steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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69話 砂塵のキャンバス 中編

 

 ポールの実家を出た俺は、ロブスター亭の寝室から最低限の荷物だけ回収すると、そのままガラガラ砂漠方面へビークルを走らせた。

 ハッピーガーランドの南西出口を潜り、起伏の激しい道を進んだ先が、砂漠の入口コンドル砦だ。

 俺が砦に着いた頃には、既に日が落ちていた。

 遅々として補修作業の進まない外壁エリアを抜け、デルロッチ貿易の本店と宿泊所のある場所まで進み、俺はそこでビークルを停める。

 さすがに今から砂漠に出るのはご免だ。

 明日に備えて今日は寝るか……と、思っていたら、デルロッチ貿易本店の方から口論のような声が聞こえてきた。

「(無茶言わんでください! 今から砂漠に出るなんて……自殺行為ですぞ)」

「(ですから! 無理を承知でお願いしているのです! 早く彼を見つけないと……。金なら出しますから!)」

 片方には聞き覚えがある。

 デルロッチ貿易の社長デルセンだ。

 もう一人は知らない声だな。

 何の気なしに声が聞こえる方へ足を向けてみると、デルセンともう一人の男が目に入り、二人もこちらに気付く。

「あ、あなたは!」

「お、おお。グレイさんではないですか。明日から砂漠を渡るので?」

 デルセンと揉めていた男には見覚えが無いが、向こうは俺を知っているようだ。

 俺の表情からそのことを察したのか、髭面の男は自ら先に名乗った。

「私はテオドール。画商をしております。グレイさんのことは、ポールから聞いておりましたので」

 なるほど。

 彼がポールの絵に魅了されて原作では砂漠を超えてレイブン砦までやって来る画商テオドールか。

 今回は俺がポールの件を色々と管理していたので、今まで顔を合わせる機会は無かったが、ゲームでは本当に世話になった人物だ。

 何せ、ポールの絵の売買はテオドールを介して行えるのだ。

 この世界では金に困っていないのでやってないが、ゲームではこのシステムを上手く利用すれば巨万の富を得ることができる。

 ポールがガーランド大学の教授に就任して絵が高騰したら、今まで購入していた絵をテオドールに売り、解任されて絵の値段が下落したら買い戻し、ポールの死後はさらに絵が高騰するので売り飛ばし、という具合だ。

 因みに、ゲームではこの方法を最大限に活用すると、約50万URを手にすることができる。

 今の俺にとっては大したことの無い金額だが、ゲームではこれ以上に稼げるイベントは無い。

「それで? これは一体何の騒ぎです?」

 

 

 聞けば、テオドールもポールを追ってここまで来たという。

 ポールがいつかもう一度この砂漠とオアシスを描きたいと思っていることは、以前に本人から直接聞いていた。

 先日、ポールが砂漠方面に向かったことを人伝に聞き、まさかと思ってコンドル砦まで来てみれば、画架を持った男が単身砂漠に向かったという話を聞いた、と。

 原作通りの展開なので俺は驚かなかったが、生身で砂漠に足を踏み入れるなどあり得ないほど無謀な行動だ。

 恐らく、ビークルを雇うとか駱駝を買うとかはハナっから頭に無いのだろうな。

 今回は俺も出遅れているので、根回ししようが無い。

「迂闊でした。まさか、既にポールが砂漠に出てしまったとは……」

 確かに、テオドールがポールに追いついていれば、オアシスまでのビークルを手配するくらいはできただろう。

 しかし、今となっては完全に後の祭りだ。

 テオドールはせめてポールを捜索するため、デルセンに砂漠仕様のビークルを急遽出してくれるよう頼んだわけだ。

 まあ、砂漠の事情を知っているデルセンにしてみれば、どう考えても引き受けられる仕事ではない。

 ただ横断するだけですら危険なガラガラ砂漠に長時間留まっての人探し、ましてや夜に出発など、無謀を通り越して自殺行為もいいところだ。

 先ほどの口論の経緯はそんな感じだ。

「確かに、ポールの描くオアシスの絵には私も興味がある。しかし、それとこれとは話が別だ。彼を死と隣り合わせの場所に放置するなど、決して容認できない。彼は……ポールはこんなところで死んでいい人間ではないのだ!」

 

 

「テオドールさん。私だって何も意地悪でビークルを出さんと言っているわけじゃない。夜の砂漠は危険すぎるのですよ。それこそ、私が今招集できるビークルと人員だけではどうしようもないほどに」

