steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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61話 鉛玉の応酬

 

「っ!」

 猿顔は息を呑んで俺の方へ振り返る。

 俺は後ろ手にドアを閉めると、猿顔の後ろからひょっこりと顔を出して、支配人室の様子を見回した。

 硝煙と血の匂いが充満していた段階で、それなりの惨状は予想していたが、実際に見てみると猿顔が蒼白になっているのも頷ける。

 両手にリボルバーを握り部屋の中央に仁王立ちするのは、ドン・スミスのボディーガードを務めるスキンヘッドの強面キャラウェイ。

 銃口をこちらに向けてこそいないものの、いつでも発砲できるよう自然に脱力した姿勢で、鋭い殺気を纏っている。

 支配人室のバースペースには三人の……いや、三つの屍があった。

 服装や血濡れの顔から、ジェイクの手下どもだということはわかった。

 三つの死体は酒棚やバーカウンターに力無くもたれ掛かっている。

 各々が数発の銃弾に体を貫かれており、どう見ても完全に絶命していた。

 彼らの手の先には、射殺されて取り落したと思われるスナブノーズのリボルバーが転がっている。

 この光景で、俺は全てを理解した。

 ドン・スミスの暗殺を目論んだ猿顔の仲間は、見事にキャラウェイの返り討ちに遭ったわけだ。

 ドン・スミスも無事だった。

 部屋の隅で、相変わらず車椅子に座って両手を組んだ体勢で、無表情にチンピラたちの死体へ視線を向けている。

 孫娘のクラリスも、些か表情が強張り顔面を蒼白にしているが、特に怪我は無いようだ。

「無事だったようだな」

 俺が口を開いたことで、部屋の中に居る連中の視線がこちらに向けられた。

「おかげさまで」

 キャラウェイは俺に軽く会釈をするようにして銃を仕舞った。

 向こうが形式上とはいえ戦闘態勢を解除したので、俺も自分の拳銃をショルダーホルスターに戻す。

 船上パーティーのとき、俺は今夜ドン・スミスが危険に晒される可能性をキャラウェイに仄めかしていた。

 俺はドン・スミスの警護において有益な情報を提供したことになる。

 キャラウェイの目には、夕方のような不信感や警戒心は無い。

 まだ完全に信用しているわけではないだろうが、少なくとも猜疑を前提に接してくることはないようだ。

「……ほっ、助かった」

 ドン・スミスと同じく部屋の隅に寄っていたバーテンダーは、安堵の息を漏らした。

 キャラウェイが普通に話しているのを見て、俺が敵ではないと判断したようだ。

「いきなり銃を突きつけられて拘束されましてね」

 彼は支配人室のバースペースを任されている渋いバーテンダーだ。

 どうやら、猿顔の仲間のチンピラたちは彼を殴って気絶させ、バーカウンターの後ろに身を潜めて、ドン・スミスたちを射殺しようとしたそうだ。

 結局は、ドン・スミスより先に入室したキャラウェイに察知され、そのまま撃ち合いになってお陀仏、と。

 俺の忠告があったとはいえ、この状況で暗殺者の存在を察知し、しかも至近距離で三人と撃ち合って無傷で勝つとは……。

 スキンヘッドのボディーガード、マジパネェな。

 何はともあれ、キャラウェイに警告しておいたことも功を成し、ドン・スミスの暗殺はどうにか食い止められたようだ。

 

 

「ジェイクは……本当にわしを裏切ったのか?」

 微動だにしなかったドン・スミスは、僅かに顔を動かして俺が連れてきた猿顔のチンピラを見据える。

 当然ながら、ドン・スミスは暗殺者たちがジェイクの手下だということに気付いていた。

 ジェイク自身にそこまでのつもりは無く、本気でドン・スミスを暗殺しようとしたのは手下どもの独断である可能性が高いが、今ここで俺が口を出すことではないな。

 それを調べるのはドン・スミス自身であり、俺も現実のジェイクがどういうつもりなのかは知らない。

 鋭い眼光で射抜かれた猿顔は、失神こそ免れたものの、脚を震わせながらドン・スミスから視線を逸らす。

「ぁ……ぃぇ……」

 猿顔は俺の方に縋るような視線を向けたが、俺は冷たく無視した。

 俺はドン・スミスなら赦してくれるかもしれないと言っただけで、こいつを助けてやる義理など無いのだ。

 ドン・スミスは猿顔の腕の傷と俺を一瞬だけ見比べたが、ほっと息を吐くと自嘲するような表情で呟いた。

「最近、奴の少々目に余る言動は小耳に挟んでいた。トロット楽団の方々に何か良からぬことを企んでいるかもしれないとは聞いていたが……まさか、ここまで大それたことをするとは……」

