らのビークル【フラップフライヤー】が事故って主人公のビークルに衝突してくるのだ。

 もう実験は始まっているのかな?

「ウィリー、行くぞ。俺たちの大空へ!」

「兄さん、まだ羽アームすら完成してないよ」

 どうやら、【フラップフライヤー】の試作機はまだ出来ていないようだな。

 

 

「ん? よう、そこの変な服の旦那。やけに大所帯だけど、羊のミルクの買い付けかい?」

「いやいや、兄さん。ビークル乗りでここに来るのは、ほとんどナツメッグ博士に用がある人だろ」

 ナツメッグ博士の家に向かう途中で、オットーとウィリーが声を掛けてきた。

 この二人の青年の見た目はゲームとほとんど変わらないな。

 彼らの年からゲーム本編の時間とのずれを探るのは無理か。

 オットーの言う大所帯とは、牽引している九台のビークルのことだろう。

 まあ、無人とはいえこれだけのビークルを引き摺っていたら、ミルクの大量発注に来た商人にも見えるかもな。

 ってか、変な服とは何だ!?

 スウェットにパーカーと言えば、由緒正しき部屋着の王様だぞ。

 ……やめよう。部屋着で出歩いていることを意識し過ぎて恥ずかしくなってしまった。

「ええ、ナツメッグ博士に相談したいことがありましてね」

「おいおい、旦那。そんな堅苦しいのはやめてくれって。俺はオットー、こっちは弟のウィリーってんだ」

「どうも」

「ああ、よろしく。俺は……グレイだ」

 ここに来るまでに考えていた偽名を口にした。

 バンピートロットの主要人物はハーブの名前が多く使用されており、この世界でも馴染みやすい名前を用意していたのだ。

 トロットビークルがカモミールなので、紅茶繋がりでアールグレイから伯爵のアールを抜いてみた。

 もし、元の世界に戻れなければ、俺は一生グレイとして生きていくことになるのだろう。

「おう、よろしくな」

「よろしく」

 

 

「で、グレイの旦那。ナツメッグ博士に用事はわかったが、その大荷物は一体何だい?」

「ああ、ちょっと盗賊団を潰したんでね。これは別件」

 まあ、場合によってはナツメッグ博士に相談するが。

 戦利品のビークルやスクラップの扱いに……どうにか腐らせずに持ってきた盗賊の遺体の始末についても聞かなければ。

「へぇ~! 旦那、強いんだな~」

「こりゃたまげた」

 俺はウィリーの後ろにある整備途中のビークルに視線をやった。

「ところで、二人は何を?」

「よくぞ聞いてくれた! 俺たちは! この大空へ羽ばたこうと思っているんだ!!」

「まあ、端的に言うとトロットビークルに羽を取り付けて空を飛べないかなって考えているわけで……まだ、パーツも開発途中なんだけどね」

 興奮して端折りまくるオットーにウィリーが補足した。

 そういえば、ゲームで最初にオットーとウィリーに会ったとき、【フラップフライヤー】は鳥の羽のようなパーツを付けて羽ばたいて飛ぼうとしていた。

 当然、そんな力で鉄の塊のトロットビークルが空を飛ぶことなど不可能なわけだが。

「グレイさんも、無理だと思うかい?」

 何気ないウィリーの質問だったが、俺は慎重に言葉を選んだ。

 結論から言うと、ゲーム終盤で最終的に飛行ビークルは完成する。

 しかし、そのイベントにはラスボスとの最終決戦が関わっている。

 ゲーム本編の終盤で主人公たちが対峙することになる巨悪は、潤沢な資金にものを言わせてグランドフィナーレという絶妙な名前の付いた巨大兵器、地球でいうところの飛行船を開発するのだ。

 射程外の上空からの攻撃に成す術が無いところ、主人公陣営は空飛ぶビークルを完成させて立ち向かうことになる。

 そうなると、無闇に技術を伝えるのは危険だ。

 最悪、オットーとウィリー兄弟やナツメッグ博士などより早く、敵に技術を利用されることになるだろう。

「いつかは可能になるだろうな。君たちの研鑽は無駄にはならないだろう」

「そっか、ありがとう」

 もしかしたら、彼らの技術と試行錯誤がナツメッグ博士のプロペラ機ビークルの開発に役立っていたのかもしれない。

 俺には航空工学なんてさっぱりだからな。

 彼らの墜落を無駄と決めつけるのは早計だろう。

「おお、話が分かるじゃねぇか! 旦那!」

 オットーの奴は能天気だな。

 頼むから苗字はリリエンタールにならないでくれよ。

 

 

 ナツメッグ博士の家の前にビークルを駐機し、俺は扉をノックした。

 当然、答えは返ってこない。

「予想はしていたけどな……」

 俺は失礼とは思いながらも、扉を開いて家に足を踏み入れた。

 見た感じ、ゲームよりも家の間取りは広そうだ。

 それはそうか。

 何故かゲームでは博士の家には作業室しかなかった。

 ベッドもトイレも風呂も、キッチンすら無かったのだ。

 あれではさすがに生活できないだろう。

 玄関から入ると壁と廊下が見えたので、奥に向かって再度声を掛ける。

「ごめんくださ~い」

 またしても返事は無い。

 デジャヴだ。

 原作でも主人公が訪れたときは作業の真っ最中だった。

 今回も目の前のことに集中しすぎて来客を無視しているのだろうか。

 仕方なく廊下を進むと、すぐに壁一面に設計図が貼られて、床にスクラップが散乱している部屋を見つけた。

 気配を感じて奥を見ると、小柄な老人が作業机に向かって黙々と手元を動かしている。

 ゲームで見た通りのナツメッグ博士だった。

 俺は三度声を掛けようとしたが、博士の手元を見た瞬間、口を噤んだ。

 博士が組み立てていたものは、俺にとっても非常になじみの深い品だったのだ。

「アルトサックス……」

 俺の呟きに博士の動きが止まった。

 博士はゆっくりと視線を上げて俺を見据える。

「……お前さん「外で待っております。先にそれを完成させてください」」

 一方的に告げて、俺はナツメッグ博士の家の外に向かった。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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