steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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62話 一件落着

 

 バニラの【カモミール・タイプⅡ】に襲い掛かるのは、腰抜けジミーの駆る【オリーブトータス】。

 バニラのビークルはほとんど動いていないにもかかわらず、ジミーは度々アームパーツでガードを固めながら後退し、そして何故かへっぴり腰のような体勢で移動する。

「ひゃぁぁああぁぁああああぁぁぁ!」

 ジミーは奇声を上げながらビークルを前進させ、アームパーツを稼働させてバニラのビークルに殴りかかった。

 スラスターを併用していないどころか、踏み込みと攻撃のタイミングも合っていない一撃だ。

 アームパーツによる打撃の軌道も、【カモミール・タイプⅡ】のボディパーツをまともに捉えていない。

 攻撃の前から声を上げているので、殴ってくるタイミングも丸わかりである。

 既にSランク相当の技量を持つバニラにとって、避けるのは容易い。

 しかし、バニラは長い逡巡の末に、コクピットへの打撃だけは回避しつつ、ジミーの攻撃をボディパーツで受けた。

「うわぁぁぁあああああぁぁ!」

「くっ……」

 バニラはジェイクに脅されており、腰抜けジミーに上手く負けるよう指示されているのだ。

 トロット楽団メンバーを人質に取られている以上、バニラはジェイクに従うしかない。

 だが、バニラはジミーとの対戦で意外にも苦労を強いられていた。

 思ったより、機体の損耗が激しいのだ。

 ラッキーパンチのクリーンヒットをもらったように見せかけようにも、腰が引けているジミーにはそもそも火力が無い。

 しかし、ジミーもそれなりに長い期間ビークルに乗ってきただけあり、このようなへっぴり腰の攻撃を繰り返していても、駆動部へ強い負担を掛けずにビークルを動かし続ける能力はある。

 一方的に攻撃を打ち込めるのなら、まともな武装の無いジミーの【オリーブトータス】でも、いずれはバニラの【カモミール・タイプⅡ】を撃破することが可能だ。

 とはいえ、あまりに棒立ちの体勢を続けて攻撃を受けるのも、バニラにとっては考え物である。

 ゲームならそれでもよかったが、現実で不自然に無抵抗のまま攻撃を受け続ければ、その時点で観客も異変に気付く。

 だが、接戦を演じようにも、バニラの攻撃を受ければジミーは一発でダウンしそうだ。

 決め手にならない攻撃を幾度も繰り返し受ける状況は、防御態勢を取り続けるバニラにとって無駄な消耗として蓄積されることとなった。

「ああぁぁぁあああああぁぁぁ! バニラさん! 何で来ないんですかぁ!?」

「ぐっ……ジミー……」

 はっきり言って、ジミーの動きは隙だらけだ。

 ジンジャーとの修行や実戦経験を積んできたバニラなら、今の打撃へのカウンターで三回はクローアームを叩き込める。

 しかし、バニラはジミーの攻撃を機体の側面で受けるしかなかった。

「(グレイ……どうすれば……?)」

 ジェイクは今も試合を観戦しながらバニラを監視している。

 見張られている以上、下手なことはできない。

 唯一の希望は、事態に気付いて何かしら行動を起こしていると思われるグレイだ。

 試合の前、彼は確かにバニラへ目くばせをした。

 ガラの悪い男に拳銃を突き付けたまま、グレイは闘技場の奥へ向かった。

 しかし、結局は何も起こることなく、バニラはジミーとの試合に出る羽目になった。

 グレイが無事かどうかもわからない。

 今のバニラにできるのは、予想外なジミーの攻撃をコクピットに受けないよう気を付けることだけだ。

 重機同士がぶつかり合うに等しいビークルバトルでは、一歩間違えれば操縦手が潰される。

 相手が腰抜けジミーとはいえ、ビークルのアームが振るわれる以上、生身ではただの人間に過ぎないバニラは、当たり所が悪ければ命を落とす可能性もあるのだ。

「(くっ……僕は……っ!)」

 ジミーの攻撃を耐え凌ぎながら、バニラは一瞬だけ自分を監視しているジェイクの方へ視線をやる。

 この時はバニラも特に何かを期待していたわけではなかったのだが……彼の目には予想外の状況が飛び込んできた。

 ジェイクは強面のスキンヘッドの男に、手を後ろに捻られて拘束されていたのだ。

 そして、二人の周りを観客とは明らかに違う人間たちが取り囲んでいる。

 周囲の人々が視線を注ぐのはドン・スミスだが、その中にはバニラが一縷の望みを託していた人物の姿もあった。

「グレイ……」

 バニラの声が聞こえたのか、グレイはバトル会場の方へ振り向いて声を張り上げた。

「もう大丈夫だ! 遠慮なくやれ!」

「っ! わかった」

 バニラの【カモミール・タイプⅡ】は急加速し、スラスターで円を描くように移動しつつ、一気に踏み込んでクローアームを振るう。

「うわあぁぁぁぁぁああぁぁぁ!」

 まともに打撃を受けて吹き飛ばされたジミーの【オリーブトータス】は、バトル会場の金網に激突し、そのまま横転して崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 ドン・スミスたちと軽く情報を共有した俺は、そのまま闘技場の二階の観戦エリアに向かった。