 どうやら、トロット楽団メンバーの方には、ドン・スミスも既に対応してくれていたようだ。

 俺は曲がりなりにもドン・スミスの配下である猿顔を撃ってしまったので、何か落とし前を求められるかと警戒していたのだが、どうやらそういった類の話ではないようだ。

 ドン・スミスはただ哀愁を湛えてボヤく。

「育て方を間違った「ちょっと待て」む?」

 会話の流れはそのままジェイク絡みの内容が続きそうだったが、俺はドン・スミスの言葉を遮った。

 いい加減、本題に入らないとマズイ。

 猿顔たちの始末は後回しだ。

 再びこちらに視線が集まる中、俺はキャラウェイに確認した。

「キャラウェイ、倒した暗殺者はこの三人だけか?」

「……ええ、そうですが?」

 そもそも、俺は四人(・・)のヒットマンの件でここに来たのだ。

 猿顔たちが唆した敵対組織の人間の死体はその中に無い。

 キャラウェイが暗殺者を全員倒したことに気を取られて言い出すのが遅れたが、肝心の外部からの暗殺者がまだ生きている。

 黒幕のチンピラ三人の方が先に始末されているんじゃ世話ない話だが……。

 二階の酒場の様子を鑑みるに、支配人室は防音設備がしっかりしており、銃声が漏れない。

 キャラウェイとチンピラたちの銃撃戦を察知して、敵対組織の殺し屋が逃げた可能性は低い。

「話は後だ。もう一人来るぞ。こいつが唆した敵対組織のヒットマンが……っ!」

 しかし、俺の言葉は突如として支配人室に轟いた銃声にかき消された。

 

 

 閉め切った支配人室に鋭い火薬の炸裂音が木霊した。

 閉所に反響する銃声はなかなか耳に響くものだった。

 突然の銃弾の飛来に俺も心臓が縮み上がったが、着弾したのは俺でもドン・スミスでもなかった。

「ぉ……」

 驚愕の表情を張り付けたまま棒立ちで固まる猿顔。

 彼は何が起こったのか理解できない様子で、そのままゆっくりと膝から崩れ落ちる。

 敵の凶弾は最初から俺が連行してきた猿顔を狙っていたのだ。

 キャラウェイは銃声と同時に行動に移っていた。

 地面を蹴って、ドン・スミスとクラリスの方へタックルするように身を投げ出す。

「ぐぅ」

「きゃ」

 キャラウェイに突き飛ばされ、二人の要人は地面に押し倒された。

 ボディーガードの仕事は敵を倒すことよりも警護対象を守ることだ。

 普通に考えれば盾になるよりも敵を撃ち殺した方が確実で安全だと思うが、今回は唐突な襲撃でヒットマンの姿も見えていなかったので、キャラウェイは敵の排除よりも二人を狙撃から庇うことを優先したようだ。

 しかし、俺が自分の身を犠牲にしても守らなければならない存在などこの場に居ないので、こちらは反撃を優先させてもらう。

 反応自体はキャラウェイより僅かに遅れたが、俺も猿顔が倒れ終わる前には行動に移っている。

 床に身を投げ出すようにして受け身を取りつつ、ソファーを遮蔽物にできる位置目がけて転がり、ショルダーホルスターから拳銃を抜く。

 そのまま床に伏せた状態で、部屋の隅にあるクローゼットらしき棚に向かって、トリガーを六回引いた。

 銃弾はあの棚の中から飛んできたのだ。

 閉め切った部屋に、俺のリボルバーから発せられた炸裂音が反響する。

 俺のS&W M10に似たリボルバーが使用する弾は、地球の基準で言えば38スペシャル弾とほぼ同等の規格なので、それほど強力な弾薬ではない。

 しかし、閉所での連続射撃音は相当なものとなる。

 六発の速射でも耳がおかしくなりそうだ。

「ぁがっ」

 俺がシリンダーの中の弾を撃ち尽くして銃声が止むと、クローゼットからはくぐもった呻き声が発せられた。

 向こうも俺に一発だけ撃ち返してきたが、猿顔から次のターゲットに狙いを切り替える余裕は無かったのか、弾は俺やドン・スミスから大きく逸れて床を抉っていた。

 それに対して、俺の銃弾はクローゼット越しとはいえ、敵の体を確実に捉えたようだ。

「ごぅ……」

 数秒後、クローゼットのドアが開き、品の無いチンピラ風の男が前のめりに倒れてきた。

 男が手に持った拳銃が床に落下し、カーペットが衝撃を吸収して僅かに鈍い音を立てる。

「こいつか……」

 危なかった……。

 ヒットマンは最初から部屋に潜んでいたようだ。

 チンピラ三人と違ってキャラウェイに察知されなかったあたり、隠密に秀でている殺し屋だったようだな。

 俺は立ち上がると、スピードローダーで拳銃に六発の弾を装填しなおした。

 この男で最後だと思うが、念には念を入れてだ。

 一応、こいつがドン・スミスファミリーと敵対する組織の人間で間違いないか面通ししたいが、猿顔がくたばった以上はそれも無理だな。

「ひぇ……」

 同じ部屋にいたバーテンダーが軽く悲鳴を上げ、俺も釣られてヒットマンの方を見る。

 既に致命傷を受けており、出血量も相当なものだが、彼の目は異常な力を以って猿顔を見据えていた。

 奴の手元には既に拳銃が無く、キャラウェイも自分の銃を抜いているものの動いていないので、安全だとは思うが、俺も念のためヒットマンの男を注視しておく。

「……裏切り者が」

 俺が弾丸をぶち込んだヒットマンの男は、猿顔の死体に向かって吐き捨てると、口から血の塊を吐き出して絶命した。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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