steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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64話 再会 後編

 

「状況を整理しよう。キャプテン・シブレット以下ジュニパーベリー号の一行は、船を沈められた挙句、何者かに狙われている可能性がある。敵は大型帆船を一撃で沈める能力を持っている。よほど強力な火砲を保有しているにせよ、機関室を狙い撃ちできるほど腕の立つビークル乗りを擁しているにせよ、とにかくそれだけの火力を持っているということだ。ヒントは……キャプテンが見たという白いトロットビークルのみ」

 シブレットとバニラは一言も発さず、俺の言葉に耳を傾けている。

「キャプテンも何か強大な敵が存在している可能性を考慮して、こうして潜伏も同然の状態で暮らしていると思うが?」

「うむ、その通りだ。部下の中にも、あの事故を人為的な出来事と疑っている者が居るが、あまり大っぴらに騒がないよう言い含めてある」

 やはり、大勢の船員の命を預かる立場に居るだけあって、色々と気は回る女性だ。

「その方がいい。今はまだ、目立つ動きは控えるべきだろうな」

「わかっている。しかし、クルーたちのためにも、船の再建は続けなければ」

 そこが問題なのだ。

 シブレットたちは、このまま永久にスームスームの労働者として暮らすわけにはいかない。

「船の再建とクルーの保護には俺も協力しよう。あんたたちはバニラにとっても家族同然。俺自身が全員を雇うとかはできないが……この街の有力者にコネがあるので、そちらに打診してみよう」

「それは助かるが……有力者へのコネ、か」

 シブレットの表情は微妙なものだ。

 まあ、この手の申し出は、結構いい加減なものが多かったりするからな。

「ほぼ確実に実現すると思う。その爺さんには貸しがあるからな」

 何を隠そう、俺がジュニパーベリー号のクルーたちの保護を頼もうと思っているのは、あのドン・スミスだ。

 命を救った貸しに対して船一隻規模の人間の保護。

 この程度の対価を惜しむ奴ではないだろう。

 ひょっとしたら、ジュニパーベリー号の再建にも手を貸してくれるかもしれない。

 

 

「船員の保護と船の再建資金。キャプテン、他に必要なものは?」

「そうだな……渡航許可証が要る」

 出た。

 イベントアイテムだ。

 この渡航許可証なるものを取ってくるために、プレイヤーはここからウミネコ海岸まで戻ってまたスームスームまで移動するという、億劫な旅をこなすことになる。

 ゲームのエリアで言えば、完全に端から端である。

 長い道のりだ。

 シブレットはバニラが渡航許可証という単語に首をかしげているのを見て説明した。

「航海をするのに必要な許可証だ。通行手形と言えばわかりやすいか」

 この時代背景で、誰が発行して誰がチェックするのか疑問だが、とりあえずは正規の船としてシブレットたちには必要なのだろう。

 ……再発行の申請ってできないのかね?

「それは今どこに?」

「船体が無事であれば、私の部屋――船長室にあるはずだ」

 とりあえず、俺は真剣に考えた感を出して提案してみた。

「ジュニパーベリー号に戻ってみれば、バニラの記憶にもいい影響があるかもしれないな。ふとしたきっかけで、航海中のことを思い出すかもしれない。バニラ、渡航許可証の回収は頼めるか?」

「ああ、任せてくれ」

 バニラは即答で引き受けた。

 実は、先ほどマーシュと会話をする中で、バニラの記憶が戻るイベントがある。

 少なくとも、自分の生まれや気質に関しては思い出す。

 現実でどこまで記憶が蘇ったかはわからないが……。

 まあ、建前はそれなりに取り繕えばいいさ。

「そうだ。表に私の【グレートセーリング】がある。今はレッグパーツが壊れて動けないが……。そこから、耐水ボディMとフロートバックパーツを持っていくといい。それでビークルが水に浮くことができる。よろしく頼んだぞ」

 そうだった。

 原作では、このイベントで耐水ボディを手に入れるのだ。

 スームスームなら店で普通に買えそうだが、シブレットが壊れた自分のビークルからパーツを譲るイベントは健在だった。

 現実では、ゲームのようにボディパーツをホイホイ取り換えることはあまり無いのだが……まあいい。

 取り外しは俺も手伝ってやろう。

 【カモミール・タイプⅡ】への取り付けとエンジンの調整は、ナツメッグ博士に頼むとするか。

「さて……」

 他に忘れていることが無いかシブレットに確認し、俺は懐中時計を確認した。

 まだ闘技場は開いているな。

「早速、ドン・スミスのところに行こう。話を通すのは早い方がいい。キャプテンは一緒に来てくれ」

「ああ、わかった。よろしく頼む」

「じゃあ、ちょっとキャプテンと出てくるから、バニラはマーシュを見ててくれるか?」

「うん、大丈夫。気を付けて」

 マーシュの居る小屋の留守をバニラに任せ、俺はシブレットと連れ立って闘技場へ向かった。

 