「しかしですね!」

「明日になれば、捜索隊も出せますから。もちろん、それなりの金額を頂くことにはなりますが。他に方法は無いと思いますよ。少なくとも、我々にはねぇ……」

 テオドールはしばらく興奮していたが、やがて俺を真っ直ぐに見据えて口を開いた。

「……グレイさん。折り入ってお願いがあります」

 彼の言わんとしていることは予想がつく。

 テオドールを宥めているデルセンも、先ほどから俺の方に遠慮がちな視線を送ってきているからな。

 デルセンの奴もこんな面倒事は俺に放り投げたいのだろう。

「ポールを探してきてくれないでしょうか? Sランクバトラーで盗賊討伐において凄まじい功績を持つあなたなら、きっとポールを探し出すことも……」

 やはり、そう来たか。

 まあ、ポールの捜索自体は問題ない。

 俺もそのつもりでここまで来たのだからな。

 しかし、一つ問題がある。

「……一応、聞いておきます。それは、今から捜索に行け、ということで?」

「はい……今から、です」

 俺の問いに頷いたテオドールはさらに言葉を続けた。

「あなたのことは聞いています。ポールの絵に惚れ込んで、彼が無名の頃から、絵を買い上げるだけでなく、色々と便宜を図っていたらしいじゃないですか。ここはもう一肌脱いでくれないでしょうか? 一刻も早くポールを……」

 

 

 当然ながら、俺は夜が明けてから砦を出るつもりだった。

 夜の砂漠が危険なのは俺にとっても同じだ。

 まず視界が悪いので、接近する敵を感知しにくく、武器の照準を定めることにも困難が伴う。

 急激な気温の低下で、集中力を欠く可能性もある。

 何より、この界隈を根城とする盗賊団にとって砂漠は庭、俺は一度横断しただけの余所者。

 環境への適応度が違う。

 この時間帯に砂漠をうろつくのは、敵の銃口の目の前に面を晒すのと同じことだ。

 そういったリスクを呑んで今出発するメリットは、その僅かな時間の差でポールを助けられる可能性のみ。

 俺はゆっくりと顔を上げて、静かにこちらを見据えているテオドールに問いかけた。

「テオドールさん、ポールは生きていると思いますか?」

「わかりません。有益な情報など何もありません。ただ、確実なのは……出発が早ければ早いほど、彼を救える可能性が高いということです」

 俺の言いたいことを察したテオドールは即答した。

 確かに、彼から希望のある情報が出てくるはずも無いか。

 ……いや、希望というなら、一つはあるな。

 原作では、プレイヤーがオアシスに着くと、ちょうどポールは息を引き取ったところで、テオドールがポールのベレー帽と遺作の絵『最期』を渡してくる。

 要は、テオドールは先に到着してポールを看取っているのだ。

 原作通りの進みなら、彼は朝になってからポールの捜索に出発することだろう。

 そのスケジュールだと、ポールを助けるのは手遅れになる。

 しかし、テオドールを原作よりも早く出発させ、さらに機動力が高い俺の【ジャガーノート】に乗せて捜索を行えば、あるいは……。

「ですから、どうかお願いします」

 俺は既にポールがオアシスに向かったことを知り、どこかでもう手遅れだと思い込んでいた。

 テオドールの言う通り、諦めるのはまだ早いか。

 ……今夜は徹夜だな。

「デルセン社長。食料と水を調達してください。三人分、レイブン砦からの横断よりちょい多めで。今すぐに」

「は、はい!」

「え? 三人?」

 俺が居たことで、テオドールは完全に人任せにしようとしていたようだが、そうは問屋が卸さない。

「あんたも来るんだよ。ほら、早く助手席に乗れ」

 最初は戸惑っていたテオドールも、俺が急かすと何とか役目を受け入れた。

 デルセンから受け取った食糧物資をビークルに積み、既に静寂が支配するコンドル砦を後にする。

 テオドールを乗せた俺の【ジャガーノート】は、闇に紛れるようにして静かに砂漠へと歩を進めていった。

 

 

 

 

「来たか」

「え……?」

 コンドル砦を出て砂漠の中心部へ向かってしばらく進むと、早速と言わんばかりにこちらへ接近する存在を感知した。

 テオドールは気づいていないようだが、俺の耳にはビークルの稼働音が僅かに聞こえる。

 間違いなく敵だ。

 無灯火でこちらの近くまで接近し、いきなり至近距離で包囲してくる作戦のようだな。

 それにしても、やけにエンジン音が小さいな。

 【ジャガーノート】もハイブリッドエンジンを搭載しているので出力の割に稼働音は小さいが、向こうの静音性能はそれ以上だ。

 足音も二足や四足型のレッグパーツのものではないので、恐らくデザートホーネット団の『イエロー・ワスプ』ではない。

 砂漠地帯には適していないが、車輪系のレッグパーツの可能性もある。

 だとすると、敵はデザートホーネット団の『アース・ウィンド』か?

「グレイさん、どこに……?」

「しっ」

 俺はテオドールを制して黙らせると、【ジャガーノート】のライトを消した。

 こちらはポールを捜索するためライトを点灯したまま移動していたが、このままではいい的だ。

「ふぉ」

 俺は一度だけ横跳びにスラスターダッシュを噴射し、砂煙を巻き上げて先ほどまで立っていた位置から離脱した。

 テオドールは急な機動に揺られて思わず声を漏らすが、俺は人差し指を立てて静かにするよう指示する。

 慌てて口を手で押さえたテオドールを尻目に、俺はビークルを微動だにさせず耳を澄ませた。

 ライトを消した黒塗りの【ジャガーノート】を、街灯も無い夜の砂漠で視認するのは至難の業だ。

 さらに、この世界の火砲の精度を鑑みれば、狙撃の可能性はほぼ無い。

 先制されたとしても、敵は必ず接近してくる。

 そして、俺が僅かなエンジンの稼働音から敵の位置を探っていると、ついに状況が動いた。

 

