steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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60話 情報収集 後編

 

「まずは仲間の居場所だ。どこで何をしているか吐け」

「ジ、ジェイクさんは……あんたの仲間のバニラって奴と一緒に居るはずだ。八百長はあんたに持ち掛けるはずだったが、あのガキもビークル乗りとしては十分に名が通っているって……」

 それは知ってる。

 本来なら、俺が八百長の計画など知っているはずが無いが、猿顔はそのことまで頭が回らないようだ。

 敢えて突っ込む必要も無いのでスルーしておく。

「他の奴は?」

「それは……」

 猿顔が言い淀んだので、俺はナイフを逆手に握りなおすと、男の髪を掴んで刃を目に突き立てようとした。

「やめてくれっ! ほ、他の奴らは、ドン・スミスを仕留めに行った」

 ……ついに俺の懸念が現実のものとなったな。

 原作では、ジェイク一派が本当にドン・スミスを殺そうとする描写など無かった。

 ジェイクの裏切りは悪ふざけが過ぎた結果だ。

 事態が収束した後、ジェイクはドン・スミスを裏切ったことを後悔しており、最終的には赦されてファミリーに呼び戻されたことで、彼は改めてドンに忠誠を誓う。

 さすがに暗殺者が実際にドン・スミスへ差し向けられる状況にはならなかったはずだ。

 ……いや、もしかしたら、原作通りの展開でも、ジェイクの手下は勝手に暴走し、裏で処理されていたのかもしれないな。

「ジェイクの奴は生ぬるいって……。折角、あんたみたいな殺し屋が来たのに、ケチな小遣い稼ぎで満足している腰抜けだって……。ドン・スミスが居なけりゃ、あいつは何もできやしない。そのままドンを殺した罪も擦り付けちまえばって話になって……。お、俺は反対したんだ」

 どうやら、俺もジェイクの手下の暴走の要因になっているようだ。

 ジェイクの非常識な悪ふざけが、本当にドン・スミスの命を脅かしかねない大事件に発展している。

 昼間にこいつらの密談を立ち聞きしたときに懸念はしていたが、本当にこうなるとはな……。

 念のため、ボディーガードのキャラウェイには、ドン・スミスの傍を離れないように伝えているが、それも絶対安全な策というわけではない。

「全員か?」

「え?」

「仲間は全員ドン・スミスを殺りに行ったのか?」

「あ、ああ。そうだ。三人ともな」

 昼間にジェイクが連れていた手下は四人だった。

 この猿顔の男の仲間が三人。

 数は合うな。

 こいつの言っていることが事実なら、トロット楽団メンバーの方に行った奴は居ないのか。

 ジェイクは楽団メンバーを手下に監視させて、彼らを人質にバニラを八百長に協力させていたわけだが……。

 こいつらは完全にジェイクの指示を無視しているようだが、考えようによってはありがたい話だ。

 ドン・スミスの方の対処は色々と面倒なことになりそうだが、俺の手が届かないところでマジョラムたちを害される心配が無いからな。

 

 

「で、お前はこんなところで何をしていた?」

「オレは……アリバイのために……」

「アリバイ?」

「顔の効くバーに、俺たちが飲んでたことにしておいてくれって……」

 どうにも猿顔の歯切れが悪い。

「それだけか?」

「…………」

 猿顔は急に黙りこくった。

 何か隠してやがるな。

 こいつはバニラのビークルを見送った後、真っ直ぐにドヤ街に向かった。

 娼婦を口説く以外にも、目的があるはずだ。

 俺は躊躇なくナイフを男の傷口に突き立てた。

 そのまま銃創を広げるように抉る。

「ぎぃ!! 言う! 言うから! 敵対組織の奴に情報を流したんだ! そいつの動向も確認しに来た」

 どうやら、他の組織のチンピラを手引きして、ドン・スミスの始末に加担させる腹積もりらしい。

 危なかった……。

 暗殺者は合計四人だ。くそったれ。

 聞けば、その殺し屋に仕立てた敵対組織の人間をジェイクが手引きしたことにするらしい。

 殺し屋とキャラウェイたちがやり合ったところに、猿顔の仲間が乱入して全員を殺し、そのまま漁夫の利を得る、という筋書きだ。

 ……アリバイ工作を鑑みるに、こいつらはボスの一大事に酒をかっ食らっていた設定のはずだが、そんな体たらくで上に行けるものなのか? 謎だ。

 しかし、あの強面ボディーガードのキャラウェイを含む多数のターゲットを、チンピラ三人だけで始末するというだけでも、なかなかに無謀でお粗末な計画に思えるが、絶対に不可能な話ではない。

 おもちゃのような小口径のデリンジャーでも、チンピラ全員が銃を持っていたら、ドン・スミスと側近たちがまとめてハチの巣にされることもあり得る。

 それに、こいつが動向を監視しに来た殺し屋というのも、既に闘技場へ向かったそうだ。

 ……行くしかないな。

 ドン・スミスが消えるのはさすがに容認できない。

 