 もちろん、キャラウェイを含むドン・スミスファミリーのメンバーと一緒だ。

 クラリスは何かを言いたそうにしていたが、ドン・スミスが共に来るように言うと素直に従った。

 ……ドン・スミスやキャラウェイと一緒に居た方が安全なのはわかるが、そこら辺をきちんと説明してやった方がいいのではないかね。

 マフィアのボスを祖父に持っているとはいえ、クラリス自身はただのお嬢様だ。

 危険な目に遭って、さぞかし気が滅入っていることだろう。

 しかし、今はそれどころじゃない。

 ドン・スミスの暗殺は阻止されたが、奴らの上司であるジェイクの処理がまだだ。

 俺にとっては、こちらの方が本題だ。

 トロット楽団メンバーの居るホテルブルーマーリン周辺に、ジェイクの息が掛かった者が居ないことは、既に確認していた。

 先ほど報告に来たドン・スミスの部下からの情報だ。

 今回の騒動の原因で、残された人物はジェイクのみ。

 奴はバニラを八百長に協力させて、呑気にバトルを観戦しているはずだ。

 ドン・スミスたちもジェイクには手下の不始末の責任を追及しなければならないので、とりあえず俺たちはジェイクが居る観戦スペースへ向かうこととなったのだ。

 

 

 闘技場の二階でジェイクを発見したので、俺たちは真っ直ぐ彼に近づいた。

 ビリヤード台の近くに居た連中は、突然ドン・スミスが現れたことに驚いて道を空ける。

 しばらく唖然としていた連中も、穏やかじゃない空気を察したのか、関わり合いを避けて散っていった。

 ジェイクは薄ら笑いを浮かべてバニラとジミーの試合を観戦していたが、俺たちの姿を見ると一瞬で顔面を蒼白にした。

「いや、これは……違うんすよ」

 ドン・スミスの表情と雰囲気から色々なことを悟ったジェイクは、聞かれてもいないのに自分から言い訳をした。

 当然、ドン・スミスは弁明など聞かない。

「悪ふざけが過ぎたな、ジェイク。お前にはもっと常識を押しておくんだったよ」

 ドン・スミスは目を伏せると心底悲しそうに言葉を続けた。

「まさか、わしに殺し屋を差し向けるとは……」

「な、何だって!?」

 ジェイクは手下の所業を知らないようで、激しく動揺していた。

 まあ、マフィアの世界では「知らなかった」で許されることではないよな。

 ところが、ジェイクは俺を睨みつけると、正面から掴みかかろうとしてきた。

「てめぇか!? あることないこと「おとなしくしてください」ぐぁ!」

 俺がジェイクを張り倒すより早く、彼の後ろにはキャラウェイが回り込んでいた。

 そのまま後ろ手に腕を取ると、ジェイクの関節を極めて捻り上げる。

 あまりの激痛にジェイクは悲鳴を上げた。

 殴る蹴るをせずに一瞬で拘束するとは、大した手並みだ。

「残念ながら本当だよ。お前の手下がドン・スミスの暗殺を目論んだんだ。他の組織の殺し屋まで手引きしてな」

 俺の言葉だけではジェイクも信じられないようだが、ドン・スミスの顔を見ると全てが事実だと察したようで、キャラウェイのアームロックに抵抗するのを止めた。

「まさか……あの馬鹿ども、本当に……」

 ジェイクはまだ状況が呑み込めないようだが、これ以上ここで騒ぐのは得策ではない。

 ファミリーの幹部であるジェイクが何か不始末をやらかしたことくらい、すぐに情報が出回るであろう。

 こうしてキャラウェイがジェイクを捕らえている場面を、既に多くの街の人間に見られているのだ。

 野次馬根性を隠さず近づいてくることこそないが、今も大勢の闘技場の客が、こちらへ遠慮がちに視線を送っている。

 ドン・スミスは一瞬だけ憐憫の情のようなものを顔に浮かべたが、冷たくキャラウェイに命じた。

「連れていけ」

 ドン・スミスの命令を受けたキャラウェイは、無言で即座に指示に従い、ジェイクを促して闘技場の奥へ去っていく。

 彼の運命は監禁か拷問か放逐か……。

 原作では、一年後には赦されてファミリーに戻っていたが、今回はそう都合よく収まることは無いかもしれないな。

 まあ、何はともあれ、これでバニラは八百長をする必要が無くなった。

 バトル会場の方を見てみると、バニラも俺に気付いているようで、こちらを見ている。

「もう大丈夫だ! 遠慮なくやれ!」

「っ! わかった」

 バニラは力強く返事をし、ビークルを急加速させた。

 どうやら、問題が片付いたことを理解してくれたようだ。

 実力を出せれば、バニラが今のジミーに負けることは無い。

 これで……終わったな。

「ふぅ……」

 バトル会場から視線を戻して隣を見てみると、さらに老け込んだような表情のドン・スミスが、そっとため息をついていた。

 