 

「ドン・スミス。貸しを返してもらいに来たぞ」

「ほう? こんな時間に非常識な……ふむ、なかなかの別嬪だが、引っかけた女を見せびらかしにでも来たのか?」

 シブレットの表情が僅かに不快さを示した。

 支配人室に来るまでの間、闘技場の酒場スペースを通ったときにも、シブレットは酔漢たちから舐め回すように無遠慮な視線を送られていたのだ。

 俺が隣に居たのと、まだ深夜を過ぎておらず男たちに完全に酔いが回っていなかったので、絡んでくる阿保は奇跡的に現れなかった。

 しかし、悲しいかな。

 美女を見たら視姦せずにいられないのは男の性なわけで……。

 町娘の服を着ているシブレットは、ごく普通の可愛い女の子だ。

 シブレットに鼻の下を伸ばしていた客の中には、ジュニパーベリー号の船員だった奴も居たようだ。

 花売り娘の正体に気付いた彼らは慌てて表情を引き締めたが、本人にはきちんとバレていたようで、シブレットは小声で罰則を検討していた。……強く生きろよ、平船員たち。

「いつまでも貸しを引き摺られたら、あんたも気が気じゃないだろ? それより、紹介しよう。彼女は大型帆船ジュニパーベリー号の船長キャプテン・シブレットだ。」

「そうか。先ほどの無礼を謝罪しよう。すまなかったね」

「いえ、慣れていますので……こちらこそ、紛らわしい格好で失礼を」

 すんなりと自分の非を認めたドン・スミスに、シブレットは一瞬だけ驚いた表情を見せるも、すぐに落ち着きを取り戻して船長らしい矜持で対応した。

 うん、二人とも仲良くしてください。

 折角、俺が引き合わせたんだから。

「で、キャプテン。この爺さんが、闘技場の支配人兼この街の興行師兼ワイン貿易商の皮を被ったマフィアのボス。その名もドン・スミスだ」

 ドン・スミスは不愉快そうに俺を睨んでため息を吐くが、俺は気にせず続けた。

「シブレット船長以下ジュニパーベリー号のクルーたちは、正体不明の敵に狙われている。そいつらの攻撃で船も沈められた。彼らは敵の追跡を躱しつつ船の再建を目指しているのだが……色々と便宜を図ってやってくれないか?」

「よかろう。わしの庇護下において不逞の輩から守り、船の建設を支援してやろう」

「頼む。あと……渡航許可証はやはり前の物があった方がいいか?」

「ああ、新しく用意できないことも無いが、時間が掛かるぞ」

「わかった。回収してこよう」

 取りに行くのは俺じゃないけど。

 その後、ドン・スミスはシブレットと正式に船の建設などに関する契約を交わした。

 ジュニパーベリー号Ⅱ世の完成後にスームスームを拠点とした貿易を引き受けるとか何とか言っていたが……シブレット曰く破格の条件だそうだ。

 まあ、彼女がそう言うのなら問題ないだろう。

 そして、契約書の片方を仕舞ったシブレットは、近くに居る部下を集めると言って、支配人室を出ていった。

 

 

 シブレットが一度部屋を退出した後、ドン・スミスは俺の方を見ずに質問を投げかけてきた。

「それで? 敵はどこの馬の骨だ?」

「正体不明だと言ったろ」

「お前のことだ。もう目星はついているはずだ」

 どうやらお見通しだったようだ。

 最初の口ぶりからも、俺が敵の正体を知っていると確信しているようだったな。

「証拠は無いぞ」

「くどい。そんなものを必要とすると思うか。証拠など、大半は公権力による捏造だ」

 さすがは裏社会の大物。

 歯に衣着せないね。

 これなら俺も遠慮なく言える。

「ブラッディマンティスだ。潤沢な資金と豊富な軍事力、それに並の盗賊団とは一線を画す技術力を持っている。諜報の重要さも認識している厄介な敵だ」

「ほう、奴らか……」

 どうやら、ドン・スミスもブラッディマンティスの存在を知っているようだ。

 もしかしたら、既に揉めたことがあるのかもしれないな。

「水面下で活動してハッピーガーランドに根を張るほど、強かで危険な連中だ。今更だが、大丈夫か?」

「わしを見くびるなよ。小僧」

 ドン・スミスは自信満々だ。

 相手が相手なので少々心配だが、スームスームでこれ以上の庇護は無い。

 引き受けてもらえただけでも上々だ。

 

 