 

 突如、エンジンの回転数を急上昇させる音とともに、こちらへサーチライトが照射された。

 どうやら、敵に先手を取られたようだ。

 やはり、砂漠は奴らのフィールドか。

 一足先に捕捉された。

 索敵においては向こうが圧倒的に上だな。

 そして、敵のビークルは俺の目の前を横切りながら砲声を轟かせた。

 足場の悪い砂漠とは思えないほどの速度で移動しながらの流し撃ちだ。

「ちっ」

 俺は【ジャガーノート】をスラスターダッシュで横に滑らせると、敵のライトに向かってチェーンガンを乱射した。

 飛んできた砲弾はどうにか躱したが、俺が放った銃弾も敵ビークルのサーチライトを吹き飛ばしただけに止まったようだ。

 この距離で外すなど普通は考えられないが、こいつは今まで遭遇した敵の中で最高に弾を当てにくい厄介な相手だ。

 走行速度もそうだが、何より不自然に急な加速と減速を繰り返す挙動が曲者である。

 しかし、逆光となっていた敵のライトを破壊し、こちらもブレストパーツのライトを点灯させたことで、敵ビークルの姿が露わとなった。

「やはり『アース・ウィンド』か……」

 デザートホーネット団の新型機で、ヨットのような帆を装備した車輪駆動の高機動ビークルだ。

 ゲームでもなかなかにウザい敵だったな。

 こちらは移動速度が大幅に制限される砂漠で、向こうはスイスイと滑るように移動し、火炎弾をポコポコと放ってくるのだ。

 射撃武器はガトリングアームのような弾速が速いものでないと避けられ、レッグパーツが砂漠向きでないと近づいて殴るのにも一苦労だった。

 設計思想はこの世界でもほぼ同じのようだ。

 原作と違うのは、『アース・ウィンド』は運用次第で凄まじい奇襲性能を見せる点か。

 あの帆は飾りではない。

 帆船と同じ理論で、完全な追い風でなくとも進行方向への推進力として利用できるようだ。

 武装も最低限に留めてボディを限界まで小型化して軽量化しているので、高速で移動できるのはもちろんのこと、エンジンの出力と稼働音も抑えられる。

 エンジンの回転数を落とすか止めるかして、さらにライトを消せば、風の力だけで音も無く獲物に接近するハンターと化す。

 実際に搭乗しているのが人間なのだから、こういった運用も思い付き実践してくるわけだ。

 生半可なビークル乗りなら、『アース・ウィンド』の機動力に見事に翻弄され、砂にレッグパーツを取られている間に、火炎弾の狙い撃ちを食らうだろう。

 だが……【ジャガーノート】の性能を凌駕する相手ではない。

 俺は『アース・ウィンド』のコクピットにチェーンガンの照準を合わせた

「ひっ……デザートホーネット団……」

 助手席のテオドールは、スラスターダッシュの衝撃で突っ伏していた顔を上げると、視界に飛び込んできた新型の盗賊ビークルに悲鳴を上げた。

 まあ、素人からすれば、過酷な砂漠を根城とする盗賊団ほど恐ろしいものは無いか。

「くそっ! 失敗か……」

 奇襲が不発に終わり逆にライトを吹き飛ばされた『アース・ウィンド』の操縦手は、憎々し気に喉の奥から絞り出すような声で悪態をついた。

 そのまま逃走を図るかのように思えたが……『アース・ウィンド』に搭乗する盗賊は、一歩も引かない雰囲気を醸し出している。

 先ほどの攻防で向こうも俺の腕はわかったはずだ。

 普通なら、この時点で逃げるなり防御を優先した立ち回りになるのだが、玉砕覚悟でここまで戦おうとする盗賊は珍しい。

 そんなに全力で執着される覚えは……普通にあったわ。

 ネフロからハッピーガーランドへ向かう際に、俺はデザートホーネット団の偵察部隊を派手に殲滅したのだった。

「仲間の仇だ。討ち取らせてもら「二度目は無い」っ!」

 男は何やら口上を垂れようとしたが、俺は容赦なく『アース・ウィンド』のコクピットに向かってチェーンガンを点射した。

 前回は諸事情によりデザートホーネット団の盗賊の一人を見逃してやったが、今回は遠慮する理由など無いのだ。

 何より、こいつは仲間の復讐のために俺をピンポイントで狙ってきた。

 そんな相手の命に配慮してやるつもりなど毛頭ない。

 コクピットを貫いたチェーンガンの弾丸は、そのまま『アース・ウィンド』のエンジン系統を破壊してマストをへし折った。

「なっ……ひぃ!」

 敵の最大の武器である機動力を奪われた軽量ビークルなどいい的だ。

 俺はスラスターダッシュで再度『アース・ウィンド』へ接近し、火炎弾で迎撃することも忘れて悲鳴を上げる盗賊を、そのまま強化ブレードアームで叩き斬った。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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