 

 ジミーとの試合を終えたバニラは、真っ直ぐ俺の方へ向かってきた。

 俺の横に居るドン・スミスとクラリスを気にしつつも、辺りをキョロキョロと見回した。

「あの……ジェイクは?」

「すまなかったね。トロット楽団の人たちは無事だ。心配しないでいいよ」

 一瞬で好々爺の仮面を張り付けたドン・スミスがバニラに答える。

「ただ、あいつの手下が妙な真似をしないとも限らない。そいつらの始末がつくまで、この街に居てくれ。私が責任を持って、トロット楽団を守るからね」

 バニラはしばらく俺とドン・スミスの顔を見比べていたが、やがて全てが片付いたことを理解したのか、安堵の息を漏らした。

 バニラの中では、俺がドン・スミスに直談判しに行って、ジェイクの件に手回ししてもらったことにでもなっているのだろう。

 ……意外と大変だったんだぜ。撃ち合いになったし。

「それでは、お休み。……ああ、グレイ君は少し残ってくれ」

 クラリスが車椅子を反転させたが、ドン・スミスは俺を呼び止めた。

 ……まあ、このままハイサヨナラとはならないよな。俺は。

「バニラ、先に行っててくれ」

「わかったよ」

 バニラもジェイクの件が片付いて安心しているのか、即答して踵を返した。

「こっちに来たまえ」

 俺はドン・スミスに続いて闘技場の奥へと足を運びながら、バニラの方を一瞥する。

 バニラはやけに晴れやかな顔をしたジミーと言葉を交わすと、そのまま自分のビークルに乗り込んで闘技場を出ていった。

 

 

「借りが出来たな、小僧」

 何のことを言っているのかと思えば、俺が殺し屋を倒した件だ。

 彼が裏社会の大物であることを俺は既に知っているので、向こうも今更取り繕う必要は無いと思っているのか、態度は完全にマフィアそのものだ。

 まあ、白々しく上流階級然とした会話を続けるよりは、俺も気楽でいい。

「そうかい? しぶといあんたのことだ。俺が動かなくても、どうにかなったんじゃないか?」

 実際、ドン・スミスはジェイクがトロット楽団メンバーに何らかの働きかけをすることを勘付いており、既に手は打っていた。

 今回は偶然にも俺が暗殺者を仕留めることになったが、ドン・スミスの方でもキャラウェイ以外に部下を動かしていた可能性がある。

 ジェイクが人様に迷惑を掛けるのを心配しておいて、自分が暗殺されかけるなど……。

 ドン・スミスはそんな灯台下暗しをやらかす間抜けには見えないのだがな……。

「……確かに、全くの無警戒だったわけではない。だが、警備の強化まではしていなかった。お前が居なければ、ボディーガードともども殺されていた可能性は否定できない」

「正直だな」

「お前に言われたくはない」

 なるほど、俺も今しがた自分の功績を誇張しなかったな。

 普通のチンピラなら、ここぞとボスに恩を売って取り入ろうとする状況だ。

「それで? お前の望みは何だ? 理由も無くわしの命を助けるために奔走するなど、お前の気質からしてあり得まい」

 ドン・スミスは俺に鋭い視線を向けて質問してきた。

 よく理解してらっしゃる。

 確かに、余程の理由が無ければ、裏通りを歩く連中とは関わるのすらご免だ。

「然るべき掃除を。ジェイクの側近だった四人は図らずも始末されたが、他にトロット楽団メンバーを害する奴が居るかもしれない」

「言われるまでも無い。わしは責任を持ってトロット楽団を護ると言った。このドン・スミスに二言など無い」

 これで安全策は整ったな。

 絶対ではないが、スームスームでこれ以上の庇護は望めない。

 しかし、ドン・スミスは疑いの眼差しを強めて俺を見据えた。

「正直に言え、小僧。わしに近づいた目的は、他にもあるのだろう? わしは借りを作るのが嫌いだ。お前には働きに見合う報酬を受け取る権利がある。お前の考える望み程度、すぐに叶えてやる」

「う~ん、まあ……あると言えばあるんだけど……」

 別に誤魔化しているわけではない。

 一つ、ドン・スミスの協力を取りつけられたら好都合だと考えていたものはあるのだが、まだその話はできないのだ。

 いや、概要だけなら言ってもいいのだが、キーパーソンにまだ出会っていないというか……。

 やはり、実行に移すのは、原作と違っている部分などを確認してからでないとな。

 しかし……「望みを叶えてやる」とは、随分と簡単に言質を取らせるものだな。

 マフィア、向いてないんじゃね?

「少し待ってもらってもいいか。明日には伝えられると思うから」

「ふん。よかろう。だが、あまり待たされると忘れるかもしれんぞ。わしらの業界に、絶対の保証など無いのだからな」

 口ではそう言っているが、ドン・スミスは必ず約束を守る。

 ……爺さんのツンデレとか、誰得だよ。

 俺は苦笑いしつつも、ドン・スミスのもとを辞して、闘技場を後にした。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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