 

「よし、立て。闘技場の支配人室に行くぞ」

「か、勘弁してくれ……」

 さすがの猿顔も首を縦には振らなかった。

 確かに、暗殺計画の結果がどうであれ、この男は粛清される運命だ。

 ドン・スミス側が生き残れば謀反の主犯格として、こいつの仲間が勝てば俺に情報をペラペラと喋った裏切り者として。

「言っておくが、ドン・スミスは死なない。キャラウェイはお前たちの企みなどとっくに気づいている」

「なっ!?」

 まあ、俺が警戒を促したんだけど。

 それに、絶対にドン・スミスが無事に済む保証も無い。

 しかし、この男は曲がりなりにもドン・スミスファミリーの人間だ。

 キャラウェイの腕とボスの恐ろしさは、近しいが故に一般人よりも身近に認識している。

 猿顔はマラリアの発作のように震え始め、冬でもないのにガチガチと歯を鳴らしながら顔を蒼くした。

「その敵対組織の殺し屋とやらの顔はわかるんだよな?」

「……ああ」

「なら、そいつを見かけたら俺に教えろ。お前の役目はそれだけだ。簡単な仕事だろ?」

「で、でも……」

「このままでは、どちらにせよお前は死ぬ。ドン・スミスにとっても、反乱勢力にとっても、お前は裏切り者だからな。俺に協力して暗殺を阻止すれば、少なくともドン・スミスは赦してくれるかもしれんぞ」

 それに、役に立たないのなら、俺がここで撃ち殺して死体を沈めていく。

 俺にとって、この猿顔の命など何の価値も無い。

「……わかった」

 俺の雰囲気から断ることは得策ではないと感じ取ったのか、男はノロノロと体を起こした。

 ワイヤーは解いてやったが、こいつの両腕は使い物にならないままなので安全だ。

 38口径弾で撃ち抜かれた右腕に肘を粉砕された左腕では、反抗してもまともな攻撃はできまい。

「…………」

 猿顔が言いたいことを察した俺は、上腕を縛ってから一応清潔なボロ布を再度傷に巻き付け、それらしい処置をしてやった。

 運よく貫通とはいえ、ぶち込まれたのはホローポイント弾であり、そのうえナイフで抉られた傷の状態はひどいものだ。

 血は止まったものの、猿顔は自分の腕の傷を直視してしまい、さらに表情を引き攣らせる。

「応急処置だ。これですぐに失血死することはない。すぐにはな」

 このままでは死ぬと信じ込まされていた男は、僅かな安堵の表情を浮かべると、俺の促しに素直に従って歩き出した。

 

 

 猿顔のチンピラの背中に銃を突きつけたまま、俺は闘技場に足を踏み入れた。

 階段を上って二階からは入ると、そこは酒場となっており、仕事上がりの労働者や船乗りたちが酒のコップを片手にバカ騒ぎをしている。

「(どうだ?)」

「(いや、見当たらねぇ……)」

 猿顔は俺が背中に押し付けている銃口を気にしつつも、注意深く闘技場内を見渡して答える。

 どうやら、二階には例の殺し屋はいないようだ。

 一階との吹き抜けになっているビークルバトルのスペースから下を覗くと、受付と選手控室が目に入った。

 偶然にも、ジェイクとバニラの姿を発見した。

 腰抜けジミーも控室の隅に居るな。

 ……そういえば、あいつはどうやってガラガラ砂漠を渡ったんだ?

 まあ、いいか。

 ジェイクは受付の係員と話しており背を向けているが、バニラは俺の方に気付いた。

 何かを訴えるような目でこちらを見続けているが、今はジェイクをぶちのめすよりもドン・スミスの方が優先だ。

 俺は体をずらして猿顔に突き付けた拳銃がバニラに見えるように示し、軽く頷いた。

 バニラがどこまで悟ってくれたかはわからないが、少なくとも俺が何も気づかず闘技場に観戦にきたわけではないことは察してくれたはずだ。

 今ジェイクに見つかると厄介なので、俺は猿顔の背を銃口で突っつき、闘技場の奥へと促した。

「(支配人室へ行くぞ)」

「(……わかった)」

 猿顔を先に歩かせて、闘技場の奥まった場所にある階段を降りる。

 原作と同じく、ここから支配人室へ行けるはずだ。

 支配人室はビークルバトル会場をガラス越しに見ることができる特等席だったはずだが、入口は地味なものだな。

「……失礼します」

 チンピラは傷の痛みに顔を顰めつつも、いつもの流れでドアをノックしてから支配人室に入室した。

 俺も彼に続いて開け放たれたドアから足を踏み入れる。

 そこには、ある意味で予想通りの光景が広がっていた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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