 ジュニパーベリー号の面々の件が一通り片付いたので、俺は優先順位としては二の次になる話に移った。

「ところで、これは貸し借りがチャラになったうえでの対等な取引の申し出だが……実は、ビークルバトラー志望の子どもが居てな。一人、引き取ってもらえないか?」

「……ちょうど、未来のビークルバトラーの育成について考えていたところだが……」

「おお、そうか。そいつは重畳。その子は今も兄弟やシスターと暮らしているが、食べ物どころか水にも苦労するような場所に住んでいてな。あんたが呼び寄せてくれるのなら、願ったりかなったりだ」

「…………」

「何か不満か? その子は貧しい孤児院から巣立てる、あんたは未来のビークルバトラーを発掘できる。お互いに得のある話だろ」

「……ああ、不満だな。何でも見透かしたような顔をしおって。気に食わん」

 ドン・スミスは鋭くこちらを見据えているが、この爺さんに俺の事情を話す義理は無い。

 俺がこれ以上のことを明かすつもりが無いことを悟ったのか、ドン・スミスは車椅子を机の方へ押すようボディーガードのキャラウェイに合図した。

「ふん。今、招待状を認めてやる」

 これで、廃屋のシスターのところからリックを旅立たせるための『ドン・スミスの手紙』は手に入った。

 ……そういえば、クラリスが居ないな。

 ドン・スミスの車椅子を押すのは、いつも孫娘のクラリスだったはずだが……。

「いつものお孫さんが居ないが、どうした?」

「あんなことがあった後だぞ。寝ているに決まっておろう。……おい、小僧。あの子に手を出したら……」

「そんな気はさらさら無ぇから安心してくれ。あんたをおじいちゃまとは呼びたくないからな」

 ゲームでは、クラリスはいかがわしい店に出入りして夜遊びをしていた。

 そこで話しかけると、普段のお高く留まった口調は一変しており、猫を被ってお澄まし顔を続けることでいかにストレスが溜まっていたか吐露する。

 さすがに今日はドン・スミスの言う通り引き籠って寝ているのだろうが、一応仄めかしておくか。

「これは独り言だが……孫とはきちんと話すようにしろよ。親としてではなく、家族として、対等な人間として、な」

「……どういう意味だ?」

「さあな。生憎、俺はあんたの半分も生きていないし、子どもどころか結婚もしていない。ただ……子どもってのは、親の前でも取り繕うものなのさ。自然と親が喜んでくれるように振る舞う」

「…………」

 ドン・スミスは押し黙ったが、彼なりに思うところがあったのか、それ以上クラリスについて話すことは無く、そのまま招待状の続きを書き上げた。

 

 

 俺が封筒に入った手紙を受け取ったところでシブレットが帰ってきたので、俺もそろそろお暇することとなった。

 シブレットの後ろには屈強な船員が数人付き従っているが、彼らは先ほどシブレットが集合を掛けた部下たちだ。

 ドン・スミスが早速マーシュを収容して治療する準備を整えてくれたらしく、彼らでマーシュを運ぶらしい。

 シブレットはドン・スミスともう少し話を詰める必要があるので、俺は船員たちと一緒に小屋へ行くことになった。

「では、キャプテン。マーシュの父親にはこちらから伝えておく。ハッピーガーランドのセントジョーンズ卿だ」

 念のため、改めてシブレットにマーシュの父親の名前を伝えておいたが、ドン・スミスが尋常でない速度で反応した。

「待て、小僧。セントジョーンズだと?」

「ああ、言ってなかったか。ジュニパーベリー号の船員の一人が、セントジョーンズ卿の息子だ。船が難破して行方不明になった息子を探していたから、近いうちに来るかもな」

 ドン・スミスは苦虫を噛み潰したような表情だ。

 貿易商として財を成した叩き上げだけあって、貴族は苦手なのだろうか?

「人脈が出来るいいチャンスじゃないか。息子を保護してセントジョーンズ卿に恩が売れれば、あんたの今後の商いにも色々と便宜を図ってくれるかもしれんぞ。持つべきものは特権階級の友人、だろ?」

「ぬぅ……」

 セントジョーンズ卿と会えないとは言ってこないので、さすがに敵対しているわけではないはずだ。

 精々、頑張って実りのある話に繋げればいい。

 いいことをした。

 この二人を引き合わせれば、街の経済も活性化するだろう。

 俺は清々しい気分で踵を返した。

「あ、そうだ。もう一つ」

「まだあるのか?」

 ドン・スミスは呆れ顔だが、俺にとっては重要な話だ。

「忘れるところだった。ナツメッグ博士とピジョン牧場の連中への土産に、舶来物のワインが欲しくてな。ビークルに積めるだけ積んでいきたいのだが、卸売り担当者に会わせてくれないか?」

 ワインに関しては、ドン・スミスの計らいでロブスター亭に送ってもらえることになった。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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